聖黒の魔王

灰色キャット

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第7章・南西地域での戦い

148・猫人たちの牽制

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 ――フェーシャ視点――

「……とうとう来たのかニャ」

 待ってもいなかったけど、今ボクたちの国に侵攻してきている軍がいるニャ。
 速度を重視しているせいか総勢約4000未満といったところニャ。
 意外に少ない……と感じたのはいいけど、そこには明らかに風格が違う猫人族が一人。
 ティファリスさまからの情報によると猫人族の上位魔王がいるって話だったニャ。

 ということは……考えたくないけど、ボクの――このケルトシルの領土に上位魔王が攻めてきてるってわけニャ。
 更新速度から考えて、遭遇までおよそ三日。軍の編成を整えて戦場を移す予定だからもう少し早いかニャ。
 でも、今一番切羽詰まってるのは――

「フェーシャ王、馬鹿なことはやめたほうがいいかしにゃ。数ではこっちが明らか有利でも、質が違いすぎるかしにゃ」
「……むやみに兵を殺すような真似、すべきじゃないにゃあ」

 これだニャ。
 エシカとファガトがしきりにボクに投降するように呼びかけてくるもんだから困ってるのニャ。
 今更――というか南西地域の中でもリーティアスに一番近い位置してるのニャ。ここでボクたちが裏切ったりしたら南西地域での立場がなくなるニャ。

 それに……例え降伏して敵の支配下に置かれたとしても、国がそのままである保障はどこにもないニャ。
 下手をしたら『隷属の腕輪』で操られる……なんてことになりかねないニャ。

 諸手を上げて降伏するなんて真似、到底出来る訳がないのニャ。

「何度も言わせないで欲しいのニャ。向こうからの要求もわからない以上、敵わないからと言って何もせずにただ受け入れるということは出来ないのニャ」

 なんてことを言ったらエシカとファガトがまたにゃいのにゃいのと騒ぎ立てるもんだからもう困ったのニャ。
 本当にこの二人はなにかにつけてボクに色々と……ボクは彼らの親の仇かなにかなのかニャ?

 せめてなにか要求でもあればとも思うんだけどニャァ……。
 流石に宣戦布告もせずに相対するほど礼儀を知らない輩ではないと思いたいニャ。





 ――





「フェーシャさま、あちらの軍から使者の方がやってきましたにゃー」

 全体的にピリピリしているのに、一人だけのんびりと構えているカッフェーからそんな報告が届いてきたニャ。
 とうとう宣戦布告にきたわけかニャ。それか……降伏勧告かニャ?

「わかったニャ。応接室に来るように伝えて欲しいニャ。それとネアを呼んで一緒に来て欲しいニャ」
「わかりましたにゃー」

 流石に一人っきりで会うなんて自殺行為はするわけにはいかないのニャ。
 賢猫けんびょうの中でも戦いに優れたネアが一緒なら心強いのニャ。

 カッフェーもそこの所きちんとわかってくれているようで、すぐに呼んできてくれたニャ。
 準備と気合を整えた僕は、使者がすでに待機しているであろう応接室の扉に手をかけたニャ。

 入ったその先にいたのは……なんというかすごく強そうな風格を備えた猫人族だったニャ。
 見た目は白色に薄いグレーでボクと真逆の毛並みをしてるように見えるニャ。
 ものすごく不機嫌そうに見えるその目は、ボクの事を見つけると親の仇を見るかのような目をしていて、ものすごく怖い顔をしていたニャ。
 後ろにお付きの猫人が一人控えていて、使者というより上位魔王本人が直接赴いたみたいな感じがするニャ。
 いやぁ……まさかニャ……。

「ふん、オレを待たせるとはいい度胸にゃ。まあいいにゃ……。はじめましてと言っておくにゃ。オレはセントラルのクーデアルデで魔王として君臨している――上位魔王のガッファにゃ」

 いやー、まさかニャー、ボクはてっきり使者が来るかと思っていたのに、まさか上位魔王が乗り込んでくるんだものニャー。
 しかもボクの事を睨んでて相当怖いニャ。

「こ、こほん……ボクはケルトシルを治めてるフェーシャニャ。よろしくお願いするニャ。えっと、ガッファ王」
「……ふんっ」

 相当不機嫌そうだニャ……。というかボクはなんでよろしくとか言ってるのかニャ?
 ピリピリしてて、今ここで開戦しようかと言われかねない状態で言う言葉じゃないよニャ……。

 なんてさっきの発言を情けなく思いながら自問自答していると、ガッファ王は鋭い視線をこっちに向けてきたニャ。
 あれが攻撃だったらボクは間違いなく死んでる……そう思わせるほどの鋭さを感じるニャ。

「まず、オレの軍が今目の前まで迫っているのは知ってるにゃ?」
「は、はいニャ」

 言われるまでもない。その応対にこちらはてんてこ舞いになってたからニャ。

「このまま宣戦布告して蹂躙してやるのも良かったがにゃ……それでは要らぬ損害がでるにゃ。それはわかるにゃ?」
「わかりますニャ」
「かと言ってオレの軍とそちらの軍、平野に問わず森で戦ったとしてもまず勝敗は明確だろうにゃ」

