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74. 敗走
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突然左目を襲った激痛に、テイトは眼帯ごと両手で押さえこんでその場に蹲った。
この痛みを、テイトはよく覚えていた。
これは、自分が左目を失った時の痛みだ。
何故今またと耐えるように唇を引き結んだが、その痛みが緩和されることはなかった。
寧ろ鼓動に合わせてずきずきとした痛みが波のように押し寄せ、頭が可笑しくなりそうな程である。
瞬き程度の動きですら苦痛に変わるため、おいそれと右目を開けることもできない。
両目の視界を奪われた今の状態は、本当にあの時と酷似していた。
意識を保つため、テイトは現在置かれている状況について頭の中で整理してみた。
自分は先程何をしていただろうか。
確か、議事堂にて貴族達と対峙していたはずである。
それなのに、何故か今は自分の周囲に人の気配は感じないし、声や息遣いといったものも何一つ聞こえない。
まるでこの場に自分一人しかいないのではと錯覚するような感覚に、テイトはただただ困惑した。
最後に見たのは、そう、魔方陣の不気味な光であった。
あの魔方陣は一体何だったのだろう、と考えるテイトの耳に懐かしい声が届いた。
「――テイト」
「っ……ユーリ、さん」
姿は見えない。
気配もしない。
ただ、声だけがどこからか響いている。
「テイト」
先程よりも鮮明に響いたその声に、それがユーリのものであるとテイトは確信を得た。
それと同時に、自分は死んでしまったのだろうかと言う考えが過ぎったが、じくじくとした左目の痛みが図らずもそれを否定した。
「テイト、どうして――ステラを見殺しにしたんだ?」
「っ」
思わずヒュッと息を呑んだ。
それは、テイトがずっと気に病んでいたことであった。
あの時ステラを置いていったのは、他でもないテイトの選択だ。
それが彼女の望みだったとは言え、正しいかどうかと聞かれれば、それは正しい行いではなかったと今でも思う。
「どうして」
「っごめん、なさい」
無感情な声がテイトを責め立てた。
耳を塞ぎたくなるのを堪えて、代わりにテイトは服の裾を強く握りしめた。
「強引にでも連れて行ってくれれば、ステラが死ぬことはなかったのに」
「……ごめんなさい」
全くその通りだと思った。
故に、テイトは謝罪を繰り返すことしかできない。
「お前に、リーダーを任せるんじゃなかった」
冷たく言い放たれた言葉に、テイトは身体が震えるのが分かった。
自分でもリーダーなど不相応だと思っていた。
けれど、レンリやシンが自分を認めてくれたため、少しずつではあるが自信を得ていた。
でもよくよく考えれば、二人は、と言うより仲間の誰もが、テイトがステラを見殺しにした事実を知らない。
もし知ってしまったら、自分に対する評価も変わってしまうのだろうか。
そう考えるだけで、身体が急激に熱を失っていくようであった。
「ごめんなさい」
自分は皆を騙して、この地位に納まっている。
それが酷く醜いことのように思えた。
ユーリの声はいつの間にか聞こえなくなっていた。
それでも、テイトはその場から動くことができなかった。
どのぐらいそうしていたのか、次に聞こえた小さな足音に、テイトはゆっくりと顔を上げた。
「――お兄ちゃん」
「っリサ」
聞き間違えるはずのない妹の声にテイトは思わず手を伸ばしたが、その手は虚しくも空を切った。
痛みを我慢して目を開こうとしたが、開いているのか開いていないのか、視界は依然真っ暗なままであった。
「お兄ちゃん、どうして、私の手を離したの?」
「リサっ、ごめん、ごめんね」
「どうして、私を一人にしたの?」
声の出所は分からなかった。
ただ、その声がテイトを責めていることだけはよく分かった。
「リサ、ごめん。もう、絶対に離さないから……だからっ」
「もう、遅いよ」
テイトは言葉に詰まった。
そう、遅いのだ。
何もかも、手遅れなのだ。
自分があの時手を離した所為で、リサは死んでしまったのだ。
