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第一章 再誕者の産声
第4話 誕生日
しおりを挟む本日もひたすら読書。
ここがラノベに出てくるファンタジーな異世界と判明した手前、おちおちバブ味を晒しているわけにはいかないのである。知識は武器なのだ、財産なのだ。
集めておいて損などありはしないだろう。
ただ今読んでいるこの古びた革表紙の本は「吸血鬼伝説」と黄金の刺繍で表紙に書かれている。おおよそ地方や地域に伝わる民謡、あるいは伝承本だろうか。
まぁそんな感じの本だ。
この本によると、どうにもこの世界には、本物の吸血鬼がでるらしい。
本当かどうか疑わしいところだか、異世界だからいそうっちゃいそうだ。
この本によると吸血鬼とは、人の血を吸い何百年と生きながらえ、強大な力を持ち人々に災厄をもたらすと言われる古の種族……らしい。
遥か昔、彼らは大陸の一部を支配して、吸血鬼の一時代を築き上げたこともあるそう。
しかし、人狼と呼ばれる、これまた強大な力を持つオオカミ人間達とぶつかり打倒されてしまったんだとか。
吸血鬼たちを倒してくれた人狼は今の時代では、ほとんどおとぎ話の存在として歴史から姿を消してしまったようだが、噂によると世界の裏側で今も人間世界を操っているんだとか。
吸血鬼の方は今もたまーに人を襲うらしく、一種の亜人、魔物とは別の「怪物」という未開生物や上位生物の一種に数えられるようだ。
「なるほど、そういった『怪物』を殺す専門家として噂には狩人というのも存在してるのか……興味深い」
古い背表紙の本をから目を離し、天井を仰ぎ見て意味深にほくそ笑んでみる。
特に意味がある行動ではない。
カッコいいと思ったからやった。
ペラペラと分厚いページをめくって伝承本を読み進めていく。
「うーん、スカラー・エールデンフォート……誰やねん。あらら、もう、あー、チッ、名前だけ書かれてもわかんねぇよ」
内容の薄っぺらい文字の羅列についつい舌打ちしてしまう。
この伝承本前半と後半で言ってることがまるっきり同じだ。前半部分だけで全ての情報は取得できてしまうという、とんだ厚み詐欺しているのが読み進めると判明した。
本を読破した結果、狩人と呼ばれる吸血鬼ハンターたちの組織が存在してるような事はわかった。
だが、肝心の狩人に関する記述はほとんどない。
なんかそれ関係っぽい人物名は出てきたけど、本当に名前だけだ。何をした人物なのかすら出てこない。
大きくため息を吐いてシヴァにもたれかかる。
またしても何気なく天井を見上げる。
「秘密結社……」
実に良い響きだ。
「秘密結社エージェント・アーカム、なんつって……ふふ」
そんなの想像するだけでかっこいいじゃないか。
ー
人は一生のうちに寒すぎて目が覚めてしまうという不思議な体験をする。
「ぅぅ、寒い……」
布団を手繰り寄せで大気に触れないよう身を守る。
こちらの世界にもちゃんと冬というものが存在しているらしく、この頃はすっかり寒くなってしまった。
ローレシア魔法王国は大陸の南側に位置し、日本と同じくはっきりとした四季をもつ国……それ故に、俺は異世界でも冬の恐怖に脅かされる事になる。
「うぅ本当に寒いな……ッ!」
また冬には不思議な現象が起こることがある。
朝に目を覚まし起き上がろうと布団をめくったと思った瞬間、気付いた時には布団の中へと戻っていたーーという謎の怪奇現象。
な、何を言ってるのかわからねーと思うが、おれも何をされたか……いや、何をしたかわからねぇ。
これは業界ではポルポル現象と呼ばれる、怪奇現象のひとつだ。
あぁずっと寝てたい。
このまま寝ていようか?
幼児である俺には今日は特にやるべきことはない。
そうだ、今日は一日寝て過ごそう。
俺は惰眠を貪る心の準備を進めた。
「アーカム起きろー。朝だぞー」
ふと部屋の外、階段の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
この声は、アディだ。
出張に行っていたはずでは?
