追放された無能錬金術師、実は神々に愛されし唯一の創成者でした〜気づけば全種族の姫に囲まれていた件〜

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第3話 錬成しただけで魔獣が消滅

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光が収まったとき、アルトたちは森の中ではなかった。地面は白く輝く石で敷き詰められ、天井のない空間のように広がる青光が、空と地を溶かしている。  
「……ここは、どこだ?」アルトがあたりを見回す。  
セリアが顔をしかめて言った。「まさか……転移空間? でも私の知る限り、こんな構造の結界領域は存在しません」  
ティナは不安そうにアルトの服の裾をつかんだ。「ねぇアルト……まさか、またあなたが?」  
「いや、俺も驚いてるって!」とアルトは焦ったように手を振った。「ただ、消えたらいいなって思っただけで、こんな壮大な……」

そのとき、地面がゆっくりと波打った。空間の中央に、淡く光る石碑のようなものが現れる。そこには、古代文字が浮かんでいた。  
セリアが息を呑む。「これは……神代文字! いまでは誰も読めないはずの言語。それがはっきり……」  
アルトは無意識のうちに視線で文字を追う。すると、脳裏で自動的に意味が組み上がっていった。  
(創成核、器に選定されし者。理を綴る術、再び開かれん)  
「読める……」アルトの口から自然に言葉がもれた。  
「え……読めるんですか!?」セリアが絶句する。  
アルトは困惑しつつも、文字の中心に書かれた式構造に触れた。それは、見慣れた錬金術式とまったく違う。だが、頭の中には確かに組み立て方が“見える”のだ。

(この文字列、“形を造る”じゃなく、“存在を定義する”……?)

周囲の光が強まる。ティナが悲鳴を上げ、セリアが詠唱を試みるが、声が弾かれた。  
「干渉を拒絶してる!? 完全固定式の奇点領域です!」  
「それ、つまりどういうこと!?」ティナが混乱して尋ねる。  
「彼以外、この領域を制御できないということです!」  
セリアの叫びを聞くまでもなく、アルトの周囲に光の輪がいくつも出現し、重なり合い、巨大な錬成陣を形づくる。  

耳元で囁くような声が再び聞こえる。  
(アルト、これは“封印の遺構”。お前の力で維持されていた……だが、今は解くときだ)  
(お前は、創成の子。滅びを癒すために生まれた理)

「誰だ!?」アルトは声を上げた。しかし、答えは静かに沈む。  
セリアが必死に手を伸ばし、「危険です、触れないで!」と叫んだが、アルトはどこか静かな表情をしていた。  
胸の中に、確かな直感があった。  
これは壊してはいけない。けれど、このままでもいけない。  
ならば、“錬成し直す”しかない。

「――分解、再定義、再構築。」

アルトの呟きに呼応するように、巨大な光陣が動き出す。周囲の空間が震え、彼の足元から白い波動が広がっていった。  
そして次の瞬間、視界が真っ白に染まる。  
外で待ち構えていた魔獣たち――森を覆い尽くしていたはずの黒き群れが、一匹残らず消滅していた。燃えもせず、爆ぜもせず、ただ“消えた”。

「……な、何が起きたの?」ティナが青ざめた声で呟く。  
セリアは目を閉じて魔力感知を試み、やがて小さく息を吐く。「魔素濃度が……完全に浄化されています。魔獣だけではなく、周囲の汚染も消滅している。これは……救済の錬金……?」  
「救済?」アルトが首をかしげる。  
「破壊ではなく、再定義による浄化……そんな現象理論上ありえません。錬金術が到達できる領域ではない……まるで、神が触れたような再創造です」  
「でも……俺はただ、“静まってくれ”って念じただけなんですが」  
「だからこそ異常なんです!」セリアは両手で顔を覆いつつ、笑い出すほどの呆れ顔になった。「あなた、自覚ゼロのまま人智を超えた創成をやってるんですよ!?」  

アルトは苦笑しながら肩をすくめた。「自分じゃ普通にやってるつもりなんですけどね……」  
ティナがぽつりと呟く。「アルト、昔もそうだったよ。病気の子を助けようとして、おまじないの薬を作ったら、村の病気全部なくなってたよね」  
「……あれ、偶然だと思ってたけど……」

