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第七章 魔法王国の動乱
最強の助っ人たち
しおりを挟む俺は宿屋へもどってきた。
通りでゲリラ配信をしてみんなに絵を見せているキサラギを発見。
それを見守るアンナが先に俺に気づく。
アンナはキサラギの肩をぽんぽんっと叩いて合図し、今日の配信を終えて、人だかりを解散させた。
「おかえり、アーカム」
「お疲れ様です、とキサラギはお兄様をねぎらいます」
「早馬は見つかった?」
「キサラギはもう出発するんですか、ともう少し王都で名声を獲得したい欲望をさりげなく伝えます」
「ちょっと落ち着いてください」
部屋に戻るなりまくしたてられ、「どうどう」と落ち着かせる。
「実はちょっと大変なことになってまして。エフィーリア王女をご存じですか?」
「そりゃあ、まあ、知ってるでしょ」
アンナは「こいつ大丈夫か?」と言う風に小首をかしげる。
「エフィーリア・ジョブレス。20歳。現王ヴォルゲル・トライア・ジョブレスの3人目の子ども、王位継承権第三位。奴隷解放派として方々から支持され、方々から批判される美しき黄金の姫」
辞書のようにぺらぺら喋るキサラギは「キサラギも当然知ってます」と鼻を鳴らして、薄い胸を誇らしげにそり、腰に手を当てて見せる。
よしよーし。えらいえらい。知っててえらい。
「その王女様なんですけど、実はクーデターがありましてカクカクシカジカンっというわけなんです」
「嘘でしょ? いま王城制圧されてるの?」
「キサラギはレールガンで玉座の間をふっとばします」
「待て待て、落ちついて!」
窓から飛び出そうとするキサラギを後ろからぎゅーっと羽交い絞めにして押さえ思いとどまらせる。
「レールガンは禁止ですから。どこまで飛んでいくつもりですか」
「物理法則の許す限り」
「そのまえにお兄ちゃんが許しませんので、飛行禁止です」
「アーカム、もちろん、ぶっ飛ばすんでしょ?」
「うーん、まあそうなります。エフィーリア王女陛下はそれを望んでいますし。僕に政治的な判断はできませんけど、あの方が聡明で信頼できる道徳的正しさを持った人だと思っているので」
ある意味では彼女は異端者そのものだ。
この世界では暗黒の末裔やそのほか多くの迫害される種族を愛し、人間文明の恩恵の内側に招こうとしているのだから。みんな普通は嫌がる。慈悲深いと感激するものもいるが。
俺は生まれがこの世界ではないので、彼女の思想というか多様性を受け入れる考え方は、珍しくは映らない。どちらかというと平凡だ。時代が時代なら革新派とも呼べるのかもしれないが……ただ、俺にとってはよく馴染みのあるものだし、だからこそ彼女の思想を自信をもって信頼できる。支持できる。
なによりも魔法王国に忠実に仕える騎士貴族の男児として、またウィザードの称号を受けた者として王家のために杖を抜くことになんの抵抗もない。それが自然なことのように思える。
まあ、はやい話が、知人であるエフィーリアを助けたい。
「王城を取り返すためにエフィーリア王女のもとで戦うつもりです。アンナとキサラギもついて来てくれますか……?」
「なんでちょっと自信なさげなの。ついて行くに決まってるよ」
アンナは水色の淡く光る宝剣カトレアの祝福を抜いて好戦的な意志を示す。
「『嵐の槍』ストームヴェル。その槍の冴えを見てみたいし。裏切者ならなんの躊躇いもなく斬れるしね」
アンナさんが恐い顔してます。
「キサラギも行きます。キサラギは『嵐の槍』のストームヴェルの巨人槍術のデータを入れておきたいです」
キサラギも乗り気だ。
「じゃあ、ちょっと付いて来て下さい。王女殿下らが潜伏してる拠点に連れて行きます。ああ、それとキサラギはちゃんとJapanese Kawaiiを布で包んでくださいね。それは目立ちすぎますから」
言って俺たちは王女らが待つ隠れ家へと向かった。
不安はおおいにある。なにより泣き声の荒野へ向かいたい気持ちがある。
だが、どのみち尋常の手段ではどうにもならない。
勘の閃きのさきになら現状を打破する術があるはずだ。
だから俺は信じよう。我が導きの超越的直観を。
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