 嬉しそうに語るガッファ王に対し、ボクは何も言うことができず、ただ肯定するだけの装置のように頷いていたニャ。
 実際向こうの軍の練度がどの程度かわからない上、相手は上位魔王。ボク達の軍をこの方一人で圧倒できる力を持っていてもなんらおかしくないニャ。

 というか、妙にまどろっこしい言い方をするニャ。
 まるで選択肢を一つ一つ潰されていっているかのようニャ。
 ボク側としても正論で語られてることが多い以上、下手なことが言えないから尚更それに拍車をかけてるニャ。

「……なにが言いたいのニャ?」
「……ふっ、話がわからないのかにゃ? お前とそこの猫人族の首、家族まるごと差し出すにゃ」

 馬鹿にしたように笑った後、ボクとカッフェーを顎でくいっくいっと示してきたニャ。
 ……大体予想は付いてたけど、やっぱりボクら二人なのかニャ。

「それは、カッフェーがそちら側の魔王の血に連なる者だからかニャ?」
「……ほう、知ってたのかにゃ」

 ボクを少し見直したと言うかのように笑みを深めているガッファ王。
 だけど、彼は少し思い違いをしてるニャ。
 それは――本当はじゃないってことニャ。

「当たり前ニャ。ボクはこれでもケルトシルの魔王。一番の家臣の素性ぐらい知ってて当然なのニャ」
「だったら話は早いにゃ。魔王であるお前と、そこの面汚し一族郎党皆殺しにさせてくれにゃ。それで許してやるにゃ」

 ふふん、とボクを舐めるように見ているけど答えは――

「お断りみゃ」
「――ニャ?」

 え? と言った顔でボクがネアの方を見てみると、そこにはキリッとした表情をしてるネアの姿が。
 これはまずいと思ってガッファ王の方を振り返ったけど、こっちはこっちで興味津々といった表情を浮かべていて、思わずカッフェーと一緒に顔を見合わせる事になってしまったニャ。

「ほう、お断り……かにゃ。そこのぼんくら魔王を差し置いて随分と言うのにゃ」
「ぼ、ぼんくら……」

 あんまりの言いようにうなだれてしまうボクのことなんてもう一切放置でネアとガッファ王は睨み合うように視線をぶつけていたニャ。

「お二人はケルトシルでも大切なお方ですみゃ。それをはいそうですかと言って素直に差し出せるほど、安い首じゃないみゃ」
「くっくくくくっ……」

 普通君がそこまで言うかニャ? はらはらしながら二人の行方を見守る――って魔王はボクなんだけどニャ……。

「面白い面白いにゃ。オレもまさかこの南西地域でそこまで物を申せる猫人族がいるとはにゃぁ……。
 くっくくくっ、いい部下をもったにゃ。フェーシャ」
「あ、はいですニャ」

 まさかこっちにまで振ってくるとは思わなかったから思わず速攻で返してしまったニャ……。
 でも満足そうで良かったニャ。これなら、まずこの場で仕掛てくるとは考えづらいニャ。

「なら……どうだにゃ? オレとお前ら……2対1で戦う、というは? 安い首、ではないのだろうからにゃ」

 妙に意味ありげに笑いながらボクとカッフェーに視線を向けてきたガッファ王の姿を見て、ボクはなんとなく悟ったニャ。
 彼はきっと、ただ単にボク達の生命が欲しい訳じゃないニャ。きっと、戦って、ボク達に負けを認めさせて、その上で命を奪う……この行為に意味があるのだと思うニャ。
 じゃなかったらこうもあっさりと手のひらを返すわけないのニャ。

「それは――」
「――わかったニャ」
「フェーシャ様……」

 ネアが何かを言う前にボクがガッファ王に返事をしたニャ。
 多分、彼女はまたそれを拒否しようとしたんだろうニャ。信じられないといったように目を見開いていることから一目瞭然ニャ。
 でも、これは拒否してはいけない……そう思わせる凄みをガッファ王の目から感じたニャ。

「ボクも魔王ニャ。正直、二人がかりでもガッファ王に勝てるなんて思わないけど……それでも、ここで受けなかったらどうなるかぐらいはわかってるつもりだニャ」
「……ならいいにゃ。良い返事が聞けてよかったにゃ。オレも余計な手間を取らずに済んだ、というわけにゃ」

 喜色満面っていう言葉がよく似合いそうな様子のガッファ王は、そのまま立ち上がって護衛と一緒に立ち去ろうとして――ふと思い出したかのように頭だけこちらに向けてその目をスゥっと細めてボクを見てきたニャ。

「そうそう、別に軍も来てもいいにゃ。その方がそっちも安心できるだろうし、観戦客は多いほどがいいからにゃあ」

 何人連れてきても敵ではないと、自身が必ず勝つ――そういう風に言ってるように見えたニャ。心底愉快そうにして、セントラルの上位魔王は、帰っていったニャ。
 しかも彼をいあいち信用できないというボクの心を見透かすような言葉を残して、ニャ。

「フェーシャさま」
「わかってるニャ。……わかってるニャ」

 ようやく帰ったガッファ王のいた場所を見ながら、ボクはため息を一つ付くのであったニャ――。
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