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クロガネ隊:真なる無能集団
しおりを挟む「な、なんとか出てこれたわ!」
風魔法使いバネッサは朝空に叫び、草原に倒れこんだ。
「生きて、出られた……!」
双剣を失ったゴルドゥは泣きながら、命のありがたみを抱きしめる。
「サムスぅぅぅう! 絶対に許さねぇえ!」
荷物となっていたバスターソードを放り捨て、リーダーのバルドローは地団駄をふんだ。
ただいま、熊級冒険者パーティ『クロガネ隊』は数日間さまよったダンジョンを脱出したところだ。
ようやくの思いで出てきた彼らは、自分たちを裏切ったサムスに激しい怒りを感じていた。
「クソッ、とにかくカーボンシティに戻るぞ!」
「あの童貞クソカス不能陰キャ……このわたしが可愛い笑顔見せてあげたのに、嘘をつくなんて許さないわ!」
「あの雑用係には、弁償金をはらってもらわないとな!」
復讐に炎を燃やす『クロガネ隊』はカーボンシティへ向けて帰還をはじめた。
──しばらく後
『クロガネ隊』はカーボンシティに帰ってきた。
バスターソードを持ち直し、疲れきった様子のバルドローは一旦パーティを解散させた。
バネッサ、ゴルドゥは、それぞれが宿屋へいって寝たり、食事処でまともな飯にありついた。
──翌日
バルドローはバネッサとゴルドゥを連れて、数日ぶりに冒険者ギルドへ帰還していた。
金銭的に余裕のない熊級冒険者は、クエスト毎に報酬を受け取らないと、日々を生き抜くことさえ厳しい経済状況にある。
バルドローたちは数日前に二つのクエストを受けていた。
ひとつ目が、先のダンジョンにて異常発生していた魔物アクバッド30体の討伐クエスト。
ふたつ目が、地殻変動で変化したダンジョンの、新しい区域のマップ作成の調査クエスト。
「おい、クエスト完了の報告を頼むぜ」
大剣使いバルドローは、受付カウンターにドンっと肘を置いて歯を光らせた。
それを見る受付嬢は、冷めた瞳で「クエスト報告ですね」と返事をし、手元の書類をいじりだす。
「それでは、クエスト報告に必要なアクパッド30体分の討伐の証を提示お願いします」
「あん? そんなもんないぜ?」
「……え?」
受付嬢は流れ作業をストップされて、とぼけた声をだす。
大剣使いバルドローは頭のうえにクエスチョンマークをうかべ、首を傾げるだけだ。
「熊級冒険者の方ですよね?」
「ふふ、そうともさ! 俺様は熊級冒険者パーティ『クロガネ隊』のリーダーだぜ!」
「今までに討伐クエストを行った経験は?」
「そりゃたくさんだ。ここにたどり着くのに凶悪な魔法生物を、こーんなに倒してきたんだからな」
バルドローは腕を組み、横で鼻高々と自信ありげにするゴルドゥとバネッサと目を合わせた。
受付嬢は思う。
こいつらさては何も知らない? と──。
「んっん。あのですね、討伐クエストには討伐した証となる、それぞれの魔物に指定された部位を持ち帰っていただかないと討伐を証明できない規則となっています」
「ん? 難しいこと言うなって。つまりどう言うことだ?」
「つまり『クロガネ隊』は、アクパッド30体の討伐クエストを完了できません」
受付嬢は毅然とした態度で言った。
当然のようにバルドローは怒鳴りだす。
「ふざんけんじゃねぇよ! 俺たちがどれほど苦労してあのダンジョンを生き抜いたと思ってやがる! 持ち寄ったアイテムも全部使った! アクバッドだって30体どころか、その倍は倒してきた!」
「そうよそうよ! あんた固いこと言ってないではやく報酬ちょうだいよ!」
「俺たちに何の恨みがあんだ! あんま舐めたことしてると痛い目見るぜ!?」
もはや『クロガネ隊』のメンバーは、武器すら抜くことを辞さない勢いであった。
受付嬢は「めんどうだなぁ……」とつぶやき、手元の魔導具を操作してどこかと通信をとる。
「おい、てめぇ、話聞いてんのか! いいから報酬寄越せよ!」
