追放された無能錬金術師、実は神々に愛されし唯一の創成者でした〜気づけば全種族の姫に囲まれていた件〜

eringi

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第4話 村娘ティナとの再会

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追放された村に戻るには、勇気がいる――アルトはそう思っていた。  
だが、現実は少し違った。ティナが「村に行かなきゃダメ!」と主張したのだ。  

「どうせ、一度は顔出さないといけないでしょ? それにもう村の人たちを避け続ける理由もないと思うの」  
ティナの言葉に、アルトは小さく息を吐いた。  
「でもあの村の連中は、俺を“無能”って……」  
「“無能”って言ったその口で、今頃きっと後悔してるよ。ほら、あれ見て」

指差す先、遠くに見える村の入り口には、見慣れた柵があった。けれど、その外周にあるはずの森が荒れている。痕跡は浅いが、明らかに何かが暴れたような掘り返された跡が連なっていた。  

「魔獣の足跡ですね」セリアが険しい声で言った。「大きさから見て……中級以上の群れ。それもかなりの数です」  
「それって……村に?」  
「襲撃されています。どうやら、あなたが魔獣を消したあと、均衡が崩れたようですね」

「俺のせい……か」  
アルトが小さく呟く。その肩を、ティナが軽く叩いた。  
「違うよ。あなたがいなかったら、この村はもっと大変なことになってた。行こう、アルト。皆を助けなきゃ」

アルトは唇を結び、静かに頷いた。三人は足を速め、村へ向かった。  

やがて、農地の跡を抜けて広場に差し掛かると、そこは地獄絵図だった。焼け焦げた木材。瓦礫。怯えた表情で隠れる老人たち。  
そして村長を含む数人が、巨大な黒い犬型の魔獣を囲んでいた。  
「また魔獣!?」ティナが息を呑む。  
黒い魔獣は背丈が人の二倍。口から赤い霧を吐き出し、嗜虐的な唸り声を上げている。  

「おのれぇ……誰か、矢を持ってこい!」村長が叫ぶ。だが誰も動けない。  
アルトは無言で前に出た。  
「下がってください」  
「なっ……! お、お前はアルトか!? 何しに戻った、恥知らず!」  
「言い争う時間はありません。あれを止めないと」  
村長が顔を引きつらせ、「貴様などに何が――」と言いかけた瞬間、魔獣が跳んだ。  
アルトは杖を軽く振る。  

「錬成・障壁形態『守護円環』」  

空中に透明な輪が浮かび、魔獣の身体を包んだかと思うと、次の瞬間、何の抵抗もなく霧散した。  
一拍の沈黙。  
「……え?」村人の誰もが声を出せず、ただ立ち尽くす。  
魔獣がいた場所には、淡い光の破片だけが舞っていた。  

「今……何を?」セリアが小声で尋ねる。  
「防御を構築したつもりなんだけど、攻撃判定扱いになったのかも」  
アルトが少し困った顔で首をかしげる。  

その瞬間、村の人々が一斉にどよめき出した。  
「な、なんだ今の……魔獣が……消えた!?」  
「アルト……嘘だろ、アルトが!?」  
驚きと恐怖とが入り混じった声。かつて彼を「無能」と呼んだ人々の顔が、信じられないものを見るように揺れていた。  

ティナが胸を張るように言う。「ね? アルトは無能じゃないんです。誰より村を助けたでしょ!」  
村長がわなわなと震えながら口を開いた。  
「ど、どういうことだ……そんな術式、王都でも見たことは……」  
アルトは表情を崩さず、「説明は後にします。怪我人を運びましょう」と短く告げた。  

アルトたちは村人と協力し、崩れた建物から人々を助け出していった。焼けた小屋、倒れた家畜小屋、必死に泣く子供。そのどれもがひどく痛ましかった。  
しかし、アルトの周囲では奇妙な現象が起きていた。  
瓦礫に手を置くと、光が走り、ひとりでに木材が元の形に戻る。倒れた柱が立ち直り、崩れた井戸が数秒で修復される。

「すごい……修復まで錬金術で!?」セリアが感嘆の声を上げる。  
「いや……錬金術っていうより、“戻した”だけなんですが……」  
「それを錬金術で済ませるあなたの方が異常です!」

作業を進めていくうちに、村の人々が少しずつアルトの周りに集まり始めた。先ほどまで怯えていた顔が、今は安堵と敬意を帯びている。  
村長が近づき、何度も頭を下げた。  
「アルト……いや、アルト様。わしが、間違っておった。どうか、この老いぼれを許してくれ」  
アルトは一瞬黙り、それから小さく笑った。  
「もういいですよ。誰だって間違う時はあります。俺だってたくさん失敗しましたし」  
「そ、それにしても、そんな力を隠していたとは……」  
「隠してたんじゃなくて、気づかなかっただけです。最近ようやく、少しだけわかってきました」  

村人の中から歓声が上がる。  
「アルト、英雄だ!」  
「俺たちを助けてくれたんだ!」  
村の子供たちが駆け寄ってくる。「アルト兄ちゃん、かっこよかった!」  
ティナが笑いながら頬を赤くした。「でしょ、うちのアルトは最強なんだから!」  
「“うちの”って、それ言い方……」アルトが苦笑する。  
「いいじゃないの!」ティナは得意げだった。  

その後、村は急速に落ち着きを取り戻していった。炎が消え、風が柔らかく吹き抜ける。いつの間にか空も晴れ渡り、焦げた匂いが薄れていく。  
村長がセリアに尋ねた。「皇女殿下も、まさか彼のような者が……」  
セリアは穏やかな笑みを浮かべた。  
「彼はただの人ではありません。ですが、彼は“救う”ことしか望まない人でもあります」  
「……そうか。あの子は昔から優しかった」  
村長は目を細め、遠くで子どもに囲まれるアルトの姿を見つめた。  

その日の夜。村に久々の灯がともった。焼け残った民家に集まり、簡素な食事を囲む。パンの香ばしい匂いが広がり、誰もが笑顔を取り戻していた。  

ティナがアルトの隣に座りながら、小声で囁いた。  
「ねぇアルト。村に戻るの、嫌じゃなかった?」  
「うーん……正直、少し怖かったけど。後悔はしてないかな」  
「うん、私も」  
ふたりの会話を聞いていたセリアが、湯気の立つカップを手に微笑む。  
「素敵な夜ですね。けれど、明日からは本格的に動かねばなりません。創成核を巡って、黙っていない者たちもいるでしょう」  
アルトはしばらく考え、それから空を仰いだ。満天の星が瞬いている。  
「わかってます。でも……今は少しだけ、この時間を大切にさせてください」  
ティナが頬を染めて頷いた。  

焚き火の火がぱちりと弾け、煙が夜風に流れていく。  
その光の向こうで、確かに少しだけ村が明るさを取り戻していた。  
かつて「無能」と呼ばれた青年が再びその中心に立っていることを、誰も疑う者はいなかった。

(第4話 終)
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