最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む

ワスレナ

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本編

第28話 全能の支配者、イグザリオン

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 黒翼の主イーリスとの激闘から六日後。
 私たち勇者パーティーは最深部第六十階層を目指した。

 この一週間で私たちは階層ボスと裏ボスを一層ずつ撃破した。
 今までとは桁違いの経験値が加算され、イグノールはレベル百を超えた。
 ほかの三人も、もうすぐでレベル百に到達する勢いだ。

 イグノール以外の三人は、途中で獲得した伝説級の超レア装備魔導具に身を包んでいる。

 長い螺旋らせん階段を降り切った瞬間、全員の足が止まった。

 ――第六十層、最下層に到達した。
 そこは石造りの天蓋に覆われた巨大な円形空間だった。

 ──だが天井の中央は、星雲のような光と闇が渦巻く穴が開いており、そこから流れ落ちる輝きが祭壇を照らしている。

 空間の外周には八つの巨大な水晶柱が立ち並ぶ。
 それぞれが炎・氷・雷・風・土・水・光・闇の色を帯び、脈動していた。

「……ここが、最下層」

 メリエラの声は震えていた。

 恐怖ではない。
 あまりに濃密な魔力と存在感が、全身を圧迫してくる。
 私も喉の奥が乾き、少しの間、言葉が出なかった。

 祭壇の上、鎧に覆われた巨人の上半身と、半透明の龍尾が融合した異形が、静かに立っていた。
 背中から広がる八枚の翼は、属性の光を絶え間なく巡らせ、まるで世界そのものを背負っているかのようだった。

『……来たか、挑戦者たちよ』

 低く響く声は、空気ではなく魂そのものを震わせる。

『我は全能の支配者、イグザリオン。八界を統べることわりを、その身に刻め』

 ――このフロアの階層ボス、【全能の支配者イグザリオン】が出現する。

 次の瞬間、祭壇の周囲に多層結界が展開する。
 空間がきしみ、外周の水晶柱の光がぜる。


 ──試練の門

「作戦通りだ! バリアの順番は雷からだ!」

 イグノールの号令で全員が一斉に散開する。

 イグザリオンが剣を振り下ろす。
 【エレメンタル・スラッシュ】──炎の奔流をまとった一閃が床を焦がし、衝撃波が迫る。

 クローディアが前に出て聖盾で受け止め、バルドスが即座に盾で補強する。
 衝撃が二人の足元を粉砕し、破片が四方に飛び散った。

「『ライトニングスピア』!」

 私は雷属性の槍を連続で投げ放ち、バリアの一枚目を削る。

 横からメリエラの『氷雪の雨』が降り注ぎ、二枚目を砕く。

 最後の土属性バリアをクローディアが突き破り、イグノールが渾身の斬撃を叩き込んだ。

 しかし──フィールドが脈打つように揺れ、属性が炎から風へと変わる。

 私の攻撃効率は一気に半減し、逆に衝撃が吹き荒れた。

「結晶を壊すんだ!」

 私は風の属性結晶に魔力弾を撃ち込み、粉砕する。
 轟音と共に属性ローテーションが一時停止する。


 ──支配者の領域

 イグザリオンの翼が一斉に広がった瞬間、時間が止まった。
 耳鳴りも鼓動も消え、視界だけが淡く揺らめく。

 ──《タイム・ディスロケーション》。

 止まった三秒間の間に、イグザリオンは全員の死角に剣を構え、時間再開と同時に八連撃を解き放った。
 クローディアのアダマンタイト製全身鎧が悲鳴を上げ、バルドスのオリハルコン製大盾が若干きしむ。
 私は咄嗟とっさ範囲回復魔法エリアヒールを展開する。