バルドローが受付嬢に詰めよる。
受付嬢は乱暴な冒険者にうんざりしながらも、ギルドの制度を丁寧に説明しはじめた。
「それぞれの魔法生物ごとに、討伐の証が何処になるのか覚えて、それをギルドに提出するのは義務です。猫級冒険者のかたでも皆、ルールに従っています。もちろん、熊級でも、オーガ級でも、ポルタ級でも、さらにはドラゴン級冒険者でもこのことは変わりません。……逆に疑問なのですが、今まで一体どうされていたんですか?」
受付嬢は質問してから、自らの失態に気づく。
彼女は煽るつもりはないのに、目の前の男の無茶苦茶に、つい煽り口調になってしまっていたことに。
「くっそぉおお! これもサムスが俺たちを裏切ったせいだ!」
「あのクソカス童貞陰キャ貴族もやし雑用係のせいで、俺たちはクエスト報酬を受け取らないなんて! 俺たちが何したってんだよ!」
「こんなの不公平よ! バルドロー、ゴルドゥ、今すぐサムスの家に文句言って弁償金をもらいにいきましょ!」
バネッサのヒステリックに、バルドローはうなずく。
だが、ふと彼は思いとどまると、受付嬢のほうへ向き直った。
「いや、その前に、この舐めた態度の受付嬢だ」
大剣使いバルドローは、背中のバスターソードに手をかけた。
受付嬢は涼しい顔で「え、こいつまじ?」と内心の動揺を隠す。
「別世界じゃ、情報通信だとか、なんとかでめんどくさい手間はないって聞くのにな。俺たちが報酬を受け取れないのは、いつまでも冒険者ギルドが古臭い方法に頼ってるせいだ。責任とってもらうぜ!」
「そうくるかぁ…うーん。まあ、一理ありますよね」
受付嬢は細い腕をくみ、確かに別世界の情報通信技術を冒険者ギルドも導入するべきだとうなずいた。
ただ、バルドローのプライドを、そんなクールな受付嬢の余裕の態度がさらに逆撫でした。
「サムス見てぇに気取ってんじゃねぇーよ! ムカつく女だなぁあ!」
バルドローは大剣を抜きはなち、振り下ろそうとし──。
「おっと、そいつはやめとけよ、冒険者」
殺伐とした受付カウンターに、男の声が響いた。
「ぬぐぁ?!」
同時に体験を抜こうとしたバルドローの体が浮きあがる。
1秒の後──バルドローの体は、床にめりこむほどの衝撃で押さえつけられていた。
バルドローは衝撃に気絶して白目をむいている。
野次馬していた猫級冒険者は言った。
「あれ、ガーディアンだ…」
「あの冒険者、もう終わったなー…」
現れた男は受付嬢へ向き直る。
「お兄ちゃん、遅い」
「いや、ごめんって。そんな怖い顔するなよ」
受付嬢と現れたガーディアンが兄妹の関係だとわかると、まわりの人間たちは、喧嘩を売る相手を間違えたバルドローへ同情の目をむけた。
「あー、君たち、こいつの仲間かい?」
「ギクっ!」
「わ、わたしたちは……」
こっそり逃げようとしていたゴルドゥと、バネッサの肩ががっしりガーディアンに掴まれる。
「ほら、旅は道連れって言うだろ? 憲兵の世話になるのも、仲間と一緒なら悪くない」
「い、いや、わたしたち違うんです!」
「すみません! 許してください! 俺たちはお金ないんです! このままだと檻に入れられちまう!」
叫ぶゴルドゥは、必死に頭を働かせる。
そして、突破口を見つけた。
「ああ! そうだ、クエスト! 二つ目のクエストがあったはずだ! おい、俺たち『クロガネ隊』はダンジョンのマッピングをしてたんだ──」
ゴルドゥは土壇場でクエスト報酬だけでも受け取ろうとする。
受付嬢はチラッと手元の資料を確認し、憲兵に引き渡され、連行されるゴルドゥへ告げた。
「2日前に報酬は受け取られていますよ」
一瞬の思考タイムがゴルドゥにあった。
そして、言葉の意味を理解したゴルドゥは憲兵に連行されながら叫んだ。
「サムスぅぅうーッ! 許さねぇぞぉお!」
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