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第七章 魔法王国の動乱
接触失敗
しおりを挟むアンナと合流し、ギルドを出る。
手に入れた情報は酔っぱらいの噂レベルではあるが、それでも魔法王国が直面している状況を知ることはできた。
「泣き声の荒野はバンザイデスから1日の距離にある荒れ地だね。何度か通ったことあるから場所はわかる」
「バンザイデスから1日じゃあ、ここからどんなに急いでも10日以上は掛かりますね」
「そうだね。だから焦っても仕方ないと思う」
「……アンナの言う通りです」
そっと手を握られる。
「大丈夫だよ。あんたの家族はきっと無事」
「そうですね」
アンナの無条件の慰め。
いまは心強い。ただ、不安は依然としてある。
戦争のことはもちろん。
ノーラン教授が地下牢で見せた不気味な予言。
怪物派遣公社は俺の家族になにをしたんだろうか。
どのみちはやく戻るしか確かめる方法はない。
聞き込みをその後も続け、夜も更けた頃、俺たちは宿屋に戻った。
アンナと部屋の前で別れ、俺は自室に戻るなり、杖を抜き、荷物のなかから”あるもの”を取りだし、それについての理解と、応用についての研究を再開させる。
魔術王国で手に入れた”魔導体”と呼ばれるものだ。
箱の形状をしているこれは、仕掛け魔術師たちがゴーレムをつくる時に使う最も重要なパーツであると言う。コートニーさんに教えてもらった。
もし間に合った時のための力を用意しておく。
大切なものを守るための力を。
ビジョンはとうの昔に出来上がっている。
あとは形にするだけだ。
翌日、キサラギが帰って来た。
「アイムバック、とキサラギは心配しているであろうお兄様に抱き着きます」
「全然心配していなかったですから安心してくださいね」
言って、ぽこんっと頭をたたく。
「飛んで行ったら、飛んで戻ってこないとダメじゃないですか」
「お兄様。キサラギが空を飛んだのは電磁加速砲をあってこそです。キサラギはベーシックな機能だけで飛べるようデザインされていません。はぁ、言わないとわからないなんて、とキサラギはお兄様の想像力の乏しさを嘆きます」
「なんで俺がバカにされてるんですかね……と・に・か・く! 今後、レールガンは禁止ですからね。撃つたびに行方不明になってたらたまったもんじゃないですよ」
キサラギはしょぼんっとしていたが当然の処置である。
昼にはアーケストレスの川門を旅立った。
「そういえばアンナ、狩人協会のほうはどうでしたか?」
アンナは今朝、冒険者ギルドにおもむき狩人協会に接触できるかを試した。
遠国ではもし接触で来ても、テニール師匠や、アンナの生家である伝統的狩人の一族エースカロリの後ろ盾を利用できないことから、俺たちの身分を証明することが難しかった。
魔法王国まで戻って来た今なら、エースカロリの名前を使えると踏んだので、いざ冒険者ギルドを窓口に接触をはかったのだ。
冒険者ギルドと人類保存ギルド:狩人協会は、コインの表と裏の関係だと言う。
S級冒険者たちを白の狩人と呼ぶのはそのためだ。
「ダメだった。あたしが思ってる以上に冒険者ギルドと人類保存ギルドには組織的な乖離があるみたい。どちらも独立してて、繋がっているのはあくまでいくつかの重要なパイプのみ。徹底してるよ。怪物たちに簡単に組織への動線を掴まれないようにしてる」
ここまで旅をしてきた今なら納得できる。
狩人協会には無数の敵がいる。
絶滅指導者をはじめとした血の一族ども。
人造厄災をつくりだす闇の魔術師たちのカルト。
象牙連盟なる悪魔の組織、所属する狡猾な悪魔たち。
怪物派遣公社、人間世界の権力者に取りいって暗躍する者どもだっていた。
人間世界には怪物たちのネットワークが張り巡らされているのだ。
狩人協会は闇に紛れ夜に闊歩するそうした災いの影を、やつらに勘づかれず摘む。
「僕たちが思いつく程度の手法じゃ、狩人協会に接触できないってことですかね……」
「ごめん。力になれなくて。でも、大丈夫なはずだよ、師匠に会えれば絶対に協会に繋がるから」
「そうですね。僕たちには師匠がいます」
希望は繋がっている。
大丈夫だ。
旅は順調に進んだ。
休憩を取りながらも、かなりハイペースで馬を駆けさせた。
4日後。しんしんと雪が降る街道、王都の立派な城壁が前方に見えて来た。
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