超転生者:最強魔術師目指して勉強はじめたけど……どこかで予定が狂った件について

ファンタスティック小説家

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第二章 現界の超能力者

第41話 理想を継ぐ者

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 クルクマの町、テニールハウス。

 師匠は以前よりやや老けて見えた。
 未だに痛々しく残った傷があの時からの時間を忘れさせない。

 回復が遅れたせいというのもある、が通常はあれほどの大怪我をしたら希少なポーションに「医者」による特殊外科手術がなければ傷を癒せないのだという。

 師匠によると俺の方の傷の治りが魔力量うんぬんじゃなくても異常ということだった。
 やはり血の恩恵を受けれているのだろう。

「アーカム、君にいくつか聞いておくこと……そして決めてもらわなければいけないことがある」
「はい」
「まず1つ目だ。森での出来事からここまでいろいろ忙しかったせいで聞けなかったが、君はどうしてあの場所に行こうと思ったんだい?」

 やっぱその質問だよな。

 すっかり忘れてしまっていたが師匠にとってはまずそこからが疑問なのだ。
 弟子が突然森に行くと言い出し、それについていったら偶然にもとんでもない敵に遭遇してしまった。

 明らかに今の俺は怪しい。
 すべてを偶然で片付けられないくらいには。

 わかってはいるんだ。
 納得のいく説明をしなければいけないことは。
 だが、俺にはなんであそこに行かなければならないと思ったのか本当にわからないのである。

 結局記憶を刺激されたような感覚に導かれてあんな森の奥地まで行ってしまったがそこにいた者、あった物は俺には到底理解できないものだった。

 軍人やあのオーバーテクノロジーを感じさせる金属の塊だったりとか、きっと元の世界と関係あることくらいは漠然とわかるが……あの男が何者なのかなんて確かなことは何も言えない。

 それにもし言えたとしても、それは俺が転生者であることを師匠に教えなければいけないことと同義だ。

 師匠は今まで秘密にしていた俺を許してくれるだろうか?
 わからない。
 やはり危険な気がする。

 特に軍人の脅威を知ったこのタイミングは最悪だ。
 異世界の存在を知らせたとして師匠が俺を軍人の仲間と考えるかもわからない。

 俺は師匠の疑心を完全に晴らすことができない。

 だとすれば、俺が転生者であることを狩人に教えるにはあまりにもリスクが高すぎる。
 だから俺は今日も作り話をするしかないのだ。

「師匠実はーー」
「ふむ」

 師匠には悪いと思うが真実を話すことはできない。

 俺はまた嘘をついた。

 ー

 師匠に事前に準備していた嘘の事情を説明した。

 やれ昼寝をしたらお告げが来たとか、予知夢を見ることがあって今回は森での出来事を知ることができたとか、突拍子もないことを言った。

 師匠はなんともいえないどこか寂しそうな、悲しそうな表情で聞いていた。

 もしかしたら嘘だってバレてるのかもしれない。
 だが仕方ないのだこればっかりは。

「事情はわかったよ。アーカム、ありがとう。君のおかげであの怪物が人の世に出る前に仕留めることができた。やつにとどめを刺せたのは君の魔法のおかげだ」
「いえ、そんなことは……し、師匠、結局あの謎の男は死んだんですかね?」
「あぁ間違いなくね。ちりひとつ残ってはいないだろうねぇ」
「そうですか」

 無事殺せていたのなら問題ない。
 問題はない……のだが、少し心残りがある。

 別に人を殺したことにショックを受けているわけではないのだが、あの男とはもっとたくさん話をしたかったと今になって思うのだ。

 あの時はシヴァを殺されたと思っていたから、無我夢中で殺すことだけを考えて消し飛ばしてしまった。
 が、よくよく考えてみたら、あの男にはもう戦意は無かったのだから、ゆっくりと腰を据えて話し合いを試みても良かったかもしれない。

