秋風に誘われて

剣世炸

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けやき商編 番外編 真琴の恋

最終話 そして想いは未来へと繋がる

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「煉先輩、どうしたんだろう?もうとっくに部室に来ていると思ったのに…」

「確かに珍しいわね。誰よりも先に部室に来る部長さんが、今日は居ないなんて…」

「今日は委員会とかもないはずですし、明らかに変ですね…」

 ある日の放課後。SHRが終わり、OA教室に訪れた私・美琴・紗代が首を傾げる。

「しかも、明日は地区予選の校内予選だったよね」

「そもそも、学校には来ていたのかしら?」

「朝、昇降口で部長さんを見ました。横顔をちらっとしか見ませんでしたけど、何だか冴えない様子でしたよ…」

「紗代、そうだったの?」

「うん、表情に出さないよう努力してるみたいだったけど…」

「そうなんだ…」

 光陵高校での試合以来、先輩の記録は伸び悩んでいた。酷く調子が悪い時など、私に最終的な点数で抜かれることもあるほどだ。

「ねぇ美琴。あなた、遠征の時に部長さんと話をしていたみたいだけど、特に最近変わったこととか、なかった訳?」

「うーん、先輩が鳳城先輩とのことで悩んでるって話を聞いて、私が力になりますって言ったこと位で、特に変わったことはなかったと思うけど…」

「そう。部長さん、美琴に直接話をしてくれた訳か…でも、そのことと今部長さんが部室にいないことは、あまり関係はなさそうね…」

「部活が始まるまで、少し時間があります。私たちで、周辺を捜してみませんか?部長さんが、先生や私たちに無断で部活を休むとは、とても考えられません」

「(…真面目な先輩のことだから、校舎内に残って部活を無断欠席するなんて有り得ない…となると…)」

「確かにそうね。それじゃ、部活動開始ギリギリまで、部長さんを探してみましょう。三枝さんは、部長さんのクラスや所属している委員会の部屋を探してみて。美琴は、外に出て学校の周囲を探してみて」

「お姉はどうするの?」

「私は、若林先生に確認して、三枝さんにお願いしたところ以外の校内を探してみるわ」

「わかった」

「わかりました」

「それじゃ、何かあったら連絡してね」

「(…美琴…頼んだわよ!!)」

 私は美琴が昇降口の方向へ、三枝さんが煉先輩のクラスの方向へと走り去るのを確認すると、若林先生の居る職員室へと向かった。


 数十分後…
 私の読み通り、煉先輩は学校の外(けやき商のすぐそばを流れる浅見川の土手)にいたようで、真っ先にそこを探しに行った美琴が、先輩を連れて戻ってきた。

「…先生、それに真琴達も…。ご心配をお掛けしすいませんでした…」

「沢継、理由も聞かないし、責めもしない。ただ、お前はパソコン部の部長なんだ。そのことだけは、もう一度心に刻んでおけ」

「はい、分かりました。真琴や紗代にも心配をかけて、すまなかった」

「いいえ。美琴が部長さんを見つけてくれたお陰なんで…。それに、大会での先輩の座は、実力で奪い取りたいですから!」

「私は真琴先輩に言われて動いただけですから…」

「一番心配していたのは、部長さんを見つけた美琴だったんですよ!」

「(…美琴、やっぱり煉先輩を支えられるのは、あなただわ。このまま、先輩の心も掴んでいきなさい!)」

「お姉!余計なことを…」

「そうだったのか?」

「えっ、ええ、まあ…」

「ここに戻って来る途中でも言ったけど、ありがとう。美琴」

「先輩…いいえ、お力になれたみたいで、良かったです!」

「(…私が心配しなくても、美琴と先輩はこのまま…)」

「よし。役者は揃った。今日も活動頑張っていくぞ!」

「はい先生!」

 こうして、その日の部活は無事に行われた。

 そして翌日、地区大会の校内選考が行われたのだが…

「…あと10点かぁ、惜しかったなぁ…」

 私は、部活終了後すぐに貼り出された校内選考の結果を見て、思わず呟いてしまった。

 校内選考の結果、1位は煉先輩で、2位は10点差で私だった。

 煉先輩を美琴が連れ戻したあの日の帰宅後、美琴から先輩が鳳城先輩との恋愛に終止符が打たれたと聞いた。

 美琴はそれ以上、私には何も話さなかった。

 でも、私にその話をしていた美琴の顔は、終始笑顔だった。

 煉先輩を取り囲んでいた鳳城先輩の呪縛が解かれたからなのか、それとも…

「部長さん。事情は美琴から聞いてますけど、これは部長さんの本気じゃないですよね」

「…まあ、そういうことになるかな…」

「…だったら、いいんです。部長。本気の結果が出せるようになったとき、絶対に私が部長さんを超えて見せますから!」

「(ちょっと前までは「先輩」に勝ったら…なんて想いもあったけど…今は部活の先輩として、先輩はそう思っていないかも知れないけど、ライバルとして正々堂々と勝負して勝ちたい…」

