47 / 49
捕獲作戦 前編
しおりを挟む騎士団洗礼式まであと3日。
王都の空には今まで以上に、たくさんの飛竜が飛びかい、街のにぎわいは増していた。
俺とラテナは魔術街にあるこじんまりとしたカフェで、紙を広げていた。
内容はすべて騎士団についてと、個別に調べたミラー、ガレット、クベイルについて、そして、団長アイガスターについてだ。
冒険者ギルドにフロストドラゴンを売り払ったことで、潤沢な資金を手に入れた俺たちは、この10日間ほどで準備を済ませることができた。
「ガレット、クベイルも先日、王都入りしたと情報がはいった。今は王都にある別邸に滞在してるらしい」
それなりに信用のおける裏社会で活躍する情報屋からうけとった、たしかな情報だ。
「ふくふく、これで揃いましたね。リクと私の仇たち、みんな」
「そうだな。……よし、じゃ始めようか」
俺たちはカフェを出た。
ラテナとはいったん別れて、彼女にはアイガスターのもとへ向かってもらう事にする。
俺は遠くへ離れていく彼女の背中を最後まで見送った。懐中時計で時間を確認して、魔術街のベンチにゆっくりと腰をおろす。
そして、氷鋼でオーダーメイドしたキツネを模した白い面をフードで隠した顔につけておく。
身バレはそのまま浮雲家へ飛び火する。
絶対に避けなければならない。
すこし待っているとミラーがやってきた。
ここ数日の調べで昼休憩の間にリンボリックの魔術塾のあたりをうろつくのはわかっていたので、これは予想通りの展開だ。
俺はベル型の魔導具をとりだして、それを一回鳴らした。
これは効果範囲内の狙った物品を、手元に引き寄せる効果のある魔導具だ。
ベルはパリンっと音を立てて割れた。
同時にミラーの腰についている剣が留め具をすりぬけて、俺のほうへ素早く飛んできた。
「あ?」
ミラーがアホウな顔してる間に、俺は剣をキャッチすると、ダッシュして裏路地へ逃げる。
状況に頭が追いついたミラーが「てめぇええ!」とブチギレて追いかけてきた。
俺はある程度、奥まったところまで逃げると、そこで立ち止まった。
激昂したミラーがショートソードの方を抜いて「斬られても文句は言えねぇよな」と、迷いなく飛びかかってきた。
俺はふりかえりざまに《スコーチ》をミラーにぶちあてる。
「ウガァアアアア?! アタぃ、アツィイ! 焼ける、ぅう!」
灼熱に焼かれてしまった路地裏をじたばた暴れるミラーへ、俺は炎を消してやり、無言のまま顔面に蹴りをいれた。
「な、なんじぇ、こんな…こと、を…!」
「お前の罪を焼くためだよ」
「罪……? 俺が何したってんだ…!」
「本当に心当たりがないのかよく考えてみろよ」
「ヒィ、ヒィ、殺すのか、俺を……ッ?」
ミラーは折れた前歯のちらつく皮膚の焼けた醜い顔に涙をこぼして聞いてくる。
「いいや」
俺がそういうと、彼は露骨にホッとしたように目を閉じる。
「お前をさばくのはここじゃない」
「へ?」
とぼけた顔をするミラーへ再度蹴りをいれて、俺は意識を刈り取った。
鮮やかに無力化したあとは、人攫いのために用意した魔導具『人攫いの黒布』でミラーの身体をつつむ。
こうする事で人体の重さを10分の1にして持ち運びやすくするのだ。
そうして俺は、ミラーをかついで予定していたとおりに近くのマンホールを開けて下水道へと降りていった。
ミラーを下水道の一画にこしらえた牢屋に縛りつけたら、今度は残りを迎えに地上へもどる。
次に向かったのはクベイルの別邸だ。
俺はこれまた大枚はたいて買った高級魔導具『盗賊のマント』を羽織る。
フロストドラゴンマネーが無ければ決して買おうなんて思わなかった金額の品だ。
それゆえに効果は極めて強力。
