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500・悠長な会話(ファリスside)
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冗長で面倒な会話を終えたファリスは彼からどの前線に行けばいいのか教えてくれると思っていた。しかし何故かそんな想いも叶わず、シャニルからの歓迎を受けて以降はどこに行く訳でもなく詰め所に待機させられていた。
その事について話し合いに行った文官の一人がようやく戻ってくる。
「ファリス様。今、ベルン王子殿下がこちらに撤退している最中だそうです。私達はここに軍を構え、撤退中のベルン王子殿下の保護に当たって欲しいとのことです」
「……こっちは援軍として呼ばれたんだよ? 進軍の手伝いをするんじゃないの?」
ファリスが考えていたのは敵対勢力を殲滅する事であって、撤退支援などではない。一緒に敵兵をぶっ飛ばしてさっさと帰る事を想像していたのだ。
「仕方ありません。彼らの指示に従うのも私達の役目です。今は我慢してください」
まあまあと宥めている彼はファリスの副官の役目を与えられた魔人族の男性――ルォーグは、ラディンの下で仕事をこなしていたそれなりに有能な男だった。彼が今回の援軍に加わっているということが、ティリアースがどれだけ今の事態を重く見ているかわかるほどだ。
そんな彼でもファリスのサポートには手を焼いていた。なにせ我の強い彼女はエールティア以外の言葉にあまり耳を傾けない。おまけに命令なんてしても聞いてくれるかどうかすら危ういというおまけつき。いつ胃に異常を来たしてもおかしくない状況の中で上手くやっている方だと言えるだろう。
「……別にいいけど。どうせティアちゃんはいないんだし」
深いため息と共に出てきた一言が今の彼女の心境の全てを物語っていた。勢いよく引き受けたはいいものの、想い人がいないという事実。それが尚更やる気を失わせているのだ。
「わかっているとは思いますが、そのエールティア様の推薦で貴女はここにいるのですよ。貴女の行動がそのままエールティア様への評価に繋がるのです。そこのところ、お忘れないように」
呆れた表情で諫められたファリスは、嫌そうな顔をするが、ルォーグは全く動じていない様子だった。まともにシャニルとやりあった彼女も大概だが、そんな上官に冷静に意見を言える彼もどこかおかしかった。
「それはわかってる。だけど、ティアちゃんを馬鹿にされたら許せないって事も覚えていてよね。わたし、我慢は効かないほうだから」
シャニルは時折ファリス達を小馬鹿にするような視線を向ける事があった。普通ならその時点で問答無用の冷たい態度を取って相手次第では即戦闘にまで発展する可能性があっただろう。それを抑え込めたのはやはりエールティアの命令で動いているから意外他にはなかった。
「……それは彼らに言ってください。今は彼らの機嫌を損ねないように対応する。それが私達の仕事ですよ」
「面倒な仕事もあったのものね」
はぁ……と再びため息を吐いたファリスだったが、どうにも嫌な予感がしていた。こういう時の直感は当たる。それがわかっているからこそ、容易に終わりそうにないのがわかってしまうのだった。
――
シャニルとの邂逅から三日。ファリス達援軍に来たティリアース軍はルドールの駐留所に滞在していた。撤退しているシルケット本軍と合流しなければならないのだが、シャニルに待っているようにと言われてしまった為、ここで足止めを喰らっている状態だ。
それに対し苛立ちを募らせる少女――それはまさしくファリスその人だった。
「はぁ……」
外に出たくてもルドールの入り口はワイバーン発着場以外ではぐるっと壁に囲まれて門が一つ。そこには兵士が配置されているから人知れず抜け出すことも出来ない。明らかに飼い殺しにされていた。
今もルォーグがシャニルに進軍の許可を得ようと奮闘しているが、あまり芳しくない。
王族のように権限も持たないが、この町を守る責任がある。他の賢猫と総意を合わせなければ動くことが出来ない為、今はまだ外に出すことが出来ない。端的に言えばそれだけの答えしか返ってきていない。この町から出す気が全くないのか、頭が固く真面目だからこういう事が受け付けられないのか全く分からない程度の返答しか行われていなかった。
(自分達の国の王子がピンチだっていうのに何をそんなに悠長しているんだか……)
ファリスとしては別にこのまま町の中を観光しているだけでも問題はない。だが、それではエールティアの指示を達成する事が出来ない。かといって無理を通そうとすると、今度は別の形で期待に応える事が出来ない。もやもやとした気持ちが心の中に広がっていくが、どうしようも出来ない事が更に苛立ちを募らせていく。
このまま飼い殺しにされるのかな? そんな事を考えていたファリスの状況を変えたのは門での騒動だった。
