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本編
第31話 進軍開始、魔界へ
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夜明け前の大地は、すでに戦の気配で満ちていた。
第一から第四方面軍まで、総勢二十万の兵が四方から集結し、黒々とした陣列を形成している。
旗印が風に翻り、鎧の金属音と軍馬の嘶きが遠くまで響き渡る。
それぞれの軍の先頭には、歴戦の将軍たちが馬上に立つ。
第一方面軍の総大将レガリックは鋼鉄の鎧をまとい、沈着な眼差しを戦場の彼方へ向けている。
第二方面軍の女将軍ラミナは白銀の槍を構え、冷ややかな視線で敵地を射抜いていた。
第三方面軍、巨漢の将軍バルゴスは笑いながら戦斧を肩に担ぎ、その背後で兵士たちの士気が高まる。
第四方面軍を率いる黒衣の参謀ゼルナは、無言で地図を見つめ、魔界の地形を頭に叩き込んでいる。
やがて、陣列中央に光が集まり、ひとりの女性が姿を現した。
聖女エレノーラ――軍全体の象徴であり、希望そのもの。
彼女の足元には魔法陣が広がり、周囲の兵士たちへと淡い金光が波のように流れ込む。
身体の傷を癒し、精神を研ぎ澄まし、恐怖を払う祝福の魔力だ。
「勇敢なる兵たちよ」
エレノーラの声は澄み渡り、戦場全域に響いた。
「これより我らは魔界へと進む。人々の未来と、大地の安寧のために。――退くことは許されない!」
その瞬間、全軍の旗が一斉に掲げられた。
各将軍が号令を放ち、数万の足音と蹄音が地を揺らす。
前方の魔界の門は、闇色の稲光を帯びながら開き始める。
「全軍、進めえぇ!!」
総大将レガリックの怒号を皮切りに、四方面軍は轟音と共に動き出した。
エレノーラは光の翼を広げ、最前線に立つ将軍たちの頭上を舞い、魔界への一歩を踏み出した。
戦いの幕は、今切って落とされた。
◇ ◇ ◇
魔界の空は血のように赤く、地平線まで裂けた大地が続いていた。
西側に広がる黒い影――無数の魔物がこちらへ殺到してくる。
「第六方面軍、西側掃討に移る!」
ガルヴァン将軍の声が響き、全軍が一斉に動き出す。
だが、前線が衝突するより早く、白銀の光が戦場を覆った。
エレノーラ様の姿が、一人ひとりの心の中に現れ、鼓舞激励する。
軍全体に瞬時に防御と回復、さらには攻撃強化まで施していく。
その手際は、流れる水のように滑らかで、わずかな間も生じさせない。
「……これじゃ私の出番、ないな」
思わず苦笑が漏れる。
仲間が傷つく暇も、疲弊する余地もない。
斬撃が魔物を両断し、槍が黒翼を貫き、炎や雷が次々と敵を薙ぎ払う。
――そのどれもが、エレノーラ様の加護を受け、極限まで引き上げられている。
敵の群れがこちらを飲み込もうとした瞬間、光の奔流が走った。
眩い閃光が視界を満たし、残っていた魔物たちは、まるで存在そのものを拭われたかのように塵となって消えた。
「……完了だな」
バルドスがどっしりと構えつつ笑い、クローディアは剣を納める。
エレノーラ様の分身体は淡く揺れ、次の戦場へと消えていった。
この調子なら――西側の脅威は、そう遠くないうちに完全に消えるだろう。
◆◆◆
戦場の喧噪が徐々に遠のいていく。
西の地平線に漂っていた黒い靄も、いまや完全に消え去っていた。
「西側、制圧完了!」
斥候の報告が響き、兵士たちが小さく歓声を上げる。
クローディアは短く頷き、次の指示を出した。
「これより中央本隊と合流する。隊列を整えろ」
私たちは疲労を残したまま進み出すが、誰ひとり足を止めなかった。
エレノーラ様の加護がまだ全身に残っている。呼吸は軽く、傷は跡形もない。
その事実だけで、歩みは迷いなく前を向けた。
やがて、遠くに大軍の影が見えてくる。
旗がいくつもはためき、戦鼓の低い響きが胸を打った。
本隊だ。第一から第四方面軍の兵が整然と進み、その中央をエレノーラ様本体が率いている。
「合流地点まであと二百!」
号令と共に私たちは速度を上げ、本隊の西側列へと滑り込んだ。
将軍たちが私たちを見やり、わずかに口元を緩める。
西側掃討の成果はすでに伝わっているのだろう。
門をくぐった瞬間から続く緊張が、少しだけ和らぐ。
しかし、進む先は魔王領の奥深く――ここからが本当の戦いだ。
私は握った杖に力を込め、荒れ果てた大地の先を見据えた。
この行軍の果てに何が待っていようと、退くつもりはない。
本隊に合流した途端、地面を揺らす足音がさらに重くなった。
