最強なのに自分だけ気づかない 無自覚チートの異世界ハーレムライフ

eringi

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第4話 冒険者ギルドでちょっとした騒動

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薬草採取の依頼を無事に完了させ、太郎はギルドに戻った。森の中では特に事件もなく、ただ静かに薬草を摘み集めただけだ。魔物の気配すら感じなかったのは幸いだった——もし遭遇していたら、また「偶然」消してしまったかもしれないと思うと、背筋が寒くなった。

「ただいま戻りました。薬草、ちゃんと採取できました」

太郎が依頼書と共に薬草の束を差し出すと、バルトはにっこりと笑った。

「おお、無事で何よりだ。今日は特に騒動もなかったか?」

「ええ。静かな一日でした」

「それはよかった。噂が広まった今、お前が外に出るたびに何か起きるんじゃないかと心配してたんだ」

バルトの言葉に、太郎は苦笑いを浮かべた。確かにここ数日、自分の周りでは奇妙な出来事が続いている。だが、今日だけは平穏だった。これで少しだけ「普通」に戻れた気がした。

「では、報酬の銀貨三枚だ。お疲れ様」

「ありがとうございます」

太郎が銀貨を受け取ろうとしたその時、ギルドの扉が勢いよく開かれた。

「おい、そこの新人! ちょっといいか?」

声の主は、派手な革鎧を身につけた二十代後半の男だった。腰には装飾の施された長剣を下げ、鼻の頭にそばかすがある。見た目は精悍だが、眉間にしわを寄せ、どこか傲慢な雰囲気を漂わせている。

「俺はBランク冒険者のケインだ。お前が噂の『触れずに魔物を消す男』か?」

太郎はため息をついた。またか、という気持ちだった。

「ただのDランク冒険者です。噂は全部誤解です」

「誤解? ふざけるなよ。昨日、訓練場で木剣を二本折り、銀の髪飾りを消し去ったんだろう? その話を聞いたぜ」

ケインは周囲に聞こえるように声を張り上げる。ギルド内の冒険者たちがざわめき、太郎に注目する。

「……それは偶然です」

「偶然でそんなこと起きるかよ。お前、何か魔導具でも隠してるんだろう? それとも、卑怯な薬でも使ってるのか?」

「使ってません」

「なら証明しろよ。今ここで、俺の剣を受けてみろ」

ケインは腰の剣に手をかけ、がらん、と鞘から少し引き抜いた。金属音がギルド内に響く。

「断ります。戦う理由がありません」

「臆病者め。噂だけはでかくしやがって」

ケインは嘲笑い、さらに声を荒げた。

「なあみんな! この新人、実力もないくせに大風呂敷を広げて、新人冒険者をだましてるんだぜ! 魔物を消せるって嘘をついて、金をせびってるんじゃないか?」

周囲からざわめきが起こる。中には信じている様子の者もいるが、大半は疑わしげな視線を太郎に向けている。

「嘘ついてません。ただの偶然です」

「偶然? じゃあ、今から俺と森に行こうぜ。スライム十匹を相手に、触れずに倒してみろよ。できたら俺が謝る。できなかったら——」

ケインはにやりと笑った。

「このギルドから二度と来るな。詐欺師は冒険者としての資格がないからな」

あまりに理不尽な要求に、太郎は頭を抱えそうになった。なぜ普通に暮らそうとするだけで、こんな騒動に巻き込まれるのか。

「……わかりました。行きます」

「太郎!」

バルトが止めようとしたが、太郎は首を振った。

「大丈夫です。スライムなら……運が良ければ」

「運じゃないだろ! 実力でやれよ!」

ケインは勝ち誇ったように笑い、太郎の肩を強く叩こうとした。

「まずはこれで覚悟を決めさせてやる——」

バチン!

ケインの手が太郎の肩に触れる直前、乾いた音と共に跳ね返された。まるで鉄壁にぶつかったかのように、ケインの手首が赤く腫れ上がる。

「い、痛っ! な、何だこりゃ……?」

ケインは手首を押さえ、驚愕の表情で太郎を見る。周囲も固まった。

「触れられませんでしたね。これも偶然です」

太郎は平静を装いながら言ったが、内心では冷や汗をかいていた。まただ。無自覚に力が発動してしまった。

「な、何をしやがった……!」

ケインは怒りに顔を歪め、今度は両手で太郎の胸倉を掴もうとした。

「今度こそ——!」

だが、同じことが起きた。ケインの手が太郎の服に触れる数センチ手前で、見えない壁に阻まれてぴたりと止まる。

「動かねえ……! 動かねえぞ!」

ケインは必死に力を込めるが、手は一ミリも前に進まない。周囲から失笑が漏れる。

「ケインさん、何やってんですか?」

「壁でもあるんですか?」

「新人くん、何もしてないですよ?」

確かに太郎は身動きひとつしていない。ただ呆然と立っているだけだ。

「くそっ……!」

ケインは焦り、今度は足で太郎の足を蹴ろうとした。だが、同じように触れることができない。蹴り足が空中で止まり、ケイン自身がバランスを崩して後ろ向きに転倒する。

ドサッ!