 そうすれば森にあった金属の箱のこともわかったかもしれないのだ。

「あ、そういえばあの金属の箱はどうなりました?」

 調べれば何かわかるかもしれないとふと思いつく。

「あの箱はアーカムの魔法で粉々に砕け散ってしまったよ。相当な高温だったのか、もはや金属片すら溶けて森の養分になっていたねぇ」
「そう、ですか……はぁ……」

 落胆のため息が漏れる。
 あそこまでしたのに何も残らなかった。

 町中で聞こえたあの耳の奥をくすぐるような高音の奇怪音の正体も、直後に流れ込んできたイメージの情報も何もわからないまま……。
 あの国旗の意味さえも未だに謎だ。

 自分で情報源をぶっ壊してしまうなんて、相変わらずの無能っぷりに失望してしまう。

「そんな落ち込むものじゃない。森の奥でくすぶっていた脅威を潰し、立派に狩人候補者としての役目を果たしたんだ」

 柔和な笑みで師匠は笑いかけてくる。
 そのしわくちゃも手で机の上の俺の手を包み込むように握ってきた。
 すごく温かい手だ。

「本当に素晴らしいよアーカム。魔法まで使えるようになるなんて」
「少しだけ、ですよ……」

 謙遜でもなんでもない事実を師匠につたえる。
 魔法の話を始めるなんて、もしかして師匠は俺が杖を壊したこと追求しようとしているのか?

「ズズゥ」

 ーーパチッパチッ

 茶のすすり、暖炉で弾ける薪の音。
 乾いた空気によく響く。

 うん、静かだな。

「あー森での魔法以外にも魔法を覚えました。あと1つオリジナルスペルっぽいのも出来たんですよ」

 沈黙に耐えかねて話題を振る。
 師匠に杖のことを言及される前に、先にこちらから話題を振ってしまおう。

「ほぉもう魔法を覚えたかい」
「えぇ、まぁ」

 ここで覚えた魔法が≪≫とよくわからない≪魔撃まげき≫によくわからない≪無名むめい≫であることは言わない。

 余計な事言って師匠の落胆する顔を見たくないし。

「流石は天才アーカム・アルドレアだ。森での大規模攻撃魔法といいもうオリジナルスペルを開発してしまうなんてねぇ。なんていう魔法なんだい?」
「ぇ? 名前ですか?」
「そうだよ? 魔法には名前をつけるものだろう?」
「名前……名前は一応ある無名って今読んでますけど、まだちゃんとは付けてないんですよ。ほら、魔術協会に正式に登録するときでも遅くないかなって思ってまして!」
「ほう、そうかい。それなら構わないんのだが……魔法の登録は必ずしもした方が良いわけじゃない事を伝えておこう。特にオリジナルスペルは自分の奥の手として取っておくのも1つのやり方だ」
「なるほど、確かに」

 奥の手としての自分の独自の魔法……つまり必殺技ということか。
 お、となるともしや森でのあの魔力の全開放みたいな魔法にも一応名前とか付けた方がいいのかな?

