転生無双学院~追放された田舎貴族、実は神剣と女神に愛されていた件~

eringi

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第30話 王都を包む星の雨

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 空が泣いていた。  
 虚神の塔が崩壊した日から三日。  
 世界は不安定な輝きを発しながら再構築の過程にある。  
 山々は動き、海は大気と混じり、まるで世界が呼吸をしているようだった。  
 それでも人々は生きていた。再び太陽が昇るのを見て、泣きながら笑った。  

 エリアスはその光景を、王都の中央広場から眺めていた。  
 穏やかだった髪が風に流れ、握る剣には、微かに残るルミナの光が宿っている。  

「……終わったんだろうか。俺たちは本当に、壊れた世界を直せたのか。」  
 問いは風に消えた。  
 だが隣に立つルミナが、静かな声で答える。  

『直したわ。でも完全じゃない。あなたが記した“未来は一人のものじゃない”という言葉は、まだ形のない希望。世界がそれを受け入れるまで、時間がかかる。』  

「そうか。」  
 彼は小さく笑い、目を細めた。  
 その目に映るのは、城の塔へ向けて走る人々の姿。  
 愛する者の名を呼び、見知らぬ誰かを助け、泣きながら手を取り合う人たち。  

 それは確かに“未来を共有する人間たち”の姿だった。  

* * *  

 夜になると、王都は奇妙な輝きに包まれた。  
 空に広がる薄い膜のような光が波打ち、星々が降るような光景を作り出している。  
 人々はそれを「星の雨」と呼び、神々の祝福だと噂した。  

 しかし、エリアスにはわかっていた。  
 それは神々の再生の証でも、単なる自然現象でもない。  
 “記述の残滓”――彼が世界をもう一度書き換え、矛盾が再構築される際に起こる副作用。  
 天界の境界と人の世界が一時的に触れ合い、星屑のような情報粒子が降り注いでいるのだ。  

 ルミナが低く呟く。  
『この輝きの一つひとつに、誰かの願いが眠っている。  
 壊れた世界を修復するために、あなたが書き換えた“希望”のかけら。』  

「……じゃあ、これが人々の祈りの形か。悪くないな。」  
 エリアスの声には疲労と、どこか詩的な響きがあった。  

 星の降る道を歩く彼のもとへ、小さな影が駆け寄る。  
「エリアス!」  
 弾けるような声。リオだった。  
 彼の後ろではミリアとレオナも立っており、久々に再会した笑顔が星の光に照らされる。  

「お前たち……無事だったのか!」  
 エリアスの瞳が大きく見開かれる。  
 リオは誇らしげに胸を叩いた。  
「当然だろ! 学院が崩れても、俺たちは灰星組だぞ!」  

 ミリアが苦笑しながら続ける。  
「まったく、無茶ばかりするのは相変わらずね。でも……ありがとう。今回もあなたに救われたわ。」  

「救ってなんかない。俺はただ――書き換えをしただけだ。」  
「それが世界を救ったのよ。」とレオナが静かに言った。  
 その目には尊敬と、淡い安堵の光があった。  

 ふと、ルミナの声が響く。  
『仲間と再会できたのね。あなたが“人として”ここに立っている理由は、それだけで十分。』  

 彼は微笑み、視線を遠くの塔に向けた。  
 そこに王女セレナが現れる。  
 白いドレスを星空と同じ光が包んでおり、その姿はまるで新しい夜の女神のようだった。  

「セレナ……。」  
「おかえりなさい、エリアス。」  
 彼女は一歩ずつ近づき、手にした懐中時計を掲げる。  
 その針はゆっくりと回り、止まっていた“時”が動き始めた。  

「あなたが世界を動かしたから、この時計も再び歩き出したの。  
 きっとこれは、希望がもう止まらないって証なのね。」  

「これから先も、止まらせないさ。」  
 エリアスの声は穏やかだったが、確固たる決意が篭もっていた。  
 セレナが頷く。  

「なら、共に見届けましょう。  
 人と神が共に生きる時代を――あなたの新しい世界を。」  

 二人が手を伸ばそうとした瞬間、地面が震えた。  
 星の雨が急に光を強め、空を覆う。  
 そして上空に、裂け目が走った。  

 ルミナの声が鋭く響く。  
『……これは――境界反転! 天界と地上が完全に交わっている!』  
「つまり、神々が……戻ってくるのか?」  

『いいえ、違う。これは――』  

 ルミナの声が途切れる。  
 彼女の光が一瞬、強く明滅した。  
 そしてその中心から、音を立てるように現れたのは、黒い筆跡。  

 夜空に浮かぶ長い一本の闇。  
 それはかつて失われた“神々の筆”そのものだった。  

「まさか……」  
「“第二の記述者”?」ミリアが呟く。  
 ルミナが低く答える。  
『違う……これは、神々の綴り、つまり世界の初期化装置。  
 天界の崩壊を察知した神群の残留意識が、自動で動き始めたのよ!』  

「世界を……消して書き直すつもりか!」  
『そう。神々にとって、人の書いた記録など“誤字”にすぎない。  
 このままでは、あなたが守った物語も、ルミナとの記録も……全部消える!』  

 リオたちが顔を見合わせる。  
「クソッ、どうすりゃ止められるんだ!」  
「神の装置なんて、止める方法があるの!?」  
 エリアスは空を見上げた。  
 その目は静かに燃えていた。  

「あるさ。  
 この世界を創った筆が再起動したなら――  
 今度は俺が、“真の書記”として書き換える。」  

 風が吹き抜け、空の星々が煌めく。  
 星の雨が勢いを増し、景色が白銀に染まる。  

「ルミナ!」  
『はい。あなたと共に。』  

 彼の右手に、ルミナの光が集まった。  
 剣は形を変え、純白の羽根を広げる羽筆となる。  
 それは、かつて神が世界を書いた最初の道具――“創世筆ルーメン”。  

 エリアスが空に向けて構える。  
 全ての星の光が彼の背中に集中し、巨大な輪のように展開した。  

「世界の定義、変更――!」  
 その声と共に、地平線が光で満たされる。  

『この瞬間、あなたは神すら超える“物語の綴り手”になる。』  
「神でも、勇者でもないさ。」  

 エリアスは、ゆっくりと微笑む。  
 星の雨が彼の頬を滑る。  
「俺はただ、みんなと一緒に世界を描きたいだけだ。」  

 筆先が動く。  
 一条の光が闇を裂き、記述装置が軋む音とともに世界が変わる。  
 星々が空へ舞い戻り、夜が再び穏やかに包み込む。  

 ルミナが囁く。  
『成功したわ。再起動は停止。……あなたの世界は、まだ続く。』  

 エリアスは深く息を吐いた。  
「よかった……ようやく本当の意味で、星の雨が“希望”になった。」  

 見上げた空には、無数の光が舞っていた。  
 それは誰かの祈りであり、未来の文字でもある。  

「これが――俺たちの記録だ。」  

 彼は筆を下ろし、ルミナと共に夜を見上げた。  
 星々が降り続ける王都の空の下で、彼は静かに微笑んだ。  
 その微笑みが、今度こそ世界を照らす夜明けの光になると信じながら。
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