【獣人×人間BL】いつか君の名前を呼ぶ獣声

紺色 紺ノ輔

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10・なんてったって演出家

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「本間部長、脚本の潤色許可おりたぞー!」
「本当ですか! わー、良かったぁ……虎先、ありがとうございます!」
「なんの、顧問の仕事をしただけさ。それよりお前の脚本改編力にビックリしたぜ。まるで違和感がない」
「まあ、役柄の改編だけですからね、これくらいならなんとでも」
「はは、そうかそうか。なんにしろ、頑張って演出していけよー!」

 潤色、とは。
 既存の脚本に改編を行うことを指す。
 この、改編脚本を上演していいかどうかを、著作権元に内容ごと確認を取り、許可が下りればめでたく大会で上演できる、というのが基本的な流れだ。
 季節は六月。テストがあったから、その前にと大急ぎで脚本を改編。虎先に問い合わせを任せて、俺たちは練習を始めていた。
 高校演劇の改編というのは、十中八九通るから大丈夫だと、虎先は言ってくれていたけれど、
 やっぱり、結果が出るまでは不安だったから、とにかくほっとした。

「皆、おはようございます。無事、脚本の許可を頂きました! 憂いはなくなったので、こっからもっと全力で頑張っていこう!」
「わ、やった!」
「一安心だね、本間君」
「絆先輩も良かったっすね! あ、ええと……ほい、先輩!」
「う? う! がうがぁ!!」
「よしよし。そうしたら、今一度役割の確認をしようか」

 俺は、机に座る皆の前で、黒板に今回の役割を書き出していく。役者の本決め、裏方の本決めだ。
 まず、演出家。これは俺だ。
 次に役者。慣れないチョークで、順番に書き出す。
 メインのグレーテル。これは二年生人間女子『加茂 環』
 メインその二のヘンゼル。これは一年生人間男子『弐瓶 祐平』
 白雪姫の魔女。これは二年生人間女子『花田 静香(はなだ しずか)』
 長靴をはいた猫の姿で現れる本の作者。これは一年生猫獣人女子『茂野 瑞穂(しげの みずほ)』
 赤ずきんの狼。これは二年生犬獣人『紲 一絆』
 赤ずきんの狩人。これは……俺だ。
 うん。今回は、役者と演出を兼任させてもらうことにした。結構な無茶に思えるかもしれないが、高校演劇ではよくあることだ。
 それに、一絆君の演技を演出したいって気持ちもあるけれど、それと同じくらい隣でサポートもしたい気持ちがあった。
 だから、いつもより倍頑張る!
 さておき、役者は以上。続いて裏方だ。
 照明。二年生兎獣人女子『棚橋 恵(たなはし めぐみ)』と一年生人間女子『土田 萌(つちだ もえ)』の二人。
 音響。二年生人間女子『水倉 梢(みずくら こずえ)』と一年生人間女子『伝川 愛花(つたがわ あいか)』の二人。
 大道具、小道具。二年生猪獣人男子『小川 浩平(おがわこうへい)』一人。それと、顧問の『虎柄 彼方』先生だ。男二人、手先の器用なコンビだ。
 衣装。これは照明の『棚橋 恵』が兼任する。それと、副顧問の人間女性家庭科教師『加藤 加世子(かとう かよこ)』先生が全面バックアップしてくれる。
 メイク。これは音響の『水倉 梢』と副顧問の『加藤 加世子』先生が兼任。
 後は細かいところで『小川 浩平』に頑張ってもらう。俺が忙しいときの副演出と、今回演目が本の中であるので、黒子を役として採用し、セットの移動を本番でしてもらったりもすることになった。
 それと、元部員の三年生。時間があるときにアドバイスをしてくれたり、裏方の手伝いをしてくれるようだ。いやはや、ありがたい限りである。
 部員十一人と先生二人、さらには先輩方。全員全部全力投入の布陣だ。

「これで、本決めだ。なにか意見のある人はいる?」
「大丈夫です」
「意義なーし」
「がうがーう」
「う、うまくできるかなぁ」
「大丈夫、皆で頑張ろう!」

 うん、大丈夫そう。一絆君もやる気満々。
 これは、随分と楽しくなりそうだ……先輩に引っ張ってもらっていた去年とは違い、今度は俺らが引っ張る側だ。気合い入れなきゃな。

「よし。じゃあ演出さん、意気込みいってみようか! 本格始動の第一歩だ、気の利いたコメントを頼むぜ!」
「む……わ、わかりました」

 むう。虎先も楽しそうだ。
 コメント、コメントなぁ……よし。

「ええ、では。今回演出を担当する本間です。去年で、先輩と共に演出のなんたるかを学んできたので、今回も皆さんの活動を円滑にできますよう、頑張っていく所存です。しかし、今回は役者を兼任すると言うことで、皆さんの力をいつも以上に借りることになると思いますが、どうかご了承、そしてご協力をお願いします」

 むむむ。なんだか弱腰気味なコメントになってしまう……こうじゃない。去年の先輩は、もっとこう、盛り上げる感じだった。
 だから……

「まあでも、俺はなんも心配していません! だってほら、二年生は優秀! 一年生も器用で良い人ばかり! 先生は全面協力! こんないい環境、滅多にないんじゃないかなって思うから。そんな皆さんに、演出、それに脚本の決定権を頂けたこと、光栄に思っています」

 ん、いい感じだ。皆の視線が、逆に俺を高揚させていく。皆もわくわくしているのがわかるからだ。
 それに、一絆君。
 君のための舞台、そのとっかかりをつかんだのだ。
 絶対に、放してなるものか。

「それに、一絆君。言葉を話せない彼と作る演劇は、今までにないような充実したものになると確信しています。皆がそれに協力してくれること……俺は、それがとても嬉しい!」

 一絆君の横で、虎先が俺の言葉を文字にして彼に伝えてくれている。だから、今は俺の声が、言葉が彼に届いている。
 いってしまえばその逆に、俺は挑戦してみたいんだ。
 彼の、言葉無き声を、俺の演出で可視化して、見ている人に届けたいんだ。
 できるかな、って不安に思うよりも、
 やってやる、って決意で胸がいっぱいなんだ。

「皆で、最高の劇を作っていこう! 俺は、そのために全力を尽くします。どうぞ、よろしくお願いします!」

 なってったって演出家。
 やってやれないことはない。
 皆が協力してくれるなら、
 不可能なんてないんだから!
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