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第3話:過去の影
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佐藤涼太は、2045年の自分の部屋で、目の前に浮かぶ半透明のモニターを睨みつけていた。新宿の高層ビル街を見下ろすガラス張りの部屋で、青い光が揺らめく画面は異様に映る。
「選択してください。過去へ行く? 現在に戻る?」
カウントダウンはすでに始まっている。10、9、8…。
「またこれかよ! いい加減、ルール説明しろって!」
涼太の叫びにも、モニターは無反応だ。隣では、AIアシスタントのミナがホログラム姿でキョトンと首を傾げている。
「涼太さん、誰に話してるんですか? なんか…やっぱり今日、変ですよ?」
「変なのはこのモニターだよ! お前、見えないのか?」
ミナは目を細め、涼太の視線を追うが、何も見えないらしく首を振る。5、4、3…。
「くそっ、考える暇ねえ!」
未来の自分――49歳、独身、フリーランスのデータキュレーター。悪くない人生に見えるけど、「あの時、違う選択をしていれば」と後悔してるらしい。それが何なのか、知りたい。いや、知らなきゃいけない。
涼太は息を呑み、「過去へ行く」をタップした。
瞬間、視界がブラックアウト。身体がふわっと浮く感覚がして、耳元で電子音が響く。まるで時間が巻き戻るような、奇妙なざわめきが頭を包んだ。
目を開けると、涼太は見覚えのある場所にいた。大学のキャンパスだ。古びた講義棟、芝生の広場、学生たちが笑いながら歩く風景。空気は少し湿っていて、桜の匂いが漂っている。
「ここ…大学? 10年前…いや、もっと前か?」
涼太は自分の姿を見下ろす。スーツじゃなく、ジーンズにTシャツ。手に持っているのは、ボロボロのバックパック。鏡がないので顔は確認できないが、明らかに若い。18歳か、19歳の自分だ。
「マジで…過去に来た!?」
周囲を見回すと、学生たちがスマホをいじりながら歩いている。2045年の光る服やドローンはないけど、2014年か2015年くらいの雰囲気だ。涼太の胸がドキドキする。あの時、あの恋。あの失敗。あの瞬間をやり直せるかもしれない。
「涼太! お前、遅刻すんなよ!」
聞き覚えのある声に振り返ると、ニヤニヤ笑う男が立っていた。亮平だ。大学時代の親友で、卒業後に疎遠になってしまったやつ。亮平は肩を叩いてくる。
「ほら、早く行こうぜ。美咲が待ってるって!」
「美咲…!?」
その名前で、涼太の心臓が跳ねた。美咲――高校時代から片思いだった子。大学で同じサークルになり、仲良くなったけど、告白できずに終わった。あの時の後悔が、胸を締め付ける。
「待て、亮平! 今日って、何の集まりだっけ?」
亮平が怪訝な顔をする。
「は? お前、寝ぼけてんのか? サークルの花見だよ。ほら、美咲が幹事で、めっちゃ張り切ってるやつ!」
花見。そうだ、あの花見。美咲と二人で話した、桜の下でのあの夜。告白するチャンスだったのに、ビビって何も言えなかった。あの瞬間が、人生の分岐点だった気がする。
涼太は亮平について、キャンパス裏の公園へ向かった。桜の木の下には、シートを広げたサークルの仲間たちがいる。ビールやジュースの缶が転がり、笑い声が響く。その中心に、美咲がいた。ショートカットの髪、笑顔、懐かしい声。
「涼太、遅い! 罰ゲームで一気飲みね!」
美咲が笑いながら缶ビールを差し出す。涼太は受け取りながら、胸が熱くなる。あの頃の自分は、こんな風に笑い合えたのに、なんで踏み出せなかったんだ?
