指パッチンから始まる世界最強〜パーティを追放された男、スキル『収納』の発動条件を指パッチンに″限定″したら最強に〜

ファンタスティック小説家

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第三章 蒼い青年

蒼き竜 後編

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「新しい人間の英雄か。このオレを倒せるつもりなのか?」

 蒼き竜が挑発的に高笑いをあげる。

 たしかに相手はドラゴン、こっちは【運び屋】。

 その戦力差は恐ろしいものだろう。

 だが、誰かがやらねばならない。
 だとしたら、その誰かになれるのは今、俺しかいないんだ。

 ふるえる足を叱咤して、挫ける心こそふるわせる。

 俺は腕のなかで緑の果実を口を加えた青髪の少年を、そっと地面に寝かせた。

 駆け寄ってくる見覚えの有る少年少女たちへ、彼のことは任せよう。

「火の手が上がってるのが下からでも見えたから、急いで『大螺旋階段』を上がってきたけど……まさか、本当にドラゴンを相手にする日がくるなんて……」

 最近まで崖下で討伐戦線とやらを組んでいた疲弊してる街へ、よくも攻め込んできたものだ。

 狡猾、邪悪、混沌。
 強靭、無敵、最強。

 生物の頂点に君臨する存在に、帰ってきてそうそう挑まないといけないなんて、自分の境遇が嫌になる。

「マックス……! 逃げろ、どうして生きているのか聞きたいが、まずは逃げるんだ……っ、ドラゴンの″脅威度″がわからないお前じゃないだろう……!」
「ぇ、レアキャラのプラスミドまで、死にかけてるのかよ……やっぱり、会う人間みんな重傷になる呪いでもかかってるのかな……」

 俺はうんざりして、指をならして緑の果実をプラスミドの足元に放り投げた。

「今、お前、どこから……」
「いいから、それ食べておけよな。少しは楽になるかも」

 俺はウィンクして「お代はちゃんと貰うけど」と一言付け足した。

「フシュルぅ、オレを前にして隙を晒すとは、いい度胸をしているなッ!」

 蒼き竜が牙をむいて突撃してくる。

 まずい。

「フシュルぅ、潰してやるッ!」

 一瞬で肉薄して俺の背後にまわりこみ、その太い前脚を叩きつけるように振り下ろしてきた。

「マックスゥウーッ!?」

 プラスミドの叫び声が聞こえる。

 俺は上から叩かれて、肩まで埋まった地面から、身をくねらせて這い出た。

 恐怖が強すぎて動けなかったけど……そんなに痛くないな。あれ、思ったよりドラゴンって強くはない、か?