「痛てっ!」

床に尻餅をついたケイン。周囲からどっと笑い声が起こる。

「ざまぁみろ!」

「自業自得だな」

「新人くんに手出しするなんて、度胸あるなあ」

ケインは顔を真っ赤にして立ち上がる。

「し、仕組んだな……! お前、何か仕掛けたんだろう!」

「何もしてません。全部偶然です」

「偶然でこんなこと……!」

ケインは言い返そうとしたが、その時、ギルドの奥から落ち着いた声が響いた。

「ケイン。騒ぎはほどほどにしろ」

声の主は、白いローブをまとった年配の男性だった。銀色の髪を後ろでまとめ、穏やかながらも威厳のある雰囲気を漂わせている。魔導士協会の紋章がローブに刺繍されている。

「マ、マーティン先生……!」

ケインの態度が一変し、腰が低くなった。どうやらこの男性は、街でかなりの権力を持つ人物らしい。

「新人冒険者をからかうのは、冒険者の風紀を乱す行為だ。特に、噂の真偽を確かめずに騒ぎ立てるとは……お前の判断力が疑われる」

「し、失礼しました……」

ケインは頭を下げ、太郎を恨めしげに一瞥してギルドを後にした。逃げるように足早に去っていく背中は、先ほどの傲慢さが嘘のようだった。

「……失礼な者ですみませんね」

マーティンは太郎に向き直り、優しげに微笑んだ。

「あなたが噂の田中太郎さんですね。私は魔導士協会のマーティン。エリーゼさんから話を聞いていました」

「エリーゼさんから?」

「ええ。あなたの……特殊な体質について興味がありましてね」

太郎は警戒した。また力のことを調べようとするのか。

「特別な体質なんてありませんよ。全部偶然です」

「偶然が三度も重なることは、この世界では『法則』と呼ばれます」

マーティンはにっこりと笑った。

「心配しないでください。無理に調べようとは思いません。ただ——」

彼は周囲を見回し、声を落とした。

「あなたの周りで起きる『偶然』が、いつか大きな災厄を防ぐ鍵になるかもしれません。その時は、ぜひ協力をお願いしたい」

「災厄?」

「魔王軍の動きが活発化しています。国境付近で小競り合いが起きているとか……」

太郎の胸がざわっとした。アイリスも同じことを言っていた。

「……僕には関係ないですよ」

「そうかもしれませんね。でも、力を持つ者はいつか責任を問われるものです。その時までに、自分の力と向き合っておくべきですよ」

マーティンは深く頷き、ギルドを後にした。去り際に、太郎に温かい眼差しを向けてくれた。

「……面倒くさいな」

太郎はため息をついた。普通に暮らしたいだけなのに、次から次へと「力を使え」と言う人々が現れる。

「太郎さん……大丈夫?」

後ろから声がかかった。振り返ると、エリーゼとアイリスが立っていた。二人とも心配そうな表情だ。

「あ、エリーゼさん、アイリスさん……どうしてここに?」

「マーティン先生に会いに来たのよ。ちょうど入ってきたら、ケインの騒ぎを目撃して……」

アイリスが言う。

「ひどい話ね。何もしてないのに、からまれるなんて」

「でも、ケインが自滅したのは面白かったわね。ざまぁみろよ」

エリーゼが笑う。

「……全部偶然です」

「偶然で人の手が跳ね返され、蹴り足が宙に浮くわけないでしょう?」

アイリスが真剣な眼差しで言った。

「太郎さん。そろそろ認めたら? あなたには特別な力があるって」

「認めたら、普通でいられなくなるんです」

太郎の呟きに、二人は言葉を失った。

「普通でいたい……ただそれだけなのに、なんでこんなに難しいんでしょう」

その時、ギルドの扉が再び開かれた。

「太郎くーん! いたいた!」

元気な声と共に駆け込んできたのは、十歳くらいの少女だった。茶色の三つ編みに、大きな瞳。小さな体に冒険者の服を着込んでいる。

「リナ? どうしたの急に」

「リナじゃないよ! リナはパン屋のお姉ちゃんだよ! 私はリリー! 冒険者見習いのリリー!」

少女——リリーは胸を張った。

「ねえねえ、噂聞いたよ! 魔物を触れずに消せるんだって! すごーい!」

「……偶然です」

「偶然で十匹のスライムが消えるわけないでしょー! ねえ、私、弟子にしてよ!」

「また弟子?」

太郎は頭を抱えた。アイリスに続いて、今度は子供まで。

「私、剣も魔法もダメだけど、お料理は得意なの! 太郎さんのために、毎日おいしいごはんを作るよ!」

「……僕、自分で料理できますよ」

「じゃあ、お掃除! お洗濯! 全部やるから弟子にして!」

リリーは太郎の袖を引っ張り始めた。その時——

ピリリ、と空気が震えた。

リリーの手が太郎の袖に触れる直前、小さな火花が散り、リリーは「きゃっ!」と手を引っ込めた。

「痛っ! な、何これ……?」

リリーの指先が少し赤くなっている。太郎は慌てた。

「大丈夫? やけどした?」

