超転生者:最強魔術師目指して勉強はじめたけど……どこかで予定が狂った件について

ファンタスティック小説家

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第四章 巡り会う傑物達

第65話 まだ青すぎる自分

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 春、それは始まりの季節。

 花々が長い冬を越えて色とりどりに咲き誇る時期。

 冬眠から目覚めた小動物たちが草原を、森を、山を駆け回り、新たな物語の始まりの予感を知らせてくれる。

 温かい日差しが大地に海に、そしてここローレシアにも降り注ぎ皆の気持ちを高揚させていく。

 2月半ば、ローレシア魔法王国王都ローレシアに来て2週間が経過した。

 3月の頭に行われるレトレシア魔術大学の入学式2週間前から、大学校舎のあるレトレシア区には多くの人間が出入りする。

 言わずもがなレトレシア魔術大学に入学するために、遠方はるばるやってきた新入生たち。

 自分たちの息子、娘の門出を祝うその両親たち。

 急増する来都者のために人員を増やして対応する宿場や、酒場にレストランのアルバイトたち。

 大量のローブに教科書、その他学用品の納入業者に、入学式に参列する著名人方々、多くの人間がこの時期のレトレシア区には集まる。

 特に今日からは凄い。

「おぉもう人がいるよ」
「はやいねー! みんな気合い入ってるう!」

 マリと共に校門前に佇み校舎前広場を傍観する。

 朝早く「トチクルイ荘」を出た俺たちはレトレシア魔術大学校門前にやってきていた。

 ーーカチッ

 チラリと時間を確認する。
 ちょうど時刻は午前10時と言ったところか。

「ん? あー! アーカム時計持ってるの! カッコいい! 見せてよ!」
「んふふ、別にいいよ。ふふ」

 小学生が仕掛け筆箱を友達に自慢する感覚で、マリに懐中時計を見せびらかす。

 この世界での携帯時計の普及率はまだまだ低い。

 時計自体が高価なものというのもあるが、携帯できる時計がそもそも最新のものであるため、未だ庶民にとっては一般的ではないのだ。

 時計屋の主人トーマス・エジサンの話によると、もっぱら懐中時計なんて物を持つのは貴族か商人くらいしかいないとのこと。

 アパートで生計を立てているトチクルイ家のマリにとっては珍しい物に違いない。

「へぇ! いいなぁ! カッコいい!」
「はは、そうかな、そうかな!」
「″ちょっと、なんでデレデレしてるの、アーカム!″」

 精神世界から飛び出してきたアーカムを押し戻す。

「″うぅ! ちょっと! ぁあ!″」
「やれやれ」

 先ほどからちょいちょい銀髪アーカムが騒がしくなるが、どうかしたんだろうか?
 別にデレデレなんてしてないはずなのだが。

「やっぱりアーカムの家ってお金持ちなんだ! この前もあんな大金ぽんって出しちゃうし!」
「ま、まぁお金持ちっちゃ、お金持ち、かな?」

 初心者用の杖を買うのに、ヒィヒィ言ってたことを思い出す。

 アルドレア家は決して貧しい家ではないのだが、かといってお金持ちと言うわけではない。
 中流という言葉がふさわしい、生活には困ってないというだけの家だ。

「ぅ、それじゃ、いこっか」
「そうだね」

 マリにトール・デ・ビョーンを返してもらい、レトレシア魔術大学の正門をくぐる。

 正門から校舎までレンガで出来た一本道が100程メートル続いていて、道の両サイドには鮮やかな色彩の花々が植えられていた。

 広大な敷地の中央にそびえ立つ巨大なお城には至る所に、幻獣を模したような彫刻があり、
 校舎自体が見事なまでに洗練された、壮大なひとつの芸術品となっているようだった。

