神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ

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73.  議会

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 議会は通常午前中に行われるものらしいが、テイト達がカストルに到着したのは正午を過ぎた頃であった。
 しかし、到着が遅れることは予想の範疇であったのか、正門には竜の描かれた旗を掲げる魔導師団の者が並び立ってテイト達を出迎え、彼らによる厳重な警護の元議事堂へと案内されるに至った。
 仰々し過ぎるその応対に、テイトは思わず委縮してしまった。

 議事堂に着くと、今度は笑顔を湛える貴族に迎え入れられた。
 以前門前払いをくらった時とは百八十度異なる歓迎の様に、テイトは少し薄気味悪いものを覚えた。

 彼に連れ立って更に進むとだだっ広い部屋へと辿り着いた。
 奥には半円状に分厚い長机が設置してあり、貴族達は円の中心を向くような形でそこに腰を下ろしていた。
 その中に見知ったソベルとワカの姿を見つけ、テイトは思わずワカを凝視してしまった。
 ルゥの残した手帳に寄れば、彼女こそがテイト達を窮地に陥れようとした張本人である。
 彼女はテイトの視線に気付いているようではあったが、その澄ました顔を変化させることはなかった。

 テイト達はそのまま半円の中心へと立たされ、数段高い位置にいる貴族達を見上げる格好となった。

「――遠方より来ていただき、先ずは感謝を申し上げたい」
「いえ」

 恰幅の良い男性が笑みを浮かべながらそう告げたが、その目の奥は冷たい光を帯びているような気がした。

「我々も無法者による行いには無論怒り心頭でしたが、如何せん人手が足りず、全ての国民の安全を確保することができないことに、胸を痛めておりました」
「だが、貴殿たちが地道に事を成してくれていた」
「国民に代わって是非とも礼を言いたい」

 数人から順に感謝の言葉を告げられたが、それでもテイトは警戒を緩めることができなかった。

「何か褒美を与えたいところではあるが、今現在閣下が不在のため、申し訳ないが褒賞の決定は暫し先のこととなるやもしれません」
「いえ、僕たちはそのために戦っていたわけではありませんから」
「いやいや、そんな謙遜をなさらずに」
「閣下の代理でワカ嬢がいらっしゃる。何か希望があれば、彼女に」

 視線は、魔導師団の軍服に身を包むワカへと向けられた。
 テイトが複雑な気持ちで目を遣ると、彼女は徐に目を伏せた。

「……実は、お話ししなければいけないことがあります」

 震えた声に、貴族達の視線はワカへと集まった。

「カストル公爵は、亡くなりました」

 ザワザワとしたどよめきが広がった。
 案の定と言うべきか、ワカは貴族達に何も話していなかったようである。

「っそんな、一体いつ?」
「体調を崩されていたとは聞いておりましたが、」
「お労しや……」

 顔を上げたワカは涙の滲む瞳で責めるような視線をテイトへとぶつけた。
 ドキリと心臓が嫌な音を立てた。

「公爵は彼らの力になりたいと、単身アスバルドに向かわれました。頻繁に連絡を取ってはいたのですが、それが突然途絶えたのです」
「え? 閣下がクエレブレに?」
「いつの間に……」
「連絡が途絶えたのは亡くなったからだと後に知りました。……亡くなった時の詳細は分かりませんが、最後に彼が送ってきた内容から察するに、彼らに貴族だとバレたのが原因かと」
「ぇ、ち、違います!」

 テイトには恐ろしく白々しく思える話の内容も、他の者にとっては違うようであった。
 もしくは、この話し合いさえも仕組まれたものであったのか。

「おそらく、公爵は貴族の非協力的な態度の腹いせにいらぬ疑いをかけられて、それでっ」

 ワカは感情を高ぶらせた様子でそれ以上説明することは叶わないようであったが、それに続く言葉を想像したのか、貴族達の目は驚愕に見開かれていった。

「っな! それは本当ですか、ワカ嬢!」
「そんな……」
「でたらめです! どうか僕の話を聞いてください!」

 テイトは叫んだが、貴族がどちらの言葉を信じるのかは明白だった。

「きちんと議会で相談すべきでした。家族だからと、公爵の行動を止められなかった自分が、私は許せません」
「何をっ……ワカ嬢は何も悪くありません!」

 憎しみのこもった視線が向けられ、テイトはやはりこれが罠であったのだと唇を噛んだ。

「っ僕の話も聞いてください!」
「大虐殺という皆が抱えていた大きな問題を片付けてもらった。ですから、このことは私の胸の奥に秘めておけば良かったのでしょうが……彼らを見ていると、どうしてもルカのことを思い出してしまうのです」

 貴族がこちらを見遣る瞳に怒りや憎しみといった暗澹たるものが混じり出したが、それでもテイトは疑いを晴らそうと必死に声を上げた。

「彼女の言うことが嘘だという証拠があります!」

 テイトはルゥの手帳を取り出そうと僅かに身じろいだ。

「動くな!」

 刹那、鋭い声と共に魔導師団が部屋の中へと雪崩れ込んできた。
 彼らは皆、テイト達を敵と判断したようである。

「両手を上げなさい。魔法の発動も禁じます」
「……彼女の言葉だけを信じるのは止めてください。僕達にも伝えたいことがあります」

 テイトは大人しく両手を上げたが、厳しい視線は依然変わらなかった。

「……彼はああ言っていますが、」
「誤魔化される気はしていました。それでも、私も黙っていることはできませんでした。私的な感情で協議の場を乱してしまったこと、どう皆様にお詫びしたら良いか」
「いいえ、ワカ嬢! 逆に、言ってくださって助かりました。危うく野蛮な者に騙されるところでした!」
「閣下の殺害は重罪ですぞ。反逆者として認定してもいいのでは?」
「その通りです!」

 好き勝手言う彼らは結局、テイトの話を聞くつもりなど最初から無かったようである。
 絶望するテイトの耳にシンの静かな声が届いた。

「――逃げるぞ。目眩ましぐらいならできる」
 もう十分理解しただろ、とテイトの意思を尊重してくれるシンの言葉に、テイトはゆっくりと頷いた。

 真実をねじ曲げ、自分たちにとって邪魔な者を排除する。
 それが貴族のやり方かと思うと、とても悲しかった。

「そうだ、反逆者だ!」
「捕らえろ!」

 その命を受けてか、テイト達を囲んでいる魔導師団が動き出したのが見えた。

 シンの魔法の発動を待ちながら短剣を構えると、突然、足が重たくなったような感覚を覚えた。
 異様な状態に驚き下を向くと、大理石の床に浮かび上がる複雑な模様の魔方陣が目に入った。
 シンの焦ったような声が聞こえたが、なんと言ったのかまでは聞き取れなかった。

 ただ、魔方陣の光が強くなると同時にテイトの意識はぐにゃりと歪み、そして暗転した。
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