セリアは立ち上がり、背筋を伸ばしてアルトを見つめた。「いいえ、偶然ではありません。あなたは、“創成者”そのもの。世界を構築する理に干渉できる唯一の存在。あなたの望みが、そのまま現象を編み直すんです」  
「いやいやいや、そんな大げさな……」  
「事実です。魔獣に挑める国家級の魔術師でさえ、いまの現象は再現不可能です」  
「……ほんとに、俺なのか。どっかで冗談じゃないですかね?」  
「冗談ならどれほど良いか……」セリアは深くため息をついた。「あなたが無自覚のまま力を使えば、この大陸そのものを別の形にしてしまうかもしれません」

ティナが心配そうにアルトの腕を掴んだ。「でも、アルトはそんなことしないもんね」  
アルトは微笑んで頷いた。「ああ。俺は誰かを助けたいだけだ。壊したいなんて思ってない」  
その笑顔に、セリアもわずかに口元を緩めた。「……なら、仕方ありませんね。すでに選ばれてしまった以上、私たちがあなたを支えるしかありません」

アルトは立ち上がり、遠くの空を見た。白と青の境目に、小さな光の亀裂が見える。  
「外に戻れるかな」  
「この空間の主はあなたです。あなたが“帰りたい”と思えば、道は開きます」  
「なるほど、シンプルな理屈だ」  
アルトが軽く杖を振ると、空の亀裂がめきめきと音を立てて広がり、青空の向こうに森の景色が見えた。  

ティナとセリアは顔を見合わせ、呆然としていたが、アルトには何も特別なことをしている実感はなかった。  
三人の姿は光の中に吸い込まれ、再び現実の森に立つ。  
地面は焦げてもいなければ、戦闘の形跡もない。まるで時間そのものが巻き戻されたかのようだ。  

「この世界……あなたの“再定義”が及んだのですね」セリアが空を見上げて小さく呟く。  
「なんか、変なことになってません? 空、ちょっと明るすぎるような……」  
「ええ、魔力密度が安定しています。これは数千年ぶりの……」

そこへ、ティナがアルトの裾を引いた。  
「アルト、さっきの鉱石……どうなったの?」  
見ると、アルトの手の中で“創成核”が再び脈動している。光は柔らかく、今度はどこか懐かしい温もりがあった。  
声が聞こえた気がした。  
(この世界が再び乱れしとき、汝が手が理を紡ぐであろう。ゆえに歩め、創成の子)  

「また、呼ばれた……」アルトは空を見上げた。  
セリアが真剣な表情になる。「これで確定です。この地はすでにあなたを“鍵”として認識した。ならば、これから向かうべき場所があるはずです」  
「場所?」  
「神々の遺跡――“第一創成坑”。伝承では、世界の理が降り立った場所。あなたの力を理解する唯一の手掛かりです」

アルトはしばらく黙ってから、ゆっくり頷いた。  
「わかりました。……どうせ行くあてもなかったですしね」  
ティナが勢いよく息を吸い、「じゃあ私も行く!」と宣言する。  
「え、なんで!?」アルトが驚くと、ティナは腰に手を当てて言った。  
「だってアルトはどうせ面倒事に巻き込まれるんだもん。見張ってなきゃ危ないでしょ?」  
セリアが苦笑する。「確かに。あなた一人に任せておくのは……心臓に悪いですね。私も同行します。帝国の名において、正式に護衛を務めさせていただきます」  
「護衛って、俺が一番足引っ張る自覚あるんですけど……」  
「それも含めて護ります」

三人は笑い合い、風が木々を揺らした。森はどこか澄んでいて、先ほどまでの戦慄が嘘のように静まり返っている。  
アルトは創成核を懐にしまい、杖を肩に担ぎながら歩き出した。  

「これからどうなるのか正直わからないけど……せっかく追放されたんだし、少しくらい好きにやっても罰は当たらないかな」  

その背中を、セリアとティナが追う。  
新しい旅路は、まだ始まったばかりだった。

(第3話 終)
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