 エヴァの話だと、この城の内側に巨大な中庭があるとのことなのでそちらも楽しみだ。

 マリとあれが凄い、なにが凄いなど話しながら大学校舎へ入っていく。

 レトレシアの玄関は見上げるほどの高さの天井を持つ大きなホールとなっていた。

「うわぁ、いちいちデカイな」
「へへ、すごいでしょ!」

 開いた口が塞がらず、口内が乾燥してきて初めて自分が口を開きっぱなしだったことに気づく。

 なぜかマリは自慢げだ。
 玄関ホールから、案内員の指示通りに進み大学内でも使用頻度の高い施設、決闘場へ向かう。

「おっほ、これはまた、デカイな」
「うわぁ~」

 決闘場は大きく、コロッセオような作りになっている。

 修練場と比べたら小さく感じるが、それでも数千人単位の人がが入ることが出来そうだ。

 ふと中央の円形のリングを見てある事に気がついた。

「あれ、魔法陣じゃん」
「あ、本当だ! なんかぐちゃぐちゃしてるね」

 中央リングの石床にびっしりと魔法陣が描かれているのだ。

 魔術言語を読める身としてはこういった魔法陣に遭遇すると、ついつい読みたくなってしまう。
 英語が得意な奴が町中の英語表記をよみたくなる気持ちと同じかもしれない。

 顎に手を当てて頭をひねる。

「うーん……エル、タ、トゥル、ドゥル、タ、タ、コスタ、カルト、ティ、トゥフ……ん? いや、そうか.……タャ、タクト、ベス、ペネ、イワ 、ト、サクトーー」

「え、なに、なに、どうしたのアーカム!?」

「ェナ、トリ、サァハで……次がタ、マナ、エル、コルタ、サクト、タィヤ、ァカで、違うか、あそこが飛ぶから、トリ、トル……トリタス……難しいな、なんなんだろうこれ? なんの魔法陣なんだ?」

 中央リングに描かれた魔法陣はあまりにも複雑だった。

 現在リングの上には制服ロープや教科書など学用品を売る販売員やら、それらを購入する新入生で溢れている。

 そのため魔法陣の全体像を把握できるわけではない。

 しかし見えているところの魔法陣だけ読み取るだけでも、非常に高度な魔法の魔法陣なのはわかる。

 単語数からして最低でも三式の魔法、魔法陣に組み込まれている単語傾向からしておそらく魔力属性の魔法である事がわかるくらいだろうか。

「ちょっと無視しないでよ、何してんのー!?」

 傍で騒がしく跳ね回っているマリに向き直る。

「あぁ、あの魔法陣がなんの魔法なのか考えてたんだよ」
「うぇ!? アーカムって魔法陣わかるの?」
「まぁね。昔、魔術言語を勉強する機会があってさ」

 かつても魔法を狂気的に猛勉強した日々を思い出す。

 毎日毎日、朝から晩まで家の魔術の教科書を読み漁った。

 昔は、あの猛勉強の日々が自分にとって無駄な時間だったと思って絶望したこともあった。

 なんの役にも立たない、クソみたいな時間を過ごしたってヤケになったこともあった。

 だが、あの日々によって蓄積された知識は今こうして活用されている。

 俺はエヴァの母校であり歴史ある名門魔法学校、レトレシア魔術大学に入学するんだ。

 かつての苦しい時間は無駄にはならない。

 山や草原を走り込んで、剣の修行をして、拳を鍛えて、柔を知って、森で死にそうになって、一周回って魔術に戻ってきた。

 タングじいさんの言った事は嘘じゃなかった。
 無駄なんかじゃない、きっと役に立つ時が来る。
 年長者の言う事は聞いてみるものだな。

「うわぁ! すごいね! アーカムは!」

 マリがキラキラした目でこちらを見つめてくる。

「お金持ちで! 魔法も得意なんだね!」
「うっ! ぅ、うん、ま、まぁ……」

 勢いに押されて肯定してしまった。

 本当はお金持ちでも無いし、魔法なんて得意とはとても言えたもんじゃないのに。

「あ、あの、マリ?」
「ん? なーに?」

 これじゃいけねぇ。
 また俺は同じ失敗を繰り返すつもりか?
 前世の小学生の時と一緒だ。
 なんか周りから凄いと思われてしまう、やっかいな役回り。

 よし、ちゃんと否定しよう。
 俺は別に魔法なんて得意じゃありませんってな。

「えっと、その、だな……」
「それで、アレがなんの魔法陣なのかわかった?」

 可愛らしい笑みを作ってマリが聞いてくる。

「んぅ、それは、ちょっとわからない、けど」
「けど?」

 魔法陣自体は複雑すぎて読み取れないが、以前サティから聞いた決闘場での決闘と、それ以外の決闘の違いを思い出して、あの魔法陣がどんな役目を持っているのかは推測する事ができる。

