もふもふ大好き聖女の異世のんびり生活

ファンタスティック小説家

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格闘技能検定

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 転生から4ヶ月が過ぎた。
 
「ユウリさん、詠唱を省略しないで、ちゃんと言葉を紡ぎなさい」

 いまは聖刻広間での信仰魔法の練習中だ。
 
「詠唱しなくても、信仰魔法は使えますよ?」

 ユウリは頭のうえに魔法陣をつくり、本日の課題であるしおれた花の蘇生を行って見せる。手のなかの花がみるみるうちに色鮮やかに蘇っていく。

(頭でイメージすれば簡単なんだよね。女神さまの加護のおかげだろうけど)

 課題に苦戦する聖女候補生たちは、ユウリの手腕に落ちこみ具合が凄まじい。

「詠唱は大事な儀式的意味をもちます。聖女になったら本格的な治癒、祝福、浄化、教典の朗読など、多くの場面で儀式にのっとって作業をします。それに、ユウリ、才能におごるようでは一流とは呼べませんよ」

「うーん、別に聖女になりたいわけじゃないし……」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も言ってません」

 ユウリは隣でしょぼんっと落ちこむ聖女候補生を見て言葉を撤回した。
 ここには本気で聖女を目指している子もいるのだ。なあなあとここに居続けている自分とは違い、確かな目標を持っている。

(わたしの才能は、女神さまの加護のおかげ。彼女たちに失礼なことはやめよう)

 ユウリは真面目だった。

 彼女は才能をおすそわけするために、悩み顔の聖女候補生に近寄っていく。

 ハッと驚く候補生の細い手に、手のひらを重ねて、ユウリは信仰魔法・共感共鳴をつかい、普段自分がセンスだけで行なっている魔法行使のプロセスを、感覚的に候補生に教えてあげた。

 ユウリに補助を受けた候補生は、すぐにしおれた花を生き生きとした鮮やかな色合いに、蘇らせられるようになっていく。

 神にも等しい手腕だった。

 それを見ていた聖女候補生たちは、彼女のことを羨ましそうに眺める。

(みんなにも女神さまの加護をわけてあげよっと。わたしなんかが独り占めしてちゃ、勿体ないもんね)

 思い立ち、ユウリは花の蘇生がうまくいっていない子たちに寄りそい、順番にやり方を教えていった。

「あ、ユ、ユウリさま……」
「あなたは確か……ホシでしたね。やり方を教えますよ」
「ひぃい~!?」

 ホシは名前を覚えてもらえていることに歓喜した。深緑の髪をかき分けて、もっと顔を覚えてもらおうとする。

 ユウリは気さくにホシの肩に手を置き、花を持つ手に、その白い指をからませる。
 黒くて長い、さらさらした髪からは、毎晩、ユウリ自身が無意識のうちに使用してる浄化によって、風呂上がりのシャンプーの良い香りしていた。

 ホシは鼻をひくひくさせ、出来るだけ匂いを吸い込まんとしていた。変態だ。
 
「こんな感じで、ズババって背中が痺れる感じで力をこめるのです。わかりましたか?」

 独特な解説と、海を内包した鮮やかな瞳。
 まっすく見つめてくる視線。
 あまりにも嬉しすぎて、夢のようで、ユウリ大好きなホシはうっとりしてる。
 
「? 大丈夫ですか、ぼーっとしてるような…」
「はぅっ……だ、大丈夫です…! あ、ああ、ありがとうございます、ユウリ…さま…っ!」
「それじゃ、あとは繰り返し頑張ってくださいね」

 行ってしまいそうになるユウリ。

「あ、待ってください、ユウリさま!」

 ホシは勇気を振り絞って呼び止めた。
 もじもじして、ユウリの青い瞳となんとか視線を合わせようとする。

「あ、あの……その…」
「どうしましたか? どこか具合でも悪いのですか?」
「い、いえ、その、えっと……ユウリさまの、ユウリさまの……肌の温度とか、教えてもらいたいなぁ……って」
「へ?」

 ホシは重度のユウリオタク。
 彼女の情報なら足のサイズから、身長、体重、そして肌の温度までなんでも知りたい。

(高校生時代の夢女子の友達と同じ雰囲気……)

 学生時代からケモナーだったユウリは、必然とオタク属性の友達が多かった。

 懐かしさを感じながら、ユウリはホシの頬と首筋の中間あたりに手を添えてあげる。

「はぅぅぅぅうんっ……♡」
「これで…いいですか?」
「ふぁい、ありがとうございます…一生の思い出です……っ!」
「……」

(可愛い子だなぁ)
 
