異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第六章 怪物派遣公社

どっちが盗人?

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 アーカムは剣士を氷で拘束し動けなくさせ建物のなかへ戻った。
 
「くっ! こいつ!」

 2人の剣士が憎しみを顔に表し斬りかかる。
 アーカムはひとりを風の弾丸で吹っ飛ばし、もうひとりはアマゾディアで剣を受け止め、ごく至近距離で風を叩きつけ気絶させた。

「これで全員か」

 アーカムはアマゾディアを風霊の指輪に収納し、ホッと息をつく。
 
「うわぁぁ……ごめんなさい……っ」

 ちいさな女の子は尻尾を足のしたにしまって恐怖に怯えていた。
 瞳をうるうるさせ、玉の涙がほろほろとこぼれる。
 アーカムはひざ下あたりまで凍結させていた氷を地面へと移動させて、拘束を解いてあげた。
 
 ふと、思い出す。
 子供がふたりいたことに。
 女の子と男の子。
 ノーラン教授から魔力結晶を盗んだ男の子がいない。
 思えば魔力結晶もなくなっている。

「あの男の子はどこにいったんですか?」
「あわわ、えっと……」

 ちいさな女の子は葛藤をしているようだった。
 アーカムとしては流石に無理に訊きだすのは気が引けたので、これ以上の質問をしていては時間の無駄だと判断し、すぐに腰をあげ、建物の外へと赴いた。

「超直観、どっちに」
『右の通り! 二つ目の左路地な気がする!』
「どうも」

 アーカムはダッと駆けだした。
 男の子にはすぐに追いついた。
 狭い路地を駆ける黒い尻尾を捕捉し、アーカムはその行く手に逆風を発生させる。

「ふわああ!?」

 風にふわっと押し返され、逃走者はころんっとアーカムの足元に転がった。
 
「さてと、どうしてやろうかな~」

 アーカムはわざと邪悪な笑みで手をワキワキさせる。

「あわわ、ご、ごめんなさ……っ、うわぁぁん!」
「泣くないでくださいよ。俺が悪い事してるみたいになるじゃないですか」

 言っても結局泣きだすのが子どもだ。
 アーカムはわんわんと喚く男の子の手から魔力結晶をスルッと取りかえす。

 アーカムとしては先に敵意を見せて来た者どもに慈悲を与えるほどお人好しなつもりはなかった。
 だが、相手が相手なだけに、どうにも厳しくいけない。
 理由はもちろん子供というだけじゃない。
 
「もってかないで、よ……っ、それは、それは、ぼくたちの大事な魔力結晶なんだ……! うわああ!」
「僕にとっても大事なものです。家族の命に関わる。君と彼女を天秤にかけることはできません」

 そう言って、踵をかえした。

 ふと、アーカムのなかで何かが引っかかった。
 わずかな違和感。ここに至るまでに見て、聞いた言葉のピースが無意識下での、ごく理性的な部分でなにかを訴えているような気がしていた。
 アーカムは結局、子供のもとへ戻った。疑問を解決するために。この場を去るのはそれからでも遅くないと思っていた。

 少年は紅く腫れた目でアーカムを見上げた。
 
「この魔力結晶が君たちの、ってどういう意味ですか」
「え……?」
「さっき大きい君のお仲間が『もともとうちのだ』とか言ってましたし、君も僕たちのって言ってたような気がして」
「ぐすん……。その、魔力結晶は、ぼくたちがつくったもの、なんだよ……」
「君たちが? その黒い……耳と尻尾を持つみんなでつくったってことですか?」