なんでもアルカマジでは違法な魔導具らしく、つかっているのがバレたら禁固を喰らうらしい。
効果は不可視化。
持続時間は1分。
制限はあるが、いったいどれほどの魔術師ならばこんな魔導具をつくれるのか……。
俺はこのマント含めて強力な魔導具を売ってくれたあの謎の男のことを思いだす。
「ノーフェイス・アダムスか。すこし興味でてきたな」
俺はそんなこと考えながら、自分の姿をまわりの景色と同化させた。
人通りの多い通りをかけぬけて、そのまま別邸の柵をどうどうと飛び越える。
玄関扉に耳をあてて物音をうかがい、入っても大丈夫そうだと判断したタイミングで、オリジナルスペル《マスターカット》をつかって、鍵を一点集中させた熱で焼き切る。
扉に体をすべりこませて、玄関を閉めると、すぐに緑色の髪が印象的な背の高い男が近くの扉からでてきた。
クベイル・タイフン。
あの日、瀕死のラテナを剣先でさして持ちあげ、もてあそび、耐えがたい苦痛をあたえた男だ。
以前よりもさらに体格はでかくなっており、身体の厚みがすごい。
俺は盗賊のマントの有効時間を気にしながら、クベイルのあとを追いかける。
なぜか上半身裸なので、汗をかいているので剣でもふっていたのだろうか。
「君、新しくうちに来た子だね?」
彼は廊下の掃除をしていた、まだ子どもといっても差し支えない少女に話しかける。
少女は緊張した面持ちで「は、はい、ライラと申します……!」と歯切れ悪くいった。
瞬間、クベイルはスッと目を細め「まあ、力を抜きたまへ」とメイドの腰を抱き寄せた。
ライラと名乗ったメイドはびっくりした様子で目を見開くが、クベイルは構わずちいさな身体を太もも、尻、腰となであげた。
「以前、相手してもらってた子がひどい言いがかりで使用人をやめてしまってね。今度は君にカラダのあいてをしてもらおうか」
「ぁ、く、クベ、イル、さま、なにを……」
クベイルの大きな手で少女は顎をつかまれ、顔をよくみて吟味される。
「良いじゃないか。風呂場でしようか。積極的になりたまえへよ。待っているぞ」
クベイルは少女の頬を舌でジュルリと舐めあげて、薄く微笑みをうかべて行ってしまった。
少女は瞳を震わせて、その場に崩れておちた。
「は、はぅ、そんな、私、どうすれば……」
騎士の家に務める使用人、それも新人だというまだ幼く弱い立場にたいして、あれほど手慣れたようすで圧力をかけるとは。
「常習犯じゃねえか」
俺は効果の切れた盗賊のマントを脱ぎ捨てて、火炎で燃やしてしまう。
少女はいきなり現れた俺の姿に「え?」と頬を涙でぬらしてほうけた顔をする。
俺はキツネの鉄面のうえから、口元に指をたててみる。
だが、効果はなかった。怪しすぎる俺の風貌に少女はあわてだしたので、俺は彼女の背後にまわりこみ口を押さえた。
身長差があったが膝を崩させて、ゆっくり眠ってもらう。
「大丈夫、大丈夫だから、安心して、今はただ眠ればいい」
「んぅ……っ、んぅうー!」
そのまま少女を締め落として、ちかくの物置に隠しておくことにした。
「さてと」
俺はつま先をクベイルの入っていった浴室へとむけた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
治癒魔法で恋人の傷を治したら、「化け物」と呼ばれ故郷から追放されてしまいました
山科ひさき
恋愛
ある日治癒魔法が使えるようになったジョアンは、化け物呼ばわりされて石を投げられ、町から追い出されてしまう。彼女はただ、いまにも息絶えそうな恋人を助けたかっただけなのに。
生きる希望を失った彼女は、恋人との思い出の場所で人生の終わりを迎えようと決める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる