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番外編
風紀委員長の話
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あんな奴を友人だと思っていたのが、俺の人生最大の汚点だ。
思えば出会った頃から気に入らない奴だと思っていた。
人なんか信じていない、お前らに頼らずとも俺一人で出来る。そうやって人を寄せつけないようにしているのがすぐに分かる。
周囲から媚びを売られ続け、何が本音で何が偽りなのか分からない。そんな姿が、どこか俺と重なって見えた。
役柄もあってか、春とは嫌でも会話する機会があった。
そんな時、春は何とか話す話題を必死に考え、結局何も思い浮かばないままぎこちなく話しかけてくる。その様子があまりにも可笑しくて、気が緩んだ。
なんだ、可愛いところもあるじゃないか。
そう口に出すとコイツは茹で蛸のように真っ赤に顔を染めて目を見開いた。
それも面白くて面白くて。自然と話す機会が増える。
かなり打ち解けていった頃、会わなくとも話せるようにと俺から連絡先を交換しようと持ちかけた。
春は嬉しそうにスマホを両手で握りしめながら、「家族以外にスマホの電話番号を交換したのなんて、はじめてだ…」と浮かれた様子だ。まさかそこまで喜ばれるとは思っておらず、こちらまで照れてくる。
春と話す時間は楽しかった、立場を気にせず対等に言い合える相手が出来るなんて思ってもみなかったからだ。
仕事の終わりや休憩時間に、嬉しそうに訪ねてきたり、電話をかけてくる春に対して可愛らしいとすら感じていた。
しかし、最近はそんな春が不快で仕方なかった。
媚びを売ってくる奴等の中には、俺に好意を向けてくる奴も多く居た。
気持ち悪いあの媚びた目で見つめてくる奴等と似たような目を、時折春が向けてきたのだ。
お前まで俺にそんな感情を向けるのか、お前まで俺に…。
きっと春は何も悪くないなんてことは分かっている。分かっているけれど、その目がどうにもあの媚びた目と重なる。
気分が悪い。そう思い始めると止まらなかった。
ーーー
それから少し経ち、季節外れの転校生が学園にやって来た。
ソイツは俺に臆さずに面と向かって堂々と話しかけてきた。
その目に恋愛感情は無い。あわよくば懐に入ろうとする奴等の目もしていない。
やましい感情一つ無く、俺に向かってきた。
俺が転校生を気に入るのに時間はかからなかった。
そうなれば必然的に春に会わなくなる。春自身も俺に会いに来ることがぱったりと無くなった。
副会長達も仕事をせずに転校生に構い倒しているようだ。
俺も同様に、与えられた書類は放ったらかしにしてしまっている。
しかし何故だ、廊下を歩けば大抵すれ違う筈の春と全く出会わない。
転校生を気にかけていても、やはり気になってしまった。
まぁ、今はあまり会いたくもないが。
ーーー
生徒会室で会長がよからぬ事をしているという話を耳にした時、俺は視界が真っ赤に染まる程の怒りを感じた。
生徒会室に閉じこもって、親衛隊や生徒達と淫らな行為を行っているとは。
貞操観念の低いような、俺が最も嫌っている人間に成り下がったのか。
俺にあんな目を向けていた癖に、誰彼構わないとでも言うのか。
信じられない、あぁ、すっかり騙された。
いかにも俺が好きだと全身で伝えてきたようなお前が、実は最悪の下衆同然だったなんて。
生徒会の役員共が仕事をしてないのは、転校生だけでなくそれも原因なのか。
なら、丁度いい。転校生を生徒会長に推薦すれば、必然的に春は生徒会室から消え、生徒会の奴らも仕事をするようになるだろう。俺もその方が断然捗る。もうあんなクズと顔を合わせずに済む。
…悪いのは全て春だ。俺を騙し、仕事を滞らせ学園の癌となったんだ。
排除するのは風紀の務め。何も間違っちゃいない。俺は、何も間違ってないんだ。真実を確かめようともせず、そう思い込んでいた。
ーーー
計画は驚くほど順調で、式を終えた俺はあまりの呆気なさに拍子抜けする。
釈然としない。断罪したにも関わらず苛立ちはまだ胸に残っていた。
春に直接手を下し、どん底に落としやりたい、絶望させてやりたい。