数十の軍旗が一斉に風を裂き、鎧のきしむ音と馬の嘶きが途切れなく耳に届く。
中央列を進むエレノーラ様の背は、光を纏ってなお揺るがず、周囲の兵士たちの士気を一段と高めていた。
魔王領の奥へ進むほど、空は黒みを増し、風は凍りついたように冷たい。
地表はひび割れ、枯れた大木が指のように空へ伸びている。時折、裂け目の底から紫色の光が脈動し、不気味な影が走った。
「……すごい場所だな」
思わず漏らした声に、メリエラが横目で笑う。
「ここから先は、人の常識は通用しないわよ。気を抜いたら呑まれる……」
やがて、地平線の先に巨大な構造物が現れた。
黒曜石のような壁面がうねり、上空には雷雲が渦巻く。
それは城門ではなく、闇の世界と現世を隔てる巨大な「魔界の門」だった。
「全軍、行軍速度を落とせ!」
ガルヴァン将軍の声が響き、前列の動きが遅くなる。
そびえ立つ門は、突入していった大軍勢によってすでに開かれている。
近づくほどに、門から吹き出す瘴気が肌を刺し、呼吸を重くする。
しかし、エレノーラ様の聖なる光が前線を覆うと、その圧は一瞬で和らいだ。
「……やっぱり、女神みたいだな」
誰かがふとささやいたが、圧倒的な称賛以外の何ものでもなかった。
全軍が魔界の門前に到達し、整列を終える。
黒い稲光がその縁を走り、門の内側は底知れぬ闇と赤い閃光が交互に瞬いている。
まるで、生き物がこちらを覗き込んでいるかのようだ。
「全軍――突入!」
ガルヴァン将軍の号令と同時に、戦鼓が鳴り響き、第一列が門をくぐった。
その直後、耳をつんざくような風が吹き抜け、全身を氷と炎が同時に包む。
エレノーラ様の魔法と加護で全員無事であるが、無ければとても行けない。
私たち第六方面軍も列を整えたまま、次々と門の中へ足を踏み入れる。
一歩、二歩――視界が闇に飲まれる。
足元の感触が変わり、冷えた石と焦げた土が混じった地面に降り立った瞬間、瘴気が流れ込んできた。
赤黒い空の下、遠くまで裂けた大地と溶岩の川が続く。
翼を持つ魔物が空を舞い、地上では獣型や人型の魔物が入り乱れ、既に先行部隊と刃を交えていた。
エレノーラ様の分身体が、私たちの上空を滑るように移動しながら光の矢を放ち、前方の敵を次々と薙ぎ払っていく。
仲間たちは迷いなくその背を追い、私はただ戦況を見極めながら足を進めた。
門の向こうは、想像を超える世界だった。
もう後戻りはない――そう自覚しながら、私は荒れ果てた魔界の大地を踏みしめた。
第一から第四方面軍まで、総勢二十万の兵が四方から集結し、黒々とした陣列を形成している。
旗印が風に翻り、鎧の金属音と軍馬の嘶きが遠くまで響き渡る。
それぞれの軍の先頭には、歴戦の将軍たちが馬上に立つ。
第一方面軍の総大将レガリックは鋼鉄の鎧をまとい、沈着な眼差しを戦場の彼方へ向けている。
第二方面軍の女将軍ラミナは白銀の槍を構え、冷ややかな視線で敵地を射抜いていた。
第三方面軍、巨漢の将軍バルゴスは笑いながら戦斧を肩に担ぎ、その背後で兵士たちの士気が高まる。
第四方面軍を率いる黒衣の参謀ゼルナは、無言で地図を見つめ、魔界の地形を頭に叩き込んでいる。
やがて、陣列中央に光が集まり、ひとりの女性が姿を現した。
聖女エレノーラ――軍全体の象徴であり、希望そのもの。
彼女の足元には魔法陣が広がり、周囲の兵士たちへと淡い金光が波のように流れ込む。
身体の傷を癒し、精神を研ぎ澄まし、恐怖を払う祝福の魔力だ。
「勇敢なる兵たちよ」
エレノーラの声は澄み渡り、戦場全域に響いた。
「これより我らは魔界へと進む。人々の未来と、大地の安寧のために。――退くことは許されない!」
その瞬間、全軍の旗が一斉に掲げられた。
各将軍が号令を放ち、数万の足音と蹄音が地を揺らす。
前方の魔界の門は、闇色の稲光を帯びながら開き始める。
「全軍、進めえぇ!!」
総大将レガリックの怒号を皮切りに、四方面軍は轟音と共に動き出した。
エレノーラは光の翼を広げ、最前線に立つ将軍たちの頭上を舞い、魔界への一歩を踏み出した。
戦いの幕は、今切って落とされた。
◇ ◇ ◇
魔界の空は血のように赤く、地平線まで裂けた大地が続いていた。
西側に広がる黒い影――無数の魔物がこちらへ殺到してくる。
「第六方面軍、西側掃討に移る!」
ガルヴァン将軍の声が響き、全軍が一斉に動き出す。
だが、前線が衝突するより早く、白銀の光が戦場を覆った。
エレノーラ様の姿が、一人ひとりの心の中に現れ、鼓舞激励する。
軍全体に瞬時に防御と回復、さらには攻撃強化まで施していく。
