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共同研究 後編

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 ──しばらく後

 アルバートとアイリスは、生温い沈黙をかかえたまま、されど手を繋ぎながら屋敷へ戻ってきた。

「おかえりなさいませ、アルバート様」
「アーサー、俺の同伴ありきでアイリス様に魔術工房への入室を許可した」
「かしこまりました。では、以降はそのように」

 アーサーはうやうやしく一礼をした。
 サアナがブラッドファングと隣たって獣道から出てきた。

「彼女には許可をだしてくれるのですか、アルバート」
「……いえ、あくまで現在取り組んでいる研究には、アイリス様にだけご参加をいただきましょう」

 アルバートとしては、せっかくの2人の時間に余計な客人を混ぜたくはなかった。

 とはいえ、素直に納得するサアナではない。

「アルバート・アダン、私を受け入れないとは貴様どういう了見だ!」

 アルバートは「フッ」鼻で笑ってあしらう。

「貴様ぁああ!?」
「まあまあ、落ち着いてサアナ……!」

 こいつはサウザンドラ家の腰巾着だ。
 正式に魔術の修練を積んでもいないのに、デカイ面をされてはこまる──と、アルバートなりの基準において、サアナは尊敬するに値しない人間なのだ。悪いな。

「ぐぬぬっ、このこの、アルバート・アダンめ……!」

 サアナはジタバタしながら、アーサーに連れていかれた。

 邪魔者を消しさったアルバートは、さっそくアイリスを連れて書庫をぬけて、魔術工房へおりてきた。

「では、まず今取り組んでいる魔術を見ていただきましょう」

 アルバートは彼女へ、刻印【観察記録Ⅱ】について、現状、判明している多くを話した。

「え、それは魔術協会の禁忌に抵触してるのではないですか?」
「そうでしょうか? 僕はそうは思いません。解釈の違いだと思いますよ、ええ」

 アルバートはしらばっくれて話を進める。

 アイリスとしては、この先に進んでいいのか少しだけ不安であった。
 ただ、それでもアルバートが重大な機密を打ち明けてくれたことが嬉しかったので、彼女は共犯者になる覚悟を決めた。

「とても難しそうですね。これまで使役学は専門としてきませんでしたが、アダンとの仲を深めるために勉強はしてきたつもりです。なにか力になれるかもしれません」

 ──3日後

 アイリスとアルバートは、1日のほとんどを書庫と魔術工房、モンスターハウスのなかで過ごしていた。

「この黒い液体は、我が家の学問領域でいうところの『錬成血液』に類するものな気がしますね」

 数日間の観察と検証をへて、アイリスは結論づける。

「血の研究者たるサウザンドラの魔術なら、崩壊する怪物の自壊をふせげるかもしれません」
「それは……実に興味深いですね」

 アルバートは邪悪な笑みをふかめる。
 アイリスが好きな顔であった。

「? どうしました、アイリス様、ニヤニして……」
「んっん! 何でもないです。と、とりあえず黒液に、わたしの血を混ぜて見ましょうか! なにか変化が起こるはずです」

 ぐつぐつと煮える湯のようにうごめく黒い液体へ、アイリスは短剣をとりだして、指先から血を垂らした。

 瞬間、黒い液体は大爆発をおこした。
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