「そうですね、よく考えて決めることにします」

 頭の中でアレやコレやと様々な案がめぐり始める。
 さて、どんな名前にしてやろうか。

「ふむ、そうしなさい…………もし、君がまだ狩人の道に進んでもいいと思っているなら尚更なおさらね」

 師匠は暗い表情で言った。寂しそうだ。

 もしかしたら師匠は森での事件で俺が狩人候補を降りると考えているのかもしれない。

 正直、自分でもどうしたいのかわからない。

 正義の秘密結社には憧れる。
 けれど、あんな危険な戦いに身を投じていたら命がいくつあっても足らないような気がする。

 今回はシヴァに1回死んでもらうことで、なんとか生き残ったが……次がどうなるかなんてわからない。

 別に戦うことは自体は嫌いじゃない。
 いいや、むしろ好きだ。

 男の子が一度は憧れる高速で動き回る戦闘。
 そんでもって剣を振って斬り合うようなかっこいい戦闘を自分で行えるのは、本当に楽しいことなんだ。

 師匠との模擬戦だってそれなりに楽しんでやって来てここまで来た。
 もちろん辛いこともその100倍くらいあったけど。

 ただ、戦いの場に自分の命の危険が加わるとなると途端に楽しい戦いでは無くなってしまうのも事実。

 きっと狩人になったら世界の恐ろしい怪物たち相手に戦いを挑まなければいけなくなる。

 果たしてその時、俺は戦えるのか……。
 そんなことまだわからない。
 それにだ。
 俺は魔術大学にも行ってみたい。

 異世界の学校で魔法を勉強するなんてそんなの全ラノベ読者が憧れるに決まってる。
 いや、それこそ読者だけじゃない。
 全人類みんなの憧れだろ、魔法学校なんて。

 俺はレトレシア魔術大学に行きたい。
 とりあえずその旨をしっかり師匠に伝えなければいけない。

「あの、そのことなんですが、師匠……」
「…………ふむ」

 言いづれぇ。
 机の上に置かれた温かいカップに勇気をもらうように両手で包み込む。

「俺が子供の頃から魔法に執着していたのはご存知だと思うのですが……あの、ですね」

 なんか師匠を裏切るみたいだな、コレ。

「あのー……ですね……んっんっ! 師匠、俺は来年からレトレシア魔術大学に行くことに決めました。だからここで修行を続けることは出来ない……です」

 言っちまった。
 師匠の顔を上目遣いでうかがう。

「ふむ、そうか……やっと自分が本当にやりたいことを出来るようになったんだねぇ」
「そうです、師匠……」

 師匠は意外にも、俺が道半ばで狩人を断念することに落胆していないようだった。

 ある意味じゃ当然かもしれないな。
 いつも大事な話をしている時にふざけた作り話ばっかりするような奴に狩人候補を降りられたって……なんとも思わないだろう。

「いいんだよ、自分のやりたい用にすれば良い。それが君の人生を一番輝かせる最たる手段なのだから」
「その、すみません」

 呼吸が苦しい。俺は、師匠を、裏切った。
 心をわじつかみにされているような気分だ。

 師匠に引き止めて欲しかったのか?
 師匠にもっと期待してもらいたかったのか?

 俺は……どっちなんだ?

「ずっと剣を振ってきましけど……それでもやっぱり魔法をやりたいんです、学校にも行ってみたいんです。すみません今までこんなにお世話になったのに……」

 5年もの間、俺のことを鍛え上げてくれた師匠。

 俺が今まで剣を振ってきたのはそれしかなかったから、他にやりたいことがなかったからだ。
 ある意味でストイックなかの日々は惰性の産物だ。

 師匠はあれほど尽くしてくれたのに、やりたい事が出来たからぅて、すぐに剣から魔法に乗り換えるなんて……。

 明らかな裏切り。

 師匠は俺のことを最後の弟子として立派な狩人になれるように、多くの時間を俺に当ててくれたのに。
 自分がなれなかった「理想の狩人」の夢を俺に託して育ててくれていたのに。

 それを俺は裏切った。

「アーカム」
「はい」
「レトレシア魔術大学を卒業するのはいつだね?」
「……?」

 脳内で尊敬する師匠を裏切ってしまう、という悲劇の展開に酔っていたところへ師匠の声。
 今いいところだったのでそっとしといてよ。

「えーと、僕は10歳から入学っていうですから、子犬学生として4年、それで犬学生として2年、狼学生になるとしたらさらにそこから2年かかるので……6年か8年ですかね? 留年とかしなければですが」
「ふむ……まぁそれくらいならまだ大丈夫か……」

 レトレシア魔術大学は基本的に14歳以上の場合は犬学生として6年勉強して卒業すれば「魔法大学卒」を名乗ることが出来る。つまり学士だ。

 だが10歳から子犬学生として4年勉強することで、14歳になって犬学生に上がった時に、通常犬学生として6年かかるところを2年で卒業することも可能だ。

 実質的に掛かる年数は変わらないが、一般的に犬学生として6年よりも、子犬4年と犬2年で卒業した方が優秀だとされている。

 まぁ10歳から魔術大学に行くなんて才能を見出されたか、そういう家系なのかの二択だ。
 すっごくお金もかかるしな。

 だからゲンゼの家なんかはかなり無理して、息子をレトレシアに送り出すのだと予想できたりもする。

「おや? だがアーカム、君はまだ8歳だろう。レトレシアは入学を認めてくれたのかい?」

 俺の年齢を知る者なら当然の疑問か。

「えぇ、一応。そこは母さんが何としてねじ込んでくれました。それにほら俺ってかなり成長早いんで見た目的な意味ではまったく問題ないんですよ」
「なるほど。たしかエヴァリーンはレトレシアの卒業生だったねぇ」

 エヴァは学生時代から美人で優秀な魔術師として先生からも大人気だったので、8歳の息子を10歳として母校に入学させるなど他愛のないことなのだろう。

「ほっほっ、君のお母さんはどうしても私から君を引き離したいようだねぇ。まぁ、無理もないか、こんな老いぼれの役立たず狩人じゃあ」
「どうでしょうか。そういう狙いはないんじゃないかと思いますよ」