「ちょっとだけ……でも、なんで火花が……?」

周囲がざわめく。またもや「偶然」が起きた。

「……ごめんね。多分、静電気だと思う」

太郎は適当な言い訳をしたが、誰も信じていないようだった。

「太郎さん……」

アイリスが静かに言った。

「これは静電気じゃないわ。あなたの力が、無意識にリリーちゃんを守ろうとしたのよ」

「守る?」

「ええ。リリーちゃんが触れたら、もしかしたら——消えてしまうかもしれない。だから、あなたの力が自動的に防御したの」

太郎の背筋が凍った。そんな可能性を考えたことがなかった。

「人間も……消えるんですか?」

「わかりません。でも、可能性はゼロじゃないわ」

沈黙が訪れた。太郎は自分がどれほど危険な存在なのかを、初めて実感した。

「……家に帰ります」

太郎はそっと立ち上がり、ギルドを後にした。後ろから三人の心配そうな視線を感じたが、振り返らなかった。

街を歩きながら、太郎は考えた。

自分は危険な存在かもしれない。触れたら消える力。無自覚に発動する力。もしこれが人間に向いたら——

「……普通でいることすら、許されないのかな」

元の世界では、平凡で目立たない存在だった。それがコンプレックスだったこともある。でも、異世界では「普通」であることがどれほど幸せかを知った。

「特別になりたくなかったのに……」

自宅の扉を開け、中に入る。静寂が広がる小さな家。ここでなら、誰も傷つけずに済む。

「しばらく外に出ない方がいいのかな……」

そう思った瞬間、ノックの音がした。

トントン、トントン。

「太郎さん? 大丈夫ですか?」

エリーゼの声だ。

「……はい。大丈夫です」

「よかった。でも、一人で悩まないでくださいね。私たちはあなたの味方ですから」

「……ありがとう」

「それと——」

エリーゼの声が少し明るくなった。

「リリーちゃん、さっきマーティン先生に預けたの。魔導士協会で見習いとして働かせてもらえることになったみたい。しばらくは弟子騒動もお休みよ」

「そうなんですか……」

「ええ。だから、ゆっくり休んで。明日はまた普通の一日になるかもしれないわ」

普通の一日。それが今はどれほど遠い願いに思えるか。

「……ありがとう。エリーゼさん」

「どういたしまして。では、明日ギルドで会いましょう」

足音が遠ざかる。再び静寂が戻る。

太郎は窓辺に立ち、外を見る。夕日が街を染め、人々が家路を急いでいる。普通の光景。普通の日常。

「明日こそ、普通の一日になりますように……」

願いながら、太郎は夕食の支度を始めた。簡単なスープとパン。一人で静かに食べる。

「……でも、一人でいる方が安全なのかもしれない」

誰かを傷つけないために。誰かを消してしまわないために。

「普通」であることが、こんなにも難しいとは思わなかった。

夜が更け、ベッドに入る。布団の中で考え込む。

「神様……なんでこんな力くれたんですか?」

普通に暮らしたいだけなのに。特別な力なんていらないのに。

「……でも、もし誰かを守れるなら」

アイリスの言葉を思い出す。「その力で、この国の危機を救えるかもしれない」

魔王軍。災厄。守るべきもの。

「……でも、僕には無理です。ただの普通人間ですから」

そう言い聞かせながら、太郎は眠りに落ちていった。

——その夜、太郎の夢の中に、白い光が差し込んだ。

「……ごめんね、太郎くん」

優しい声。女性の声だ。

「バグっちゃって……ごめんね……」

光が揺らめき、消える。残されたのは、深い安らぎだけ。

翌朝、目が覚めた太郎は、なぜか少し気持ちが軽くなっていた。

「……夢、見たな」

何の夢かは思い出せない。でも、温かい気持ちだけが残っている。

「今日こそ、普通の一日にしよう」

そう決意し、太郎は家を出た。

——しかし、彼の知らないところで、街には新たな噂が広まり始めていた。

「謎のDランク冒険者、貴族の息子を一撃もせずに退けた」

「触れると火花が散るらしい」

「神の加護か、それとも——呪いなのか?」

噂は風のように広がり、やがて王都の貴族たちの耳にも届くことになる。中でも、一人の若き貴族が、この噂に強い興味を示した。

「面白そうだな……その『普通の冒険者』とやらに、会ってみるか」

彼の名はルカス。王弟の息子であり、次期国王候補の一人でもあった。

「力があるのに普通を装う男……興味深い。会って、その真意を確かめてみよう」

ルカスの行動が、太郎の運命を大きく変えることになるとは、当の太郎はまだ知る由もなかった。

「今日も、普通の一日でありますように……」

太郎の願いは、またしても叶いそうにない朝だった。

(続く)
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