そして後悔すればいい。俺の心をかき乱して弄んだ当然の罰だ。
お前のその好意の含んだ目は、不特定多数の奴等にも同じように向けていたものだったのだから。
だからこちらからも思い知らせてやる、俺はお前なんてもう求めていないんだと。
春の部屋の扉を乱暴に叩けば、アイツはドアチェーンをかけたままほんの少し扉を開きこちらを覗き見てくる。
「り、涼介…?何か用か?」
声が震えている。上手く隠しているつもりなのだろうか。しかし、どうしてだか声色がほんのりと喜びをはらんでいた。
お前なんかに心を許していたのが俺の中の最大の汚点だ。そう言ってやれば春の声は驚く程に震え、涙を堪えながら必死に言い返してくる。
気に食わない。もっと無様に泣き喚いて、絶望すればいい。
「もう、俺に近づくな。それだけだ。」
そう言い立ち去ろうとした瞬間、春はドアチェーンを外し乱暴に扉を開き俺の腕を掴んできた。
「い、やだ……ッッいやだ!涼介!!涼介待ってくれ、待って!!」
面白いぐらいに涙を溢れさせ、必死に身の潔白を訴えてくる。
この男はこの期に及んで、俺を懐柔しようとしてきている。
冷めかけていた怒りが再び膨れ上がり、春を振りほどき腹部を蹴り飛ばした。
その後の記憶は曖昧だ。壁にぐったりともたれかかったままの春に背を向け自室へと戻った。
ーーー
それから数日で転校生が生徒会長の後を本格的に継いだ。
その後騒動から一月程経てば学園は落ち着きを取り戻し、春がいなくなったことで通常通り使用できるようになった生徒会室で副会長達は何処か生気が抜けた様子だが黙々と仕事に取り組んでいる。
特に副会長は今までのことが嘘だったかのように転校生に構いきりにはならなくなり、Fクラスの校舎へよく足を運んでは意気消沈とした様子で帰ってくる。
「わ、私の、私のせいで…は、…春さんは、…?どこに…、校舎外に…いや、ありえない、まさか、Fクラスの寮に、いや、教室に…?
閉じ込められているんじゃ、まさか、まさか…、でも、淫乱だって噂を流したのは、私で…今の春さんは、なにをされても、助けなんて……。」
「………は、?」
顔をここ最近ずっと青褪めさせている副会長の呟きに思わず耳を疑う。
思わず肩に掴みかかり強く揺さぶった。
「オイ、噂を流したってどういうことだ!?」
「は、はぁ…!?貴方まさか、信じてたんです!?、わ、私が、元会長を、孤立させる為に、流した…う、噂のことですよ…」
それを聞いた瞬間、頭から血の気がサッと引いていく。
噂…?何を言っているんだ?事実だろう。
春は下衆で生徒会室を私物化してヤリ部屋にするような、貞操観念もクソもない奴なんだろう。
でないと俺は、根も葉もない嘘にまんまと騙されたことになる。違う、違う、全て春が悪いはずだ、春が…。
「そ、そうだ、元からこんな計画じゃ…傷ついた春さんが私を頼ってくるはずだったのに、も、元はと言えば、あぁあ貴方がっ、春さんを奪ったせいで…、」
「奪ったぁ!??てめぇさっきからワケわかんねえこと言ってんじゃねえぞ!」
苛立ちのあまり胸ぐらを掴み突き飛ばせば、副会長は地面に叩きつけられ咳き込む。
「は、春さんが乱行なんて、してるはずないでしょう!?は、はははっ、なんなら私達の分まで、ずっと仕事してましたよ…、生徒会室にこもりっきりで、だから噂を流すには本当に都合が良かった…。」
「こ、孤立した春さんはね、私にこう言うはずだったんです…!『慎也、助けてくれ…』って!可哀想なくらい弱った彼に私だけが手を差し伸べて、そのまま卒業まで私が大切に大切に守って差し上げるんです…!なのに、なのになのに、何も言わないまま消えてしまったなんて!!」
ーーー
終わりです。既に投稿した気になって放置していたブツです。
しつこく春に電話してるのは勿論風紀委員長さんですが、最終話にもある通りそのうち電源を切られますし、もう春にはスマホなんて必要ないと思うので、天野さんに勝手に解約されちゃうんじゃないですかね…という。
思えば出会った頃から気に入らない奴だと思っていた。
人なんか信じていない、お前らに頼らずとも俺一人で出来る。そうやって人を寄せつけないようにしているのがすぐに分かる。