 アーカムは暗黒の末裔と、本人たちを前に呼ぶのに抵抗があった。

「ちょっと詳しくお話を聞かせてもらえますか。恐い事はもうしません」

 アーカムは杖を納める。

 パットと名乗った少年は、アーカムに魔力結晶生成についての話をした。

「ぼくたちは昔に悪い事をした怪物の末裔なんだよ。だから、みんなぼくたちを恐がって……ぼくたちは自分たちの力で生きていかないといけないんだ」
「君たちのことは知ってますよ。昔、友達が同じ感じでした。耳とか尻尾とか。境遇はわかってるつもりです。同情もします」
「……お兄さんは優しいね」
「優しくないですよ。きっと君が思ってるよりずっと優しくない。それで、どうして君たちは魔力結晶をつくれるんです。僕の知り合いの魔術師は高名な方ですが、どうにもこの純度の魔力結晶をつくるのは専門家でも難しいって……失礼かもしれませんが、君たちにその技術力があるようには思えません」
「えへへ」
「(なにわろてんねん)」
「実はぼくたちはちょっとすごいんだよ」
「というと」
「ぼくたちにはすごい賢者さまがいて、そのひとがぼくたちに魔力結晶の作り方を教えてくれるんだ」
「へえ、作り方をおしえて、子供でも実践できると……それで、この魔力結晶をつくったと?」
「それは賢者さまのだよ。それをあの魔術師はいつも盗んでいくんだ!」
「ノーラン教授のことですか?」
「名前なんか知らない! でも、あのいやな、意地悪な、偉そうな魔術師だよ!」

(たぶんノーラン教授のことだな……そんな悪い人には見えなかったけど……いや、あるいはだからこそ、か)

「でも、魔術学院の教授を務める魔術貴族が泥棒をするとは考えづらいです。客観的にみたら君たちのほうがよっぽど……可哀想ですけど」
「お兄ちゃんも信じてくれないんだね……」
「……客観的に、見たらね」
「ぼくが子どもだから嘘をついてる思ってるの?」
「(きっとそうなのだろう。俺は子供相手でも公平に接するために敬語を使うが、内実、どこか舐めていて、本当の意味で色眼鏡なしに言葉のすべてを大人と同じように扱ってはいない)」

 アーカムはわずかに思案し「それじゃあ、賢者さまとやらに会わせてください」と言った。
 パット少年の話では信じきれないと判断したアーカムは、大人と話をすることにした。

 同時に賢者さまとやらにも興味が湧いていた。
 このパット少年の話が本当なら高純度の魔力結晶を作りだせる張本人に出会えると思ったのだ。
 
「(ちょっと雲行きが怪しくなってきた。どちらに正義があるにせよ、ノーラン教授との交渉はいったん置いておこう。比較対象はいくつか欲しいところだしな)」

 アーカムは魔力結晶を取り巻く界隈を知らない。
 ゆえになにがよくて、なにが悪いのか、なにが安くて、なにが高いのかを判断できない。誰が、どこで、悪さしてるのか見当もつかない。
 ゆえにパット少年の言葉のすべてを信じることはしなくても、ノーランというひとりの魔術貴族だけを信じることに懐疑的になってもいいと思ったのだ。これは魔力結晶を盗まれて、頭に血がのぼっていたアーカムなりの譲歩でもあった。
 本当なら「このクソガキ」と悪態をもらして、拳が出ていてもおかしくはなかった。重要な局面において彼は理性的であることを選んだのだ。
 
「その賢者さまに会って話を聞きます。そうすればなにか見えて来るかも」
「うーん……」

 パット少年はアーカムの手の魔力結晶を見つめる。
 ちいさなこの獣人にとっては、大事な宝がアーカムの手のなかにあることが、どうしても納得いかないらしい。
 
「……わかりました、いったん、預けます」
「っ、返してくれるの?!」
「預けるだけですよ。僕の側からしたら、それは僕が正当な対価を支払って買う予定の、半分僕の物みたいなものですから。それの所有権を君に主張されたところで、おいそれ渡すわけにはいきませんよ」
「むぅ……本当にぼくたちのなのに……」

 アーカムは魔力結晶の袋をパット少年に持たせる。
 
「あっ、でも、さっきの隠れ家にいたみんなのことが心配だよ……」
「誰も傷つけてないです。怪我したのは僕だけですよ。……ああ、あの強い剣士はちょと冷凍火傷はするかもしれませんけど」
「えええ!?」
「ほら、はやく連れて行ってくださいよ。彼らは後回しです。すぐに斬りかかってくるような血の気の多いのは好きじゃないんです」

 アーカムはパット少年の背中を押し「ささ、案内案内」と、ちょっと強引に歩かせはじめた。

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