 爆発するように巻き起こった土煙のなか。
 聞こえるドラゴンの荒い息づかい。
 視界は効かなくともヤツは背後にいる。

 ビビって一撃もらってしまったが、次は俺の番だ。

 俺はゆっくりと右腕をもちあげる。

「フシュルぅ、オレの攻撃で倒れないとは、オマエ今までの人間とは一味違うようだな」

 竜の凄まじい鼻息であたりの土煙がふきとばされ、あたり一帯の視界がクリアになる。

 すると、蒼き竜は俺が右腕を自身へむけていることに気がついたらしく、不思議と首をかしげた。

 ーーパチン

 鈍重な動きのドラゴンの胸元にポケットを開き、俺の持つ世界が内包する乱気流を解放。

 ーーバギィッィ、イ

「ッ?!」

 もろいガラスのごとく、硬い鱗の割れる音。
 砕かれた鎧の内側から噴出する赤い生命。

 指向性大気圧に白目を剥き、竜は何が起こったか理解できてないまま、恐怖と怯えを顔にうかべた。

 されど、すべては遅すぎる。

 ドラゴンの巨体がふわりと浮かび、弾かれるようにぶっ飛んでいく。

「ぐぁぁぁあッ!?」

 大螺旋階段まえの広場に跡を残しながら、遠ざかる叫び声。
 竜は燃え盛る建物群に突っ込んでいき、崩れる岩製の壁に押しつぶされて、やがて動かなくなってしまった。

 崩壊音がやみ、静かになった大螺旋階段まえの広場。

「ぁ、ありえない……あのドラゴンを一撃でやった、のか……? いや、そもそも今、攻撃していたのか……?」

 驚き隠さずに、遠くで動かなくなった竜と、俺の顔を交互にみるプラスミド。

 俺は黙ったまま、自分の手を見下ろした。

 正直、俺が一番驚いてる。

 あれ、俺、強くない……ッ!?
 いや、ドラゴンが弱いのか? でも、みんな痛そうにして転がってるし……。
 なに、乱気流叩きつけるやつ、そんな痛いの? 
 今まで魔物が弱いから一撃で済んでいたと思ったけど、ドラゴンでも耐えられないくらいダメージ入るわけ、あの謎攻撃。

「……ふぅ」

 内心が嵐のように吹き荒れながらも、動揺を顔には出さず、俺はプラスミドへ近寄って膝をおった。

「大丈夫か、プラスミド」
「だ、大丈夫だが……おまえ、本当にマックスなのか? ずいぶんと雰囲気が変わったようだが」
「まぁ、相当な時間経ってるからな」
「……そうか。む、それよりマックス、この緑の果実を、アインとオーウェンにも分けてやれ」

 プラスミドが顎でしめした大螺旋階段の近く。
 俺は眉をひそめて、緑の果実を片手に、瀕死になっているアインへ近寄った。

 2年前とほとんど変わらない姿。
 すこし痩せたように見えるが、16歳の青年にしては、あまりにも記憶にある姿に近い。

 あの崖で俺を突き落とした日のアインの顔が脳裏をよぎる。

「ぁ、う、まっ、くす? なん、で……お前が……」

 緑の果実を握りつぶして、その果汁をアインへ満遍まんべんなくかけていく。

 すると少しは痛みが引いたのか、アインはよろよろと大螺旋階段の手すりをたよりに、壁を背をこすりながら立ちあがった。

「どうした、アイン、幽霊でも見たような顔して」
「なんで、だ。マックス、おまえ、本当に生きてたのか……?」
「ああ、危うく死にかけたけとな。川に落ちて流されて、崖から落とされたけど命だけは拾えたよ」
「ッ、そんな偶然が本当に起こるなんて……っ、な、なに、しに戻ってきたんだ……!」

 アインは短く息を吐き捨て、落ちている魔剣を手のなかに引き寄せた。

 呼吸を落ち着けると、そのまま斬りかかってくる。

 そりゃ、そうなるか。
 俺が生きていたら、お前の殺人行為が明るみにでるから、アインは俺をここで消すしかない。

 身をひいて半身になり、振りおろされふ魔剣を避ける。

「ッ、な、なんで、マックスに俺の太刀筋が見切れるッ?!」
「……アインはあまり成長してないんだな。どうやら今なら俺でも勝てそうだ」
「ッ、テメェ! ふざけんじゃねえよ! この【運び屋】風情のクソカス野郎がッ!」

 がむしゃらに魔剣をふりまわし始めるアイン。

「今更ノコノコ帰ってきやがって! 全部、全部台無しにするつもりか?! そうだ、お前はマリーに捨てられたんだぞ! もうお前の帰る場所なんてないんだよッ!」

「だからさーーーーそれを確かめに、俺はこれまで努力してきたんだろーがッ!」

 アインの勝手な物言いに、俺はブチギレて、彼が剣をふり逃したと同時に、カウンターの右フックを頬に打ちこんだ。

 今更帰ってどうするだ?
 もう帰る場所ないだと?

 そんなこと、重々承知だ、
 俺が何度考えて、何度悩んで、それでも絶対に諦められないからって、何度頭を狂わせたことか!

