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第五章 都市国家の聖獣

一つ先の進化

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 老人は至極余裕そうだ。
 リラックスした声で切り出した。

「そうだね、殺す前にいくつか質問でもしようか。どうやって彼らを無力化した? 対超能力者の封印拘束具がこの世界で作れるわけがないというのに」

(封印拘束具? そんなものがあるのか。なるほど、そうか。神宮寺たちはその封印拘束具とかいうのを使って、仲間の一人を封印したのか。手に入れることができれば、異世界側でも使える武器になりそうだ)

「もし異世界の原住民たちが超能力者用の武器を手に入れていたとしたら、それはわっちたちにとって脅威だからね。教えてくれれば、苦しめず、そっと封印してあげよう」
「話すことはなにもない」
「そうか。なら、君のその可愛い顔を引き剥がして、パイロキネシスで皮下脂肪を蒸発させながらの質問へ移行することにしようか。ああ、楽しみだ。君がどこまで強情にいられるか」

 アーカムは不敵に微笑み、さりげないブラフをかけるとともに、右手をバッと老人へ向けた。

(《イルト・ウィンダ》!)

 老人の付近の風を巻きあげる。
 家屋を吹き飛ばすトルネードを形成するほどの風のエネルギーだ。
 360度上下あらゆる方向から、削り取る暴風域に閉じこめる。
 かつての緒方と同等の超能力者ならば十分なダメージを期待できるが──

「──君はなにもわかってないね、伊介天成」

『アーカム、避けろ!』

 叫ぶ超直観。

(いや、無理ッ!)

 避けようにも今のアーカムには回避行動すらとれない。

『避けろォ!!』
(叫んでも無理なもんは無理だって!)

「っ、アーカムッ、体、が……!」
「しまった……サイコキネシスに捕まった……」

 アーカムとアンナは2人まとめて見えない超能力の手に捕まれ、完全に拘束されてしまった。
 そのまま、地面から20cmほど浮かされ、宙に固定される。
 この老人のサイコキネシスの出力がとてつもないことは自明だ。

 一刻もはやく抜け出さなくてはならない。
 
 アーカムは焦燥感に駆られながらも、緻密に魔術式を組みなおし、老人を包む《イルト・ウィンダ》にありったけの魔力を注いで、削り殺そうとする。

(死ね、死んでくれ、頼むから、死ね)

 だが、思いは虚しく潰えた。
 アーカムの風すらも、老人はサイコキネシスでもって、簡単に弾き飛ばしてしまった。
 馬力がまるで違った。エンジンが違った。

(なんだよ、これ……なんなんだよ……軽自動車でトラックと綱引きをさせられているような……それほどにパワーに差があるじゃねえか)

「カテゴリーがひとつ変わるということはね、生物がひと世代進化したのと同じなんだ、伊介天成。君のプロフィールは見た。地球ではカテゴリー0の【念力使い】だったようだね。ならば、こちらの世界ではせいぜいカテゴリー4だろう。わかるかな。すべては無駄。”カテゴリー差”は絶対だ。君の能力ではとてもとても、カテゴリー5のわっちを倒すことなんかできないんだ」

 カテゴリー5のサイコキネシスに三式風属性式魔術ではまるで威力不足。
 それはすなわち、アーカムとアンナにこの念力の拘束から抜け出す手段は残されていないということであった。
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