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127・遅れた観光
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着替えを終えた私は、リュネーとレイアと一緒に朝食を摂って、宿の外に繰り出した。
ガンドルグの王都ビーマテスは、中央に大きな闘技場が建てられていて、それを軸に上の方だけ歪になった丸のように広がっているらしい。
露店で売られていた地図付きのガイドブックを広げると、商業区や住宅区と分かれているのがわかる。貴族区の方に城が建てられていて、そこが大きく土地を取っているから、少し形が歪なんだとか。
住宅区には町の人達の家が中心的に建っているそうで、あまり私達のような別の国の人向けの施設は少ない……と書いていた。
私達が今いる場所は丁度商業区のところで、観光客用といった感じの場所で、数多くの店が開いている。魔王祭に選ばれるのは、大体ここかティリアースか妖精族の国フェリシューアの内のどこかだから、自然と観光業が発展していったらしい。
「それで、まずは……」
「アクセサリーとか魔導具とかかなぁ」
女子三人が集まった割には無難なところと、あまり色気の無いところが候補に上がったなぁ……なんて思いながら、それも仕方ないかとため息を吐くことにした。
今回はプライベートな旅行じゃなくて、学園主催の魔王祭を見学する修学旅行みたいなものだ。当然、まだ行くべき場所と日程が残っているのだから、嵩張るような物は買うわけにはいかない。
わざわざワイバーン便やラントルオ便で荷物を送っていたら手続きも面倒だし、後で自分達が困る事が目に見ているからだ。
なら、残ったのは……そんなに嵩張らない小物か、食べ物。それか多少動くのに不便なのを覚悟して、珍しい魔導具って感じなんだろう。
「昨日は二人とも、どこに行ってたの?」
「私は本を見に行ってたよ。あまり面白いのはなかったけど、絵本とかはいっぱいあったよ」
「私は……その、部屋でのんびりしてました」
リュネーは一人でも楽しんでいたみたいだけど、レイアの方は少し影を帯びた表情を浮かべているところから、人見知りが発動したんだな……と察する事ができた。
その場にいるのは平気なのに、話しかけられるのは苦手。なんとかしてあげたいけれど……こればかりは自分で解決するしかない。
外的要因なら、幾らでも取り除いてあげられるんだけどね……。
「それじゃあ……まずは、名所でも見に行きましょうか」
「ビアティグ王像のところですか?」
自分で口にして、それは微妙だなぁ……なんて思ってしまった。
初代魔王様の逸話の一つに南央戦争と呼ばれている戦争があって、ビアティグ王はそこでフェアシュリーの女王アストゥの救援を送るまで、必死に持ち堪えた話が有名だ。
その後も雄々しく戦った彼を崇めたてる為に作られたのがその像……なんだけれど、私達はそれよりもすごい英雄を知っているし、ティリアースでは、ビアティグ王の扱いは微妙だから、どうしても見ておきたい! という感じではなかった。
かと言って、闘技場は昨日見たし、王城に行くのは流石に不味い。
海羊や巨大猪の牧場も、流石に王都には存在しない。明日は魔王祭の最終予選があるから行くわけにもいかないし……。
「名所と呼べるような場所といえば、グルムガンド城くらいね」
今のグランガルド城が建つ前に使用されていた城の事で、ビアティグ王の時代に使われていた城の事。現王が大切に保管しているおかげで、多少の経年劣化はあるけれど、比較的保存状態がいい城だ。
確かにあれなら、すぐに見ることも出来るし、良い土産話にもなる。
「多分、ドラグニカに行った時に色あせちゃうと……思うんだけど……」
相変わらず少し自信なさげなレイアの発言に、私は深く頷くことしか出来なかった。
ドラグニカのエンドラル学園がある町は、ワイバーンなどの空を飛ぶ事が出来る生物しか行く事の出来ない陸の孤島で、澄んだ青空が、まるで海のように見えるらしい。
確かにそれらに比べたら、他に根付くグルムガンド城は見劣りしてしまうかもしれない。だけど――
「レイア。肝心なのは『どこに行ったか』じゃなくて『誰と行ったか』だと思うの。例え、グルムガンド城が見劣りするとしても、私達三人の思い出が色あせる事はない。ずっと鮮やかなままで、記憶に残り続けてくれるわ」
「……ティアちゃん」
我ながら恥ずかしい台詞を言ったな……なんて思ったけれど、二人が感動しているような表情をしていたから、まあいいか。
「それじゃ、まずはグルムガンド城に行こう! その後は美味しいものを食べて、魔導具を見に行こう」
「うん、賛成」
リュネーがまとめ上げてくれたおかげで、今日の大体の予定が決まった。せっかく自由行動を手にしたのだから、存分に楽しまないと損というものだ。
ティリアースでお留守番中の、ジュールの為にもね。
「さ、早く行きましょう」
地図を片手に三人でビアティグ王が住んでいたグルムガンド城を見て、商業区の方で昼食を摂って、軽くウィンドウショッピングを楽しんで……最初のごたごたを含めて、結構充実した一日にする事ができた。
