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第一章 再誕者の産声
第7話 早撃ちアディフランツ
しおりを挟む「いやいや、にしても良い収穫だった。これは将来的にはお前に返すから、少し貸しててくれ」
アディはご機嫌に言い、少年の眼差しで淡く光る刀身を楽しそうに見つめている。男の子は何歳になっても剣が大好きなものだ。
うちの父親も例外ではなかったらしい。
「えぇいいですよ。ところでさっきちらっと言ってましたけど、父さんは冒険者だったんですね」
「ん? アークには言ってなかったか? 俺は昔、帝国の都で冒険者をしてた時期があってな。今は協会務めだが、現役の頃はそれなりに活躍してたんだぜ?」
「帝都、ですか」
ローレシア魔法王国の外の国については、家の世界地図からある程度の知識を習得済みだ。
この大陸における帝都といえば、それはすなわち帝国の首都に他ならない。
帝国は大陸の東にある大きな国だったはずだ。
たしかゲオニエス帝国とか言ったか。
国土はこの大陸で2番目に広く国力は極めて強大だ。大陸で最先進国を挙げるならまず筆頭でその国名があがるといっても過言じゃないとか。
「大都会で自由なモンスター退治とかすごくかっこいいと思いますけど……どうして冒険者やめちゃったんですか?」
「モンスター退治もいいけどな、まぁ色々面倒なこともあるのさ。まぁどうして、かって言われれば……うーん、いろいろ理由はあるんだけどな。一番の理由は……そうだな、お父さんと仲の悪い連中がいて、そいつらと喧嘩したら追い出されちゃったから、かな」
アディは苦笑いしながら困り顔で呟いた。
剣から目を離し空を見つめる様は遠い昔を懐かしんでいるようにも見える。
「なんか、恨み買うことでもしたんじゃないですか?」
率直に尋ねてみた。
今でこそ丸メガネなど掛けて紳士ぶってるが、うちの父親アディの若い頃なんて、女癖悪いチャランポランな姿しか想像できないのだ。
絶対に女のトラブルである。俺は確信している。
「恨み……か。当時はお父さんは冒険者としてそこそこ有名で『炎剣』なんて二つ名がついてたくらいだ。もしかするとそのせいで妬まれたりしたのかもな!」
「ふむ、言ってましたね。『炎剣』ですか」
出る杭は打たれる。
異世界でも同じということか。
女関係ではなさそうだ。
「ま、そのおかげでお母さんとも出会えたし、お前も生まれてきてくれた。何も後悔はしてないさ」
アディは昔のことを特に気にした様子はなかった。
本当になんとも思っていないのかもしれない。
「おっ、お母さんたち来たぞ」
「え、どこに?」
アディは剣から目を離し背後へのっそり振り返った。
俺もアディの向く方向へ顔を向ける。すると遥か向こうからエヴァと、その従者たる巨大な獣が口に何かくわえながら歩いてきてるのが見て取れた。
あんな遠くにいるのに気づくなんて......。
さすがは元冒険者「炎剣」アディフランツと言ったところか。
ー
町を歩きながら、アディは仕事場である魔術協会について簡単に説明してくれた。
魔術協会、それは魔法の研究、魔道具や杖、武器防具の製造や販売などを行う大きな組織だそうだ。
本部をお隣の国、アーケストレス魔術王国の王都に置き、様々な国に協会支部を持つ。
元の世界で言うなら大規模なグローバル企業といったところだ。
そんなところに務めるなんて。
アディはオレが思ってるよりずっと優秀なのかもしれない。丸メガネは飾りではなかったのだ。
「凄いところで働いてるんですね」
「はは、そんなことないさ。魔法が使えたら大体雇ってもらえる。魔法学校を卒業した奴らの多くは、ほとんど無条件に魔術協会で働けるくらいだ」
「ふむふむ」
大卒は無条件、と……。
「ほら、あれだぞ」
「お?」
魔術協会クルクマ支部が見えてきた。
人の出入りが絶えず、とても忙しそうだ。
「よし、見たな? それじゃ次はギルドに行こう。ほら、急げ、行くぞ」
「え、あ、でも、まだ中を見てないですよ?」
「中なんて、何も面白いものはないさ。見たいんだったら、また今度連れてきてやるから、な?」
「そんなに、急かさなくてもゆっくり見ればいいじゃない?」
アディが妙に急がせようとしてくる。
魔術協会の前に長居したくない理由でもあるのか?