周囲から媚びを売られ続け、何が本音で何が偽りなのか分からない。そんな姿が、どこか俺と重なって見えた。
役柄もあってか、春とは嫌でも会話する機会があった。
そんな時、春は何とか話す話題を必死に考え、結局何も思い浮かばないままぎこちなく話しかけてくる。その様子があまりにも可笑しくて、気が緩んだ。
なんだ、可愛いところもあるじゃないか。
そう口に出すとコイツは茹で蛸のように真っ赤に顔を染めて目を見開いた。
それも面白くて面白くて。自然と話す機会が増える。
かなり打ち解けていった頃、会わなくとも話せるようにと俺から連絡先を交換しようと持ちかけた。
春は嬉しそうにスマホを両手で握りしめながら、「家族以外にスマホの電話番号を交換したのなんて、はじめてだ…」と浮かれた様子だ。まさかそこまで喜ばれるとは思っておらず、こちらまで照れてくる。
春と話す時間は楽しかった、立場を気にせず対等に言い合える相手が出来るなんて思ってもみなかったからだ。
仕事の終わりや休憩時間に、嬉しそうに訪ねてきたり、電話をかけてくる春に対して可愛らしいとすら感じていた。
しかし、最近はそんな春が不快で仕方なかった。
媚びを売ってくる奴等の中には、俺に好意を向けてくる奴も多く居た。
気持ち悪いあの媚びた目で見つめてくる奴等と似たような目を、時折春が向けてきたのだ。
お前まで俺にそんな感情を向けるのか、お前まで俺に…。
きっと春は何も悪くないなんてことは分かっている。分かっているけれど、その目がどうにもあの媚びた目と重なる。
気分が悪い。そう思い始めると止まらなかった。
ーーー
それから少し経ち、季節外れの転校生が学園にやって来た。
ソイツは俺に臆さずに面と向かって堂々と話しかけてきた。
その目に恋愛感情は無い。あわよくば懐に入ろうとする奴等の目もしていない。
やましい感情一つ無く、俺に向かってきた。
俺が転校生を気に入るのに時間はかからなかった。
そうなれば必然的に春に会わなくなる。春自身も俺に会いに来ることがぱったりと無くなった。
副会長達も仕事をせずに転校生に構い倒しているようだ。
俺も同様に、与えられた書類は放ったらかしにしてしまっている。
しかし何故だ、廊下を歩けば大抵すれ違う筈の春と全く出会わない。
転校生を気にかけていても、やはり気になってしまった。
まぁ、今はあまり会いたくもないが。
ーーー
生徒会室で会長がよからぬ事をしているという話を耳にした時、俺は視界が真っ赤に染まる程の怒りを感じた。
生徒会室に閉じこもって、親衛隊や生徒達と淫らな行為を行っているとは。
貞操観念の低いような、俺が最も嫌っている人間に成り下がったのか。
俺にあんな目を向けていた癖に、誰彼構わないとでも言うのか。
信じられない、あぁ、すっかり騙された。
いかにも俺が好きだと全身で伝えてきたようなお前が、実は最悪の下衆同然だったなんて。
生徒会の役員共が仕事をしてないのは、転校生だけでなくそれも原因なのか。
なら、丁度いい。転校生を生徒会長に推薦すれば、必然的に春は生徒会室から消え、生徒会の奴らも仕事をするようになるだろう。俺もその方が断然捗る。もうあんなクズと顔を合わせずに済む。
…悪いのは全て春だ。俺を騙し、仕事を滞らせ学園の癌となったんだ。
排除するのは風紀の務め。何も間違っちゃいない。俺は、何も間違ってないんだ。真実を確かめようともせず、そう思い込んでいた。
ーーー
計画は驚くほど順調で、式を終えた俺はあまりの呆気なさに拍子抜けする。
釈然としない。断罪したにも関わらず苛立ちはまだ胸に残っていた。
春に直接手を下し、どん底に落としやりたい、絶望させてやりたい。
そして後悔すればいい。俺の心をかき乱して弄んだ当然の罰だ。
お前のその好意の含んだ目は、不特定多数の奴等にも同じように向けていたものだったのだから。
だからこちらからも思い知らせてやる、俺はお前なんてもう求めていないんだと。
春の部屋の扉を乱暴に叩けば、アイツはドアチェーンをかけたままほんの少し扉を開きこちらを覗き見てくる。
「り、涼介…?何か用か?」