 師匠が自虐的な思考になっているのでやんわりとフォローを入れておく。

「まぁどうあれ、アーカムは本当の意味で剣、拳、柔、魔を収めることが出来るようになったわけだ」
「あー……ぁ?」

 なんでこのタイミングで4科目の話をするのだろうか。ちょっと話がずれてる気がするが。

「アーカム、犬でも狼でも存分にやりたいことをやってきなさい。私は首を長くして待っているからねぇ」
「ぇ、え? あーいや王都まで2日ですしちょくちょく帰ってはきますよ? ぁれ? なんか……」

 やはり師匠と話が噛み合っていないような気がする。

「そういえばそうだなぇ、だとしたら定期的に腕が鈍ってないか確かめることが出来そうだねぇ……いや、もう1人育てても良いかもしれない、かねぇ」
「………….ん?」

 うん、絶対に師匠と話が噛み合っていないな。
 腕が鈍るって剣とかの事だろうか?
 もう1人育てる?

「本気の修行をしてもらうにもいい時期だーー」
「…………ぁ」

 ようやくわかった。
 そういうことですかい。

「師匠、俺は卒業したらまた狩人を目指すということでよろしいのでしょうか?」
「おや? 違うのかい? レザー流『狩人の修行』として必要な魔術を収めるために魔術大学へ行くんだろう?」

 やはりそうだ。

 師匠は俺が魔術大学へ入学したところで「狩人の修行」を終わらせるつもりはなかったらしい。
 卒業したら再び再開ということだ。

「そう、ですか……ふむふむ」

 うん、なかなか名案、というかそうすれば別に師匠を裏切らずに済むじゃないか。
 これは盲点だった、気づかなかったぜ。

 大学を卒業したらすぐに就職という日本の固定観念のせいでこんな簡単なことに気づけないとはな。

「んっん! えぇ! もちろん! 俺は師匠の『理想の狩人』になってみせますよ!」
「ほっほっ、これは嬉しいねぇ」

 よし、いいぞ。

 師匠を裏切ってしまうことを覚悟していたが、そうなことにならずに済みそうである。

 師匠は最初から俺よりもずっと長い目で物事を見て「狩人の修行」を行うつもりだったのだ。流石である。

 ただ、1つ不安なこともある。

「あの師匠、6年ないしは8年の間は俺ひとりで剣や体術を鍛えればいいんでしょうか?」

 これまでは師匠がいたから毎日の修行だって耐えられたのだ。

 部活だって顧問がいなければサボってしまうように、俺も1人で鍛え続ける自信はちょっとない。

「師匠が王都に引っ越してくれれば……」
「悪いねぇ、アーカム。それは出来ない。そんなことをしてしまったらエヴァリーンに申し訳が立たないじゃないか」

 師匠は指を立てて、選択肢を提示してくる。

「さっきのは冗談さ。ここから先どうするかは君の自由なんだ。狩人を目指すのも卒業して魔術協会に務めるのだって良い。私が提示するのは卒業後の1つの進路。もちろんアーカムの先生としては、6年ないしは8年後も狩人の道を歩み続けて欲しいがね」

 厳格な声音で噛みしめるようゆっくり語っていく。

「エヴァリーンを裏切らないためにも、私はアーカムが学生のうちは指導をしないことするかねぇ」

 師匠もエヴァへの義理を通そうとしているか。
 それだから傍で狩人の道を歩むように強制するのではなく6年、8年後の俺に選択肢を投げているのだ。

 ん? 別に卒業後に投げてるわけじゃないか?
 学生のうちでもいいのか?

 いまいち今の説明のされ方だと分からなかったが、とりあえず今は目先の問題だ。

「それで俺の修行はどうすればいいんですか?
「そうだねぇ、それについてだがーー」

 師匠は王都でも剣や体術の修行をやってくれそうな人のアテを教えてくれた。
 今後はその人をアテにするように指示をされた。
 なにやら俺の兄弟子にあたる人物らしい。
 会うのが楽しみだ。

「はい! ありがとうございます!」
「あぁ、頑張るんだよ。ほらもうお帰り。またエヴァリーンにティーをかけられたらたまらないからねぇ」

 師匠の冗談めかした言葉に窓の外を見やる。
 そして、完全に日が沈んてしまったのに気づいた。

「まずっ! それでは、師匠今日は帰ります!」
「あぁまたねぇ……次会う時はきっと狩人だ」
「……?」

 師匠の声は小さく、俺は最後までその言葉を聞き取る事はできなかった。

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