42 / 49
世間一般の魔術使い 後編
しおりを挟む第二回戦がはじまる。
今度はそばかすのある勝ち気な少女と、気弱そうな少年だ。
今度は、少女のほうが極めて小規模な火の粉を相手へぶつけて降参させた。
俺とラテナはボーッと見つめるばかりだ。
ただ、心のなかでは「決闘……かぁ……」とあんまり表立って口にださないほうがいい、落胆のようなものが大きくなっていた。
「来たぞ『右フックのショウタ』だ!」
第三回戦は歓声の色が見るからにかわった。
今までも「やーい!」「わーい!」「がんばれー!」と盛り上がっていたが、ショウタなる少年が出てきた瞬間、男子たちがいっそう騒がしくなった。
決闘場に出てきた2人。
小石が弾けて戦いが始まると、ショウタと呼ばれた少年が走りだした。
他方の背の高い少年は、手をまえにだして詠唱をはじめる。
「石の意志、闘争を求めよ
──《コロガロック》!」
唱えると、背の高い少年の足元の小石が、石を持ったようにビュンっとショウタ少年へ襲いかかる。
「高まれ、側撃の右拳
──《リンフォース・ライトフック》」
ショウタ少年の右拳が赤くひかりをまとった。
ラテナが「あれは強化魔術ですねっ」とはじめて興奮した声をだす。
リクだった頃、冒険者活動をしているときの魔術とは「強化してくれる不思議な力」という認識であった。
ヘンドリックになってから知ることになったのだが、アライアンスの冒険者ギルドにいた魔術師たちが、派手に炎を撃ったり、風を操ったりしなかったのは、そもそも属性魔術の難易度が高いからだったらしい。
内側の魔力を変化させるだけの強化魔術や弱化魔術、波動魔術は比較的簡単なようだ。
だから俺やラテナは、ショウタ少年のその赤い光をよく見知っていた。
「うなれ、右フック!」
「ぶぼへえ!」
ショウタ少年の右拳が炸裂して、背の高い少年が地面に沈んだ。
魔術の決闘……として俺としてはあんまり認めたくなかったが、まわりの反応を見る限り、これもアリらしい。
その後、俺とラテナは自分たちと同じくらいの子供たちの平均的な実力が、どれくらいのものか知るために観戦をつづけた。
結果をいうと、ショウタが最強だった。
並いる塾生たちを強化魔術をほどこした右フックだけでのめし続けたのだ。
なるほど。
『右フックのショウタ』と呼ばれる訳だ。
戦ってない塾生たちが少なくなってきた。
次の子もどうせワンパンされるんだろうなーと思いながら見る。
リゼットが「どう? 楽しいでしょ?」とすごく嬉しそうに聞いてくるので「うん、楽しい、凄いですね」と心にもない返事をする。
そんなに、キラキラした目で見ないで欲しいのにな……俺が嫌な奴みたいじゃないか。
「高まれ、側撃の右拳
──《リンフォース・ライトフック》!」
またしてもショウタ少年の十八番が唱えられ、彼は意気揚々と走りだす。
輝く赤い拳は、塾生たちにとって最強のワンパン即死攻撃だ。
それに対して向かいあう青い髪の少年は、静かに詠唱をはじめた。
「静まれ、側撃の右拳よ
──《ウィーケン・ライトフック》」
彼の発動した魔術により、百戦錬磨のワンパン小僧の右拳から紅光がうしなわれる。
まわりの少年たちが「右フック封じ?!」「ショウタくんの必殺技が!」「秘拳が破られた!」とどよめきが上がる。
「ガッくんすごーい!」
「イケメン最強!」
少女人気はクールなガッくんが優勢だ。
ショウタ少年は歯噛みしてるあいだに、彼はなんと塾生初の2つ目の魔術を詠唱しはじめた。
「静まれ、大地を繋ぐ二等
──《ウィーケン・レッグス》」
放たれた魔術により、ショウタ少年の足腰が震えだし、彼は驚いた顔で膝をついた。
ガっくんと呼ばれた少年が、駆け寄って1発ビンタをお見舞いするとリンボリックは決闘をとめた。
まさかのショウタの敗北だ。
「ちょっと面白かったな」
「ですね! 弱化魔術なんて陰気な神秘、使ってる人見たことないのです!」
ラテナがあんまり失礼なこと言い出すものだから、俺は彼女の口を押さえる。
「やめなさい、小声でもやめなさい」
「ふくふく…しゅみません…」
「さて、それじゃ今月はガドヤが優勝という事でいいかな?」
リンボリックがあたりを見渡して、さらなる挑戦者が現れないか確認をとる。
俺はまだ出場してない子が何人かいることに気がつき、その一人であるリゼットに「出ないんですか?」と聞いた。
「私はいいのよ。これでもチャンピオンだもんねー!」
「チャンピオン?」
話を聞くとリンボリックの魔術塾においてリゼットは一番強いらしく、すでに塾長に勝っているとのこと。
なんだ、彼女が塾で最強だったのか。
「だからね、少年、私みたいにうえの階位の魔術師にはもっと敬意をもって『リゼットお姉様』と呼ばないといけないのだよ~?」
「……ムカ」
このリゼットめ、天狗になっている。
いつから魔術を習ってるか知らないが、なまじ才能があったおかげで今では『天才』などとチヤホヤされてるだろう。
世界の広さを知らないな。
「……チャンピオンと戦うにはどうすればいいんですか?」
「ふふん、そんな簡単には戦えないってば。チャンピオンに挑むにはまずは塾長を倒さないとね~」
「なるほど」
俺はご満悦なリゼットを無視して、ピンと手をうえへ伸ばした。
「僕もやっていいですか?」
塾生たちの視線がいっせいに集まってきて「誰あの子?「しらないーい」「マジックリングつけてるー!」と声が飛び交う。
リンボリックは先ほどから何度か目が合っていたので「ああ、構わないとも」と穏やかな笑顔で認めてくれた。
俺は立ちあがり、リゼットへ顔を向ける。
「あの」
「ん~、なんだい少年」
「ごめん、リゼット。お前たぶん、今日から前チャンピオンって名乗る事になると思う」
「なっ?! ちょちょ、少年、歳上かつチャンピオンの私になんて口を!」
手を頭のうえでふって「こらー!」と怒るリゼットを置いていく。
俺はガドヤの前へと降りたった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
治癒魔法で恋人の傷を治したら、「化け物」と呼ばれ故郷から追放されてしまいました
山科ひさき
恋愛
ある日治癒魔法が使えるようになったジョアンは、化け物呼ばわりされて石を投げられ、町から追い出されてしまう。彼女はただ、いまにも息絶えそうな恋人を助けたかっただけなのに。
生きる希望を失った彼女は、恋人との思い出の場所で人生の終わりを迎えようと決める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる