追放された無能錬金術師、実は神々に愛されし唯一の創成者でした〜気づけば全種族の姫に囲まれていた件〜

eringi

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第2話 森で拾った不思議な鉱石

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森の風が静かに流れていた。巨大な魔獣を消滅させたというのに、その場には信じられないほど穏やかな空気が漂っている。だが、当のアルトは腰を抜かしたまま立ち上がれずにいた。

「えっと……本当に俺がやったんですかね、今の」

「間違いありません」  
金髪の女性がきっぱりと言い切った。  
「あなたが展開した結界の中、あの魔獣は粉々に崩壊しました。しかも灰一つ残らず。それは神術級の錬成に匹敵します」

「神術級?」  
アルトは乾いた笑いを漏らす。  
「それ、そんなにすごいものなんですか?」

ティナが感極まったように両手を組み、瞳を潤ませて言った。  
「アルト、私、ずっと信じてた! あんなに村の人たちから責められても、きっとあなたはすごい人なんだって!」

「いや、ほんとに……たぶん偶然だって。俺、そんな器じゃ――」

「偶然でドラゴ・メタリアを消し飛ばせますか?」

女性の言葉に、アルトの声が止まる。彼女の瞳は真剣そのもので、迷いの色もなかった。  
「私は帝国王立魔術学院の第一皇女、セリア・フォン・リステル。あなたには必ずお礼を申し上げねばなりません。命を救っていただいたのですから」

「……皇女様?」  
アルトとティナが同時に声を上げた。

セリアは頷き、乱れた髪を整えた。戦闘の最中に汚れたドレスが、彼女の高貴さを隠しきれていない。  
アルトは思わず顔を赤くした。  
「そ、そんな偉い人を抱えたまま森を歩いてたんですかティナ!?」

「違うのっ! 森で倒れてるのを見つけたの! それで村に連れて帰ろうとしたら……!」

話している間にも、ティナの視線はアルトの足元へと向かう。  
そこには、先ほどの魔獣が砕け散った跡に一つだけ残った鉱石があった。大人の拳ほどのサイズで、淡い白銀の光を放っている。

「ねえアルト、この石……動いてるみたい」

「動いてる?」

アルトはしゃがみ込み、慎重に観察する。確かに、鉱石の表面を淡い紋様が流れていた。まるで呼吸しているかのように、光が波打っている。

「こんなの、見たことない……」

セリアが息を呑む。  
「まさか……“創成核”?」

「創成核?」  
アルトは首をかしげた。  
「それ、なんです?」

「神々が遺したと伝えられる原初物質です。錬金術のすべての源、世界を構築する因子の結晶……伝説では、創成者がそれを核として天と地を作ったのだとか」

アルトは苦笑した。  
「そんな大層なもんが、森の土の中に転がってるわけないですよ」

「ありえません……ですが、その杖を持つあなたの前に現れたとなると、ただの鉱石ではないでしょう」

アルトは手を伸ばした。触れた瞬間、淡い脈動が指先を包み、温かさが掌に流れ込んできた。  
次の刹那、視界の端に光の“式”が浮かび上がる。  
それは、理解できないほど美しい数式の連なりだった。

(ああ……これも、“見える”)

アルトは意識の奥底で、それが自然なことのように感じた。  
ただ形をなぞる。それだけで光が形を変え、彼の胸元を包み込む。

ティナが慌てて声を上げた。  
「ちょっ、アルト!? その石、壊れるって!」

「大丈夫。なんか、わかる気がする……」

その言葉通り、光がふっと収まり、彼の手の中には小さな銀色の丸石が残った。先ほどまで不気味なほど輝いていたのが嘘のように、今は静かに眠っている。  

セリアが畏怖するようにその石を見つめた。  
「錬成式も詠唱もなしに構成を安定化させた……こんな制御、見たことがありません」

「いや、ただ落ち着けってなだめただけなんですけど……」

ティナが笑いながら言う。  
「昔からだよね、アルト。鍋が爆発しそうになっても、“大丈夫だ落ち着け”って言ってたらほんとに止まるんだから」

「それを錬金術って呼べるのか怪しいけどな……」

そう呟きながらも、アルトの中では妙なざわめきが広がっていた。  
何かが呼んでいる。自分に語りかけてくるような、低く優しい声だ。

(アルト……創成は滅ではない。癒しの理だ。忘れるな……)

