冴えない社畜、異世界で最凶聖女に地獄指導されて魔王軍に挑む

ワスレナ

文字の大きさ
9 / 62

第9話 聖属性と回復魔法

しおりを挟む
 翌朝、すっきりとした気分で目が覚めた。支度したくを整え朝食をませた後、昨日の中広間で講義の続きが始まる。

「では、魔法の講義を始めましょうか」

「はい、お願いします」

「今日は私の専門分野、聖属性魔法について伝授いたします。聖属性は神々のエネルギーを媒介とするものです。主に回復系、浄化系、加護系、その他といった用途で用いられます」

 エレノーラの説明によると、聖魔法は神官や修道士、聖女などの職に就く人々によって管理されてきたそうだ。各国ごとに魔法の分野に特長があり、国家にとっての貴重な資産なのだという。

「これを先にお渡ししておきますね」

 エレノーラは白い少し厚い本を出して私に手渡す。

「これは?」

「聖魔法を記した魔導書です。主だったものはそこに網羅もうらされています」

 「なるほど。ありがとうございます」

 私は本を開き中を見てみた。ページをめくると魔法名と呪文、効果などが記されている。

「こんなにたくさんの魔法があるんですね」

 不思議と文字や単語は頭の中ではっきり理解できる。私は感心しながらページをめくる。

「そうですね。それらをすべて覚えていただきますわ」

「これ全部ですか!」

 見るからに複雑なものも含まれているうえ、相当な量だ。覚えられるだろうか。

「ええ。それだけではありません。さらに何冊かありますので、それも覚えてもらいますよ」

「ええ! まだあるの!?」

 これはさすがに参った。こんな膨大な量を一気に覚えられるはずがない。前途多難になってきた。

「そうですね。このくらいはしてもらいますよ」

 エレノーラが腕組みしながら答える。何か彼女が鬼に見えてきた。

「やれる気はしませんが、覚えるしかないんですね」

「ええ。覚えてもらいますよ」

「はい……」

 私はなかばあきらめつつ、無意識にインベントリを呼び出し魔導書を収納する。その瞬間、頭の中に一気に違和感が広がった!

「うおおおおお!!!」

 膨大な知識が頭の中に流れ込み、すみずみまでけ回ったのちに集約されていった。今までにはない不思議な感覚だった。

「ハァ、ハァ、ハァ、何なんだこの感覚……」

 翻弄ほんろうされてしまい息が乱れるが、少しして元に戻った。ほんの十数秒間の出来事。一体何が起こったんだ!?

