異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第六章 怪物派遣公社

魔力結晶を購入しよう

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 翌日。

 朝早く起きて顔を洗い、支度をする。
 今日も特別予定ははないので、冒険者ギルドで稼ぐつもりだ。
 
 ベッド脇の大きな革袋を開く。
 なかにはマニー硬貨がたんまりと入っている。
 
 神絵師キサラギの驚異的な稼ぎである。
 とりあえず数えてみる。

 30、40……41万マニーだと?
 なんという金額だ。
 これがキサラギの秘められた才能だとでも言うのか。
 凄い。うちの妹はとんでもない。
  
 コートニーさんの大会運営手伝い、ネザミーマウス狩りとあわせれば100万マニーに近い。

 宿代、馬屋代、食事代、羊皮紙代、そのほかもろもろ抜いても480万マニーくらいは手元に使えるお金がある。
 これならあとは向こう次第というところまでは来れたと言っていい。
 はやくノーラン教授の手筈が整えばよいのだが。

 部屋を出て、キサラギとアンナの部屋をノックする。
 支度の済んだアンナが剣を腰のベルトにさげ「お待たせ」と言って出て来た。
 俺たちは俺たちにできることをしよう。
 キサラギは今日もまた引き続き、昨日の場所で絵を描く予定だ。
 みんなが求めてるし、本人もやりたがっている。

「おや、降りてこられましたよ。あちらがアルドレアさまです」

 宿の店主がそう言って俺を見やる。
 カウンターの掃除をしている彼は、俺を訪ねて来た訪問者の相手をしていた。

「アルドレア君、おはよう。辛気臭い顔ね」
「おはようございます、コートニーさん」

 はい、コートニーさんです。
 今朝もドラゴンクランの制服の黒いローブを羽織っています。
 
「アーカム、あの女」
「コートニーさんです。この前話した」
「ふーん」

 アンナに耳打ちすると、彼女は梅色の瞳をジロっとコートニーさんへ向けた。

「あんまり生意気だと踏みつぶすよ、あんた」
「あら、ずいぶんと獰猛なペットなのね。でも、噛みつく相手は選んだ方が身のためじゃないかしら。アルドレア君、飼い犬の調教はしっかり済ませておくことね」

 やめて! 争わないで!

「コートニーさんは意地悪で、口開けば悪態ばかりで、すごく嫌な人間っぽいですけど、そこまで悪い人じゃないですよ。だから、揉め事はなしでお願いします」
「ん、アーカムがそう言うなら……」
「全部聞こえているのだけれど」
「こほん。失礼しました。コートニーさん、こんな朝早くからいったいどうしたんですか」
「ふん。まあいいわ。……ノーラン教授がお呼びよ。例の物が用意できたって」
「ああ、それは嬉しい報告です」

 よしよし、いいぞぉ。


 ──1時間後


 俺はアンナと共に第3段層へと赴いていた。
 コートニーさんは午前中から講義があるらしく、ドラゴンクランへ行ってしまった。
 もっともこの2人を近づけると危険な反応を示すのは火を見るより明らかなので、好都合ではあったが。

「アンナは第3段層ははじめてですか? ここにはドラゴンクランっていう大きな学校があって──」
「ううん。一昨日、冒険したから。ここにも来たかな」

 アンナさん、王都は冒険済みらしいです。
 うんちくを語る必要はなさそうだ。

 コートニーさんに教えられたカフェへと赴く。
 道なりに進めばいいとのことなので、まあ、迷うことはないだろう。
 
「おい、この泥棒ー!! 待てえ!」

 誰かの怒声が聞こえてきた。
 馬車が走る通りを挟んで向こう側、ちいさな背丈の少年が人混みをかき分けて走っていく。
 少年には耳と尻尾があった。真っ黒なモフモフのやつだ。

 思わず立ち止まる。
 
「暗黒の末裔……」
「アーカム?」

 あれかな。貧しい子供がパンでも盗んでいるのかな。
 昔の俺なら力があるからと助けていたかもしれないが、今ではすっかり行動の前に一考をいれるくらいには老成した。
 
 この世の正義とは実に不透明だ。
 客観的に見ただけでは何が間違っていて、なにを罰して、なにを攻撃し、なんの味方であるべきかわからない。
 そういう場合、なにもせず、沈黙を守ることはひとつの最善手であることは往々にしてありうることだ。

 もし盗みを働いているのがもっと悪そうな奴だったりしたら、足を風で打って転ばせるくらいはしたかもしれない。
 だが、暗黒の末裔の子供であれば、その背景を俺には想像できる。
 必然と思い出されるのは、かつて時間を過ごした黒い綺麗な毛並みのあの少女。
 
 だからというわけではないが、俺はむしろ少年を追いかけている側を撃ちたくなった。

 いたいた、血相を変えて、不幸な境遇の暗黒の末裔を追いかける男性。
 ん、あの男性どこかで見たような顔だな。
 つい最近、どこかで……。

「あれ、ノーラン教授?」
「待てええ! この卑しい畜生め!」

 激昂して追いかけ、息も絶え絶えになっている。
 
 俺は馬車の通りが途切れるのを待ってから、向かい側で荒地の魔女みたいに死にそうになって肩で息をするノーラン教授のもとへ近寄った。

「大丈夫ですか、なにか大事なものを盗られたんですか」
「っ! ミスター・アルドレア! いいところに来てくれた、今しがた君の魔力結晶を盗まれてしまったんだ!」

 いや、被害者俺やないかい。

「ちょっと、待っててください。すぐに捕まえます。──アンナ、GO!」

 俺は走りだす。
 アンナは俺が3歩踏み出す頃には通りを曲がって。びょーんっと飛行機みたいな速さで風となった。
 あんまりに飛ばし過ぎるものだから、通行人たちの服がぶわーっと翻ってしまうほどだ。
 
 俺ももちろん、ちんたら追いかけているつもりはないのだが、流石にアンナの走力にはまるで追いつけない。
 
 少年が消えていった曲がり角を折れて、俺は懸命に後を追いかける。
 ただ、不幸なことに曲がり角の先はいくつもの道が重なり、折り合っており、さらにはドラゴンクラン門前街ということもあり、午前のこの時間は人通りが非常に多かった。

 まずい。アンナが正しく追跡できたかちょっと不安になってきた。
 仕方ない。アンナには無駄足を踏ませてしまうかもしれないが、俺は俺で動こう。

 Hey! 直観くん! 逃走者はどっちへ!

『右の小道に違いないッ!』

 とのこと。
 時間帯と、土地勘、天の運命が味方しようと、このアーカム・アルドレアから逃げられると思わないことだ。覚悟しろよ、モフモフ尻尾。
 
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