「役立たず」と追放された宮廷付与術師、実は世界律を書き換える『神の言葉』使いでした。~今さら戻れと言われても、伝説の竜や聖女様と領地経営で忙

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第4話 庭に迷い込んだ子犬(フェンリル)に餌をあげてみた

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ふかふかのスライムクッション製ベッドの上で、僕は目を覚ました。
窓から差し込む朝日は柔らかく、小鳥のさえずりが心地よい目覚まし時計代わりだ。
王都での生活、特に勇者パーティでの過酷な労働環境にいた頃は、朝起きるのが億劫で仕方なかったが、今は違う。
今日という一日が楽しみで仕方がないのだ。

「ん……重い」

起き上がろうとすると、腹の上にずっしりとした重みを感じた。
布団をめくると、そこには昨晩拾った白い犬――シロが、僕のお腹を枕にして丸くなっていた。

「おはよう、シロ。よく眠れたか?」

僕が声をかけると、シロはパチリと黄金色の瞳を開け、嬉しそうに尻尾を振った。
そして、僕の顔をペロペロと舐めてくる。

「わ、わかった、わかったから。朝ごはんの準備をするよ」

僕はシロをどかしてベッドから降りた。
ん?
なんとなく、昨日よりも身体が大きくなっている気がする。
昨日は大型犬サイズだったが、今日はなんとなく、仔牛くらいのサイズ感があるような……。

「まあ、育ち盛りってことかな。野生動物の成長速度はすごいな」

僕は深く考えずに納得し、リビングへと向かった。
シロがその後を、トテトテと(その巨体には似つかわしくない軽快さで)ついてくる。

キッチンに立ち、冷蔵庫(氷魔法の常時付与によりキンキンに冷えている)を開ける。
中には、昨日マジックバッグから取り出した食材がまだ残っていた。

「今日はベーコンエッグと、パンと、サラダにしよう」

僕は手際よくフライパンを熱する。
もちろん、ただの調理ではない。
『味覚増幅』『栄養素完全抽出』『鮮度回帰』といった付与魔法を、無意識のうちに食材へとかけていく。
ジュウウウッ、という食欲をそそる音と共に、部屋中に香ばしい匂いが充満した。

「よし、シロの分も作るか」

僕は大きめのボウルに、肉厚のステーキ肉(以前、Sランクダンジョンのミノタウロスからドロップした最高級肉だが、僕はただの牛肉だと思っている)を放り込み、軽く炙って出した。

「ほら、お食べ」

シロは目の色を変えた。
「ガウッ!」と短く鳴くと、猛然と肉にかぶりつく。
その瞬間、シロの全身からバチバチッという謎の発光現象が起きた気がしたが、たぶん静電気だろう。
冬場の犬は静電気が起きやすいと聞くし。

   ◆   ◆   ◆

(シロ視点)

我の名はフェンリル。
かつて神々さえも恐れさせた、氷と破壊の化身である。
しかし、数百年前に封印され、永き眠りについていたところを、先日目覚めたばかりだった。
力は衰え、幼体の姿に戻り、あまつさえ下等な魔獣どもに傷を負わされるという屈辱……。
死を覚悟した我を救ったのは、この男――アレン様だった。

彼が与えてくれた「餌」。
それは、ただの肉ではなかった。
一口食べた瞬間、体内で爆発したのは膨大な魔力の奔流。
神代の時代にしか存在しなかったはずの、純度100%のマナが凝縮されていたのだ。

(こ、これは……神々の食物(アンブロシア)か!?)

衰えていた魔核が一瞬で満たされ、失われていた力が溢れ出してくる。
いや、それどころか、全盛期以上の力が漲ってくるではないか。
ただの朝食で、我は「限界突破(リミットブレイク)」を果たしてしまった。

さらに、アレン様が何気なく撫でてくれた手。
そこから流れてくる波動は、我を縛る「世界の理」そのものを書き換える力を持っていた。
『絶対服従』『永続強化』『災厄無効』……。
恐ろしいほどの加護が、呼吸をするように与えられている。

(この御方は、一体何者なのだ……創造神の化身か?)