「真琴の期待に応えられるよう、早く本調子になれるよう頑張るよ」

 そして…

「…あと30点かぁ。あと1行入力できていたらお姉に勝てたのに…。惜しかったなぁ…」

「ちょっと美琴!『あと30点』はないでしょ!1行の差は『惜しい』とは言えないわよ!」

「そんなことないもん!ちょっと調子が悪かっただけで、あの問題ならあと1行位行けたはずなんだから!」

「…行けたはず、は『行けた』にはならないわよ!」

「確かに、お姉の言う通りだけどさぁ…」

 3位になったのは美琴だった。

 強がりで『惜しかった』と言っているのは分かっている。

 でも、美琴が言っていたように『あと30点』で追いつかれることも事実だ。

 私は、自分自身に引き締め直しが必要だと、選考結果を見て感じずには居られなかった。

「美琴、若林先生もよく言っているだろ?『苦しい時の結果が、自分自身の実力なんだ』って」

「…はい。そうですね。部長!お姉だけでなく、私が追撃していることもお忘れなく!」

「そうだな…俺も塞ぎ込んでばかりは居られないな…」

 先輩の顔に笑みが浮かぶ。

「(以前に比べて、先輩の笑顔の回数が増えた…美琴!その調子よ!!)」

 先輩が、ふと亜美先輩の方を見る。美琴もあからさまにならないよう目線を向けていたようだったが、私は帰る準備に意識を戻していた。

「(私は、美琴と先輩の恋が成就するよう仕向けて行こう。きっとそれが、2人のためでもあるし、部活のためにもなる。そして、純粋な先輩の実力に勝ちたい私のためにも…)」

 この後、地区予選の選手と補欠が若林先生から発表され、今日の部活は終了した。


 そして…

「煉先輩!」

 荷物をまとめ帰ろうとしていた煉先輩に、美琴はいつもの調子で呼び掛けた。

「…美琴!それに真琴と三枝も…」

「先輩。先輩も入れてここにいる3人が予選会の選手に選ばれたということで、帰りにあそこに寄りませんか?」

「あそこっていうと、学校のすぐ近くにあるクレープ屋のことか?」

「…先輩!だんだん私たちの行動パターンが読めてくるようになってきましたね…」

「だって、この前は駅前の100円ラーメン屋に行ったし、その前はいちょう通りのたこ焼き屋に行っただろ?さらにその前は駅前にできた安いカラオケボックスに行ったばかりだから、そろそろクレープ屋かと思ってな…」

「先輩!彼女ができたら、きっといい彼氏さんになれますよ!ねぇ、お姉!紗代! 」

「はい。デート先のレパートリーをいくつも知っている男性はモテますからねぇ」

「美琴の言う通り。部長さんは、きっといい彼氏さんになれます!」

「(…願わくは、美琴の彼氏に…)」

「…そうかな?俺は自分自身のことは、よく分からないから、そう言われてもいまいちピンと来ないけどな…ていうか、今日は煽てても何も出ないぞ!」

「分かっていますよ!でも、今日はクレープ屋に寄ってきましょうよ!」

「…美琴達がそこまで言うなら、クレープ屋に寄って行こうか?」

 美琴の熱意に押されたのか、先輩はクレープ屋に一緒に行くことを承諾してくれた。

 鳳城先輩に目線を向けると、鳳城先輩もチラチラとこちらを見ているようで、煉先輩が鳳城先輩のいる方へ顔を向けた途端、視線を逸らし後片付けに集中しているようだった。

「…」

「(…鳳城先輩、もう賽は投げられたんです…煉先輩は、もうあなたの好きにはなりません。これからは、きっと美琴が…)」

 この後、私たちは学校近くにあるクレープ屋に立ち寄り、他愛もない話を小一時間した後、家路に着いた。



 この日を境に、煉先輩と私の記録は再び拡大し始めた。煉先輩が本来の調子を取り戻したのだ。

 そして、その後行われた地区大会で優勝した私たちは全国大会へと駒を進め、美琴が4位、私が3位、そして煉先輩が個人優勝を果たし、団体としてもけやき商は連覇を成し遂げたのだった。


 煉先輩と美琴の仲も、全国大会の優勝祝賀会の打ち上げを皮切りに深まっていき、私と三枝さんで2人で行けるよう仕組んだ「いちょう祭り」で、無事に2人は恋仲となった。

 私はというと、煉先輩への想いを吹っ切ってからは特に「トキメキ」を感じる相手に恵まれず、高校時代は部活一色の生活を送った。

 そのお陰もあったのか、3年に進級してからは煉先輩の跡を継いで部長となり、全国大会でも個人優勝・団体連続優勝の歴史を守り抜いた。

 高校卒業後は、大手電鉄会社に就職が決まり、今は車掌をしながら運転士を目指して頑張っている。

 そして…



「(今思えば、私ももっと行動的になっていれば、煉先輩と親密な関係になれていたのかも知れないわね…)」

「(でも、あの頃の私があったから、今の私がある…もし、私が煉先輩と付き合っていたなら、今、彼といるこの未来はなかったかも知れない…)」

「(今の私は、彼と一緒に居れる時間が一番幸せ!きっと美琴や煉先輩も、今私が感じている気持ちを、いちょう祭りの「あの時」から感じることができるようになったんだろう)」

「(2人に負けて居られないわ!私も、彼と一緒にたくさんの愛を育んでいこう!)」

 ふと横を見ると、右手でハンドルを握り、左手でハンドルを”トントン”と叩きながら、車内に流れる音楽のリズムを取っている彼がいる。

 記憶の果てから帰還した私は、暫く運転する彼の横顔を見つめていた。

「(…真琴…何!?ずっと見られていると、ちょっと恥ずかしいんだけど…)」

「…大好きよ…いつまでも、私のこと、離さないでいてね!!」

 私はその後、彼との幸せをかみ締めながら、夜のドライブを楽しんだのだった。


fin
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