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第四章 巡り会う傑物達
第66話 普通に骨折させられた
しおりを挟む「はは、ごめんね。肩貸してもらっちゃって」
マリはぴょんと噴水から降りてくるりこちらに向き直った。
まだ彼女の頬には涙の流れた跡があり、顔はほんのり赤くなっている。
「別に平気だよ。肩くらいならいつでも貸せる」
というか、俺は黙って肩を貸すくらいしか出来ないのだけどな。
「はは、カッコいいー!」
笑いながらそう言って、再びくるりとマリは回って決闘場へ歩き出す。
置いていかれないように彼女の後を追う。
部屋を壊した一件以来、遠慮のなく接するようになってきた気さくなマリに戻って来てくれた。
完全に調子を取り戻してくれたようだな。よかった。
決闘場へ戻る。
相変わらずドームの中央では学用品の販売が行われ、売る人買う人たくさんの人が行き交っている。
あたりを軽く見渡して先ほどの眼鏡がいないことを確認する。
「大丈夫そうだ。それじゃ行こっか!」
マリは先に走り出し俺はゆっくりと後を追いかける。
リング中央の高さまで降りてくると、観客席から見えていた全体像は見えなくなり、とにかく混雑している印象を受ける人混みしか目に入らなくなった。
「それじゃまずはローブから!」
マリに先導されて彼女の後ろをちょこちょこ付いていく。
事前に調べてあったのか、マリの足取りに迷いはなくずんずんと人を掻き分けて中央リングを歩いていく。
俺はただマリの後をひよこのように付いていくだけだ。
「おっとと、おっとと」
こういう人がたくさんいる場所では剣知覚による具体的な気配探知が出来ないので、普段曲がり角などでの人とのぶつかり回避率100パーセントの俺でも、人を避けるのに苦労する事がある。
集団とはなかなか厄介なものなのだ。
「おっとと、おっとおと! あぁ! すみません!」
ほら見たことか、マリに付いていくことに夢中になり、まともに剣知覚が働かなくなっただけですぐ人にぶつかってしまった。
反射的に謝って、相手の落としたローブや教科書を拾うのを手伝う。
相手はすでに全ての学用品を買い終えていたみたいだ。
朝早くから来てたんだろう。
教科書を全部拾い、立ち上がって相手に渡す。
「いやぁすみませ、ん、ぁ」
「っ、あんた、杖工房で会った……」
胸の高鳴り、俺は息を呑んだ。
艶のある藍色と毛先だけ金銀色の目を奪われる美しい短髪。
異様に色気のある褐色肌。
宝石のように煌めく金色の大きな瞳。
昨日、オズワールの店で見たお金持ちの少女が立っていたのだから。
彼女と目があった瞬間から、なぜか目を離してはいけないような気がしてしまい、ついつい見つめてしまう。
可愛いとも美しいともとれる端正な顔立ちをしていて、視線を交えているだけなのにすごく気恥ずかしくなる。
これは恋なのでしょうか。いいえ、誰でも。
馬鹿か、俺は。ぼうーっとするな。何か気の利いた挨拶をするんだ。さぁアーカム。
「えーと、昨日の節はどうも。奇遇だね、君もレトレシアの新入生だったなんーー」
「ふんっ!」
ーーバギィ
「はぐぁ!!?」
知覚の外側からの突如攻撃。
なんだ、一体何が起こったんだ?
褐色少女にスネを蹴り抜かれたのか?
彼女は俺の手から引ったくるように教科書を受け取り、くるりと方向転換して足早に去って行ってしまった。
「うぅ、な、き、嫌われた、嘘だろ……、もう……!?」
足を抑えながら去っていく少女を視線で追う。
何度も遭遇したしお近づきになれるチャンスだと思ったのになんたる事だ。
アディのアドバイスを元に話を広げようとしたら、広げる前に物理的に閉じられてしまった。
ぶつかった瞬間にどこか変なところでも触ったしまったんだろうか?
それなのに俺がヘラヘラしていたのが癪に触ったのか?
変なところ触ったあげく、癪にも触ってしまったのか?
「ぁ、あぁー!」
学校に入学する前から嫌われるなんて!
マイ、神よ、なんて残酷な試練をお与えになるのですか!
