異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第六章 怪物派遣公社

神絵師キサラギ

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 宿屋に帰ってくると、キサラギがなにやら作業をしていた。
 アンナは不在のようだ。お腹が空いてなにかを食べに出かけたのだろうか。

「おかえりなさい、兄さま」
「ただいまです。たくさん稼いできましたよ、キサラギちゃん」

 冒険者ギルドで受け取った此度の報酬を掲げる。
 まだ働く必要はあるだろうが、大きな成果をあげられたののには違いない。

「キサラギちゃん、なにしてるんですか?」
「キサラギは自分にある才能があることに気づきました。その才能はお金になるとも」
「仕事をするつもりですか? ダメですよ、エネルギーは大切にしないと。もしかしたら今ある分しか使えないかもしれないんですから」
「大丈夫です。日常生活レベルの営みなら、推定20日の活動が可能であるとキサラギは残存エネルギーと相談しました」
「はあ。でも、労働したら話は変わってくるんじゃ」
「兄さま、日常生活レベルの営みの範囲でお金を稼ぐということです」

 キサラギはそう言うと手元のパーツを組み合わせる。
 どうやら万年筆らしい。

「え、自家製?」
「はい。金属片とベッドの足組みを借用して作成しました。キサラギはスペシャルに器用な指先をもっているのです」

 そう言って、彼女は薄い胸を張った。
 すごいクラフトスキルだ。

 万年筆と粗い羊皮紙の分厚い束を手に、腰を上げ、どこかへ行こうとするので付いて行く。

 宿屋の前に出てくると彼女は、ベンチに腰を下ろした。

「兄さま、ちょっと隣に座ってくれますか」

 言われるままに腰を下ろす。
 キサラギは俺の顔をチラッと見ると、紙束にそっとペン先を添えた。
 瞬間、ものすごい速度でペン先で、羊皮紙の表面を引っ掻きはじめた。
 
 気でも触れたのかとちょっと恐くなる速さで、一心不乱に引っ掻きまくるキサラギ。
 よく見ると無秩序に走らせていたと思っていたペン先は、微妙に紙と接触と離別を繰り返して、羊皮紙に絵を描いていた。
 断言しよう。機械にしかできない描き方だ。

 15秒ほどで絵を描き終えた。
 羊皮紙には俺の顔が描かれていた。
 
「こんなところでしょうか」

 キサラギちゃん凄すぎでは。

「キサラギはここで売れない絵描きを装いながら、実は天才画家という設定でここで道ゆく人を描こうと思います」

 似顔絵を描いて商売すると言うわけか。
 確かに凄いが、さほど期待はできない商売だ。
 でも、キサラギの何かをしようという行動はとても嬉しいし、兄として、彼女にいろいろやらせてあげたい気持ちもある。
 それは亡き父と如月博士が彼女をこの世界に放った意味でもあるだろうから。
 
「今日はもう遅いので明日からにしましょう。ほら、帰りますよ、キサラギちゃん」
「はい、兄さま。あとこれを。キサラギはプレゼントをあげます」

 似顔絵を受け取り「ありがとうございます」とお礼を言い、宿屋のなかへ戻った。

 ──翌日

 俺は冒険者ギルドへアンナとともに出かけた。
 キサラギを放っておくのはやや不安だったが、20日くらいは動けると言う話だったし、絵描きという明確な行動ができたのでおかしな事にもならないと思ったからだ。

 その夕方。
 俺とアンナはネザミーマウスを狩り、アーケストレスの地下水路の平和を取り戻し宿屋へ戻ってきた。

「ん、アーカム、あれ」

 アンナが宿屋の前を指差す。
 見れば人だかりが出来ている。
 
「まさか……」

 なんだか心当たりがあった。
 ので、慌てて人混みを分けて入ってみる。

「Sランク冒険者『墓石背負いの騎士』さまが絵を描いていらっしゃるとは!」
「似顔絵を描いてもらうと冒険者家業がうまくいくご利益があるらしいぞ!」
「幻の冒険者さまに会えるなんてなんてラッキーな日なのだろう」
「ありがたや、ありがたや」

 見やると、やっぱり、キサラギが囲まれていた。
 群集の節度は大変によく、群がってはいるのだが、キサラギから3mくらいはちゃんと距離をとってくれている。これなら危険はなかろう。

 キサラギの正面にはひとりの老人がいた。
 どこから持ってきたのか椅子にちんまりと座っている。
 
 どうやら今、彼女に似顔絵を描いてもらっているのが彼らしい。

「キサラギはいくつかの注文を受けることができます」
「で、では、キサラギさま、TS巨乳美少女でお願いいたします……!」

 いや、そんな注文受けれるわけないだろ。

「わかった。キサラギはおじいさんをちょっとアレンジします」

 えぇ……。

 キサラギはササっとペン先を走らせ、一瞬で絵を完成させた。
 羊皮紙には要望通り、巨乳美少女が描かれている。
 これに群集は大興奮。大喜びで老人は絵を受け取る。
 よく見れば確かに老人の特徴がちゃんと盛り込まれており、キサラギがただ巨乳美少女の絵を描いたわけではなく、性転換を意識したところも見て取れた。

「ありがとうございます、キサラギさまぁ……!」
「大事にしてね。次の人」

 老人はマニー銀貨をキサラギへ渡すと群集のなかへ戻っていった。
 って、え? マニー銀貨? それ一枚で1万マニーの価値があるのでは?

「魔術じゃ。あの業は超魔術の領域じゃ」
「いったいどれほどの研鑽を積めばあんなに可愛い絵が描けるんだ……!」
「キサラギさま、美しく、気高く、冒険者として超一流であるだけなく、魔術師としても、絵描きとしても人類に寄与する才能をお持ちだなんて……なんというお方なんだ!」

 キサラギの神絵を描く技術はどうにも魔術と勘違いされているようだ。
 そして、キサラギの画力はアーケストレスの人々にとってあまりにも最先端、というか未来そのものなのだろう。
 
「アーカム、キサラギ、すごいね」
「……え、ええ、凄いです」

 地球が産んだオタクたちの魂のアンドロイド。
 彼女はこの世界にKawaiiを伝播する存在になるのかもしれない。
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