我は震えた。
そして誓った。
この御方を、生涯の主(あるじ)として仰ごうと。
彼が「シロ」と呼ぶなら、我は今日から誇り高き犬、シロである。

「ワンッ!(おかわり!)」

我は尻尾を振った。
プライドなど犬食わせろだ。この飯は美味すぎる。

   ◆   ◆   ◆

(アレン視点に戻る)

朝食を終えた僕は、家の外に出た。
今日は天気がいい。絶好の畑仕事日和だ。
自給自足のスローライフには、家庭菜園が欠かせない。

「この辺りを畑にするか」

庭の一角、日当たりの良い場所を選ぶ。
まだ雑草が生い茂る荒地だが、僕には魔法がある。

「『整地(フラット)』」

僕が足元の地面を踏みしめると、波動が広がり、半径五十メートル四方の雑草が一瞬で消滅し、土が耕されたかのように柔らかくひっくり返った。
石ころ一つない、完璧な黒土の畑の出来上がりだ。

「うん、便利便利」

次に、物置からくわを取り出す。
王都の道具屋で買っておいた安物だが、これにも少し手を加えておこう。
『切れ味強化』『重量軽減』『土壌改良効果付与』『自動追尾』……まあ、こんなものか。

クワを振り下ろす。
サクッ。
豆腐にスプーンを入れるような軽さで、クワが土に吸い込まれる。
そして、クワを入れた周辺の土が、見る見るうちに黄金色に輝き出した。
『超・肥沃化』の効果だ。この土なら、枯れ木を植えても一晩で大樹になるだろう。

「種は、トマトとナスと、あとは薬草類かな」

僕は適当に種をばら撒いた。
そして、ジョウロで水を撒く。
この水も、キッチンの蛇口から汲んだ「聖水(もどき)」だ。

ジャバババ……。

水をかけた端から、ボコッ! ボコッ! と土が盛り上がり始めた。
ニョキニョキニョキッ!
早回しの映像を見ているかのような速度で、芽が出て、茎が伸び、葉が茂っていく。

「……あれ?」

数秒後。
僕の目の前には、ジャックと豆の木もびっくりな、巨大な植物の森が誕生していた。
トマトはカボチャほどの大きさになり、赤く艶やかに輝いている。
ナスはまるで紫色の宝石のようだ。
薬草に至っては、そこらへんの低木より大きく育ち、葉の一枚一枚から青白い魔力光を放っている。

「成長が……早すぎる気がするけど、この辺りは魔素が濃いのかな?」

普通は収穫まで数ヶ月かかるものだが、まあ早く食べられるに越したことはない。
僕は巨大トマトをもぎ取った。
ずしりと重い。
ガブリとかじりつく。

「うまっ!?」

口の中に広がる濃厚な甘味と酸味。
まるで高級フルーツだ。いや、それ以上だ。
食べた瞬間、身体の疲れが吹き飛び、視界が一段とクリアになった気がする。

「すごいな、辺境の土は。これなら食料事情は安泰だ」

僕は能天気に感動していたが、実際にはこのトマト一つで、死にかけの病人を蘇らせるほどの生命力が充填されていた。
これを市場に出せば、国同士の戦争が起きるレベルだ。

「よし、シロ。今日は収穫祭だぞ」

「ワン!」

シロも嬉しそうに、巨大なナスをくわえて走り回っている。
平和だ。
本当に平和だ。

   ◆   ◆   ◆

一方その頃。
アレンを追放した勇者ライオネルたちのパーティは、地獄を見ていた。

場所は王都の地下下水道。
薄暗く、腐臭が漂うジメジメした通路を、三人は泥まみれになって歩いていた。

「くそっ……なんで俺が、こんなドブさらいをしなきゃならないんだ!」

ライオネルが剣で汚物を切り払いながら叫ぶ。
彼らが受けていたのは、ギルドの最低ランク依頼『下水道の巨大ネズミ駆除』だった。
プライドの高い彼らがこんな依頼を受ける羽目になったのは、昨日の失態で信用が地に落ち、まともな討伐依頼を受けさせてもらえなかったからだ。
それに、ポーションや装備の修理費を稼ぐためには、日銭が必要だった。