騒いでいる人達のところに近寄ったファリスが聞いたのはグロウゴレムが戦場に大量に投入され、本軍が半壊しながら敗走している状況だということと、走り疲れたのか鎧も服もボロボロのまま荒い息を吐いている兵士が数人倒れている姿だった。
その事について話し合いに行った文官の一人がようやく戻ってくる。
「ファリス様。今、ベルン王子殿下がこちらに撤退している最中だそうです。私達はここに軍を構え、撤退中のベルン王子殿下の保護に当たって欲しいとのことです」
「……こっちは援軍として呼ばれたんだよ? 進軍の手伝いをするんじゃないの?」
ファリスが考えていたのは敵対勢力を殲滅する事であって、撤退支援などではない。一緒に敵兵をぶっ飛ばしてさっさと帰る事を想像していたのだ。
「仕方ありません。彼らの指示に従うのも私達の役目です。今は我慢してください」
まあまあと宥めている彼はファリスの副官の役目を与えられた魔人族の男性――ルォーグは、ラディンの下で仕事をこなしていたそれなりに有能な男だった。彼が今回の援軍に加わっているということが、ティリアースがどれだけ今の事態を重く見ているかわかるほどだ。
そんな彼でもファリスのサポートには手を焼いていた。なにせ我の強い彼女はエールティア以外の言葉にあまり耳を傾けない。おまけに命令なんてしても聞いてくれるかどうかすら危ういというおまけつき。いつ胃に異常を来たしてもおかしくない状況の中で上手くやっている方だと言えるだろう。
「……別にいいけど。どうせティアちゃんはいないんだし」
深いため息と共に出てきた一言が今の彼女の心境の全てを物語っていた。勢いよく引き受けたはいいものの、想い人がいないという事実。それが尚更やる気を失わせているのだ。
「わかっているとは思いますが、そのエールティア様の推薦で貴女はここにいるのですよ。貴女の行動がそのままエールティア様への評価に繋がるのです。そこのところ、お忘れないように」
呆れた表情で諫められたファリスは、嫌そうな顔をするが、ルォーグは全く動じていない様子だった。まともにシャニルとやりあった彼女も大概だが、そんな上官に冷静に意見を言える彼もどこかおかしかった。
「それはわかってる。だけど、ティアちゃんを馬鹿にされたら許せないって事も覚えていてよね。わたし、我慢は効かないほうだから」
シャニルは時折ファリス達を小馬鹿にするような視線を向ける事があった。普通ならその時点で問答無用の冷たい態度を取って相手次第では即戦闘にまで発展する可能性があっただろう。それを抑え込めたのはやはりエールティアの命令で動いているから意外他にはなかった。
「……それは彼らに言ってください。今は彼らの機嫌を損ねないように対応する。それが私達の仕事ですよ」
「面倒な仕事もあったのものね」
はぁ……と再びため息を吐いたファリスだったが、どうにも嫌な予感がしていた。こういう時の直感は当たる。それがわかっているからこそ、容易に終わりそうにないのがわかってしまうのだった。
――
シャニルとの邂逅から三日。ファリス達援軍に来たティリアース軍はルドールの駐留所に滞在していた。撤退しているシルケット本軍と合流しなければならないのだが、シャニルに待っているようにと言われてしまった為、ここで足止めを喰らっている状態だ。
それに対し苛立ちを募らせる少女――それはまさしくファリスその人だった。
「はぁ……」
外に出たくてもルドールの入り口はワイバーン発着場以外ではぐるっと壁に囲まれて門が一つ。そこには兵士が配置されているから人知れず抜け出すことも出来ない。明らかに飼い殺しにされていた。
今もルォーグがシャニルに進軍の許可を得ようと奮闘しているが、あまり芳しくない。
王族のように権限も持たないが、この町を守る責任がある。他の賢猫と総意を合わせなければ動くことが出来ない為、今はまだ外に出すことが出来ない。端的に言えばそれだけの答えしか返ってきていない。この町から出す気が全くないのか、頭が固く真面目だからこういう事が受け付けられないのか全く分からない程度の返答しか行われていなかった。
(自分達の国の王子がピンチだっていうのに何をそんなに悠長しているんだか……)
ファリスとしては別にこのまま町の中を観光しているだけでも問題はない。だが、それではエールティアの指示を達成する事が出来ない。かといって無理を通そうとすると、今度は別の形で期待に応える事が出来ない。もやもやとした気持ちが心の中に広がっていくが、どうしようも出来ない事が更に苛立ちを募らせていく。
このまま飼い殺しにされるのかな? そんな事を考えていたファリスの状況を変えたのは門での騒動だった。
騒いでいる人達のところに近寄ったファリスが聞いたのはグロウゴレムが戦場に大量に投入され、本軍が半壊しながら敗走している状況だということと、走り疲れたのか鎧も服もボロボロのまま荒い息を吐いている兵士が数人倒れている姿だった。
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