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76. 諦観
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時間の経過と共に、仲間達の顔色は徐々に戻っていった。
しかしながら、依然としてレンリは目を覚まさない。
もしかしたらこのまま起きないのではないか、と嫌に悲観的な不安がテイトの脳裏を掠めた。
目を閉じたままピクリとも動かないレンリを見ていると、以前彼女が自分自身を刺して意識を失った時を思い出すようで、テイトは余計に恐怖を覚えた。
しかし、今のテイトに彼女にしてあげられることは何一つなかった。
拠点に待機していた者達は帰ってきた仲間の数が減っていることとテイト達の表情を見てある程度の状況を把握してくれたのか、事を問い詰めることなく温かく迎え入れてくれた。
それが一層テイトには辛かった。
帰還後すぐに隊長達を集めてカストルでの出来事を報告すると、彼らも皆一様に表情を曇らせた。
濡れ衣を着せられたこと。
仲間達が囚われてしまったこと。
ここにも直に魔導師団が来るであろうこと。
そして、問題はどうやって囚われた仲間を無事に取り戻すかであるが、おそらく今のままではまともな話し合いもできないであろうことを努めて冷静に口にした。
「っどうして、罠だと分かってたのに行ったんだ!」
「っ」
責められて、テイトは上手く言葉が出てこなかった。
「テイトを責めるのは間違ってる。行くことを強く反対した者はいないし、皆それが分かった状態でそれでも行くと判断したのは自分自身なのだから」
「っだけど」
「それに、おそらく行っても行かなくても同じ理由で責められたに違いない」
「結果が同じだったとしても、行かなければ仲間が無意味に捕まることはなかった!」
「それは結果論に過ぎない」
ラキドがすかさずフォローしてくれたが、テイトの心には何か鋭利なものが突き刺さったままであった。
「……そうです。僕の、責任です」
「テイト……」
強く拳を握り込みながらその言葉を認めると、仲間もテイトの後悔を理解したのかやるせない様子で悪態を吐いた。
「国を敵にまわすなんて……もう、おしまいだ」
震えた声が耳に入り、テイトは唇を噛んだ。
国の行く末を思って戦ったのに、まさかその国に反逆者として見られようとは、一体誰が予想できただろうか。
「……シン殿。仲間を取り返す策は、何かあるのだろうか?」
ラキドが不安そうに尋ねると、シンは難しい顔をしたままゆっくりと首を横に振った。
「今はまだ」
「そうか」
「っルクスリアで行った作戦のように、相手から魔法を奪えば!」
一人が縋るように提案したが、シンの眉間の皺は深くなるだけであった。
「生憎レヒトは帰った。それに、アノニマス相手に上手くいったからと言って魔導師団まで欺けるとは思えない」
「それでも、少しでも可能性があるなら再度彼に協力を仰ぐべきではっ」
「その往復の間に魔導師団が来たらどうする? そもそも、魔法を奪えたとしても相手は国の兵士だ。きちんと訓練を受けた奴らと、荒削りのあんたら、魔法の有無に関係なくどっちが勝つかは話し合うまでもないと思うが」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
荒々しく机を叩きつける仲間の様子を見て、テイトはゆっくりと口を開いた。
「戦う必要なんてありません。僕たちは反逆者ではないのですから」
「でもっ向こうはそう思ってないんだろ!」
「はい。だから、逃げられる人は今のうちに拠点を去る準備を」
テイトの言葉に、仲間達は言葉を失ったようであった。
しかし、シンの話を聞いてテイトはこれしかないと再認識した。
「本来であれば逃げる必要だってありません。でも、僕が不甲斐ないばかりにその選択をさせてしまうこと、本当にごめんなさい」
テイトは深く頭を下げた。
仲間達が動揺しているのを肌で感じた。
「帰る故郷がない方には、ルフェール教団で一時的に面倒を見てもらえるように頼んでおきます。事後報告になっても、きっとアニールさんなら許してくれるでしょうから」
「……逃げるったって、捕まってる仲間達は?」
「僕はここに残ります」
目を見開く仲間達の顔を一人一人見回しながら、テイトは続けた。
「交渉できるかは分かりませんが、捕まった仲間のためにできることはします。僕は、リーダーですから」
「……話を聞いてくれるような相手じゃないんだろ」
