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503・王子との出会い(ファリスside)

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 ルドールの町を抜け出したファリスは、戦場となっている場所である北東へと足を向けていた。
 命からがら街に逃げ戻ったか兵士の話によると、おおよその位置は特定できており、北東を進んだところに軍隊が事を構えるのに向いている開いた草原がある場所で、普通に歩いたら大体七日程度。ファリスは自らの身体能力を強化させることが出来る為、それを大幅に短縮させることが出来る。加えて睡眠時間を削り、可能な限り地面を踏みしめ駆け抜ける足を止めないようにしていた。食事も摂らず、休みもせず……まるで獲物を見つけ狩人の目をした獣のように。標的を見失うまいと全速力をキープし続ける。
 それは決して動きやすい服とは言えない格好だが、訓練された兵士達よりも圧倒的だった。

(血の匂い……まだ微かだけど、匂ってくるくらいには近づけたみたい)

 感覚を鋭敏にする【シックスセンシズ】のお陰で未だ遠い戦場の匂いを感じ、改めて今進んでいる道が間違っていないことを確信したファリスは、更に速度を上げる。可能な限り素早く駆け抜け戦場へ……。そんな風に思っているファリスの行為は、他者から見たら献身的に映るのかもしれない。我が身をいとわず王子を守る為に邁進まいしん姿は心を打つものがある。ただ、ファリスにとってはベルンなんてどうでもよかった――という点を除けば、だが。

 守って『いる』のではなく『あげている』。それがわかれば、彼女が如何にシルケットに興味がないか理解できるだろう。ファリスにとってはエールティアこそ至高なのだ。
 メインディッシュを食するときに添え物がなにか気にするだろうか? シルケットという国自体、彼女にはその程度の認識しかなかった。

(こんなに手間取らせて……! わたしは早く終わらせたいのに!)

 感情の読み取りにくいその顔からはあまり読み取れない。内に様々な感情を秘めたままどんどん戦場へと近づいてきた彼女は、一層強くなった血と焦げた匂いに眉をしかめる。

「……! ――――!!」

 微かに聴こえてくる声。それは必死な応戦。罵声ばせい。悲痛な叫び。それらが容赦なく焼き払われていく。

(なるほど。随分持ちこたえているじゃない。よくもまあ頑張るものね)

 冷静に状況を分析しているファリスの視界に猫人族が戦っている姿が見えてくる。【シックスセンシズ】で強化されるのは視覚も含まれている。他者には点のようにしか見えないものでも、今のファリスには鮮明に誰が何をしているかわかった。

 猫人族の中に混じって魔人族が猫耳を付けたような少年がいた。多少大人びて見えるその少年は杖を片手に次々と魔導を発動させている。球体の雷が出現して、そこから電撃が放たれていたり、弾丸のように細かく小さな氷の弾が無数と呼ぶに相応しい程の量が次々と飛んでいく光景が見られる。

 そしてそれを真っ向から受け止めているのはダークエルフ族の兵器達。その間を縫うように複製体とおぼしき者達が駆け抜ける。

「あれが……ベルゥ王子ね」

 惜しい間違いを小声で呟くファリス。それを訂正する者がいないのは不幸中の幸いと言えるだろう。片手で数える程度にしか名前を覚えていない彼女にとっては些細な出来事だ。
 接敵までもう少し時間が掛かるが、近づくにつれて敵の軍勢の全貌が明らかになっていく。

 狼型の兵器であるクーティノス。巨大なワニガメのようなメルシャタ。そしてその間にエールティア達からグロウゴレムと呼ばれている戦闘を学習して最適化するフィシャルマー……。その全てが勢ぞろいしていた。クーティノスが近くの猫人族の魔導を無効化して、メルシャタがその強固な装甲で並の攻撃を弾き返す。そしてそれらに守られながら少しずつ育っていくフィシャルマーの三つの関係は上手くハマっており、それが余計に猫人族を消耗させていく。
 ファリスの目にはベルンがかなり疲労しているように見えた。それもそのはずだ。クーティノスが周囲の魔力を阻害しているため、それなりに強い魔導を扱わざるを得ない。魔力の消費が激しく、メルシャタは通常の斬撃などで対応するのは難しかったのだ。

「【人造命具・フィリンベーニス・レプリカ】!」

 発動する魔導に対し高い防御を誇るクーティノスがいる以上、事前に魔導を発動させておく。それが先の戦いで学んだ結果だった。事前に発動した魔導には影響力はそこまで高くない。呼び出す際に可能な限り魔力を練り込めば多少吸い取られたとしても変わらぬ威力を与えてくれるだろう。

 現れた剣を抜き去ってどんどん近づいて行く戦場へと向かう。その足はどこか嬉しく、戦場だというのに妙に落ち着き払っていた。

 流石に接近している事に気付くことが出来たのか、ちらほらとファリスの側を向く敵兵たちが増えていく。

「さあ……戦闘開始ってね」

 久しぶりに戦える――そんな欲求が満たされる瞬間を想像したのか、彼女の顔は自然と綻んでいき……熱に浮かされた戦士のように笑みを浮かべてしまうには十分すぎるくらいだった。
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