「いや、それもそうなんだが、その、お母さんといっしょにいるとちょっとまずいんだ」
「え、私? なんで私なのよ」
「だって、トードが……あ、ほら来たよ」
「トード?」
アディは遠くへ視線を向け首を振っている。
「ヨォヨォ、こんにちはぁ! アディフランツさんヨォ! 見せ付けてくれるじゃねーかヨォ!」
視線を向けると、仕事へ行くときのアディと似た紺色のローブ来た男がこちらへ向かってきていた。
チンピラの香り纏うアディより若い男だ。
異世界ヤンキーというわけかな。
「あ、トード! あんたまたうちの旦那にイチャもんつけーー」
「先手必勝! ≪風打≫!」
ーーブウゥゥゥンッ
「なっ! ぐぁぁああああ!」
エヴァが何か言い終わる前に事は起こった。
チンピラの顔が、弾かれたのだ。
ちょうどアッパーカットを食らったかのよう。
「ぇ……」
体を少し浮かせ、チンピラ男は背中から地面に叩きつけられた。
苦しそうに咳を数回繰り返しアディを睨みつけている。
「く、ぃ、良い一撃、だった、ぜ……コクッ」
完全に停止。
「え、死んだッ!?」
「いや殺してないよ?」
驚愕するエヴァを抑えるアディはいつの間にか、杖をしまうモーションに入っている……って、待て、待て、それいつ抜いたの、パッパ……?
「あーもう可哀想に。アディ、さすがに問答無用すぎない……?」
「不毛な会話を繰り返した末、決闘して俺が勝つ。時間の無駄だよ。目を覚ます前に早く離れようか」
「まったく、トードも懲りないんだから。今度あったとき、慰めてあげないと」
「エヴァが優しくする分、全部俺にしわ寄せがくるんだけどなぁ」
「ふふ、ごめんね。でもアディなら大丈夫でしょ?」
「まぁ……大丈夫なんだけどねッ!」
エヴァとアディは何か通じ合ってるっぽいが、俺には意味がわからない。
「あの、父さんいったいどうゆうことで?」
魔術協会を離れながらさっきの珍出来事を尋ねた。
要約すると、みんなに人気のエヴァと結婚したアディは多くの人に恨まれているらしい。
さっきのトードという男はそのアディに恨みを持つ男の1人で、エヴァの魔術大学の頃からの知り合いだそうだ。そんで、学生のときエヴァと付き合っていたらしいんだと。
つまり、アレだ、元カレだ。
元カレの未練たらたら案件。
ファンタジー異世界も俗なことしてくれる。
ずいぶんと大胆に雰囲気をぶち壊す奴だ。
また、さっきの魔法が凄かったなどと言って、アディをヨイショして持上げて帰ったところ、アディは満更でもなさそうに恥ずかしそうに苦笑いをしていた。
後から、聞いた話だかアディはかっこいいところを俺に見せたくてあの早撃ちを披露したのだそうだ。
その早撃ちの犠牲になったトードは可哀想だが、エヴァの元カレがどうなろうと俺の知った事ではない。
家に着くころにはすっかり日が落ちて、あたりは暗くなっていた。暗い森の中、木々の間から見えるアルドレア邸はただの心スポと化していた。
え、ここに泊まるんですか?
と言いたくなるくらいの不気味さだ。
ま、ここ俺ん家なんだけどね。
ー
ーーアディ視点ーー
-
その日の夜。
俺はなかなか寝付けないでいた。
今朝のアークの魔法ついて考えていたからだ。
息子アーカムが杖を軽く振っただけで食堂の窓を破壊してしまったこと、そのこと自体大したことではないとアークには告げたが……あれは嘘だ。
そんな「うっかり出ちゃいました!」という感じで発動できるほど魔法という物は単純ではない。
少なくとも「杖振ったら出ました」なんて今まで聞いたことがなかった。あれは、成長したらすごいことになるかもしれないな。
「はぁ」
才能に恵まれたのは良い。
だが、大きすぎる才能は自身を見失わせる。
これからの俺たちの教育しだいであいつは英雄にも厄災にもなりえる。
なんせアークには俺の血が入っているんだから。
明日からは、またしばらく仕事に戻るので、魔法の勉強を付きっ切りでは見てはやれない。
不安だ。
凄く不安だ。
息子を正しく教育できるか。
自分は模範となるような父親になれているか。
アイリスに一旦見てもらった方がいいかもしれん。
「大丈夫よ、アディ」
隣から声が聞こえた。
世界一可愛くて美しい女性だけが持つ女神の声。
「エヴァ」
「あなたは立派よ。あなたが何に心配してるかはわかってる。アークには私がついてるんだから、何も心配しなくていいわ」
本当によく出来た嫁だ。
彼女はその可愛らしいおでこを俺の背に擦りつけ、甘えてきながらもちゃんと理解してくれているのだから。
そうさ、別に1人で悩む必要はないんだ。
俺はもう独りじゃないんだ。
これからはいつだって2人で家族を守っていけばいいんだ。お互いがお互いを助け合って、そうやって歩んでいく……俺はもう独りじゃないんだ。
「それにあの子はしっかりしてる、だから大丈夫よ」
「そうだ、な……」
女神様が上に乗っかって来た。
「アディ……」
おっとっと、彼女の吐息すらもったいないんだから全部吸って行かないとな。へへへ、さて今夜はどんな風に、この女神さまを料理してやるか。楽しみだ。
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