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第一章 殺人鬼の不幸
初デート その2
しおりを挟む魔術学院の近場にできたカフェ。
立地のせいもあって、店内は若い生徒たちでにぎわっている。
「先生! はい、コーヒーです!」
オプションでつけたミルクと砂糖を、ふんだんに入れたコーヒーが、クリスの手によって目の前にさしだされた。
肩をすくめて目頭をおさえる。
「わからないな、クリス。そのコーヒーはたったいま、あのウェイトレスが持って来たものだ。
そして私が注文したものだ。クリスに渡されずとも、それがコーヒーで、私のものだとはわかーー」
「もうっ! ごちゃごちゃ言ってないでくつろいでください!」
くつろげと言ってくつろげる人間がどれだけいるよか……いいや、この議論を持ち出したら、次こそあの大剣で、私のマグカップを破壊されそうだ。
ひとり薄く笑みを浮かべ、カップを口に運ぶ。
「どうですか!?」
「……うん、とっても美味しいよ。甘くて深い味だ」
マグカップに視線をおとす。
表面にミルクの脂肪分が浮いているのが、やや気になる。
だが、それは言わないでおく。
理由などない……ただ、なんとなくだ。
「それで先生、どんなことお話ししますか!」
ニコニコ嬉しそうに聞いてくるクリス。
殺人鬼といることのなにが楽しいのか。
勇者とはかくも勇ましく、理解に苦しむ存在だ。
思案するふりをして、指をひとつたてる。
「私はクリスのことをもっと知りたい。そう、特に君の特殊性には大変な興味がある」
「あたしの特殊性ですか?」
「そうだ。君の特殊性だ」
言葉を繰りかえすのは好きじゃない。
だが、これも勇者をふわけする方法を探すため。
クリスを私の物に出来るならなんだってしてやる。
「それって……やっぱりあたしの血のことですよね」
「そのとおりだ。勇者の力について聞きたい。どうすれば君をふわけ……もっと親密になれるか知るために」
あやうく本音がでそうになる。
これもクリスがいけない。
彼女は美しい、とてもかわいい顔をもっている。
私にとってクリスという素材は魅力的すぎる。
「あたしは、あまり話したくないなぁ……」
クリスは自分のカップに見つめて静かに言った。
しゅんとする少女の顔をうかがう。
探りが勘づかれたのか。
いや、そういう雰囲気ではない。
これは、これは、なにを考えているんだ。
わからない、ストレスだ……ストレスだ。
深呼吸をひとつ。
落ち着いたら、いいことを思いついた。
目を開き、オールバックを撫でつける。
「クリス、嫌なら話さなくていい……かもしれない」
慎重に言葉をえらび声にする。
「っ、先生、ごめん、先生は知ろうとしてくらたのに」
「平気だよ、クリス。んっん。もう行こうか。すこし外を歩こう」
これでいいはずだ。
他者が拒否することをやらせるのは傲慢。
私は違う。
見てみろ、三流神父、私は傲慢じゃないだろう?
⌛︎⌛︎⌛︎
残念なことに、カフェでは勇者の力について聞き出せなかった。
それどころか、神父の声が耳裏に聞こえたせいで、素早く話題を切りすぎる失態をおかした。
神父のせいで私はクリスを知る機会をうしなった。
日記とペンを、ふところからとりだす。
「あの……先生、なにしてるんですか?」
「見ればわかるだろう。君の先生は今、日記を書いているんだ」
花の咲き誇る庭園のなか。
向かいの机から、クリスは不満げな声をだした。
「そうじゃなくって、どうして今、それを書くんですかって聞いてるんです!」
「どこでなにをしようと全ては私の自由。クリス、君は美しい花の咲く庭園で、日記をつづることを禁じるのか?」
「えぇ、もう禁じます! 花見ましょうよ! お話しましょうよ! これデートですよね!?」
伸びてくる白い腕。
急いで日記を引っ込めて、コートの内側にしまう。
「チッ……仕方ない。わかった、話をしようじゃないか。クリス、君の話だ」
「舌打ち禁止です。って、えーまた私の話ですかー?」
「ああ、そうだ……クリス、君はもうじきゴルディモア国立魔法大学を卒業する。この先、何をするかしっかり考えているのか」
先生らしい、無難な質問。
クリスの話題をはなしていれば、ぽろっと勇者の力について、何か有益な情報をこぼすかもしれない。
クリスはひじを抱き「んー」と、可愛らしくうなり顔をあげた。
「実家には帰りたくないし、働く必要もないし、先生をほうっておけないし……」
「いいや、先生のことはほうって置いてくれて、まったく構わないよ」
「そういうこと言いますか。やっぱり、あたしは先生のそばを離れるわけにはいかないですね。先生の病気が治ったら……旅にでるのもいいと思ったり」
「なるほど、つまり何も考えてはいない、ということだね」
成績は優秀だが、将来を決めかねている、か。
勇者の末裔なら道など決まっていると思うが、そうでもないらしい。
「どうして家に帰りたくないのかな? なにか嫌なことでも?」
「……実は、あたし、ちゃんとした勇者じゃないんですよ」
ちゃんとした勇者じゃない?
