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身内の水準が高めだった
しおりを挟むリンボリックが俺の顔をまじまじと見てくる。
目は光ってないので魔力魔眼で見られてるわけじゃないはずだ。
「リゼットが連れてきた子だね。マジックリングを付けてるってことは、君の先生から『魔術師』にしてもらえたって事の証だ」
俺は目を丸くする。
そんなルールがあったのか。
俺はカリーナから杖を買ってもらったけど、師匠から受け取るべきだったかな。
俺の困惑を見てリンボリックはご機嫌に笑った。
「アルカマジでは、の話だよ。こっちじゃそういうのは無いのかもしれないね」
「ああそういう。まあ、魔術師ではありますよ、一応ね」
「ほう、その若さで魔術師かい? これは凄い…アライアンスにこれほどの才能があったなんて、驚いたな……」
リンボリックは「実に興味深い」と俺の目をのぞきこむように見てきた。
師匠もびっくりしてくれていたし、今日の決闘を見ていても思ったが、やはり9歳でいっぱしに魔術が使えるのは並のことじゃないらしいな。
「うむうむ。君からはたしかな風格を感じる。ガドヤ、彼は魔術師だ。残念だが塾の要領を押さえていない彼と、君との決闘は認められない。怪我してもらっちゃ困るからね」
リンボリックの言葉に子供たちがどよめいた。
「え、あの小さい子、魔術師なの?」
「俺よりもちっちぇのに……」
「だからマジックリング付けてるんだ!」
「ねえ、ショウタくんなら勝てる?」
「ふ、ふーん、あんなの楽勝っしょ!」
ガヤガヤする観客席のうえのほう、リゼットへ視線をむけるとポカンと口を開けていた。すこしはびっくりしてくれたかな。
「先生、俺やれます」
ガドヤは木鋭い目つきでリンボリックへ抗議する。
「うーん、そうは言ってもね……」
リンボリックはよわったように俺へ視線を向けてきた。
ガドヤは戦わずして「君の負けだ」と告げられていることに、いたく不満なようだ。
そうだな。
やってみなくちゃわからない事もある。
「俺もガドヤとやりたいです」
「っ、呼び捨て……!」
歳下の俺に呼び捨てされて、相手方は眉をひそめている。
「先生、こいつ絶対倒します!」
俺たちの意欲に塾長は「だめだ、こりゃ」と頭をかいて「君、手加減してくれよ…」とこっそり小声でいってきた。
「ガドヤ、よろしくな」
ムッとしてガドヤはこちらを睨む。
放り投げられる小石が魔術で破裂した。
決闘がはじまってすぐにガドヤは、スッとポケットから何かを取り出した。
マッチであった。
彼はそれを擦り、火を起こすと詠唱をする。
「不死鳥の魂よ、
炎熱の形を与たまへ
──《ファイア》!」
詠唱を終えたとたん、ガドヤは膝をおって苦しそうな顔になった。
だが、それでも全霊の属性魔術はしっかりと現象とした世界にあらわれる。
マッチの炎はガドヤの魔力の多くを吸い尽くし、炎の塊となって揺らめきながら伸びてきた。
子供たちが「ガっくんすごーい!」「炎を操ってるよ!」「カッコいい!」と歓声をあげる。
リンボリックがこちらへ少し焦った顔を向けてきて、腰の杖に手を伸ばした。
平気だって。
俺は忍びない気持ちになりながら、むかってくるゆったりした炎を、熱素として定義してそのコントロールを奪いとる。
そして手元に引き寄せて火炎の球にした。
熱の凝縮により温められふくらんだ空気が、あたりに押し出す風となってひろがる。
傍観者たちは俺のもつ炎に、目を爛々と輝かせておののき、息を飲んでいた。
「他者の魔術のコントロールを上書きした? そんな領域の魔術……まさか、君は大魔術師なのか?」
「さて、どうでしょう」
俺はリンボリックに薄く微笑み、火炎の球を空へ投げる。
そして、空高くあがったところで指を鳴らして爆発させた。
その際に世界に数えるほどしかいない無詠唱者である事を隠すため、適当に小言をつぶやいておく。
「ヤラレタラヤリカエスバイガエシダ」
高速詠唱っぽくなったはずだ。
「まだやるか?」
俺がガドヤ少年のほうへ向き直ると、彼は膝をおったまま、こてんっと尻餅をついていた。
戦意は感じられない。
「君、名前はなんていうんだい?」
リンボリックが神妙な顔つきで聞いてくる。
「ヘンドリックです、ただのヘンドリック」
「ヘンドリックくん……いえ、ヘンドリックさんですか。なんか似てますね」
「親近感わきます」
呑気に笑いあいながら、口のなかで俺の名前を刻むように転がしていた。
「それでリンボリックさん、僕が優勝者なわけですけど、決闘してもらえますか?」
「はは、すみませんがそれは出来ませんね。ルール上塾生の優勝者とだけ戦うことになってますから」
「逃げるんですか」
俺はまわりに聞こえないようにすこしだけ声を落として挑発する。
彼は笑顔のまま顔を近づけてきた。
「僕はアルカマジの魔術師です。一介の魔術師なんです。ただの学者ということです。アライアンスのように″魔術師=戦闘能力を有する者″という考えはやめていただきたい」
俺は言われてみてハッとする。
師匠もそんな事を言っていたか。
ありし日の会話「半々ですね。半分は研究者として、もう半分は戦闘能力としての魔術を鍛えます。後者は特にバトルメイジと呼ばれますね」とかなんとか。
「そういえば、僕の師匠もスカラーメイジとバトルメイジが何とかって言ってました」
「その言い回しはアルカマジ独特のものですね。なるほど。よほど優秀な師にめぐまれたようだ」
「最高の師匠でしたよ」
「そうでしょうね」
俺とリンボリックはお互いに薄く微笑んだ。
すこしして、俺は子供たちに囲まれた。
みんな叫ぶように声をかけてくるのと、キラキラした目で見つめてきた。
俺は手で押さえながら「どうどう」とアルウの家で鍛えた、羊誘導スキルで輪をくぐりぬけた。
リゼットは俺と戦いたがったが、リンボリックが「怪我の恐れがある」「実力差は歴然だ」と言ったので、チャンピオン勝負はなしとなった。
前チャンピオンを名乗らせるつもりが、失敗してしまったか。
「まあ、いっか。世間一般の魔術に関する知見は得られたしな」
およそ、師匠をふくめた俺のまわりのレベルは水準より高かったとみえる。
これからは強い力を使うだけで、やがて身元の特定に繋がるだろう。必要のない場面での魔術の濫用はさけないといけまい。
「ラテナ、いくぞ」
「ですね」
俺たちは向こうで盛り上がっている塾生たちをおいて宿屋に戻る事にした。
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