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理想都市アルカディア
しおりを挟むサムスは振りかえる。
そこには気の強そうな顔の老婆がたっていた。
「もしかして、この村の出身者かい?」
「……そうだ…そうなんだ。あんた、皆がどこへ行ったか、知らないか?」
サムスは震える唇をおさえてたずねる。
答えを聞くのは恐ろしい。
だが、俺は聞かなくてはならない。
サムスは悲劇にみがまえる。
「……。この村の人間はみーんな、死んじまったよ」
老婆は無慈悲につげた。
サムスは目を見張り「そうか…」と、抜け殻のような声をもらした。
サムスはまた記憶への手がかりを失ってしまった。
自分がガーディアンなのはわかる。
自分が裏切り者を制した事も思い出した。
しかし、まだまだ自分を構成するに必要なサムスという人間の歴史が足らなすぎる。
サムスは自分を真に知る人間がないと、人間ですらない。
自分を確立できない。
自己崩壊の恐怖に顔を歪めた。
「……ぅぅ」
「わふゥ」
サムスはフラッと瓦礫のうえに腰を下ろした。
「……あんたは、何してんだ?」
なんとなくたずねた。
「あたしかい? あたしゃ、旦那のお墓参りさね」
老婆はとぼとぼ歩き、道の角に立てられた、墓石のまえにしゃがみ込んだ。
「3年前、戦争終結間近に、この村は巻き込まれてしまったんさね、戦いに。あたしゃの旦那も、その時、たまたまここにいたんさ」
「……悲しいか?」
「そらね」
「……」
サムスは黙したまま、墓石に祈りをささげる老婆の背中を見つめる。
(3年前……俺がここで裏切り者グリフィンを討ち取ったのは、戦争終結間近の出来事なのか?)
サムスは何かひっかかる違和感を感じていた。
なにか……何かが……。
「さてと。今日のお祈りも終わったし、アルカディアに帰るとするかねぇ」
「…婆さん、あんたアルカディアに住んでるのか?」
「そうさね。む、そうかいそうかい、危険なんじゃないかって思ってるんだね? かっかっか、まあ、あの街は別世界によって築かれたことは間違いないけどね。まっ、住めば都って、やつだよ」
老婆は快活に笑った。
サムスはとても笑う気分にはなれなかった。
「ああ、そうだ。若いの。もしこの村の生き残りを探しているのなら、アルカディアに行ってみるといいかもしれない」
「? どうしてだ」
「戦争終結直後だったかねぇ……たしか、チタン村のわずかな生き残りがアルカディアのスラム街にいるとか、いないとか……そんな事を聞いたんさ」
老婆の言葉にサムスの瞳ぎ輝きを取り戻した。
そこに行けば、生き残りがいる。
「ここからアルカディアへはどうやって行けばいい?」
「すぐそこさね。半日も歩けばついちまうさ」
老婆は南の方角を指さした。
「あーそうそう。最近はアルカディア近辺は危険な魔法生物の出現が増えてるっていうねぇ……どうだい、若いの。そんな立派な剣をさげてるんだ。ここはさみしい老人の散歩に付き合ってくれないかい」
「悪いが、護衛なら高くつくぞ。俺はガーディアンだからな」
サムスは鼻を鳴らして、腕を組み、気取ったようにそう言った。
「ほほ~う、ガーディアンかい。そりゃ凄い。頼りになる散歩仲間じゃないか」
「…おい、待て。俺はまだ護衛するなんて」
老婆はサムスの話は聞かず「かっかっか」と笑いながら、勝手に歩き出していってしまう。
話を聞かないBBAであった。
「チッ…今回は特別料金だ」
「わふゥ!」
サムスはルゥを馬に乗せ、遠ざかる老婆の背中を追いかけた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
陽気な老婆とともにサムスは明るい森のなかを歩いていた。
「立派な馬だねぇ、飼い主に愛情を注がれてるのがわかる」
「ブルルゥン」
老婆は見事な毛並みを愛でて「あの子が喜びそうだ」と意味ありげに微笑んだ。
サムスは咳払いをして、担保として奪った馬から話題をずらす。
「アルカディアは安全なのか。まだ戦争が終わって3年しか経ってないだろう」
「スラム街は比較的安全さね。あそこじゃ、別世界人だとか、異世界人だとか、言ってる暇なんてないからね。みんな協力して生きること……あ、でも、スラム街の方が安全だなんて、おかしなことだねぇ、かっかっか」
老婆は楽しそうに笑った。
──しばらく歩くと、森をぬけた。
森の先には、凄まじい光景が広がっていた。
サムスは思わずポカンと口をあけてしまう。
広大な森の世界の真ん中は、どうやったのか切り開かれて、莫大なスペースが作られている。
そこには、天をつらぬく高さの超高層ビルがいくつも並んで、見たこともない金属の都市を成していた。
超高層ビル同士のあいだには、陸橋がかけられ、空中に築かれた別世界の科学都市の異様が見てとれる。
高層ビル、陸橋、地上をいくつもの飛行物体が飛び交っている様には、脱力するほかない。
そのすべて別世界のチカラ。
サムスは遥かな″差″を感じていた。
「これが別世界の科学とでも……?」
「かっかっか、見慣れりゃそういうもんかと落ち着くが、確かにあたしゃも初めて見たときはおったまげたさ」
「こんな奴らと戦争して、俺たちはまだ世界を守れているのか……」
「確かに、誇らしいさね。ぜーんぶ、あんた達みたいなのが命がけで頑張ってくれたからさ」
老婆はかるい拳でサムスの胸をたたき「ありがとさん、ガーディアン♪」と笑顔で言った。
サムスは悶々とした気持ちになっていた。
何かが、しっくり来なかった。
サムスは迷いを振り払うように頭をぶんぶん振り、アルカディア上空に浮かぶアレについて聞く。
超高層ビル群の中で、一番高いモノのそのさらに上空に、地上とは柱一本つながってない要塞が飛んでいるのだ。
(あれも科学のチカラで飛ばしていると?)
「ありゃゴーグルの本社だね」
「ゴーグル?」
「そうさね。あの塊自体は『オリュンポス』って呼ばれてるさ。あたしゃたちはひと口に″別世界″って呼んでるが、実質的に別世界とは、ゴーグルのことさ。おおきな、おおきな、それこそ世界ひとつ支配するような巨大企業だよ」
サムスは思う。
ひとつの会社が、世界を支配するなんて。
そんなの可能なのだろうか。
「でも、要塞を天空に浮かべられるんだよな……」
サムスは何となく納得した。
「ん?」
続いてサムスは、アルカディアの周辺にある都市から逸脱した場所に、ポツポツとある『金属の巨塔』を指さした。
「ありゃ″マナハウス″って呼ばれてるさね。なんでも、あそこで作ったエネルギーを使って別世界の科学は稼働してるんだとさ。詳しいことは、老骨にはわからんけどねぇ」
老婆は疲れたようにそう言うと「さあ、そろそろ行くよ。待ち人がいるんだろう?」と言った。
「若いの」
「なんだ」
「『ようこそ、理想都市アルカディアへ』』
「……?」
「市長の言葉さ。一度言ってみたかっただよ、かっかっか」
老婆は満足した顔で歩きだす。
サムスは文字通り、まったくの″別世界″に驚愕し、震えながら、老婆につづき、アルカディアの『下層』スラム街へと入っていった。
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