どういうことだ?
「先生は勇者アレスをどれくらい知っていますか。最初の勇者アレスは真っ赤な髪をしていて、
どこまでも深い緋の瞳をもち、身の丈をうわまわる大剣をたずさえていた……三勇者のなかでも、もっとも勇猛果敢な戦士だったとききます。
アレスの子孫にはその特徴と力が継承されます。しかし、その強大な力のせいか、アレスの直系には、かならずひとりの子どもしか生まれません。これは『勇者の呪い』と呼ばれています」
勇者の呪い。
話には聞いたことある。
その母親は勇者のこどもを一度しか産むことができないと。
一説には勇者の力の絶対量は、決まっているがために、力を人ひとりにしか継承できないからと言う。
これは次代の勇者が成長するにつれて、先代が力を失っていくことから、現代ではかなり有力な説だ。
「先生、これ見てください」
クリスは自身のポニーテールをつかみ、顔の前に持ってくると毛さきを見せつけてきた。
赤く、燃えるような美しい色が、金髪とグラデーションを作っている。
指にからめて、匂いをぜひとも嗅いでみたいな。
「あたしの髪の毛、お姉ちゃんとちがって赤いのが毛の先っちょだけなんです。
呼び出せる星剣アレスも、お姉ちゃんのより細いんです。先生、これどう思います?」
「どう思う、か。 クリスはクリス、その姉は姉だろう。個人が他者と競うことなど、さしたる意味をもたない。
競争に勝つ、もっとも賢い方法は競争しないこと。なにを気にする必要があるというのだ?」
人間とは孤高だ。
どこかの馬鹿は、ひとは助け合って生きているとほざくが、それは愚か者の集団にしかあてはまらない。
この社会は100万の愚かと、100人の本当の人間の姿に気づいた者で構成されている。
もちろん、私は後者だ。
「えへへ、やっぱり先生は優しい人ですね!」
「ん? なぜそんなに嬉しそうにしているんだ」
「嬉しいからですよ、先生が、先生でいてくれて。えへへ」
にへらぁっとだらしない笑顔の勇者。
今なら殺せそうだが……いや、やめておこう。
多分だが、上手くいかない。予感がする。
「でもですね、先生。あたしは気づいてほしかったんすよ。あたしがどうして、ちゃんとした勇者じゃないのか」
ああ、そうか。
そういえば教えてもらったようで、何ももらえていなかった。
「なに「今思い出した』って顔してるんですか! 体罰案件ですよ、それ!」
「わかった、わかったから席をたつんじゃない」
「もう……あたしの話ちゃんと聞いてました? あたし、お姉ちゃんがいるんですよ。ふたりです、勇者です!」
そうか。
たしかにおかしな話だ。
勇者の家系に子どもが二人もいるなんて。
「もしかして……双子か」
「そうなんです、先生。あたしたち姉妹は、やらかしちゃったんですよ。
一子相伝の受け継がれてきた勇者の力を、産まれたその瞬間に、ふたつにわけちゃったんですよ」
「なんと……これは驚いたな」
この話が本当なら三勇者の力関係がくずれることになる。
力の絶対量が、おなじならアレス以外のルーツ家、ミヤモト家の勇者の力が、アレスをうわまわり、
その逆ならば、アレス家は勇者をふたりも保有することになる。
「お姉ちゃんは真っ赤髪の毛で、パパが納得するくらい大きな剣をだせるのに、あたしにはそれができない。あたしはアレスの家にとっても、国家的にもいらない子なんですよ」
「不遇な運命だ。だが、幸運なことに私がいる。安心するといいよ、私はクリスを必要としている。多くは望まない。その美しい皮だけくれれば私は満足だ」
「ッ、やっぱり、先生は病気です……ッ!」
白い頬へ伸ばした手を、強烈にはたき落とされる。
一撃であかく腫れて、皮膚が裂けた。
痛い、あまりにも痛すぎる。
「もう決めました。卒業したら先生を実家につれていきます」
「ぐっ、ぐ、いたた……ぇ、どうしてだ。実家はいやなのだろう?」
出血する手をおさえながら、少女をまっすぐに見つめる。
「お姉ちゃんの奇跡の力で、強制的に病気を治してもらうんです。きっとお姉ちゃんならできるはずです! 覚悟しておいてくださいね、先生!」
アレスの勇者がもつ奇跡の力。
これは私の悪魔の力が、勇者に効かないひみつに繋がっているかもしれない。
実に興味深い。
これは勇者アレスの家にいく必要がありそうだ。
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