 ユウリは「よかったです」と言い、優しく微笑んで、次の候補生の面倒を見始めた。

 ─────────────────────────────────────


 本日のスケジュールをこなして部屋に戻って来たユウリ。
 部屋の扉が自動ドアなのは、もう慣れきっている。
 
「オニャ~」

 コペルニクスが笑顔でお出迎えしてくれる。

(かわぇぇ……ぁ、まずい、よだれ出ちゃう)

 だらしない笑顔で、愛猫を抱きあげた。

 コペルニクスは今日部屋で起こったことを、身振り手振りで一生懸命にお話ししてくれる。ユウリはこの時間が大好きだった。
 
「オニャ、にゃにゃ、オニャ」
「うんうん、それでー?」

 コペルニクスの紺色の毛並みに指を通す。
 彼のもちっとふわっとした大きな尻尾を鷲掴みにして、匂いをくんくん嗅いだ。

 我慢できなくなり、今度は尻尾を口のなかに入れる。モフ毛の味がした。

 コペルニクスは自慢の尻尾を食べられてるのに、嬉しそうにオニャオニャ言っている。
 ユウリにやられる事は、何でも嬉しいようだ。

「遅れて申し訳ありません、ユウリさま!」

 ドタドタとルーナが部屋に入って来た。
 途中で合流したらしいフランケンシュタインも一緒だ。

(別に急がなくてもいいのにね)

 ルーナは部屋に戻るなり、部屋の掃除をはじめる。

 付き人の仕事に部屋の掃除は含まれておらず、ましてや朝、昼、晩と3回も掃除する必要なんてない。

 全部はルーナの行き過ぎた献身ゆえだ。

「ユウリさま、それでは僭越ながら、身体を拭かせていただきます、はぁ…はぁ…!」

 ちなみにルーナもかなり、ユウリオタクな部分があった。裸体を拭く時に、興奮してるのは恐らくそっち系の子だからだろう。

「1日に3回も身体を拭く必要ないですよ?」
「い、いえ、そういう訳には参りません!」
「そう?」

(わたし、臭いのかなぁ。そうだよね…だって異世界来てから、たまに森で水浴びする以外は、体を吹いてるだけだもんね……)

 湯船に浸かることは、異世界では高級な体験だ。神殿の役職者、貴族、財力者。お風呂に入る習慣はこうした一部の人間のもの。

 孤児院暮らしの聖女候補生には縁遠い。

(はぁ…コペルニクスもわたしのこと本当はくさいけど我慢してくれてるのかな…? たってるだけで野生のモフモンに囲まれる夢は遠そうだなぁ…)

 ユウリはポロリと涙を流す。
 彼女の心配は、望みとなり、望みは彼女の内包する奇跡の力と結びついて魔法となる。

 ホタルが数匹どこからともなく現れ、コペルニクスを抱く体を、聖なる光が包んだ。

「あれ? いま、ユウリさま、光りました?」
「わたしはホタルじゃないですよ」
「いや、そうですけども…」

 ルーナは「ユウリさまが尊過ぎるからかなぁ……」と納得する事にした。

 体を温かいタオルで拭き終える。
 ルーナのお楽しみ時間はおしまいだ。
 
「はあ……」

 1日の楽しみが全て終わると、途端にため息が漏れた。

 ルーナは元気なく、お湯の桶を片付ける。

 ユウリは足元でおでこを擦り付けてくるフランを抱きかかえ、両手にモフしながら、付き人の背中を見ていた。

(何か、悩みがあるのかな? そういえば、なんとかテストが近いって言ってたような)

 聞いてみる事にした。

「何か悩み事ですか、ルーナ」
「ユウリさま……いえ、大したことでは無いのです」
「それでも、言ってみてください。わたしは今日たくさんの候補生たちのお悩み解決してんです」
「でも、ユウリさまにお手をわずらわせる訳には……」
「言ってください、わたしたちは主従、泣くも笑うもいっしょの相棒じゃないですか」
「オニャ」
「メェエ」

 コペルニクスもフランも「我こそが真の相棒だけな……ッ」とツンデレ気味にエールを送る。

 ルーナは感極まり「はいっ…」と涙を堪えて言った。

「実はですね、ユウリさま──」

 ルーナは付き人がこなす日々の練習について話し始めた。 
 護衛者としての側面もある聖女の付き人には、少なからず戦う力が求められる。
 付き人たちは、候補生たちといない間は、聖女の身の回りの世話の練習や、格闘技能の訓練に時間をあてているのだとか。

(へえ…ルーナもわたしも知らないところで頑張ってるんだなぁ…本当に偉い子だなぁ)

 過保護なのが玉に傷だ。

「けれど、ユウリさま、わたし聞いちゃったんです……」
「聞いちゃった? 何をですか?」
「ユウリさまがもうすぐ卒業するかもって…!」

 話が飛んだ。
 ユウリは考える。

(確かに噂されてたなぁ。マハトレさんが来たのが、何か特別な通達をするためとかなんとか)

「だから、わたしも卒業する為に、最後の技能検定を取得しようと頑張ってるんです!」
「わたしと一緒にいるために……?」

 ルーナの懸命な姿に撃ち抜かれた。

(はぅ…なんて良い子なの。わたしはそんな尽くす価値のある人間じゃないのに)

 立派な候補生ではない。

 むしろ、ユウリは家出の計画もさりげなく立てたりしてる、かなり悪い子の分類だ。

「けど、わたし、まだ10歳だから全然、歳上の教官に認めてもらえなくて……卒業は、絶望的なんです」
「ルーナ……」

 どれほど優秀でも10歳の少女には、十分な護衛者としての力を身につけるのは難しい。

 理不尽をまえに、普段はアホほど元気なルーナは泣き出してしまった。
 憧れのユウリと共に道を歩めないのだ。数日後にせまった格闘技能検定に落ちれば、また1年間、受験資格を失ってしまう。

 ユウリの才能を考えれば、その空白の時間はあまりにもリスクが高く、その間にユウリが聖女になってしまえば、別の付き人が配属される事は目に見えていた。

「ユウリさま、わたし…今まで何人も主人に仕えて、でも、みんな3日目にはわたしから離れて行っちゃったんです……ユウリさまが初めてでした、こんなにお側に置いてくれたのは……っ」
「ルーナ、最後まで諦めちゃダメです。人生は何があるかわからないんですからね」

 ユウリは人生の終わりに起きた、奇跡の転生を思いだす。

(それに、モフモンバトルは最後まで諦めちゃダメだって、アッシュが言ってたしね)

 優しく銀髪をさするユウリの手。
 ルーナは涙を流し、胸に顔をうずめる。
 コペルニクスとフランは抱き合う2人を寂しそうに見ていた。

(女神さま、どうかルーナに理不尽に負けない、運命を覆すチカラをお与えください。どんなに強い敵にも負けない力を──)

 聖女候補生として女神に祈る癖がついてきていた。
 
 抱きしめあう二人の少女のうえに、青白い魔法陣が展開される。それは部屋の天井一面に広がるほど大きい。
 難解な紋様と羊の象形文字から、モッフ毛のカタチをした、聖なる力の塊がふる。
 それはルーナの体にあたると、じんわり温かくなって、綿飴のように溶けていった。

 ─────────────────────────────────────


 ──数日後

 夕食の席でユウリは不安な顔をしていた。
 付き人たちが訓練を終えて食堂に入ってくるなか、ルーナの姿だけが見当たらない。

(もしかして、検定に落ちたショックで、早まっていたり……!)

「メェエ」

 フランの鳴き声ひとつが、虫の知らせに聞こえる。

 ユウリはいても立ってもいられず、走りだした。

 食堂を飛び出して向かった先は、孤児院の別棟にある道場だ。

 道場は換気のために、複数の扉が開きっぱなしだった。
 ユウリはフランと一緒にのぞきこむ。

 老いた声が聞こえて来た。

「くっ……このわしが、まさか…10歳の少女に遅れを取るなんて、な。じゃが、良いだろう、例外中の例外じゃが、おぬしに検定合格の印を授けよう」

 道場の中では、大人が何人も倒れている。
 皆、息が上がって動かないでいた。
 真ん中では付き人たちの指導教官の、高齢のブジュツマスターが膝をついている。

 ユウリは何が起こってるのかわからない。

「あ、ユウリさま! やりましたよ、無事に格闘技能検定を取得できました!」
「え?」

 駆け寄ってきたルーナは、大変に嬉しそうにユウリの前で片膝をついた。
 汗でしっとり濡れた前髪からのぞく黄金の瞳は、澄み切っていて、晴れやかだ。

(あれ、思ってたのと違うけど……まいっか。合格できたなら、お祝いしてあげないとだよね!)

「おめでとう、ルーナ。これでまた、わたしのお世話してくれる期間が伸びってことね?」
「っ、はい! 左様でございます、ユウリさま!」
「そっ。それじゃ、さっそくわたしの行く手にレッドカーペットを敷いてもらおうかしら」
「っ、その、もこもこさんは嫌なのでは……? よろしいのですか……?!」
「当たり前です。さっ、はやく敷いてください」
「ははぁあ!」

 ユウリは今日くらいは、ルーナの好きにやらせてあげる事にした。

 道場のなかから、彼女たちを見ていたブジュツマスターは、若さの可能性を見て、満面の笑顔で気を失っていくのであった。

「武神の如き怪力、如何なる攻撃にも決して膝折らぬ胆力……見事なり……がく」
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