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499・走り出した者(ファリスside)
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エールティアの命でラディン公爵の名の下にシルケットへと援軍として遠征する事になったファリスは、内心憂鬱であった。
「はあ……」
シルケットへと向かう道中。ワイバーンの背で風を感じながら深いため息を吐いた彼女のそれは、後ろに付いて来ている兵士達には聞こえていないだろう。
エールティアの手前、彼女のお願いを断る気はなかった。それにご褒美も貰える事になったし、それについては何も言う事はない。むしろ出来すぎなくらいだと思っていたくらいだ。
ただ、やはりエールティアと離れるのが嫌だったのか、実際こうしてワイバーンの背に揺られている中で無性に彼女の下に帰りたくなっていったのだ。
「はぁぁぁ……」
(ああ、なんで引き受けちゃったんだろう。でもでも、ティアちゃんのお願いを断りたくなかったんだもんなぁ……)
内心の葛藤に悶々としているファリスだったが、ここまで来てやっぱり帰りたいなんて言えるはずもなく、気持ちを切り替えることにした。
(こうなったら手早く終わらせてティアちゃんのところに帰ろう。早く帰れたらその分頑張ったって言えるし、ティアちゃんからご褒美とかもらえるかも……)
「えへへぇ……」
彼女を全く知らない他人が見ていたら深いため息をついて真剣な表情をしていたかと思うと、いきなりにへらと顔を崩して笑みを浮かべている変な少女に見えていただろう。
しかし、それでもファリスは気にしない。彼女にとって世界というのはエールティアがいて、名前を覚える価値のある人物がいて、その他有象無象がいる――そんな感じだからだ。
赤の他人の話合っている姿なんて微塵も興味ない。それが彼女の本音だった。
(……とうとう見えてきた。えっと、シル……ケットに)
国の名前すら覚えているか怪しいファリスは、少しずつ見えてくるシルケットの玄関都市と呼ばれているニャルドールの街並みを見下ろしていた。そこには何の感慨もない。清々しい程の青い空も、白い雲に見下ろせば地面があり、人も町も地上にいる者全てが粒のように見える――そんな視覚的に支配欲を満たしてくれそうな光景にも、ファリスは全く感情を動かされることはなかった。それだけファリスにとって些細な事だともいえる。
ワイバーンが徐々に降下しているのを確認しながら、彼女の思考はどれだけ早くに用事を終わらせることが出来るか――それに集中していた。
彼女にとってそれ以外はどうでもよく、エールティアも彼女のそんな性格をある程度は理解してくれていた。だからこそこの遠征軍にはシルケット王家との交渉や話し合いをする為の文官を数人配備している。その分戦闘に関しては彼女に負担が掛かる形となっているが、そんな事は全く気にしていなかった。
ファリスにとってはエールティア以外には負けるなんて気持ちは存在しない。自分の力に確固たる自信があるからこそ、不真面目なところも目立っていた。しかし慢心によって幾度か満足に実力を発揮する事が出来ずに危険な状態になる事もあったせいで何度も命を落としかけたり危ない目に遭っていた結果、少しは学習していた。そして一度対峙し、その恐ろしさを味わったからこそ、グロウゴレムの厄介なところを理解している。余計な時間を掛けるべきではない事を頭に叩き込んでいていた。
だからこそワイバーンを降り立った時にすぐに情報収集をして撃破に動くつもりだったのだが……それを邪魔したのは他でもないシルケットの賢猫と呼ばれる存在だった。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。私、シャニルと申します」
丁寧に頭を下げた白い猫人族は、マントを羽織り、見るからに上流階級である事をアピールしていた。その姿にファリスの好感度は下がる。たった一つの所作と印象だけで興味がなくても嫌悪すべき対象には降格出来ると証明した貴重な人材が誕生した瞬間だった。
「……ファリスです」
それでも最低限の礼を取ったのは、彼女自身がエールティアの代理で来ていると思っているからだった。
「ファリス殿ですね。お噂はかねがね。魔王祭でも実に活躍されていたそうではないですか」
「ありがとうございます」
「いやはや、そのような人物に来ていただけるとは……ティリアースの誠意が伝わってきますな」
(何を言っているんだか……。全くそんなこと思ってないくせに)
やや驚きの表情を浮かべるシャニルに比べて、ファリスは明らかに冷めた目をしていた。それを他の兵士達がヒヤヒヤしながら眺めている。当然だろう。シャニルといえば貴族・平民関係なく選出される賢猫の一人。下手な爵位よりもよっぽと権威を持っている存在なのだ。そんな男に対して適当にあしらうような接し方をしているファリスの方が異常――。シャニルがどういう人物か知っている者にとってはこれほど恐ろしい事はなかった。