「ぶちのめすぞ、うじ虫野郎!」
「ヒィ……ッ」

 俺の怒号に声を裏返らせ、後ずさるアイン。
 しかし、まだ目には殺る気がやどっている。頬を押さえて、立ちあがると、の中の血の塊を吐きだした。

「アイン、この紙を覚えてるか?」

 ポケットからクシャクシャになった除名用紙を取り出して見せつける。

「これは呪いだった。こんな紙切れ一枚で、俺は長い長い時間を、開けない夜のなかに自分を沈めこませたんだッ! パスカルが教えてくれたよ、この紙にマリーは同意してないんだろ?」
「ッ! な、なんでそれを知って……いや、いや違う、違う! マリーは、お前を捨てたんだ! 諦めが悪いんだよ、お前ぇ!」

 アインは、つい漏らした本音を必死に取り繕う。しかし、もう俺には確信があった。
 パスカルが打ち立てた予想が的中したのだ。
 マリーはあの用紙にきっと同意などしてないのだ。

 それがわかると同時に、俺は完全にキレてしまった。

「アインッ! てめぇ、この野郎ッ!」
「マックス、お前が邪魔だってわかんないのかよ! 自分の役目クラスを考えろよ! 俺は【英雄えいゆうなんだ! てめぇが迷惑なんだよ、マリーだって絶対にそう思ってるに決まってる!」

 魔剣アインが赤く脈打ち、特大の魔力放射が牙突とともに放たれる。

 いつも彼の背中を見つめてきた。
 その技だって何度も見てきた。
 憧れていた、アインに、アインの強さに。

 だけど、今の彼に思う感情は哀れみと怒りしかない。

 俺は歯を食いしばり、卑怯者の一撃を手で振りはらい、目を見開いて驚く彼の顔面に掴みかかった。

 鷲掴みにした野郎の顔面を地面に叩きつける。

「がはっ!」

 俺は、そのまま馬乗りになってマウントを取った。

「ぬ、ぐ、そっ、なんで、マックスなんかが、こんな強いんだ! っ、ぐぼへぇ!」

 腕で顔を覆い隠すアインのガードを、彼の骨を軋ませながら強引に解除、空いた顔へ拳を叩きこむ。

「死ぬほど、イカれるほど、指が擦り減るほど頑張ったから゛だよ゛ッ! 俺は、あの森で全部を、すべてを、ありとあらゆる時間をこの力のために費やしたからだよ゛ッ!」

 ーーパチン

 抑えきれない怒りのなかでも、死なないくらいに手加減した風圧をアインの顔面へ。

 血反吐をはき、地面に頭を半分埋めてアインの瞳が白目をむいた。

 俺は緑の果実を握りつぶして、アインの意識を取り戻させて、またぶん殴り、意識を不確かに。

「ぐへぇ、ぐぼ、ぁ、まっ、くす、やめて、やめてくれ、ぐぁ!」
「アイン! 全部嘘だったんだろ!? 本当のことを言えよ! マリーは俺のことを捨ててないんだろッ!?」
「ぅ、ぅ、ぁぐ、やめ、、て、ぐれ……」
「答えろよ゛ッ!」

 殴り果実を汁を口の中に注ぎこむ。

 終わらない痛みの恐怖。
 答えるまでいつまでも、朝でも、夜でも、ずっと続けると言葉をかけてやると、アインは涙と血反吐で顔を汚しながら口を開いた。

「やめ、、でぉ、ぅ、う、嘘だ、全部嘘、だ……マリーは除名用紙に同意なんかしてない……自殺したってことに見せかけたんだ、ぅぅ、名前は、、名前、、は、スキル〔擬似筆ぎじふで〕をもつ知り合いに書かせたんだ……お前なら、マリーの筆跡くらい、見抜くと思って……」