「どうかしましたか? かなり息が上がっていましたが」 

 私の違和感を感じ取りエレノーラがたずねる。

「あ、いえ。大丈夫です」

 大丈夫ではないのだが思わず取りつくろってしまった。

「そうですか、様子が変わったので何かあったのかと。念のため応急処置をしましょうか」

 エレノーラは私にヒールをかけてくれる。状態は良くなった。

「ではそろそろ参りましょうか」

 不意にエレノーラから言われてあせる。

「え? どこか行くんですか?」

「はい、今から行きますよ」

「わ、わかりました」

 私に確認してから、エレノーラが詠唱の構えを取る。

「では移動しますね。テレポート」

 魔法が発動すると、それまでいた景色が消え、人気ひとけの多い場所へと転移した。

「ここは?」

「修道院の中にある治療院です。負傷した人や病気で治療中の人々が集まる場所です。ここで魔法を見てもらい、実践してもらいます」

 患者とおぼしき人々がたくさん集まっている。修道女達が慌ただしく動き回っている。その中に患者に魔法をほどこす修道女を見つける。

「ちょうど今ヒールで治療しているところですね」

 患者が負った傷がヒールによってみるみるふさがっていく。

「なるほど。これはすごい」

 傷が治り回復した患者は感謝して治療院を後にする。そんな姿に違和感を感じる。

「彼らからは代金をもらっているのですか?」

「ええ。そんな高額ではありませんがね。お布施ふせ程度ですね」

「それだと経営が苦しいのでは?」

「毎月国から一定の援助が出ていますね」

 そうなのか。何か魔法とは関係ないことを聞いてしまった。エレノーラがベッドで横たわる患者の前に向かう。

「こんにちは、お加減はいかがですか?」

 今日新たに運ばれてきた急患のようである。苦しんでいて返事どころでは無さそうだ。

「では始めましょうか。見ていてくださいね」

 エレノーラはそう言うと、患者に手をかざして詠唱する。

「キュア。ハイヒール」

 術が発動して光が患者を包む。苦しんでいる患者の顔の血色がみるみるよくなり、うめき声が消える。穏やかな顔つきになり、目に光が戻ってくる。

「もう心配ありませんよ。少し休んだら帰ってかまいません」

「おお! 痛みがなくなった! 神の御業みわざじゃ。ありがたや」

 すっかり完治した初老の男性はエレノーラに深く感謝している。なるほど、これが回復魔法か。

「さて、ではタクトにもやってもらいますね。それでは……」

 エレノーラはあたりを見回す。とその時隣のベッドで寝ている男性が急に咳込せきこみだす。

「ああ、この方がいいですね」

 男性の近くまで行くと私に言う。

「タクト、この方にヒールをかけてあげてください」

 私は一瞬戸惑うが、観念してエレノーラのそばへ行く。苦しむ患者を前にしてもどう対応したらいいかわからず緊張がこみ上げる。

「さあ、やってみてください。教えた通りにやれば大丈夫ですよ」

 エレノーラの催促さいそくあらがうこともできず、やってみることにする。患者に対して手をかざす。

「ええい、ままよ! ヒール!」

 詠唱すると突然魔法が発動する。信じられない光景が広がる。緑の光が患者を包み込み、一気に回復していく。せきは消え、男性の体に生気がみなぎる。

 「おお! どうやらヒールだけで病気まで直してしまったようですね」 

 患者の様子にエレノーラが驚く。男性は自分の体の変化を確認してから、私に喜びを伝えてくる。

「ありがとう! 苦しいのが取れた。もう大丈夫だ。君、すごいね」

「いいえ、お役に立ててよかったです」

 私は少し照れ笑いしながら返す。私自身まだ起こったことが信じられなかった。だが不思議とできたことには違和感を感じていない。

「素晴らしいですね。では次の魔法に移りましょう」

 その後もエレノーラとともに様々な状態の患者に聖魔法をかけていった。 

 やがて治療院の患者達が元気になり、私達は中広間に戻って魔法習得の続きを行った。エレノーラの導きで私は次々と魔法を習得していった。

 魔導書をインベントリに収納してから何かが変わった。その後魔法の発動に困ることはなかった。

 昼食をはさんでエレノーラの指導は続き、相当な数の聖魔法を実践していった。気づけば夕暮れになっていた。

「では今日はここまでにしましょう。あとは自習しておいてくださいね。お疲れ様でした」

「ありがとうございました。エレノーラ様」

 エレノーラの付きっ切りの指導に私はいつしか敬称をつけるようになっていた。

「どういたしまして。食事をってからゆっくり休んでくださいね」

「はい。あ、そうだ。エレノーラ様」

「何でしょう」

「お願いがありまして、残りの聖属性の魔導書をお借りできますか?」

「いいですよ。殊勝しゅしょうなことですね」

「ありがとうございます」

 エレノーラ様は魔導書を数冊出し、私に貸してくれた。彼女は食事をしに中広間を後にする。私は本を両手で持ち部屋に持ち込むことにする。

 疲労感を感じつつも、様々な体験のわりに思ったほどではないことに少し驚いている。私は部屋に戻り、魔導書の収納と夕食をることにした。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「面白いかも!」「続きが読みたい!」「陰ながら応援してるよ!」

ほんの少しでもそう思ってくれた方は、下にある【♡】【エールボタン】をポチッと押すのと、【お気に入り】をしていただけたら嬉しいです!
作者の励みになり、何よりの執筆のモチベーションになります!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

処理中です...