 だが、イグザリオンの《ドラゴンテイル・スマッシュ》が炸裂する。
 床を叩き割り、全員を外周まで吹き飛ばした。

「くそっ、距離が空いた!」

 イグノールが踏み込み直す間に、私は闇と聖の連続魔法を叩き込む。
 同一属性二連撃で耐性低下──翼の光が一瞬鈍る。

 さらに、イグノールに加速魔法ヘイトをかける。
 彼は間合いを詰め、胸甲に深々と剣を突き立てた。

 イグザリオンの咆哮ほうこうが響きわたる。
 属性翼が旋回し、吹き荒れる竜巻が床をえぐり、パーティーの陣形を乱す。

 それでもバルドスが声を張り上げた。

「ここが正念場だ! 持ちこたえろ!」

 敵の体力をかなり削ったと思っていた矢先、八枚の翼が融合を始める。
 属性の輝きが一つに溶け、世界の色彩が消えていく。


 ──《終律・現実改編》

 フィールドは無属性化し、イグザリオンの動きが二倍に加速する。
 その剣は残像を残しながら二度振られ、尾の衝撃波が時間差で追撃する。

 防御も回避も、一瞬遅れれば即死だ。

「まだ……届く!」

 クローディアがレイピアで最後のバリアを破壊する。
 イグノールが一歩踏み込み、全身の力を乗せた突きで胸部のコアを貫いた。

 眩い光が大広間を満たし、巨体がゆっくりと崩れ落ちる。
 重く圧し掛かっていた魔力が霧散し、静寂が戻った。

 祭壇が自ら再構築を始め、その中央に白金色の結晶が浮かび上がった。

 戦利品と目の眩むほどの硬貨が地面をおおう。

 私は目当ての球体を見つけると、拾い上げてインベントリにしまった。
 仲間たちがほかの戦利品の回収にいそしんだ。


 ──《位相錨結晶》

 我々の目の前に、幻界への門を開く鍵が出現する。
 手を伸ばしかけた私に、イグノールが尋ねてくる。

「……どうする? このまま帰るか、それとも先へ行くか」

 戦いの熱がまだ胸に残る。
 答えを出すには、あと少しだけ……呼吸を整える時間が必要だった。

 祭壇の中央に浮かぶ《位相錨結晶》は、白金の光を脈打たせながら、まるで心臓のように規則正しく鼓動していた。
 その輝きは暖かいはずなのに、見つめていると全身が冷えていく感覚に襲われる。

「……これが幻界への鍵、なんだね」

 メリエラが呟き、息を呑む。
 バルドスは眉をひそめ、大盾を構えたまま結晶を睨みつけている。

「この先に何があるか、想像はつく」

 イグノールの声は低く、しかし迷いがなかった。
 我々が行く先、そう――裏ボスだ。

「それでも行くかは……お前次第だ、タクト」

「ああ……」

 私は魔法をかけ、みんなの体力と精神力を戻し、魔力回復剤を飲み干す。
 そしてみんなの顔を見てうなずき合う。

 ――そこに言葉は不要だった。

 私は軽く呼吸を整え、指先を結晶に伸ばした。
 触れた瞬間、光が一気に強まり、周囲の空間が波紋のように揺らぐ。


 ──空間が反転する。

 足元の床が霧に変わり、天井が消え、代わりに無限の夜空と無数の光の帯が広がった。

 星々が流れるたびに形を変え、巨大な門がその中心に顕現する。
 門には古代の天使文字が刻まれ、意味だけが心に直接響いてくるのだった。


【今回の勇者パーティーの成長の記録】
===============
 イグノール……101⇒104
 クローディア……98⇒101
 バルドス……97⇒100
 メリエラ……99⇒102
===============

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【まめちしき】

【ダンジョンの主 イグザリオン】……第六十階層ボス。裏ボスではない。全属性を操る超存在で、ダンジョンそのものの化身ともいえる支配者。人型と竜型を融合させた姿を持ち、魔法・剣技・ブレスを自在に使い分ける。六十階層を越えんとする者に「全力の総合試験」を課す存在。
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