そんな周囲の怯えなど全く気にしていないファリス。何を考えているのかわからないシャニルの些細な話し合いは滞りなく終わり、彼女はシルケットに辿り着くのだった。
「はあ……」
シルケットへと向かう道中。ワイバーンの背で風を感じながら深いため息を吐いた彼女のそれは、後ろに付いて来ている兵士達には聞こえていないだろう。
エールティアの手前、彼女のお願いを断る気はなかった。それにご褒美も貰える事になったし、それについては何も言う事はない。むしろ出来すぎなくらいだと思っていたくらいだ。
ただ、やはりエールティアと離れるのが嫌だったのか、実際こうしてワイバーンの背に揺られている中で無性に彼女の下に帰りたくなっていったのだ。
「はぁぁぁ……」
(ああ、なんで引き受けちゃったんだろう。でもでも、ティアちゃんのお願いを断りたくなかったんだもんなぁ……)
内心の葛藤に悶々としているファリスだったが、ここまで来てやっぱり帰りたいなんて言えるはずもなく、気持ちを切り替えることにした。
(こうなったら手早く終わらせてティアちゃんのところに帰ろう。早く帰れたらその分頑張ったって言えるし、ティアちゃんからご褒美とかもらえるかも……)
「えへへぇ……」
彼女を全く知らない他人が見ていたら深いため息をついて真剣な表情をしていたかと思うと、いきなりにへらと顔を崩して笑みを浮かべている変な少女に見えていただろう。
しかし、それでもファリスは気にしない。彼女にとって世界というのはエールティアがいて、名前を覚える価値のある人物がいて、その他有象無象がいる――そんな感じだからだ。
赤の他人の話合っている姿なんて微塵も興味ない。それが彼女の本音だった。
(……とうとう見えてきた。えっと、シル……ケットに)
国の名前すら覚えているか怪しいファリスは、少しずつ見えてくるシルケットの玄関都市と呼ばれているニャルドールの街並みを見下ろしていた。そこには何の感慨もない。清々しい程の青い空も、白い雲に見下ろせば地面があり、人も町も地上にいる者全てが粒のように見える――そんな視覚的に支配欲を満たしてくれそうな光景にも、ファリスは全く感情を動かされることはなかった。それだけファリスにとって些細な事だともいえる。
ワイバーンが徐々に降下しているのを確認しながら、彼女の思考はどれだけ早くに用事を終わらせることが出来るか――それに集中していた。
彼女にとってそれ以外はどうでもよく、エールティアも彼女のそんな性格をある程度は理解してくれていた。だからこそこの遠征軍にはシルケット王家との交渉や話し合いをする為の文官を数人配備している。その分戦闘に関しては彼女に負担が掛かる形となっているが、そんな事は全く気にしていなかった。
ファリスにとってはエールティア以外には負けるなんて気持ちは存在しない。自分の力に確固たる自信があるからこそ、不真面目なところも目立っていた。しかし慢心によって幾度か満足に実力を発揮する事が出来ずに危険な状態になる事もあったせいで何度も命を落としかけたり危ない目に遭っていた結果、少しは学習していた。そして一度対峙し、その恐ろしさを味わったからこそ、グロウゴレムの厄介なところを理解している。余計な時間を掛けるべきではない事を頭に叩き込んでいていた。
だからこそワイバーンを降り立った時にすぐに情報収集をして撃破に動くつもりだったのだが……それを邪魔したのは他でもないシルケットの賢猫と呼ばれる存在だった。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。私、シャニルと申します」
丁寧に頭を下げた白い猫人族は、マントを羽織り、見るからに上流階級である事をアピールしていた。その姿にファリスの好感度は下がる。たった一つの所作と印象だけで興味がなくても嫌悪すべき対象には降格出来ると証明した貴重な人材が誕生した瞬間だった。
「……ファリスです」
それでも最低限の礼を取ったのは、彼女自身がエールティアの代理で来ていると思っているからだった。
「ファリス殿ですね。お噂はかねがね。魔王祭でも実に活躍されていたそうではないですか」
「ありがとうございます」
「いやはや、そのような人物に来ていただけるとは……ティリアースの誠意が伝わってきますな」
(何を言っているんだか……。全くそんなこと思ってないくせに)
やや驚きの表情を浮かべるシャニルに比べて、ファリスは明らかに冷めた目をしていた。それを他の兵士達がヒヤヒヤしながら眺めている。当然だろう。シャニルといえば貴族・平民関係なく選出される賢猫の一人。下手な爵位よりもよっぽと権威を持っている存在なのだ。そんな男に対して適当にあしらうような接し方をしているファリスの方が異常――。シャニルがどういう人物か知っている者にとってはこれほど恐ろしい事はなかった。
そんな周囲の怯えなど全く気にしていないファリス。何を考えているのかわからないシャニルの些細な話し合いは滞りなく終わり、彼女はシルケットに辿り着くのだった。
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