いつ帰ってきたのだろうか。
少なくとも昨日の夜にはまだ帰ってなかったはずだ。
「おはようございます、父さん」
「ん、なんだ、起きてたいたのか。おはようアーク」
部屋の扉を開けて入ってきたのは見慣れた顔と声で浅く微笑む我が父アディだ。
「今起きたところです。父さん帰ってきてたんですね」
「あぁ今朝方ついたところだ。少し予定が長引いてな、寂しかったろう?」
「んーまぁ……そうですね、はい、寂しかったです」
「いま、結構考えたよね?」
決してそんなことはない。
「いえ、無事に帰ってきてくれて僕は嬉しいです!」
「おお! そうか、そうか! パパも嬉しいぞー!」
ちょっと満面の笑みで喜んで見せればいいすぐこれだ。
ふふん、ちょろいちょろい。
アディは優しく、愛情深い好感の持てる人物である。
俺にべっとりなのでたまに意地悪をしたくなるが、悪意があってのことではない。
こういうのは、ちょっといじってやらないとだめなのだ。
「めんどくさそうなすごい顔してない!? ねぇッ!?」
決してそんなことはない。
「気のせいですよ、父さんをいじってあげたり、構ってあげるのを面倒くさいだなんて思うわけないじゃないですか」
「なんか微妙に引っかかる言い方だけど……可愛いから良しとしよう」
アディは大抵何言っても許してくれるので気が楽だ。
これがエヴァだとすぐに「うりゅうりゅ!」とほっぺを擦り付けてくるのだから困ってしまう。
「ところでアーク、今日が何の日かわかるか?」
アディはニヤつきながら楽しそうな表情で聞いてきた。
「何か、特別な日なのですか?」
「へへ、まったく本ばかり読んでるのに、不勉強だぞぉ?」
クッ、なんてイラつく顔に声だ。
先ほどの意趣返しというわけかね、パッパよ?
「……何の日なんですか」
俺は降参して肩をすくめながら再度聞き返した。
「ふはは、今日はな! アーカム、お前の1歳の誕生日なのだ!」
「いや、それわかるかいッ!」
どうやら俺の誕生日だったようだ。
ー
アディに抱っこされ、仲良く階段を下りる。
居間に降りてくると、エヴァが微笑んで俺たちを迎えてくれた。エヴァの傍らには巨大柴犬のシヴァも待機していた。
食堂には、すでに朝食が用意されている。
普段より気合が入ってるのが一目でわかる豪華な献立だ。
朝早くから寒いからと、温かいシチューを用意してくれたエヴァの愛情に感謝しなければ。
「うーん、ボーノ」
ちなみに1歳児が普通に朝ごはん食べれるの? と疑問に思うかもしれない。
安心してほしい、俺も疑問に思っている。
「ズスゥ」
3ヶ月ほど前ーーつまり生後9ヶ月の段階で俺は卒乳し、それからだんだんと普通の食事にシフトしていっているが、今のところ特に問題は無い。
早めに卒乳した分は代わりにアディが授乳してもらってるだろうからエヴァ的ににも問題はないはずだ。
そんなことを思いつつ、絶品のシチューを味わい噛みしめる。
「ズスゥ。うーん、ヤミー」
適当にシチューの美味しさをリポートしながら、足先にあたるふわふわの毛並みを足で弄って楽しむ。
ちょうど俺の足元にいるシヴァも、ボウルのようなものでシチューを味わっているのだ。
「わぅう」
旨そうに食うなぁ。
お前は味がわかるタイプの柴犬だったか。
リポート上手な柴犬を眺めていると、ふと父親アディが咳払いをした。実にわざとらしい演技かかったものだ。
「アーク、誕生日おめでとう! パパとママから誕生日プレゼントだ!」
「お誕生日おめでとうアーク!」
アディとエヴァが急に騒ぎ出す。
「プレゼントですか」
「そうだぞ~!」
「ふふ!」
「わふわふ」
なるほど確かに誕生日にはプレゼントがないとな。
俺が納得していると、アディは机の脇に置いてあった箱をこちらに手渡してきた。
取り出された小さな長方形の箱を訝しんでいると、アディは、再び演技かかった咳払いひとつして名演説を始めた。
「パパたちからお前に送るのはパパたちの期待だ。パパはな確信してるんだ。お前は本気で望めば何にだってなれる、そんな天才なんだってな。
お前は生まれてからたった1年で喋ったり、歩いたり、本を読んだりあまつさえ卒乳までした。
パパも長く生きてきたけど、こんなことは見たことも、聞いたことも無かった。……まぁ、パパはそのおかげで毎晩ママのミルクを吸わせてもらって楽しませてもらってるから良ッ!っ、ボルァァチェンコフッ!?」
「もうバカ。くだらないこといってないで、しゃんと決めなさいよ!」
妻の右ストレートが夫の顔面を打ち抜く。
良いこと言おうとした雰囲気だったのにこれじゃ台無しだ。
「いてて……ま、まぁ、そんな感じだ。てことでほら、開けていいぞ、アーク」
「ぇ」
おい、待て、どんな感じだよ。結局何が言いたかったのか全然わからなかったじゃねぇか!