その手際は、流れる水のように滑らかで、わずかな間も生じさせない。
「……これじゃ私の出番、ないな」
思わず苦笑が漏れる。
仲間が傷つく暇も、疲弊する余地もない。
斬撃が魔物を両断し、槍が黒翼を貫き、炎や雷が次々と敵を薙ぎ払う。
――そのどれもが、エレノーラ様の加護を受け、極限まで引き上げられている。
敵の群れがこちらを飲み込もうとした瞬間、光の奔流が走った。
眩い閃光が視界を満たし、残っていた魔物たちは、まるで存在そのものを拭われたかのように塵となって消えた。
「……完了だな」
バルドスがどっしりと構えつつ笑い、クローディアは剣を納める。
エレノーラ様の分身体は淡く揺れ、次の戦場へと消えていった。
この調子なら――西側の脅威は、そう遠くないうちに完全に消えるだろう。
◆◆◆
戦場の喧噪が徐々に遠のいていく。
西の地平線に漂っていた黒い靄も、いまや完全に消え去っていた。
「西側、制圧完了!」
斥候の報告が響き、兵士たちが小さく歓声を上げる。
クローディアは短く頷き、次の指示を出した。
「これより中央本隊と合流する。隊列を整えろ」
私たちは疲労を残したまま進み出すが、誰ひとり足を止めなかった。
エレノーラ様の加護がまだ全身に残っている。呼吸は軽く、傷は跡形もない。
その事実だけで、歩みは迷いなく前を向けた。
やがて、遠くに大軍の影が見えてくる。
旗がいくつもはためき、戦鼓の低い響きが胸を打った。
本隊だ。第一から第四方面軍の兵が整然と進み、その中央をエレノーラ様本体が率いている。
「合流地点まであと二百!」
号令と共に私たちは速度を上げ、本隊の西側列へと滑り込んだ。
将軍たちが私たちを見やり、わずかに口元を緩める。
西側掃討の成果はすでに伝わっているのだろう。
門をくぐった瞬間から続く緊張が、少しだけ和らぐ。
しかし、進む先は魔王領の奥深く――ここからが本当の戦いだ。
私は握った杖に力を込め、荒れ果てた大地の先を見据えた。
この行軍の果てに何が待っていようと、退くつもりはない。
本隊に合流した途端、地面を揺らす足音がさらに重くなった。
数十の軍旗が一斉に風を裂き、鎧のきしむ音と馬の嘶きが途切れなく耳に届く。
中央列を進むエレノーラ様の背は、光を纏ってなお揺るがず、周囲の兵士たちの士気を一段と高めていた。
魔王領の奥へ進むほど、空は黒みを増し、風は凍りついたように冷たい。
地表はひび割れ、枯れた大木が指のように空へ伸びている。時折、裂け目の底から紫色の光が脈動し、不気味な影が走った。
「……すごい場所だな」
思わず漏らした声に、メリエラが横目で笑う。
「ここから先は、人の常識は通用しないわよ。気を抜いたら呑まれる……」
やがて、地平線の先に巨大な構造物が現れた。
黒曜石のような壁面がうねり、上空には雷雲が渦巻く。
それは城門ではなく、闇の世界と現世を隔てる巨大な「魔界の門」だった。
「全軍、行軍速度を落とせ!」
ガルヴァン将軍の声が響き、前列の動きが遅くなる。
そびえ立つ門は、突入していった大軍勢によってすでに開かれている。
近づくほどに、門から吹き出す瘴気が肌を刺し、呼吸を重くする。
しかし、エレノーラ様の聖なる光が前線を覆うと、その圧は一瞬で和らいだ。
「……やっぱり、女神みたいだな」
誰かがふとささやいたが、圧倒的な称賛以外の何ものでもなかった。
全軍が魔界の門前に到達し、整列を終える。
黒い稲光がその縁を走り、門の内側は底知れぬ闇と赤い閃光が交互に瞬いている。
まるで、生き物がこちらを覗き込んでいるかのようだ。
「全軍――突入!」
ガルヴァン将軍の号令と同時に、戦鼓が鳴り響き、第一列が門をくぐった。
その直後、耳をつんざくような風が吹き抜け、全身を氷と炎が同時に包む。
エレノーラ様の魔法と加護で全員無事であるが、無ければとても行けない。
私たち第六方面軍も列を整えたまま、次々と門の中へ足を踏み入れる。
一歩、二歩――視界が闇に飲まれる。
足元の感触が変わり、冷えた石と焦げた土が混じった地面に降り立った瞬間、瘴気が流れ込んできた。
赤黒い空の下、遠くまで裂けた大地と溶岩の川が続く。
翼を持つ魔物が空を舞い、地上では獣型や人型の魔物が入り乱れ、既に先行部隊と刃を交えていた。
エレノーラ様の分身体が、私たちの上空を滑るように移動しながら光の矢を放ち、前方の敵を次々と薙ぎ払っていく。
仲間たちは迷いなくその背を追い、私はただ戦況を見極めながら足を進めた。
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