「なあ、美咲…ちょっと話したいんだけど」
言葉が口をついて出た。仲間たちが「おおー!」と冷やかす中、美咲は少し驚いた顔で頷く。
「うそ、急に真剣じゃん。いいよ、ちょっと離れて話そうか」
二人は桜の木の少し離れた場所へ移動する。夜風が涼しく、桜の花びらがヒラヒラと落ちてくる。涼太は深呼吸した。今だ。今、言わなきゃ。
「美咲、俺――」
その瞬間、目の前にあのモニターが現れた。
「選択してください。この過去に留まる? 現在に戻る?」
「ふざけんな! 今、邪魔すんなよ!」
涼太の叫びは、桜の木の下に虚しく響いた。
「選択してください。過去へ行く? 現在に戻る?」
カウントダウンはすでに始まっている。10、9、8…。
「またこれかよ! いい加減、ルール説明しろって!」
涼太の叫びにも、モニターは無反応だ。隣では、AIアシスタントのミナがホログラム姿でキョトンと首を傾げている。
「涼太さん、誰に話してるんですか? なんか…やっぱり今日、変ですよ?」
「変なのはこのモニターだよ! お前、見えないのか?」
ミナは目を細め、涼太の視線を追うが、何も見えないらしく首を振る。5、4、3…。
「くそっ、考える暇ねえ!」
未来の自分――49歳、独身、フリーランスのデータキュレーター。悪くない人生に見えるけど、「あの時、違う選択をしていれば」と後悔してるらしい。それが何なのか、知りたい。いや、知らなきゃいけない。
涼太は息を呑み、「過去へ行く」をタップした。
瞬間、視界がブラックアウト。身体がふわっと浮く感覚がして、耳元で電子音が響く。まるで時間が巻き戻るような、奇妙なざわめきが頭を包んだ。
目を開けると、涼太は見覚えのある場所にいた。大学のキャンパスだ。古びた講義棟、芝生の広場、学生たちが笑いながら歩く風景。空気は少し湿っていて、桜の匂いが漂っている。
「ここ…大学? 10年前…いや、もっと前か?」
涼太は自分の姿を見下ろす。スーツじゃなく、ジーンズにTシャツ。手に持っているのは、ボロボロのバックパック。鏡がないので顔は確認できないが、明らかに若い。18歳か、19歳の自分だ。
「マジで…過去に来た!?」
周囲を見回すと、学生たちがスマホをいじりながら歩いている。2045年の光る服やドローンはないけど、2014年か2015年くらいの雰囲気だ。涼太の胸がドキドキする。あの時、あの恋。あの失敗。あの瞬間をやり直せるかもしれない。
「涼太! お前、遅刻すんなよ!」
聞き覚えのある声に振り返ると、ニヤニヤ笑う男が立っていた。亮平だ。大学時代の親友で、卒業後に疎遠になってしまったやつ。亮平は肩を叩いてくる。
「ほら、早く行こうぜ。美咲が待ってるって!」
「美咲…!?」
その名前で、涼太の心臓が跳ねた。美咲――高校時代から片思いだった子。大学で同じサークルになり、仲良くなったけど、告白できずに終わった。あの時の後悔が、胸を締め付ける。
「待て、亮平! 今日って、何の集まりだっけ?」
亮平が怪訝な顔をする。
「は? お前、寝ぼけてんのか? サークルの花見だよ。ほら、美咲が幹事で、めっちゃ張り切ってるやつ!」
花見。そうだ、あの花見。美咲と二人で話した、桜の下でのあの夜。告白するチャンスだったのに、ビビって何も言えなかった。あの瞬間が、人生の分岐点だった気がする。
涼太は亮平について、キャンパス裏の公園へ向かった。桜の木の下には、シートを広げたサークルの仲間たちがいる。ビールやジュースの缶が転がり、笑い声が響く。その中心に、美咲がいた。ショートカットの髪、笑顔、懐かしい声。
「涼太、遅い! 罰ゲームで一気飲みね!」
美咲が笑いながら缶ビールを差し出す。涼太は受け取りながら、胸が熱くなる。あの頃の自分は、こんな風に笑い合えたのに、なんで踏み出せなかったんだ?
「なあ、美咲…ちょっと話したいんだけど」
言葉が口をついて出た。仲間たちが「おおー!」と冷やかす中、美咲は少し驚いた顔で頷く。
「うそ、急に真剣じゃん。いいよ、ちょっと離れて話そうか」
二人は桜の木の少し離れた場所へ移動する。夜風が涼しく、桜の花びらがヒラヒラと落ちてくる。涼太は深呼吸した。今だ。今、言わなきゃ。
「美咲、俺――」
その瞬間、目の前にあのモニターが現れた。
「選択してください。この過去に留まる? 現在に戻る?」
「ふざけんな! 今、邪魔すんなよ!」
涼太の叫びは、桜の木の下に虚しく響いた。
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