「たぶん、決闘でケガしないための魔法なんじゃーー」
「決闘魔法陣・改ィィイッ!」
「ッ、なんだ!?」
「うえ!?」

 急に後ろから馬鹿でかい声が響いてきた。
 慌てて後ろを振り返る。

「決闘魔法陣・改なのだよ!」
「……」
「ぇ、えぇと」
「まだわからんか!決闘魔法陣・改なのだーー」
「いや、それはわかったから!」

 後方で突如、声を張り上げる眼鏡をかけた少年を落ち着かせる。
 決闘魔法陣・改、きっとあの大きなリングの魔法陣のことを言っているのだろう。

「君たちは決闘魔法陣・改すら知らずにレトレシア魔術大学に入学しようしているのかね!?」
「あーそう、なりますね」

 正直に答える。

「はぁーまったくなっていないな、君たち。よくその程度の浅ましい教養で、歴史ある我が国が世界に誇る名門、このレトレシア魔術大学の土を踏もうと思ったものだ」
「ん」

 なぜか、説教されていることに数瞬遅れて気づく。

 そして何となくこいつのキャラを把握し、これ以上ここにいるのは得策じゃない瞬時に悟った。

 故にーー。

「君たちには自覚が足りない。名門レトレシア魔術大学に通うと言うことがどういう意味かわかっていない。
 魔術師にとってこの決闘場はいわば聖地のようなものだ。毎月開催される決闘大会はもちろんのこと、年末のレトレシア杯だってーー」