「臭い……吐き気がするわ……」

賢者フィオナが口元を布で覆い、涙目で歩いている。
彼女のローブは汚水でシミだらけになり、かつての優雅さは見る影もない。
『嗅覚遮断』や『環境適応』の付与がない今、悪臭はダイレクトに脳を揺さぶる。

「足が……もう棒のようです……」

聖女マリアも杖を杖代わりにして、よろよろと歩いていた。
下水道の床はヌルヌルと滑りやすく、体力のない彼女は何度も転倒しそうになっていた。
アレンがいた頃は『転倒防止』『疲労軽減』がかかっていたため、どんな悪路でもピクニック気分で歩けたのだが、今は一歩一歩が苦行だ。

「チューッ!」

物陰から、猫ほどの大きさがあるドブネズミが飛び出してきた。
ランクはF。冒険者になりたての子供でも倒せる最弱モンスターだ。

「この野郎ッ!」

ライオネルが剣を振るう。
しかし、狭い通路では長剣が振りにくい。
ガキンッ!
剣先が壁に当たり、火花が散る。

「うわっ!?」

その隙に、ネズミがライオネルの足に噛み付いた。
かつては『物理耐性』のおかげで、ドラゴンの牙ですら通さなかった彼の肌だが、今はただの人間の皮膚だ。

「ぎゃあああっ! いってえええ!」

ライオネルが悲鳴を上げて足を振るう。
ネズミは吹き飛ばされたが、彼のふくらはぎからは血が滲んでいた。
しかも、下水道のネズミだ。病原菌の塊である。

「マリア! 解毒! 解毒しろ!」

「は、はい! 『キュア・ポイズン』!」

マリアが魔法を唱えるが、光が弱い。
傷口の変色は収まったが、痛みまでは取りきれなかった。

「くそっ、痛ぇ……。なんでこんな目に……」

ライオネルはその場に座り込んだ。
薄暗い下水道の中で、彼らの心はポキポキと音を立てて折れていく。

「……アレンがいたら」

誰ともなく呟いた。

「アレンがいたら、こんな場所、鼻歌交じりで歩けたのに」
「臭いもしなかったし、ネズミなんて近づく前に結界で死んでたわ」
「お腹も空かなかったし、服も汚れなかった……」

三人は沈黙した。
認めたくなかった。
あいつは「役立たず」だったはずだ。
自分たちの足手まといだったはずだ。

「ち、違う! これは修行だ!」

ライオネルが血走った目で叫んだ。
現実逃避だ。

「神が俺たちに与えた試練なんだ! これを乗り越えれば、俺たちはさらに強くなる! アレンの魔法に頼っていた軟弱な自分たちと決別するための、必要な儀式なんだよ!」

「そ、そうよね……! 私、負けないわ!」
「はい、頑張りましょう……!」

彼らは必死に自分たちを鼓舞し、再び汚水の中へと歩き出した。
その先に待っているのが、さらなる絶望だとも知らずに。

   ◆   ◆   ◆

再び、アレンの視点。

「くしゅんッ!」

畑仕事の最中に、大きなくしゃみが出た。

「誰か噂してるのかな。……まあ、風邪を引くような体質じゃないし、花粉かな」

僕は鼻をすすりながら、収穫した野菜をカゴいっぱいに詰め込んだ。
トマト、ナス、キュウリ、ジャガイモ。
どれもこれも、市場で見かけるものの三倍はあるサイズだ。

「これ、食べきれないな。ドライフルーツにしたり、漬物にしたりして保存するか」

そんなことを考えていると、シロが突然、空に向かって低く唸り声を上げ始めた。
背中の毛が逆立っている。

「どうした、シロ? カラスでもいたか?」

僕が空を見上げると、そこには確かに鳥のようなものが飛んでいた。
かなり高いところを旋回している。
トビかタカだろうか?

「ワンワンッ! (敵襲! ドラゴンゾンビだ!)」

シロが激しく吠え立てる。
え、散歩に行きたいの? それともあの鳥を捕まえたいの?

「こらこら、鳥をいじめちゃダメだぞ。自然を大切にしないと」

僕はシロをなだめる。
しかし、その「鳥」は急降下を始めた。
ん?
なんか、大きくないか?
近づくにつれて、そのシルエットがはっきりしてくる。
翼を広げると十メートルくらいありそうだ。
骨と腐った肉が剥き出しになった、なんとも趣味の悪い見た目の……。

「……ああ、なんだ。大型のハゲワシか」

僕は結論づけた。
腐肉を漁るタイプの鳥だろう。辺境には変な生き物も多いしな。
それにしても、まっすぐこっちに向かってきている。
畑の野菜を狙っているのだろうか?
せっかく育てたトマトを突かれたらたまったものじゃない。

「シッ! あっち行け!」

僕は畑を守るため、空に向かって手を振った。
「鳥追い」のために、軽ーく風魔法を放つ。

「『空気弾(エア・ショット)』」

指先から放たれたのは、子供の遊び程度の圧縮空気の塊だ。
僕のイメージでは、パチンコ玉くらいの威力で、鳥を驚かせて追い払うつもりだった。

ヒュンッ!

空気を切り裂く音が響く。
放たれた空気弾は、上空へ向かう過程で周囲のマナを巻き込み、みるみるうちに巨大な竜巻へと成長した。
それはまさに、天を穿つ暴風の槍。

「ギャオオオオオオッ!?」

上空の「ハゲワシ」――実は、北の山脈を支配していた『腐食竜(ドラゴン・ゾンビ)』が、驚愕の悲鳴を上げた時にはもう遅かった。

ズドォォォォォン!!

暴風の槍はドラゴンの胴体を直撃し、その強靭なアンデッドの肉体を分子レベルで粉砕した。
余波だけで雲が吹き飛び、青空にぽっかりと巨大な風穴が開く。
ドラゴンの残骸は塵となって消滅し、キラキラと光る魔石だけがポトリと庭先に落ちてきた。

「……あ」

僕は口を開けたまま空を見上げた。

「……ちょっと、やりすぎたかな」

鳥にしては脆すぎた気がする。
いや、今の風魔法、ちょっと出力調整をミスったか?
最近、魔力制御が雑になっている気がする。
一人暮らしで気が緩んでいるのかもしれない。

「ま、まあ、害鳥駆除完了ってことで」

僕は庭に落ちていた、やけに大きな宝石(ドラゴンの魔石・Sランク級)を拾い上げた。

「綺麗な石だなあ。カラスが光り物を集めるっていうけど、あいつもこれを持ってたのかな。ちょうどいい、リビングの飾りにしよう」

僕はそれをポケットに突っ込み、シロの方を向いた。

「よし、邪魔者もいなくなったし、昼ごはんにしようか」

シロは、今の光景を見て固まっていた。
口をあんぐりと開け、僕と空を交互に見ている。

「ワン……(この御方、息をするようにドラゴンを消し飛ばしたぞ……)」

シロの僕を見る目が、尊敬を通り越して崇拝、いや、絶対神に対する畏怖へと変わっていたが、僕は「お腹空いたのかな?」としか思わなかった。

こうして、僕の平和な一日が過ぎていく。
その裏で、北の空から強大なドラゴンの反応が消失したことに、王都の魔術師団が再びパニックを起こしているとは知らずに。

   ◆   ◆   ◆

夜。
僕は完成したばかりの暖炉の前で、シロを撫でながらくつろいでいた。
パチパチと燃える炎が暖かい。

「明日は、近くの森を探索してみようか。いい木材があったら、家具を作りたいし」

「ワン!」

シロが「お供します」と言わんばかりに応える。
頼もしい相棒だ。

ふと、窓の外を見る。
月明かりに照らされた森の奥で、何かがキラリと光った気がした。

「ん? なんだろう」

野生動物の目か?
それとも、また迷い込んだ子犬だろうか?

実はそれは、隣国から逃げ延びてきたエルフの王女が、追手に追われて森へ逃げ込み、僕の屋敷の結界の光を目撃した瞬間だったのだが、それはまた明日のお話。

「まあ、いっか。おやすみ、シロ」

僕はあくびをして、寝室へと向かった。
最強の付与術師の無自覚な伝説は、まだ始まったばかりだ。

続く
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