その事実を真っ正面から突きつけられ、テイトは絶望した。
その時、誰かに力強く肩を引っ張られた。
テイトが慌てて振り返ると、途端世界が広がるように色づき、焦ったような表情をしたシンの姿が見えた。
喧噪渦巻く景色に呆然としていると、シンが舌打ちをしながらテイトに何かを手渡した。
「正気に戻ったか?」
「え、何が、」
「まだか? でも、もう待てない。絶対に落とすなよ」
そう早口で告げられ、半ば混乱しながら自分に預けられたものに目を落とし、テイトはぎょっとした。
自分が両手で抱えていたのは、レンリだった。
意識のない様子の彼女を落とさないようにと抱えなおしてから、テイトは急いで周囲に目を走らせた。
そこは、先程糾弾を受けた部屋の中だった。
周囲は魔導師団に囲まれているが、シンの魔法のおかげか、こちらへの直接的な攻撃はできていないようである。
そして、仲間達もテイトのようにどこか呆然としていたり、顔を青ざめさせてあらぬ方向を見ていたりと様々であった。
一体何が起こったのか。
事態を把握しきる前に、シンの指示が耳に入った。
「今動ける奴だけで逃げる。ついてこい」
シンに言われてついていこうとしたが、動きを見せたのは少数のみで、殆どの仲間は動く素振りすら見せなかった。
「っシンさん、待って!」
「はっきり言うが、状況は著しく不利だ。全員ここで捕まって死ぬつもりか?」
余裕がないのか、シンの口調は荒々しかった。
決断できずにいると、誰かが力強くテイトの背を押した。
「行け、テイト!」
「ルゴー……」
「ここにいる奴のことは俺に任せろ。テイトはすぐにレンリさんを安全な場所に!」
テイトは自分が抱える存在を思い出して、唇を噛んだ。
自分が留まれば、レンリにも危険が及ぶ。
シンはそれが分かっていて、自分にレンリを預けたような気がした。
「っ早く」
声に押されるように、テイトはシンの後を追いかけた。
彼の近くにいれば魔導師団の攻撃が当たることはなかったが、危険な場所に仲間達を置いていかなければいけないことに、テイトの胸は酷く痛んだ。
これは、相手の罠に飛び込むと決めた、自分の選択が及ぼした結果だった。
この痛みを、テイトはよく覚えていた。
これは、自分が左目を失った時の痛みだ。
何故今またと耐えるように唇を引き結んだが、その痛みが緩和されることはなかった。
寧ろ鼓動に合わせてずきずきとした痛みが波のように押し寄せ、頭が可笑しくなりそうな程である。
瞬き程度の動きですら苦痛に変わるため、おいそれと右目を開けることもできない。
両目の視界を奪われた今の状態は、本当にあの時と酷似していた。
意識を保つため、テイトは現在置かれている状況について頭の中で整理してみた。
自分は先程何をしていただろうか。
確か、議事堂にて貴族達と対峙していたはずである。
それなのに、何故か今は自分の周囲に人の気配は感じないし、声や息遣いといったものも何一つ聞こえない。
まるでこの場に自分一人しかいないのではと錯覚するような感覚に、テイトはただただ困惑した。
最後に見たのは、そう、魔方陣の不気味な光であった。
あの魔方陣は一体何だったのだろう、と考えるテイトの耳に懐かしい声が届いた。
「――テイト」
「っ……ユーリ、さん」
姿は見えない。
気配もしない。
ただ、声だけがどこからか響いている。
「テイト」
先程よりも鮮明に響いたその声に、それがユーリのものであるとテイトは確信を得た。
それと同時に、自分は死んでしまったのだろうかと言う考えが過ぎったが、じくじくとした左目の痛みが図らずもそれを否定した。
「テイト、どうして――ステラを見殺しにしたんだ?」
「っ」
思わずヒュッと息を呑んだ。
それは、テイトがずっと気に病んでいたことであった。
あの時ステラを置いていったのは、他でもないテイトの選択だ。
それが彼女の望みだったとは言え、正しいかどうかと聞かれれば、それは正しい行いではなかったと今でも思う。
「どうして」
「っごめん、なさい」
無感情な声がテイトを責め立てた。
耳を塞ぎたくなるのを堪えて、代わりにテイトは服の裾を強く握りしめた。