「そうだとしても、僕は相手側に顔を覚えられていますし、ここを去って滞在先に迷惑をかけるぐらいなら、いっそここで迎え撃つ方がいいのかなって」
テイトが安心させるように笑顔を浮かべると、仲間達はバツが悪そうに視線を逸らした。
「……テイトだけを残せない。リーダーだからと言う理由で残るのであれば、テイトをリーダーに据えた俺たちも同じ責を負うべきだ」
ラキドがテイトの身を案じるような顔つきで告げた。
それは彼の優しさだった。
それが身に染みて分かり、テイトはなんだかくすぐったい気持ちになった。
「でも、ここに全員が残るのは得策ではありません。まだまだ、しなくちゃいけないことはたくさんあるんですから」
ラキドは何とも言えない表情を浮かべた。
「どのみち、僕は皆よりは長く生きることはできませんし」
テイトが自分の左腕にある赤い刺青を見つめながら呟くと、隣に座るシンがあからさまに反応したのが分かった。
「……俺も残るし、心配しなくていい」
「シンさん」
「俺もカストルに行ったから顔を覚えられてるはずだ。まぁ安心しろ、あんたと心中する気はない」
シンの残るという発言は、仲間達に少しの安堵を与えたようであった。
まだまだ渋る様子の仲間達を、悩んでいる時間はないからと急き立て、テイトは会議室から追い出した。
シン以外の者が去って静かになった会議室で、テイトは大きく息を吐き出した。
「……残るって、ナナはどうするんですか?」
「取り敢えずアニールに預けとけばいいだろ。きっと手を叩いて喜ぶ」
目が覚めないようならレンリも引き取ってもらおう、と続けながらシンが青い小鳥をその手に創り出したのが見えた。
「緊急事態だ。できるだけ早く来てくれ」
その言葉を受け取った小鳥が飛び去っていくのを目で追った後に、テイトは静かにシンに視線を戻した。
「預けるって、心中しないは嘘ですか?」
「するつもりは勿論ないが、今のところ勝算もないからどうなるかは分かんないってだけだ」
「それなら、残るのは僕一人で構わないのに」
「刺青がある奴はほっとけない性分でね」
彼が残ると決断したのはまさか自分の発言の所為だろうかとテイトが顔を青くしたのを見て、シンが僅かに笑みを浮かべたのが見えた。
まるで困った子供を見るような優しい顔に、テイトは驚いて目を瞬かせた。
「死なないように粘るさ。だからあんたも諦めるな」
シンはテイトを鼓舞してくれているようであったが、それでも、あの魔法を受けてからずっと仄暗い気持ちが心の内側に纏わり付いており、テイトはとても希望を持てそうにはなかった。
しかしながら、依然としてレンリは目を覚まさない。
もしかしたらこのまま起きないのではないか、と嫌に悲観的な不安がテイトの脳裏を掠めた。
目を閉じたままピクリとも動かないレンリを見ていると、以前彼女が自分自身を刺して意識を失った時を思い出すようで、テイトは余計に恐怖を覚えた。
しかし、今のテイトに彼女にしてあげられることは何一つなかった。
拠点に待機していた者達は帰ってきた仲間の数が減っていることとテイト達の表情を見てある程度の状況を把握してくれたのか、事を問い詰めることなく温かく迎え入れてくれた。
それが一層テイトには辛かった。
帰還後すぐに隊長達を集めてカストルでの出来事を報告すると、彼らも皆一様に表情を曇らせた。
濡れ衣を着せられたこと。
仲間達が囚われてしまったこと。
ここにも直に魔導師団が来るであろうこと。
そして、問題はどうやって囚われた仲間を無事に取り戻すかであるが、おそらく今のままではまともな話し合いもできないであろうことを努めて冷静に口にした。
「っどうして、罠だと分かってたのに行ったんだ!」
「っ」
責められて、テイトは上手く言葉が出てこなかった。
「テイトを責めるのは間違ってる。行くことを強く反対した者はいないし、皆それが分かった状態でそれでも行くと判断したのは自分自身なのだから」
「っだけど」
「それに、おそらく行っても行かなくても同じ理由で責められたに違いない」
「結果が同じだったとしても、行かなければ仲間が無意味に捕まることはなかった!」
「それは結果論に過ぎない」
ラキドがすかさずフォローしてくれたが、テイトの心には何か鋭利なものが突き刺さったままであった。
「……そうです。僕の、責任です」
「テイト……」
強く拳を握り込みながらその言葉を認めると、仲間もテイトの後悔を理解したのかやるせない様子で悪態を吐いた。
「国を敵にまわすなんて……もう、おしまいだ」
震えた声が耳に入り、テイトは唇を噛んだ。
