最凶聖女の地獄指導で覚醒した冴えない社畜、勇者パーティーに放り込まれダンジョン無双し魔王軍に挑む

ワスレナ

文字の大きさ
36 / 46
本編

第32話 突然の撤退命令

しおりを挟む
 魔界の門をくぐり、荒野を進軍しようとていた第六方面軍の前方に、土煙を巻き上げて迫る大軍の影があった。

 前方の将軍や兵士たちは「魔王軍か」と声を上げ、緊張と不安が入り混じり、戦闘態勢に入る。

 だが近づいてきたのは、大量の魔王軍ではなく――撤退してくる第一方面軍だった。


 先鋒の部隊が慌てて道を開け、やがて両軍は正面から対峙する。

 将軍同士が前進し馬を寄せ合い、言葉を交わす。

「撤退命令が下った。我らは帰還する」

「一体どうしたのだ? もう討伐は完了したのか?」

 レガリック将軍は深く息を吐いた後、ガルヴァン将軍に話す。

「王からの命令だ。一軍と二軍はもう半月前から前線で戦ってきた。恐らく、貴軍たちが投入されたことで引いて立て直すのだろう」

「なるほどな。それで、最前線はどうなっている?」

「道半ばといったところだ。最前線は緩やかに押して前進はしている。ただ魔王軍の居城へはまだたどり着かぬ」

「そうか。我々も急ぎ合流する。先陣ご苦労だった。あとは任せてくれ」

 数分の戦況のやり取りがあった後、カルヴァン将軍が号令をかける。

「左右に展開し、第一方面軍へ道を開けろ!」

 カルヴァン将軍の号令に兵士たちの間からざわめきが漏れる。

 第六方面軍は左右に展開し、第一方面軍は整然と開いた道を通っていく。

 数十分後、第一方面軍は魔界の門をくぐり、人間界へと戻っていった。


 私はその背を見送りながら、胸の奥に重いものが沈むのを感じていた。


 その後第六方面軍は順調に前進を続け、すぐに魔王軍の残存部隊と衝突した。

 盾列を押し合い、後方から放たれる魔導弾が炸裂さくれつする。

 エレノーラ様の分身体がは治癒と防御魔法で兵たちを支え、勇者一行が局所で突破口を開いた。

 だが敵の数は尽きない。撃退してもまた押し寄せる。

 進軍は遅々として進まず、戦場は地獄のように息をつく暇もない。

 エレノーラ様の分身体が広域の加護と治癒を与え続けることで、兵士たちは持ちこたえていた。


 だが魔力が尽きぬ彼女にも弱点はある――空腹だ。

 彼女は兵たちに一時停止を告げ、進軍を止めて休憩を取る。

 本体のエレノーラ様は今頃大聖堂に転移し、食事を摂るのだろう。

 その姿に兵たちはむしろ微笑み、緊張を和らげていた。


 私はエレノーラ様の代わりに付与魔法を広域に展開しながら、ふと胸中に思う。

 ――この戦、聖女の加護が無ければ成立しない。

 エレノーラ様が戦線に復帰した直後、第六方面軍はその穴を埋めるように前進を開始した。

 三十分ほど後、荒野の先から、魔王軍の咆哮と無数の魔物の群れが押し寄せてくる。

 突撃してきたのは黒き魔狼の群れと、鋭い嘴を持つ大鴉の群れだった。

 「前衛を崩すな!」

 バルドスと前衛の盾が轟音を立てて魔狼の突進を受け止め、後ろに控える兵士たちが長槍で突き返す。


 イグノールは聖剣を横ぎに振るい、数体の魔狼を一度に斬り伏せた。

 空からは大鴉が急降下して兵の目を狙う。

 クローディアが剣を閃かせ、飛び掛かる影を切り裂く。

 私とメリエラは後方で広範囲攻撃魔法を展開して空の敵を迎撃する。


 統率された兵士たちが隊列を変え、順番に前方の魔王軍と魔物を相手していく。

 エレノーラ様の分身体が結界を張り、負傷兵を治癒する手を止めなかった。


 二日目。夜明けと同時に、今度は魔人兵の一団が現れた。

 甲冑に身を固め、長槍を構えた彼らは統率の取れた軍勢であり、単なる獣の群れとは違った脅威をもたらす。

 「押し返せ!」

