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富家強兵

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 俺はブラッドファングの項目を開いて、まよいなく召喚をおこなった。

 消費魔力はわずかに少なくなっていた。

「また、ブラッドファングを召喚するんですか?」

 魔術工房につめているティナは、資料整理の手をとめて手元をのぞき込んでくる。

 おや、平気なのか。
 てっきり怪書に目を通したら苦しむものかと思っていたが。

「ティナ、頭痛はするか?」
「しませんけど?」

 ふむ。
 正式な所有者である俺が閲覧しているかぎりにおいては、ほかの人間も見れるわけだ。

「ブラッドファング、お金にかえたらすっごく値がつきそうですね!」
「ん? あーいや、こいつを売る予定はない」
「え? そうなんですか? …あ、すみません…。てっきり、モンスターはみんな売ってお金に変えるものと……」

 モンスター売買は使用人たちによからぬイメージを与えているらしいな。

「モンスターを売って金にかえるのが、ただひとつの使い方ってわけじゃない。まあ、いろいろ考えてはいるが、現状、ブラッドファングはアダン家の戦力という扱いだ」
「強いですもんね、この子」

 ティナはまだ出来上がっていない、ブラッドファングの元、とも言える赤黒い液体溜まりをみてつぶやいた。

 この光景も慣れてきたらしい。

「まあな。ただ、ブラッドファングだけじゃ強力な魔術師を相手とる場合、非力だ。より強力なモンスターの登録は必須だな」
「そうなんですか……でも、ブラッドファングが2匹もいればあんしんなのでは?」
「まだまだ。これではアイリスの気まぐれでアダンを壊滅されかねられない」

 アルバートそう言って、残った魔力を何に使うか頭をつかいはじめる。

 結果、はじめて召喚するモンスター、トレントを呼び出すことにした。

 トレントは呪樹とも呼ばれる、木がなんらかの魔力的働きで魂をもったモンスターだ。

 2体しか呼び出せなかったが、相変わらず樹木によく似ていて、いろいろと用途の可能性を感じさせるモンスターであった。

「ティナ、このトレントたちは将来的にこんな感じにしようと思う」

 彼女に計画書をわたしておく。
 計画書にはトレントの役割が書かれている。

「全部トレントにするんですか……?」
「ああ。全部だ」

 ティナは目丸くしていた。
 計画があまりにも脳筋だったからだ。
 
「だが、スマートだろう」
「ま、まあ、そうとも言うかもしれません」
「とにもかくにも、まずは、拠点を固める」
「……はい」
「モンスター販売ビジネスの優先度はひとつ下げる。家、亡くなったアダンの使用人、そして、父さんの失敗は繰り返さない。我々は魔術世界で生きるにはまだ弱すぎるんだ」

 アルバートは覚悟の表情でそうつげた。
 ティナは主人の決意に敬意をはらい、かたわらで身を引き締めていた。

 ──翌朝

 朝からアルバートは庭にでていた。

 魔術工房で大量に生成したトレントたちを、モンスターハウスの後方の森にまぎれこませて待機させるためだ。

 ファングと同じく消費魔力『5』でつくりだせるトレントたちは、頭数をそろえること自体は楽であった。

「もっと自然に木っぽくしてろ。お前たちならできるだろう」

 なぜか、大根役者なトレントたちにカモフラージュの大切さを説いて言い聞かせた。

「メシメシ、ミシミシ」
「悪くない。やればできるじゃないか」

 1時間ほどの指導をおえて、トレントたちは立派に自然な木になれるようになった。

 一見してこれだけのトレントが敷地内に潜んでいるとは思うまい。
 これから毎日、すこしずつ増やしていく。

 数がそろって、周囲の森すべてをカバーするだけの広域防衛網を築きあげれば、アダン家の守りは盤石なものとなるだろう。

 アダンを敵にまわすこととどうなるか、徹底的にわからせてやらなければな。
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