そこにジュールがいなかったのは可愛そうだったけれど……彼女の分まで、出来る限り楽しんでおこう。
ガンドルグの王都ビーマテスは、中央に大きな闘技場が建てられていて、それを軸に上の方だけ歪になった丸のように広がっているらしい。
露店で売られていた地図付きのガイドブックを広げると、商業区や住宅区と分かれているのがわかる。貴族区の方に城が建てられていて、そこが大きく土地を取っているから、少し形が歪なんだとか。
住宅区には町の人達の家が中心的に建っているそうで、あまり私達のような別の国の人向けの施設は少ない……と書いていた。
私達が今いる場所は丁度商業区のところで、観光客用といった感じの場所で、数多くの店が開いている。魔王祭に選ばれるのは、大体ここかティリアースか妖精族の国フェリシューアの内のどこかだから、自然と観光業が発展していったらしい。
「それで、まずは……」
「アクセサリーとか魔導具とかかなぁ」
女子三人が集まった割には無難なところと、あまり色気の無いところが候補に上がったなぁ……なんて思いながら、それも仕方ないかとため息を吐くことにした。
今回はプライベートな旅行じゃなくて、学園主催の魔王祭を見学する修学旅行みたいなものだ。当然、まだ行くべき場所と日程が残っているのだから、嵩張るような物は買うわけにはいかない。
わざわざワイバーン便やラントルオ便で荷物を送っていたら手続きも面倒だし、後で自分達が困る事が目に見ているからだ。
なら、残ったのは……そんなに嵩張らない小物か、食べ物。それか多少動くのに不便なのを覚悟して、珍しい魔導具って感じなんだろう。
「昨日は二人とも、どこに行ってたの?」
「私は本を見に行ってたよ。あまり面白いのはなかったけど、絵本とかはいっぱいあったよ」
「私は……その、部屋でのんびりしてました」
リュネーは一人でも楽しんでいたみたいだけど、レイアの方は少し影を帯びた表情を浮かべているところから、人見知りが発動したんだな……と察する事ができた。
その場にいるのは平気なのに、話しかけられるのは苦手。なんとかしてあげたいけれど……こればかりは自分で解決するしかない。
外的要因なら、幾らでも取り除いてあげられるんだけどね……。
「それじゃあ……まずは、名所でも見に行きましょうか」
「ビアティグ王像のところですか?」
自分で口にして、それは微妙だなぁ……なんて思ってしまった。
初代魔王様の逸話の一つに南央戦争と呼ばれている戦争があって、ビアティグ王はそこでフェアシュリーの女王アストゥの救援を送るまで、必死に持ち堪えた話が有名だ。
その後も雄々しく戦った彼を崇めたてる為に作られたのがその像……なんだけれど、私達はそれよりもすごい英雄を知っているし、ティリアースでは、ビアティグ王の扱いは微妙だから、どうしても見ておきたい! という感じではなかった。
かと言って、闘技場は昨日見たし、王城に行くのは流石に不味い。
海羊や巨大猪の牧場も、流石に王都には存在しない。明日は魔王祭の最終予選があるから行くわけにもいかないし……。
「名所と呼べるような場所といえば、グルムガンド城くらいね」
今のグランガルド城が建つ前に使用されていた城の事で、ビアティグ王の時代に使われていた城の事。現王が大切に保管しているおかげで、多少の経年劣化はあるけれど、比較的保存状態がいい城だ。
確かにあれなら、すぐに見ることも出来るし、良い土産話にもなる。
「多分、ドラグニカに行った時に色あせちゃうと……思うんだけど……」
相変わらず少し自信なさげなレイアの発言に、私は深く頷くことしか出来なかった。
ドラグニカのエンドラル学園がある町は、ワイバーンなどの空を飛ぶ事が出来る生物しか行く事の出来ない陸の孤島で、澄んだ青空が、まるで海のように見えるらしい。
確かにそれらに比べたら、他に根付くグルムガンド城は見劣りしてしまうかもしれない。だけど――
「レイア。肝心なのは『どこに行ったか』じゃなくて『誰と行ったか』だと思うの。例え、グルムガンド城が見劣りするとしても、私達三人の思い出が色あせる事はない。ずっと鮮やかなままで、記憶に残り続けてくれるわ」
「……ティアちゃん」
我ながら恥ずかしい台詞を言ったな……なんて思ったけれど、二人が感動しているような表情をしていたから、まあいいか。
「それじゃ、まずはグルムガンド城に行こう! その後は美味しいものを食べて、魔導具を見に行こう」
「うん、賛成」
リュネーがまとめ上げてくれたおかげで、今日の大体の予定が決まった。せっかく自由行動を手にしたのだから、存分に楽しまないと損というものだ。
ティリアースでお留守番中の、ジュールの為にもね。
「さ、早く行きましょう」
地図を片手に三人でビアティグ王が住んでいたグルムガンド城を見て、商業区の方で昼食を摂って、軽くウィンドウショッピングを楽しんで……最初のごたごたを含めて、結構充実した一日にする事ができた。
そこにジュールがいなかったのは可愛そうだったけれど……彼女の分まで、出来る限り楽しんでおこう。
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