 泣きながら嗚咽おえつをもらし、アインは何度も謝ってきた。

 その姿があまりにも哀れで、弱々しくて、2年前の絶対に叶わない暴力をもつ魔剣士の影をアインに見ることは俺にはもう出来なくてーーひどく寂しい気持ちになっていた。

 俺は目を閉じて、心を落ち着かせ、胸ぐらを掴んでいた手を離し立ちあがった。

 もういい、俺の個人的な怒りはある程度収まった。
 だが、理由がわからない。
 そうまでして、俺を追い出した理由が。

 聞かねばなるまい。

「なんで、そんなに俺をパーティから追い出したかったんだ? それにマリーの事を利用してまで」
「…………」

 アインは地面な座ったまま、黙りこくる。
 なんで答えないんだ、こいつは。

「…………くっ!」
「あ」

 不意打ちだった。
 アインはサッとたちあがり、猛スピードで走りだして逃走し始めたのだ。

 俺はアインのその態度に、ふたたび怒りの熱が爆発しそうになりーー。

「≪氷結界ひょうけっかい二式にしき≫」

 大螺旋階段のしたから詠唱とともに、疲れきった男の声が聞こえて来る。

 炎に包まれていた街を一瞬で冷やし、冬の夜へと交換し、逃げようとしたアインを氷の牢獄に完全に封印したその男ーー『氷結界ひょうけっかい魔術師まじゅつし』パスカル・プリンシパルがようやく階段を登りきって到着した。

「ーーーー」

 なにかを叫び、動揺する英雄。
 階段の下から上がってくるパスカルに気づくと、アインは唖然として、受け入れたくない事実を拒むように力なく首を横にふった。

 事態を察したらしく、手のひらを開いたり閉じたりして、魔剣を召喚しようとするが、彼の手に負けんが出現することはなかった。

「魔剣ならでねぇぞ。ほら、だって、お前ここに魔剣置きっぱじゃねぇーか。おっさんの封印式は、そういうの対応してないんだわ」
「ーーーー!」
「なに言ってるかわかんねぇけど、悪いな! これからみんな来るまでそこでしばらく待っててもらうぜ。いやね、本当おっさんがお前の立場だったらここで自殺でもしてるとこだけどなぁ。いや、恐い相手怒らせたなぁ、アイン。ーーもう諦めろ、お前さん、おしまいだよ」

 パスカルはそう言って、陽気に笑い「よっこいしょ」と疲れた表情で、大螺旋階段の手すりに腰掛けた。

 ここまで氷のトンネルを連続で出現させて、俺の帰還を手伝ってくれた彼には感謝しかない。

「ぅ」
「お!」

 すっかりまったりモードに入ってしまった大螺旋階段の踊り場に、脇腹を押さえながらプラスミドが足を引きずってやってくる。

「リーダーまで、生きてたんですか」
「プラスミド、久しぶりだな。おっさん、危うく死ぬところだったが、森をさまよってたマックスに助けられちまってな」

 プラスミドは怪我で苦しそうなのに、パスカルの元気そうな顔を見て、心底安心したように息をついた。


          ⌛︎
          ⌛︎
          ⌛︎


 俺、パスカル、プラスミドが、大螺旋階段で氷に閉じこめられたアインと共に、しばらく待っていると、そこへ統率のとれた甲冑姿の一団がやってきた。

 全身フルプレートと、みんな毎日どこかで一回は見ているソフレト教の紋様。

 神殿おかかえのエリート戦闘集団『神殿騎士団』だ。

 そして、神殿騎士たちとともに出張ってきたバトルドレスに身を包んだ美しい戦乙女。

 その姿を見た時、俺は自然と涙をこぼしていた。

 この時、俺はようやく長かったひとりの戦いに、終止符をうつことが叶ったのだ。

 あの冬が春を迎える。
 止まった時間は溶け始める。

 夜の星々の輝きより、よほど価値のある蒼翠そうすいの瞳は、壮年の男につくり変えられた冬の世界を見て、なにかを察し、あたりをキョロキョロと見渡している。

 視界の端で気絶するプラスミド。
 疲れきって居眠りしはじめたパスカル。
 そして、その横で静かにたちあがる俺の姿を、彼女が見つけるのにそう時間はかからなかった。


 第三章 蒼き青年 ~完~

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