 イグノールの聖剣が黄色い光を放ち、槍兵の列を確実に切り裂く。

 しかし横合いから、闇の魔法を操る影の魔導士たちが火球と毒霧を放った。


 視界が遮られるが、毒はエレノーラ様の魔法により効果がない。

 兵士たちは態勢を立て直し、襲いかかる魔法に耐える。


 メリエラの両手から雷が走り、敵魔導士たちを一掃する。

 その光景に多くの兵たちが鼓舞された。

 バルドスは前衛と連携し毒霧の中、大盾で魔王軍を押し返す。


 徐々に劣勢をはねのけ、第六方面軍は相対する魔王軍を押し返していった。


 三日目。

 空から翼を持つ悪魔(ハルピュイア)が舞い降り、地を揺るがす巨人族が突撃してきた。

 「退くな!」

 イグノールが聖剣を振り上げ、舞い降りた悪魔を光で撃ち抜く。

 バルドスは巨人の棍棒を正確に受け止め、その勢いを殺す。

 その隙をクローディアが連撃で急所を突く。

 火花が散り、足元の大地が陥没した。

「メリエラ、今だ!」

「氷の刃よ、敵を射抜け。『氷の雨アイス・レイン』」

 クローディアの叫びに応じ、メリエラが氷の短槍を雨のように降らせ、巨体を射抜いた。


 バルドスは倒れかけた兵士を庇って再び盾を構える。

 私は上空から後衛に迫る魔物の群れを様々な属性の魔弾で撃ち払った。


 三日三晩、荒野には血と灰が降り積もり、兵も勇者も徐々に疲弊していった。

 それでもエレノーラ様の手厚い加護を受け、一歩ずつ、我々は進軍を続けた。


 そして、遠方に先行していた方面軍の旗が見えた瞬間、兵士たちは歓声を上げた。

 「合流できるぞ!」

 イグノールは聖剣を掲げて叫ぶ。

 兵士たちはその声に呼応し、雄叫びを上げ士気を高めた。

 私はその大音響を背に受けながら、深い息を吐いた。


 仲間たちが道を切り拓き、兵たちが血を流して繋いだ三日間。

 兵たちは歓声を上げ、安堵と達成感に沸く。


 だが私の胸中には、判然としない思いがくすぶっていた。


 合流した四つの方面軍は、そのまま前進し、魔王軍を撃破しながら前線を押し進めていった。

 夕方を過ぎると、我々国軍は約三キロ前進することに成功したのだった。

 魔王軍との戦闘に、一筋の光と終わりが見え始め、兵士たちの士気が高まっていた。


◆◆◆


 その夜、全軍に魔導士を介し、国王クラヴェール五世の肉声がテレパスで流れた。

「勇敢なる兵たちよ、よくぞ三日の戦に耐えた。これ以上の犠牲は不要だ。儂は今この時を以て、全軍の撤退を命ずる」

 威厳と慈悲に満ちた声が軍全体の脳内に響く。


 将軍たちは突然の決定に驚いた。

 だが、兵士たちの目には安堵が広がり、歓声が起こった。

 これ以上の苦しい戦いが取り除かれることが担保された瞬間だったからだ。

「なお、勇者一行はこのまま進軍を続け、魔王討伐という使命を果たしてくれたまえ」

 イグノールたちはその言葉に驚くが、“使命”という言葉を聞き、心を新たにする。

「無駄死にはしない」

「勇者に未来を託すのだ」

 戦場はむしろ希望に包まれていく。


 仲間の顔に決意の光が宿るのを見ながら、私はただ一人、胸の奥で冷たい疑念を強くした。

 ――魔王軍の勢いは衰えていた。

 ――勝機が見え始めていた。

 それなのに、なぜ今退けというのか。

 さらに、撤退命令が下る直前、魔王軍の気配が一気に後退するのを感じ取っていた。

 まるで、互いに示し合わせていたかのように。

「……通じている?」

 背筋を冷たいものが走る。

 慈悲深き采配に見えて、実際は勝ち筋を潰し、勇者一行を孤立させる命令。

 私の胸に芽生えた疑念は、もはや消せない炎となっていた……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...