声が震えている。上手く隠しているつもりなのだろうか。しかし、どうしてだか声色がほんのりと喜びをはらんでいた。
お前なんかに心を許していたのが俺の中の最大の汚点だ。そう言ってやれば春の声は驚く程に震え、涙を堪えながら必死に言い返してくる。
気に食わない。もっと無様に泣き喚いて、絶望すればいい。
「もう、俺に近づくな。それだけだ。」
そう言い立ち去ろうとした瞬間、春はドアチェーンを外し乱暴に扉を開き俺の腕を掴んできた。
「い、やだ……ッッいやだ!涼介!!涼介待ってくれ、待って!!」
面白いぐらいに涙を溢れさせ、必死に身の潔白を訴えてくる。
この男はこの期に及んで、俺を懐柔しようとしてきている。
冷めかけていた怒りが再び膨れ上がり、春を振りほどき腹部を蹴り飛ばした。
その後の記憶は曖昧だ。壁にぐったりともたれかかったままの春に背を向け自室へと戻った。
ーーー
それから数日で転校生が生徒会長の後を本格的に継いだ。
その後騒動から一月程経てば学園は落ち着きを取り戻し、春がいなくなったことで通常通り使用できるようになった生徒会室で副会長達は何処か生気が抜けた様子だが黙々と仕事に取り組んでいる。
特に副会長は今までのことが嘘だったかのように転校生に構いきりにはならなくなり、Fクラスの校舎へよく足を運んでは意気消沈とした様子で帰ってくる。
「わ、私の、私のせいで…は、…春さんは、…?どこに…、校舎外に…いや、ありえない、まさか、Fクラスの寮に、いや、教室に…?
閉じ込められているんじゃ、まさか、まさか…、でも、淫乱だって噂を流したのは、私で…今の春さんは、なにをされても、助けなんて……。」
「………は、?」
顔をここ最近ずっと青褪めさせている副会長の呟きに思わず耳を疑う。
思わず肩に掴みかかり強く揺さぶった。
「オイ、噂を流したってどういうことだ!?」
「は、はぁ…!?貴方まさか、信じてたんです!?、わ、私が、元会長を、孤立させる為に、流した…う、噂のことですよ…」
それを聞いた瞬間、頭から血の気がサッと引いていく。
噂…?何を言っているんだ?事実だろう。
春は下衆で生徒会室を私物化してヤリ部屋にするような、貞操観念もクソもない奴なんだろう。
でないと俺は、根も葉もない嘘にまんまと騙されたことになる。違う、違う、全て春が悪いはずだ、春が…。
「そ、そうだ、元からこんな計画じゃ…傷ついた春さんが私を頼ってくるはずだったのに、も、元はと言えば、あぁあ貴方がっ、春さんを奪ったせいで…、」
「奪ったぁ!??てめぇさっきからワケわかんねえこと言ってんじゃねえぞ!」
苛立ちのあまり胸ぐらを掴み突き飛ばせば、副会長は地面に叩きつけられ咳き込む。
「は、春さんが乱行なんて、してるはずないでしょう!?は、はははっ、なんなら私達の分まで、ずっと仕事してましたよ…、生徒会室にこもりっきりで、だから噂を流すには本当に都合が良かった…。」
「こ、孤立した春さんはね、私にこう言うはずだったんです…!『慎也、助けてくれ…』って!可哀想なくらい弱った彼に私だけが手を差し伸べて、そのまま卒業まで私が大切に大切に守って差し上げるんです…!なのに、なのになのに、何も言わないまま消えてしまったなんて!!」
ーーー
終わりです。既に投稿した気になって放置していたブツです。
しつこく春に電話してるのは勿論風紀委員長さんですが、最終話にもある通りそのうち電源を切られますし、もう春にはスマホなんて必要ないと思うので、天野さんに勝手に解約されちゃうんじゃないですかね…という。
応援ありがとうございます!
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こういうのが読みたかったんです✨🙇♀️
ありがとうございます😭
こちらこそご感想ありがとうございます!
そう言っていただけてなによりです、とても嬉しいです!
ここまで読んでくださりありがとうございました!
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そう言っていただけてなによりです、とても嬉しいです!
ここまで読んでくださりありがとうございました!
番外編楽しみに待ってます️!!