雑魚スキル【観察記録】のせいで婚約破棄された少年は、モンスター達とともに世界を無双する。

ファンタスティック小説家

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スライム平原へ 後編

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 ──しばらく後
 
 アルバートはアイリスととなり立って、クエストボードを見渡す。

 冒険者ギルドには5つの等級がある。
 下から、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンドの順番だ。
 さらにその上には、伝説的な冒険者としての能力を有するマスター等級もある。
 最高等級たるマスターは、極めて異例な冒険者にのみ与えられるモノらしい。

「細胞スライムでよりたくさん実験をし、さらなるモンスター販売を通したビジネスを成功させるには、魔力量がなによりも必要です」
「モンスターとの戦闘で得られる経験値が大量に欲しいところですね」
「まさしく。でも、ブロンズ等級のクエストって……」

 アルバートはそこで言い淀んだ。

 迷子探し、ペット探し、家前の掃除、下水調査、借金取り立て、半日荷物持ち、等々。
 受けられるクエストはどれも討伐クエストではなかった。

 つまるところ、ブロンズ等級の冒険者はモンスターと戦う機会が少ないのだ。

「駆け出しは何でもやらないといけないわけか」

 もっとも、アルバートはそんな雑務に従事する気など微塵もなかった。

 とはいえ、だ。

 ギルドにピンハネされてしまうラビッテの涙ほどの小銭だとしても、手にはいる金を受け取れないのは、困窮したアダンには惜しい。

「ブロンズ等級で受けられる討伐クエストは、と。……ん、スライム駆除?」

 常在依頼:スライム駆除クエスト。

 それは、ジャヴォーダン冒険者ギルドで、毎日張り出されている依頼であり、この土地に根付く『スライム平原』ゆえのものだ。

 アルバートは自分に良さそうな依頼書を、クエストボードからひき剥がした。

 ──しばらく後

 2人はジャヴォーダン近郊の名所、毎日1,000匹のスライムが湧いて出ると語られる、スライム平原にやってきていた。

「すごいですね、スライムが大量にいますよ!」
「最弱モンスターはなにかと聞かれたら、僕は間違いなくスライムと答えます」
「え?」
「スライムは基本的には何にも使えないんです。モンスターのエサとして十分な栄養価が得られませんから、ご飯としても使えないですし、もちろん使役してもキャパシティを圧迫するだけでまったく戦いには役立ちませんし」

 スライムに何か恨みでもあるのか。
 そう思われるくらいに、アルバートの口から物言わぬ粘性生物への悪口が溢れ出していく。

 謎のスライム種が現在アルバートの最大の研究対象であることは皮肉なことだった。

 アイリスは「と、とりあえず、倒しましょうか!」と、腰の短剣をぬいた。
 短剣には複雑怪奇な溝がほられている。アイリスの【錬血式】が輝き、伝統の魔術が発動した。

 短剣の溝を埋めるように流れ出した彼女の血は、外界にて凝固して、真っ赤な刀剣のカタチをなしていく。

「赫の武器。サウザンドラの誇りですね」
「ふっふふ。鬼の刃とくとご覧なさい♪」

 水を得た魚がごとく、アイリスが生き生きとしてスライムたちをバカスカ切り刻みはじめた。

 討伐目標は50体。
 まどろっこしいがやるしかない。

 そうすれば、クエスト完了とみなされ、報酬である銅貨3枚が手に入る。
 依頼達成件数も増えて、等級もあがる。
 そして、より強いモンスターの情報も手に入り、あたらしく使役&登録して、怪書を進化させれて、本目的であるレベルアップもして魔力量が増えるはず。

 これは未来への投資なのだ。

「ブラッドファング」

 かたわらの相棒に呼びかける。

「スライムどもにモンスターとしての格の違いを──おや?」

 『見せつけてやれッ!』と高らかに命令したかったが、彼は思いとどまった。

 アイリスが引き返して来たからだ。
 意気揚々と飛び出していったのに、今や瞳をうるませて、凛とした表情は情けなくなってしまっている。
 そんな顔もまたかわいいのだが…。

「あ、ぁ、アルバート……っ! なな、『なんか』出たのですが!」
「『なんか』?」

 アイリスの背後へ視線をむけた。
 すると、天をつく巨大なスライムがアイリスを追いかけているのが見えた。

「うわぁああ~!」
「ちょ、ま、アイリス様──」

 彼女の身体は粘性の液体でベチャベチャであるが、かまわずアルバートへ抱きついた。

 嬉しさと拒絶感を同時に味わいながら、アルバートは、彼女の背後でうごめく巨大な影をみあげる。

 複数のスライムたちが次々に融合して、今なお、さらにサイズアップし続けている。

「アイリス様、なにしたんですか……!」
「な、なにもして無いです! 本当なのです、何ですかその目は! ほ、本当に、なにもしてないんですってば!」

 絶対、なにかしたぞ、この人。

 アルバートはそう確信しながら、粘液ですべるアイリスを落とさないよう抱きしめて、急ぎ逃げるように走りだした。
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