国の行く末を思って戦ったのに、まさかその国に反逆者として見られようとは、一体誰が予想できただろうか。
「……シン殿。仲間を取り返す策は、何かあるのだろうか?」
ラキドが不安そうに尋ねると、シンは難しい顔をしたままゆっくりと首を横に振った。
「今はまだ」
「そうか」
「っルクスリアで行った作戦のように、相手から魔法を奪えば!」
一人が縋るように提案したが、シンの眉間の皺は深くなるだけであった。
「生憎レヒトは帰った。それに、アノニマス相手に上手くいったからと言って魔導師団まで欺けるとは思えない」
「それでも、少しでも可能性があるなら再度彼に協力を仰ぐべきではっ」
「その往復の間に魔導師団が来たらどうする? そもそも、魔法を奪えたとしても相手は国の兵士だ。きちんと訓練を受けた奴らと、荒削りのあんたら、魔法の有無に関係なくどっちが勝つかは話し合うまでもないと思うが」
「じゃあ、どうすればいいんだよ!」
荒々しく机を叩きつける仲間の様子を見て、テイトはゆっくりと口を開いた。
「戦う必要なんてありません。僕たちは反逆者ではないのですから」
「でもっ向こうはそう思ってないんだろ!」
「はい。だから、逃げられる人は今のうちに拠点を去る準備を」
テイトの言葉に、仲間達は言葉を失ったようであった。
しかし、シンの話を聞いてテイトはこれしかないと再認識した。
「本来であれば逃げる必要だってありません。でも、僕が不甲斐ないばかりにその選択をさせてしまうこと、本当にごめんなさい」
テイトは深く頭を下げた。
仲間達が動揺しているのを肌で感じた。
「帰る故郷がない方には、ルフェール教団で一時的に面倒を見てもらえるように頼んでおきます。事後報告になっても、きっとアニールさんなら許してくれるでしょうから」
「……逃げるったって、捕まってる仲間達は?」
「僕はここに残ります」
目を見開く仲間達の顔を一人一人見回しながら、テイトは続けた。
「交渉できるかは分かりませんが、捕まった仲間のためにできることはします。僕は、リーダーですから」
「……話を聞いてくれるような相手じゃないんだろ」
「そうだとしても、僕は相手側に顔を覚えられていますし、ここを去って滞在先に迷惑をかけるぐらいなら、いっそここで迎え撃つ方がいいのかなって」
テイトが安心させるように笑顔を浮かべると、仲間達はバツが悪そうに視線を逸らした。
「……テイトだけを残せない。リーダーだからと言う理由で残るのであれば、テイトをリーダーに据えた俺たちも同じ責を負うべきだ」
ラキドがテイトの身を案じるような顔つきで告げた。
それは彼の優しさだった。
それが身に染みて分かり、テイトはなんだかくすぐったい気持ちになった。
「でも、ここに全員が残るのは得策ではありません。まだまだ、しなくちゃいけないことはたくさんあるんですから」
ラキドは何とも言えない表情を浮かべた。
「どのみち、僕は皆よりは長く生きることはできませんし」
テイトが自分の左腕にある赤い刺青を見つめながら呟くと、隣に座るシンがあからさまに反応したのが分かった。
「……俺も残るし、心配しなくていい」
「シンさん」
「俺もカストルに行ったから顔を覚えられてるはずだ。まぁ安心しろ、あんたと心中する気はない」
シンの残るという発言は、仲間達に少しの安堵を与えたようであった。
まだまだ渋る様子の仲間達を、悩んでいる時間はないからと急き立て、テイトは会議室から追い出した。
シン以外の者が去って静かになった会議室で、テイトは大きく息を吐き出した。
「……残るって、ナナはどうするんですか?」
「取り敢えずアニールに預けとけばいいだろ。きっと手を叩いて喜ぶ」
目が覚めないようならレンリも引き取ってもらおう、と続けながらシンが青い小鳥をその手に創り出したのが見えた。
「緊急事態だ。できるだけ早く来てくれ」
その言葉を受け取った小鳥が飛び去っていくのを目で追った後に、テイトは静かにシンに視線を戻した。
「預けるって、心中しないは嘘ですか?」
「するつもりは勿論ないが、今のところ勝算もないからどうなるかは分かんないってだけだ」
「それなら、残るのは僕一人で構わないのに」
「刺青がある奴はほっとけない性分でね」
彼が残ると決断したのはまさか自分の発言の所為だろうかとテイトが顔を青くしたのを見て、シンが僅かに笑みを浮かべたのが見えた。
まるで困った子供を見るような優しい顔に、テイトは驚いて目を瞬かせた。
「死なないように粘るさ。だからあんたも諦めるな」
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