「ほら、開けて良いぞ」
「開けていいわよ、アーク!
「んぅ、えぇ、それじゃ、はい、遠慮なく」
いろいろツッコミたい気持ちはあったが、プレゼントを早く開けたかった気持ちが勝ったので今回はスルーすることにした。
「ほう、これは」
手元の箱に視線を落とせば、それがなかなか高級そうな重厚感のある箱である事に気がついた。
パッケージは中々いかめしい感じで、間違いなく高いものが中に入っていると確信させてくれる。
これはちょっと期待できるかもしれない。
俺は大きな期待を胸に、若干の抵抗を感じながら箱のフタを持ち上げた。
「お、お?」
中に入っているものを見て、どこかで見た既視感と懐かしさを覚える。
これ、どこかでーー。
「ぁ、これってもしかして杖ですか?」
「そうだアーク、お前の杖だ」
「前から魔法を習いたいって言ってたもんね!」
箱の中には大きめの、私が一本箸です、という風情の焦げ茶色で艶のある杖が入っていた。
「あーそういう……あれ、てか、え! でも良いんですか!? まだ俺には早いって言ってませんでした?」
遅れてやってきた認識にキョどり動揺を隠せない。
「あぁあの時はな。でも、もう1歳になったんだ。普通のガキだったらそれこそ魔術なんて扱えるわけもないが、お前は俺の息子だからな。信じてやるさ」
「伸びる才能を抑え込むなんて愚かなことよ。アーク。あなたは伸び伸びと好きなようにやればいいわ」
「うわぁ! ありがとうございます!」
「良いのよ、そのかわりアークのことはもう少し大人として扱うからね!」
「アーク、お前は常識の範疇には収まらないタイプの人間だ。お前は、俺たちの可愛い息子なのは変わらないが、幼い息子としては扱わないからな」
可愛い息子ではあるけど、幼い息子ではない、か。
でも俺まだ1歳なんだけど……。
核心をついた言葉ではあるけどさ。
「そいつは王都に行ったついでに買ってきた奴だ。杖尺は20センチ、短杖。大人用と比べたら結構短いな。
芯はガーゴイルの羽で、筒はトレントの幹だ。初心者用の安い杖から、上級者向けの高級品まで扱ってる、みんなの『オズワール・オザワ・オズレ工房』の信頼のある杖だぞ」
おぉ~いいな、かっこいいじゃん。
全然内容は入ってこないけど、なんかかっこいい。
「おっほほ~」
キモい笑い声を出しながら箱から杖を出し持ってみると、表面に凸凹がある事に気がついた。
「むむ、ここになんか……彫ってあるみたいですけど?」
杖の太くなっている方……というかもち手だが、そこに模様が彫られているようだった。
「彫刻を彫ってもらったんだ、オズワールは俺のちょっとした知り合いでな。頼んだらチャチャっとやってくれたのさ」
「彫刻ですか、なるほど。これはなんのエングレーブなんですか?」
「オズワールのサインと人狼マーク、らしい。なかなかかっこいいだろ?」
「おぉこれはこれは!」
確かにかっこいい。
何のタクティカルアドバンテージが無くてもカッコいいよコレ。
これなら山猫の気持ちがわかろうかと言うもの。
「いや、これはなんというか、もう、感動しました、ありがとうございます」
「ふふ、もう、そんなかしこまらなくていいのよ。明日からは私たちが魔法を教えてあげるわね」
「はは、カッコいいな~このーー」
エングレーブの彫られた杖に感激しながら相槌をうち会話をしつつ、なんとなしに手首にスナップを効かせて杖を振ってみる。
ーーハグルッ
変な音が聞こえた。
「わふっ!」
杖先から何かが飛び出したのだ。
と、同時に食堂の窓が吹き飛んだ。
「え……?」
いきなり傍の窓が吹き飛んで困惑しか湧かない。
どういうお笑い?
違うか。
「……あー、そうか……スゥー……とりあえずは、そうだな。アーク、杖を置いてみるとかどうだ?」
「……それは凄くいい案ですね」
再誕1年目の誕生日。
魔術師アーカム・アルドレアが生まれた。
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