「強引にでも連れて行ってくれれば、ステラが死ぬことはなかったのに」
「……ごめんなさい」
全くその通りだと思った。
故に、テイトは謝罪を繰り返すことしかできない。
「お前に、リーダーを任せるんじゃなかった」
冷たく言い放たれた言葉に、テイトは身体が震えるのが分かった。
自分でもリーダーなど不相応だと思っていた。
けれど、レンリやシンが自分を認めてくれたため、少しずつではあるが自信を得ていた。
でもよくよく考えれば、二人は、と言うより仲間の誰もが、テイトがステラを見殺しにした事実を知らない。
もし知ってしまったら、自分に対する評価も変わってしまうのだろうか。
そう考えるだけで、身体が急激に熱を失っていくようであった。
「ごめんなさい」
自分は皆を騙して、この地位に納まっている。
それが酷く醜いことのように思えた。
ユーリの声はいつの間にか聞こえなくなっていた。
それでも、テイトはその場から動くことができなかった。
どのぐらいそうしていたのか、次に聞こえた小さな足音に、テイトはゆっくりと顔を上げた。
「――お兄ちゃん」
「っリサ」
聞き間違えるはずのない妹の声にテイトは思わず手を伸ばしたが、その手は虚しくも空を切った。
痛みを我慢して目を開こうとしたが、開いているのか開いていないのか、視界は依然真っ暗なままであった。
「お兄ちゃん、どうして、私の手を離したの?」
「リサっ、ごめん、ごめんね」
「どうして、私を一人にしたの?」
声の出所は分からなかった。
ただ、その声がテイトを責めていることだけはよく分かった。
「リサ、ごめん。もう、絶対に離さないから……だからっ」
「もう、遅いよ」
テイトは言葉に詰まった。
そう、遅いのだ。
何もかも、手遅れなのだ。
自分があの時手を離した所為で、リサは死んでしまったのだ。
その事実を真っ正面から突きつけられ、テイトは絶望した。
その時、誰かに力強く肩を引っ張られた。
テイトが慌てて振り返ると、途端世界が広がるように色づき、焦ったような表情をしたシンの姿が見えた。
喧噪渦巻く景色に呆然としていると、シンが舌打ちをしながらテイトに何かを手渡した。
「正気に戻ったか?」
「え、何が、」
「まだか? でも、もう待てない。絶対に落とすなよ」
そう早口で告げられ、半ば混乱しながら自分に預けられたものに目を落とし、テイトはぎょっとした。
自分が両手で抱えていたのは、レンリだった。
意識のない様子の彼女を落とさないようにと抱えなおしてから、テイトは急いで周囲に目を走らせた。
そこは、先程糾弾を受けた部屋の中だった。
周囲は魔導師団に囲まれているが、シンの魔法のおかげか、こちらへの直接的な攻撃はできていないようである。
そして、仲間達もテイトのようにどこか呆然としていたり、顔を青ざめさせてあらぬ方向を見ていたりと様々であった。
一体何が起こったのか。
事態を把握しきる前に、シンの指示が耳に入った。
「今動ける奴だけで逃げる。ついてこい」
シンに言われてついていこうとしたが、動きを見せたのは少数のみで、殆どの仲間は動く素振りすら見せなかった。
「っシンさん、待って!」
「はっきり言うが、状況は著しく不利だ。全員ここで捕まって死ぬつもりか?」
余裕がないのか、シンの口調は荒々しかった。
決断できずにいると、誰かが力強くテイトの背を押した。
「行け、テイト!」
「ルゴー……」
「ここにいる奴のことは俺に任せろ。テイトはすぐにレンリさんを安全な場所に!」
テイトは自分が抱える存在を思い出して、唇を噛んだ。
自分が留まれば、レンリにも危険が及ぶ。
シンはそれが分かっていて、自分にレンリを預けたような気がした。
「っ早く」
声に押されるように、テイトはシンの後を追いかけた。
彼の近くにいれば魔導師団の攻撃が当たることはなかったが、危険な場所に仲間達を置いていかなければいけないことに、テイトの胸は酷く痛んだ。
これは、相手の罠に飛び込むと決めた、自分の選択が及ぼした結果だった。
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