異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第二章 怪物殺しの古狩人

アンナとテニール師匠

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 新暦3057年 冬二月
 
 俺は勝利に腕を突きあげる。

「はあ、はあ、はあ、僕の勝ちです。二度と逆らうんじゃねえ、じゃなくて逆らわないでください。いいですね?」

 寒気に黄色くなった芝生のうえで、不意打ち危険女は伸びている。

「あんた名前なんて言ったけ」
「アーカム。アーカム・アルドレア。そっちは」
「アンナ・エースカロリ」

 危険な少女──アンナはむくっと起きあがる。
 あれ? 思ったよりダメージ入ってないのか?

「気にしないで。あんたの勝ちだから。これでちゃらね」
「はあ。なんで僕が殴られたのか訊いても」

 ちゃらと言われても清算する罪咎を思い出せないのですが。
 ほっぺのあざをさすりながら言う。

「あたし天才だったの。あんたよりね」
「そうなんですか」
「だからちょっと確かめたってこと。先生があんたを大天才だなんて言うから、あたしよりすごいのかと思ってさ」
「結果はどうでした」
「最初はたぶんあたしが強かった。でも、いま逆転した」
「?」
「すごくのね。それはあたしでも全くマネできない。認めてあげる、あんたは天才よ。あたしよりちょっとだけ」

 学習がはやい。
 面白い表現をする。

「ところで結構、余裕そうですよね。心を折るために一発一発を殺意込めて連打したんですが。僕もうクタクタですし」
「ああ、これ? 私の体質なの。どんな外傷も疲労もすぐ回復する」

 見ればアンナの頬のアザが薄まっていく。
 やがて元から傷なんてなかったかのように消えてなくなった。
 ただのチートやないかい。

「そんな体質あるんですね。うらやましいです」
「怪物と戦うための配合魔術の産物。そんなにいいものじゃないよ」
「魔術って属性式魔術じゃないやつですか?」

 アンナは俺の質問を無視して、スタスタ歩き出す。

「え、教えてくれないんですか?」
「うん、教えないよ」
「ぇぇ……」
「教える義理もないし」
「いま僕たちのあいだに友情が芽生えたシーンじゃないんですか? なんか怒らせました……?」
「あんたが勝った。だから、その分、答えてあげただけ」
「僕たちまだ友達じゃないですか?」
「当然よ。余裕で敵」
「……そうですか」

 そうか俺たち敵同士だったのか。

 お互い死に物狂いでぶん殴りあって俺は勝った。
 だけど、なぜかボコボコなのは俺だけで、アンナは綺麗な顔のまま。
 釈然としない気持ちのまま部屋へおもむき、そこで驚愕の事実を知らされる。
 俺はバンザイデス駐屯地の宿舎で、彼女と同じ部屋で泊まることになっていたのだ。
 120%アンナに怒られると思ったが、意外にもそんなことはなく、彼女は俺などいない風に普通に過ごす。
 着替えの時に足で蹴られて追い出されるくらいだ。
 
 初日の晩、俺は彼女に聞いてみた。

「下着とか盗むかもしれないですよ」
「あんたにそんな度胸があるように見えないよ」

 大正解。
 俺がビンテージ童貞なの見た目からわかるかい?

 翌日から、剣の稽古がはじまった。
 俺はアンナよりはやく起きて、身支度を済ませて、ベッドを整える。
 その段階になっても、まだアンナは起きていない。
 時計を見やれば、時刻は午前8時10分だ。
 まだ外は暗く、震えるほど寒いだろう。
 部屋の中でもすでに寒いのだから。

 話では午前9時に修練場にいけばよいとのこと。
 これから毎朝この時間に起きて、規則正しく騎士たちの訓練に混ぜてもらいながら、時折テニール師匠に指導をもらう。

 俺は一足さきに修練場へむかってみた。
 予想通り死人がでるくらい寒かった。

「おはようアーカム」
「おはようございます、師匠」
「ほっほほ、もうそう呼んでくれるのかい。嬉しいねぇ」
「朝はやいんですね」
「まあ、老人だからねぇ」

 テニール師匠はタオルで汗をぬぐい微笑む。
 シャツ一枚の姿で、体からは湯気がたちのぼっている。
 漲る活力、ほとばしる筋肉の厚み。
 果てしない貫禄を感じる姿だ。
 早朝から鍛錬していたのだろうか。

「こんな時間から素振りを?」
「そうさ。80年間変わらずこれの繰り返しだ」
「……失礼ですが、いまおいくつで?」
「ほっほほ、確かに失礼だねぇ」

 テニールは笑いながら木剣を投げ渡してくる。
 
「さあ、決闘の時間だ。一本取れたら年齢を教えてあげよう」
「100歳越えてても手加減しませんよ」

 しっかり、ボコられた。

「動きに躊躇があるね。迷えば敗れる。覚えておくんだよ」
「はあ、はあ、はあ、無理、勝てないでしょ、普通に考えて……」
「いいや、君はすぐに私を越えるだろうねぇ。君のセンスは計り知れない」

 まったく超えられるビジョンが見えないのだが。
 
「時にアーカム、どうして君は強くなりたいんだい」

 すこしずつ朝日が昇りはじめ、朝焼けにしわだらけの笑みが照らされる。
 灰色の瞳が静かに見つめてきている。

「なにも失わないためです」
「いい答えじゃないか。では、すべてを守れるだけ強くしてあげよう」
「お願いします」

 俺は再び立ちあがっていた。
 そして、また芝生にぶっ転がされていた。
 何度でも。何度でも。何度でも。

「新入り、勝手になにしてんの」
「師匠と鍛錬を」

 しばらくして宿舎から出て来たアンナに木剣でぶん殴られる。

「なんで起こしてくれないの」
「い、いや、気持ちよさそうに寝てたじゃないですか……」
「寝顔見たわけ? まさしく変態の所業ね。そうやって抜け駆けして自分だけ強くなろうとするなんて浅ましい根性ね」
「はぁ、それじゃあ、明日からはいっしょにやりましょう。それでいいですね?」
 
 ──翌朝

「アンナ、起きてください。朝ですよ」
「あと2時間……むにゃ……」
「いや、図太いな」

 せめて10分くらいで遠慮しろカス。

「どっちが浅ましい根性ですか」

 すやぁと大変心地よさそうな顔を見ていると心が痛む。
 だが、起こさないと先輩に何されるかわかったもんじゃないので頑張って起こすことにする。
 俺はトネリッコの杖を抜き、アンナを布団に包んで持ちあげ、そのまま修練場まで運んで朝露で濡れる芝生に放り出した。

「ひいい!?」

 聞いたことない悲鳴をあげて、アンナは飛び起きた。
 状況を掴めていない可愛い顔をしている。
 彼女は視線をキョロキョロさせ、杖をもった俺を見つけると、梅色の瞳からハイライトが消した。あ、いま可愛いより恐いが勝ちました。

「先生」

 一言つぶやき、ニヤニヤ笑いながら俺たちを傍観していたテニール師匠から、木剣をパスされるアンナ。

「アーカム、教育的指導って知ってる?」
「はて、なんでしょうか」
「こういうことよ」

 一気に踏み込んで木剣をふりおろしてくる。
 俺はすかさず≪ウィンダ≫で撃ち殺す。
 アンナは芝生に転がって気絶した。
 さからうんんじゃねえ。

「ほう、すごい魔術だねぇ」
「本来は魔術師になろうと思ってましたから」
「今、詠唱をしていなかったような気がしたけど、それはどういうことだい?」
「うーん、どうと訊かれましても……やっぱり、無詠唱魔術って一般的ではないんですか?」

 アディは無詠唱はありえないと言っていたが、あくまで一般レベルでの話だ。
 世界有数の達人なら人脈構成や知識も変わってくるだろう。
 テニール師匠は腕を組んで記憶を辿る。

「うん、やはり聞いたことがないねぇ」
「そうですか」
「ほっほほ、無詠唱魔術だって? それはすごいことだねぇ。君に俄然興味が出て来たよ」
「ありがとうございます」
「ところで、アーカム」
「なんでしょうか」
「お互いを高めあう。君たちは最高のパートナーだねぇ」
「え?」

 テニール師匠はいたずらっぽく笑うと、俺の後ろを指さす。
 ふりかえった直後、殺し屋みたいに冷たい顔をした梅色の女に撲殺された。

 ──翌朝

「そろそろ起きるか……」
「おはよう、アーカム」

 木剣を手にしたアンナが不敵に微笑んで立っていた。
 布団をかぶったまま見上げる俺。嫌な予感に冷汗がとまらない。
 彼女はニコっと笑う。俺も笑いかえす。
 アンナは何も前触れもなく木剣をふりあげると、何度も俺を叩きはじめた。

「いたあ!? 痛、痛いですよッ!!」
「ふんっ! ふんっ! これはおとといの分っ! これは昨日の分っ! こっちはあたしをほったらかしにする両親のぶんっ! こっちは死んだ犬の──」
「関係ない恨みが混ざってますッ! 痛い痛い!」

 たまらず≪ウィンダ≫やら≪ウォーラ≫やら乱射して暗殺から逃れる。
 もみくちゃになったあげく、武装解除に成功した。
 と、同時につい彼女の白い手首をつかんでしまう。

「あ」

 動悸、発作、発汗、発熱、頭痛、節々の痛み──。
 女の子を触れてはいけない神聖なものと細胞レベルで、高度に訓練された童貞は禁忌を侵すと呪いまがいの症状に見舞われる。 
 これは俗に童貞の呪いと呼ばれている。
 なお美少女であるほど呪いの症状が悪化する。
 
「へえ」
「な、なん、な、なんです、か……近いですよ……」
「あんたってこういうのに弱いんだね」

 アンナは俺の手を掴んでにぎにぎしてくる。
 耳に「ふぅ」と温かい息も吹きかけられる。
 からまる白い細指。
 濡れて情欲的になった首筋に視線がオートエイム。
 吐息には色欲が宿り、鼻孔をほのかな匂いがくすぐる。

 すなわち童貞にとっての──死であった。

「はぐあァッ!」

 握ったら壊れてしまう。
 とにかく柔らかい。ふにゃとしてる、
 すべすべしてた。体温を感じた。
 骨格というか根本的なところで全部華奢なのだ。なにこれ。すごい。
 決して彼女がか弱いわけじゃないのに守ってあげないといけない使命感が湧いてくる。
 脳裏を駆け抜けるのは、優しく微笑む彼女の顔、幼く輝かしい日々、溢れ出すのは存在しない記憶──ぇぇ、まじ、なにの気持ちぃ……

 意識が失われていく。
 今回の呪いは重篤《じゅうとく》だ。
 
「……雑魚」

 床に沈んだ俺の見下ろして、アンナは呆れたような顔でつぶやいた。
 
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