頭の中に響いたその声に、アルトは思わず額を押さえた。

セリアが心配そうに近づく。  
「どうしました? 顔色が……」

「いや、大丈夫です。ただ、ちょっと……懐かしい声を聞いた気がして」

「懐かしい?」

その瞬間、遠くで雷鳴がとどろくような音がした。三人が同時に顔を上げる。  
森の向こう、黒い雲が渦を巻き、空気が一変する。

セリアが小さく呪文を唱えた。  
「これは……! 魔域の反応!? 創成核に引かれて、何かが集まってきています!」

「え、また魔獣? さっきのやつみたいなのはもう勘弁してほしいけど!」

ティナがアルトの腕にしがみつく。アルトも青ざめながら周囲を見回した。確かに、森の中から無数の目のような光が近づいてくる。

「うわ、だいぶ多くないか……」

セリアは真剣な声で言った。  
「逃げましょう。ここで戦えば森が崩壊します。北に逃げれば古代の廃祠があります、そこなら一時的に結界を張れます!」

アルトは頷き、ティナの手を引いて走り出す。セリアも裾を押さえながら後に続いた。足元の土が揺れ、獣の息遣いが背後で迫る。

「いつも思うけど、俺って平穏な旅路とは縁がないな!」

「あなた、村を出てまだ三日ですよ!?」セリアの突っ込みが飛ぶ。

廃祠は苔むした石造りの小さな神殿跡だった。壁は崩れ、屋根もほとんど残っていない。  
だがセリアは中央の祭壇に駆け寄り、手を広げて魔法陣を展開する。

「結界式・レウム!」

青い光が周囲を覆い、見えない壁が形成される。外からの衝撃音が響くが、内側までは届かない。

アルトは息をつき、ティナに水を渡した。  
「大丈夫か?」

「うん……ありがとう。アルト……」

その笑顔にほっとする。だが、セリアの表情は硬いままだった。  
「このままでは長く持ちません。あの数は尋常ではない……。まるで、あなたを標的にしているかのようです」

「俺を?」

「創成核を手にしたあなたを、です。おそらくそれを感知する何者かに狙われている」

アルトは手の中の小石を見つめた。それは小さく脈動している。温かい光は、まるで心臓の鼓動のようだった。

「……手放すべきかもしれませんね」

セリアが言った瞬間、ティナが首を振った。  
「だめ! アルトはそれを守ったんだよ! それを失ったら、きっと――」

ティナの言葉に、アルトは静かに頷いた。  
「いや、これをどうするかは俺が決める。けど、まずは――」

アルトが立ち上がると、結界の壁に光の線が走った。  
「向こうも、黙ってくれそうにないな……」

アルトは杖を構えた。その先端が微かに震え、白い粒子が降り始める。  
「ちょっと実験してみる。多分……“空間式”の一つだ」

セリアが目を見開いた。  
「空間式!? そんな高度な錬成、命を削ります!」

「まぁ、やってみなきゃわからないですから」

彼の口元に、わずかな笑みが浮かんだ。村を出たときの虚ろな表情はもうない。  
「俺、ずっと気づかないふりしてたんです。でも、これが俺の“普通”なら、ちゃんと使わなきゃ」

杖の先端が光を放ち、白銀の渦が天へと伸びた。  
次の瞬間、周囲の魔獣たちが一斉に止まり、音もなく霧散していく。  
世界そのものが静止したかのように。

ティナが息を呑む。「……全部、消えた……?」

「いや、転送しただけです。少し離れた場所に飛ばしたので、たぶんもう来ません」

アルトがさらりと言うと、セリアはため息をついた。  
「……あなた、やはり無自覚で神術を使っていますね」

アルトは苦笑するしかなかった。  
森は再び静けさを取り戻し、風に運ばれて鳥の声が戻る。  
そして彼の手の中の創成核が、さらに強く光を放った。

「また呼ばれてる……」

その囁きを最後に、まばゆい光が彼らを包み込んだ。  
行き先のわからない光。けれどその中に、確かな導きがあった。

(第2話 終)
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