「いやぁ! 勉強になるなぁ! ありがとうございます! さて! 行こっかマリ!」
「え、あれ?ちょっとアーカム!?」

 マリを小脇に抱えて適当に走り出す。

「あ、コラ! 君たち! 待ちたまえよ! まだ僕の話は終わっていないぞ! おい、って、速いッ!?」

 先ほどの堅苦しいクセのある喋り声が聞こえてきているがすべて無視する。

 あの手の輩は付き合うだけ無駄だと俺は知っているので、ここら辺でお互い会わなかった事にしよう。

 あっという間に決闘場を飛び出して校舎外の芝生まで駆け出してきた。
 あたりを見やると噴水やらベンチやらが設置してあり、休憩するにはちょうどいい感じの場所だった。

「敷地内に公園か」

 相変わらずこの学校の規模に驚きながら、噴水へ歩み寄る。

「ァ、アーカム、しょ、その……」

 小脇に抱えたマリがもじもじと動いて拘束から脱しようとしている。

「あ、ごめん、今降ろすよ!」
「ふぅ……って! もう、なにいきなりレディを持ち上げてんですか!」

 一安心してホッとした顔になったかと思ったら、カッと目を見開いて今度は怒りの形相に早変わりだ。

「あー本当ごめん。逃げるために仕方なくて」
「それでも他にもやりようがでしょ! あんな荷物みたいに抱えるなんて……もっとこう、はら!」

 マリは手を使って身振り手振りなにかを伝えようとしてくる。

「お姫様抱っこってこと?」
「そこまで言ってない! 普通に手を引いてくれれば良かったって言ってるの! えいッ!」
「痛ッ!?」

 カーッと顔を真っ赤にしてご立腹のマリさんだ。
 調子に乗った発言をしたせいで杖で頭をしばかれてしまった。

「まったく、デリカシーがないんだから!」
「は、はぁ気をつけます」

 噴水に腰下ろして空を見上げる。

「で、どうするの? 闘技場戻らないとだよ?」
「うん、まぁ、そうなんだけど、もう少しゆっくりしてこう。まだあの眼鏡がいそうだからさ」
「ま、まぁいいけど」

 少女は俯いて足をパタパタさせている。
 この噴水広場前の人の気配はかなり多い。

 向こうのベンチにもこっちのベンチにも新入生たちとその親が座っている。

 すでにレトレシアの校章が入った魔術師ローブを着込んだ、新入生っぽい子供たちもチラホラ見受けられる。

「結構カッコいいな、うちの大学のローブ」
「あ、知ってる? 学年によって色合いが違うんだよ!」
「ほぉ、それじゃ今年は黒と赤か。いいねぇ」

 新入生の着ているローブは黒を基調としたもので、ところどころ赤色のラインが入っていたりして、模様が描かれている。

 校章はおそらく人狼のマークだ。

 俺の持つ杖に何度も貼ってもらっているし、見た感じ明らかにオオカミだとわかりやすいマークなのですぐに判別できた。
 やはり人狼は人間のお友達ということらしい。

「いやぁそれしてもローブって趣あるよなぁ。なかなか古風な雰囲気が出てていい……ん?」

 俺がローブのロマンチックさについて語ろうとしたところで、ふいに俺の左手がくすぐられる感覚を得た。

 となりに座っているマリが、俺の真っ黒に焦げて木炭のようにゴツゴツした皮膚の、醜い左手を指でいじっているのだ。

「前々から思ってたんだけど、この左手ってすごく痛そうだよね」

 マリは顔を伏せているためどんな表情をしているのかわからない。

 ただ、彼女は何かを憂うような声で静かに語りかけてくる。

「いや、もう全然痛くないけどな。流石に火傷した時はこの世の終わりかと思うほど痛かったけど、
 別にふつうに動くし感触だってちゃんとあるし、特に気にしてないさ」

 白く細い人差し指を俺の左手の指の間をなぞるように絡ませてくる。

 妙に艶っぽい仕草で、マジでどうしたの!? と聞きたくなるが、なんだかふざける感じの雰囲気じゃないので聞きたい気持ちを我慢する。

 沈黙が続く。
 会話が途絶えてしまった。

 マリが変なことをし始めたせいだ。

「あ、あの、マリさん、一体なにを」

 両手で俺の左手をふにふにしているマリに責任追及する。

 彼女はひとしきりふにふにし終えたかと思うと、今度はゆっくりと炭の手を握りしめてきた。

「私の両親ね、半年前に火事で死んじゃったの」
「ぇ……」

 一瞬聞き間違いかと思うほどの重たい話が、なぜか急にマリの口から話し始められた。

 火事、俺の火傷から連想したのか。
 あるいは周りの親と一緒にいる新入生をみたせいか。

「あーだから、クレアさんと2人なんだな」
「そう。ママとパパと一緒に住んでたんだけど、火事で2人とも死んじゃって、
 家も何もかも焼けて無くなっちゃったんだ。だからおばあちゃんの家に住むことになったの」
「そうなんだ……」

 こういう時なんて言葉をかけてあげればいいのかわからない。

 俺の左腕の火傷が彼女の悲しい記憶を思い出させたのだから、なにか謝るべきなんだろうか?

 マリは俺に謝って欲しいのか?
 そういうことじゃない?
 一体どうすればいいんだろうか?

 あまりにも経験値が低いので、何も気の利いたことを言えず対処に困る。

「本当は見ていて欲しかったんだ。私がレトレシアに入学するところを。うちのパパ、仕事で忙しくてね、
 普段はあまり家にいてくれなかったの。でもね、私のレトレシアに柴犬生での入学が決まったら、
 すぐに帰ってきてくれてすごく喜んでくれた。私が勉強たくさんして頑張ったからだって褒めてくれた。
 私……このレトレシアにぃぃ……見てて欲しいかった……ぅぅう、ぅぅ」

 少女の頬を大粒の涙がつたう。
 左右の瞳から溢れた涙は雫となって細い顎をしたたり落ちていく。

 マリ・トチクルイは静かに泣いた。

 結局俺はなんの言葉もかけてやることが出来ない。

 両親を失ったこともない、凄惨な悲劇を味わったこともない、自分の大切が脅かされるような目にもあったことがない、ただの平和な国で18年と、のどかな田舎町で8年生きてきた俺の言葉ではきっと彼女の抱いている悲哀をどうにかしてやる事なんて出来ない。

 だから、俺だったらこうしてて欲しい、と思うことをする。

 ただ黙って耳を傾ける。

 こんな時はきっと薄っぺらい言葉なんか聞きたくないだろうから。

「ぁぁぁあ、ぅぅぅ」

 ごめん、俺には今マリが抱いている悲しみを理解することは出来ない。

 わかろうとしているし、共感してあげたいとも思う。

 だけど、人の気持ちを理解するには俺はあまりにも無知すぎるし経験がなさ過ぎる。

 ごめんよ、何もできない。

 彼女がゆっくりと醜い火傷の残る焦げた左手に柔らかな肌の右手を重ねてくる。

 左腕から力を抜いてただされるがままにする。
 俺の腕から亡くなった両親のなにかを感じ取ろうとしてるんのかもしれない。

 いいや、やはりわからない。
 俺は頭が悪いから、実際に失った者の気持ちを理解することが出来ない。

 軽率な推測はやめよう。

 マリは静かに涙を流し続け、俺は彼女に肩を左肩をかし続けた。

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