俺は手を組みながら天へと嘆きを届かせる。
「ちょ、ちょっと何やってんの、アーカム!? 恥ずかしいからやめてよ!」
マリが戻ってきて神に嘆く俺を人前から強制連行しはじめた。
「″ふん! 私以外の女の子にうつつを抜かすからだね!″」
「アーカムぅぅ!」
「ちょっと本当どうした!? おかしくなったの!?」
ひょこっと現れたアーカムと会話したせいで、狂人の疑いまでかけられる。
何とか持ち直すが、やはり思っていた以上にあの子に嫌われたことがショックだった。
正直に言おう。
惚れていた。
俺の周りにいる小学生な感じのお子様ではなく、どこか大人びた雰囲気を待とうミステリアスなあの子に。
会ったのはたった2回だったが、それでとあの人と良い関係になりたいなぁ、と睡眠中の「和室」でアーカムに相談したりしていた。
まぁアーカムには怒られたが。
前言訂正しよう。
一目惚れしていた、と。
「ぅぅう」
「もう、よしよし。泣かないの」
「″アーカムのお嫁さんは運命で決まってるって事なんだよ″」
俺はマリに慰められながら、学用品を購入することにした。
ー
レトレシア魔術大学、廊下。
無事に全ての学用品を揃える事は出来たが、なんだか心にいらぬ傷を作ってしまった気がする。
あぁ、あそこでぶつからなければ、まだチャンスはあったんだろうか……。
「はぁ」
「いつまで、落ち込んでんの? というか何に落ち込んでるの?」
レトレシア校内をマリと並んで歩きながらもため息が止まらない。
「お子様にはわからないよ」
「っ、その言い方なんかムカつく!」
マリは傍でぷりぷりと怒り出す。
地下遺跡のような暗い廊下を抜けて一気に明るい廊下へ切り替わった。
ため息をつきながら外の明かりを差し込んでくる中庭へ視線を向ける。
「お、これはまたデカイ庭だな」
「おぉ、さっすがレトレシアの中庭!」
失恋のショックを忘れ去るほどのデカさを誇る中庭が眼前に出現した。
先ほどまでいた決闘場が丸々入りそうな大きさだ。
対面の校舎の棟がすごく小さく見える。
一体どれだけ離れてるんだろうか?
50メートル以上ありそうだ。
今は立ち入り禁止なのか、誰も中庭にはいない。
ただ一面に広大な空間がぼっつりと存在しているのだ。
「マリ、またあの魔法陣があるぞ」
俺は中庭中央部の円形の石畳みを指差しながら言う。
「ふふ、そりゃね~学校内で主に決闘が行われるのはこの中庭だからね。不勉強だぞアーカムくん!」
「なんだその言い方。なんかムカつくな」
マリは指先で肩を突いてきながらニヤニヤと笑っている。
「なんで中庭の方なんだよ。決闘場があるならそっちでやればいいじゃん」
「最初はそのつもりだったらしいよ? 決闘は決闘場で。だけど、ほらね? 中庭広いじゃん?
だから決闘魔法陣を作っちゃえってことになったらしいんだよね。それに決闘場までわざわざ行かなくても、
中庭なら窓から飛び出せばすぐだし、て理由で中庭の方が実質、決闘が行われる頻度は高いらしいんだよ」
「じゃあ決闘場は使われてないのか?」
「いや、なんだか月間決闘大会ってやつと年末のレトレシア杯で使われるらしいよ? 参加人数が多過ぎるから、複数会場を用意してるんだってさ」
「この学校2000人以上いるんだっけ? そりゃ大変だよな」
1つの学校に2000もの人間が押し込められているのだから、イベント事の開催はめちゃくちゃなことになりそうだ。
「王都全体で見てもレトレシア杯とかナケイストの魔法王決定トーナメントは一大イベントだからね。
実際は王都民みんなが動き出すくらいの影響力があるよ。他の町や国からもこれを見に来る人だっているくらいだし」
「マリは見たことあるの?」
「もちろん。ナケイスト魔法学校で開催される魔法王決定トーナメントは王都民なら一度は見たことがあるっしょ」
「へぇ~魔法王かぁ」
なかなか興味深い。
マリと中庭の周りの廊下を歩きながら、俺は密かに決闘への興味を募らせていた。
魔法王、いい響きだ。
きっと何千人もの魔術師の学生たちが競い合う称号なんだろう。
「ふふ、面白いな」
「でしょ? あー早く学校始まらないかなぁー!」
来たるレトレシア魔術大学の入学式を揃って待ちわびる。
いよいよだ。
夢の魔法学校生活が始まる。
あぁ。
なんて、なんてーー、
「ファンタスティックな異世界生活なんだろうか」
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