「役立たず」と追放された宮廷付与術師、実は世界律を書き換える『神の言葉』使いでした。~今さら戻れと言われても、伝説の竜や聖女様と領地経営で忙

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第5話 伝説の魔獣、なぜか僕に懐いて離れない

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辺境の朝は早い。
小鳥のさえずりと共に目覚めた僕は、日課のラジオ体操(前世の記憶にある健康法だ)をこなし、愛犬のシロを連れて森の散歩に出かけた。

「今日はいい天気だなあ、シロ」

「ワンッ!」

シロが元気よく返事をする。
昨日のドラゴン騒ぎ(結局、大きな鳥だったという結論に達した)から一夜明け、シロはすっかりこの家に馴染んでいた。
不思議なことに、シロは僕の歩調に合わせてピタリと横を歩く。
リードもつけていないのに、勝手にどこかへ走り去ることもない。
なんて躾の行き届いた犬なんだろう。

「そういえば、この森にはどんな動物がいるんだろうな。食料の確保も兼ねて、少し奥まで行ってみようか」

僕は森の奥へと足を踏み入れた。
木漏れ日が差し込む美しい森だが、足元には太い木の根が張り出し、普通なら歩きにくい獣道だ。
だが、僕は無意識に『地形把握』と『歩行補助』の魔法を自分とシロにかけているので、舗装された道路を歩くのと変わらない快適さで進んでいく。

ガサガサッ。

茂みが揺れ、何かが飛び出してきた。
それは、黒い毛並みを持つ狼の群れだった。
十匹ほどいるだろうか。どれも目が赤く光り、口から涎を垂らしている。

「おっと、野犬の群れか。危ないな」

僕はシロを庇うように前に出ようとした。
しかし、それより早くシロが動いた。

「グルルルッ……!」

シロが低く唸り声を上げ、一歩前に出る。
その瞬間、周囲の空気がピキピキと凍りつくような感覚があった。
ただの野犬相手に、シロも随分と気合が入っているようだ。

「ワオオオオオオオンッ!!」

シロが咆哮を上げた。
その声は、ただの犬の遠吠えではなかった。
大気を震わせ、魂を揺さぶるような、荘厳で絶対的な響きを持っていた。

直後、狼たちが「キャインッ!」と情けない声を上げ、その場に平伏した。
いや、平伏しただけではない。
数匹は泡を吹いて気絶し、残りの狼たちもお腹を見せて「降参です! 食べないでください!」と言わんばかりに震えている。

「……え?」

僕は目を丸くした。

「すごいなシロ! 『威嚇』のスキルを持ってるのか?」

普通の犬でも、ボスとしての資質があれば群れを追い払うことができると聞く。
シロはどうやら、犬社会におけるカリスマ性がずば抜けて高いらしい。

「ワンッ!(雑魚どもが、我が主の道を塞ぐなど万死に値する)」

シロが得意げに尻尾を振って戻ってきた。
僕はその頭をわしゃわしゃと撫でる。

「よしよし、いい子だ。頼りになるなあ」

僕たちは気絶した狼たちを横目に、さらに奥へと進んだ。
実はこの狼たち、ただの野犬ではない。
『シャドウ・ウルフ』と呼ばれるBランク魔獣で、影を操り冒険者を惨殺する恐ろしい捕食者だ。
彼らはシロ――伝説の神獣フェンリルの覇気に当てられ、本能レベルで服従を誓わされたのだが、僕がそれを知ることはない。

   ◆   ◆   ◆

(シロ視点)

我が主、アレン様は慈悲深い。
あのような薄汚い下等生物(シャドウ・ウルフ)など、視線一つで消滅させられるはずなのに、あえて我に任せてくださった。
これは「私の番犬としての資質」を試されたに違いない。

「すごいなシロ! 『威嚇』のスキルを持ってるのか?」

主様はそう言って、私の頭を撫でてくださった。
ああ、なんと心地よい魔力の波動か。
主様の手から流れ込むマナが、私の魂を浄化し、さらなる高みへと引き上げてくれる。

主様はご自身の力を隠しておられるようだ。
「野犬」だなんて。
あれがBランクの魔獣だと気づいていないはずがない。
あえて「野犬」と呼ぶことで、世界の均衡を乱さないように配慮されているのだろう。
さすがは創造主の化身(と私は確信している)。器の大きさが違う。

ズシン、ズシン……。

森の奥から、地響きが近づいてくる。
この気配は……『アダマンタイト・ボア』か。
全身が希少金属で覆われた、戦車のごとき突進力を持つAランク魔獣だ。
生半可な魔法では傷一つつけられない厄介な相手だが、今の私なら氷漬けにできるだろう。

しかし、主様はどう動く?

「あ、イノシシだ。鍋にすると美味しいんだよね」

主様は、全長5メートルはある鋼鉄の魔獣を見て、あろうことか「食材」と認識された。
そして、無造作に足元の小石を拾い上げる。

「シロ、危ないから下がってて。今夜はぼたん鍋だ」

ヒュンッ。

主様が軽くデコピンで弾いた小石が、音速を超えて飛翔した。
ドンッ!!
乾いた音が響き、アダマンタイト・ボアの眉間に風穴が開いた。
あの鋼鉄よりも硬い外殻を、ただの小石で?
しかも、肉や内臓を傷つけないよう、脳幹だけを正確に破壊している。

「よし、一丁上がり」

主様はナイフを取り出し、手際よく解体を始めた。
そのナイフにも、恐ろしいほどの付与魔法がかかっているのを感じる。
『絶対切断』『素材剥離』『鮮度保持』……。
アダマンタイトの皮が、まるで濡れた紙のように切り裂かれていく。

「ワン……(やはり、この御方は規格外だ)」

私は改めて、一生ついていくことを誓った。
そして、おこぼれの肉にありつくために、全力で尻尾を振った。

   ◆   ◆   ◆

(アレン視点に戻る)

イノシシ(ちょっと皮が硬かったけど、野生だからそんなものだろう)を仕留めた僕は、それをマジックバッグに収納した。
このバッグも、容量無限・時間停止の付与をかけた自作品だ。

「さて、肉も確保したし、次は木材だな」

家の中に家具が少ないので、テーブルや椅子を作りたい。
僕は手頃な大木を探した。

「お、これはいい木だ」

見つけたのは、黒光りする幹を持つ巨木だ。
『鉄木(アイアン・ウッド)』……の変異種で、千年樹と呼ばれる『黒鉄神木』なのだが、僕は「ちょっと丈夫そうなオークの木」だと思った。

「『風の刃(ウィンド・カッター)』」

手刀を振るうと、カマイタチが発生し、直径2メートルはある幹をスパッと両断した。
ズズズンッ……と重い音を立てて巨木が倒れる。

「よし、これを板状に加工して……」

その場で製材まで済ませてしまう。
木材の表面を撫でるだけで、『研磨』と『防腐処理』と『ニス塗り』が完了する。
便利な魔法だ。

「シロ、これ運ぶの手伝ってくれるか? ……って、重いか」

いくら賢い犬でも、こんな丸太は運べないよな。
そう思って自分で持とうとした瞬間、シロが木材の下に潜り込み、軽々と背負い上げた。

「えっ」

シロは何食わぬ顔で「ワン!(任せろ!)」と鳴いた。
いやいや、その木材、数トンはあるぞ?
君、本当に犬?

「……まあ、魔獣だしな。力持ちなんだな」

僕は「そういうものか」と納得することにした。
この森の生き物はみんな逞しいのだ。
僕も負けていられない。

こうして、僕とシロは大量の食材と建材を持って、我が家へと帰還した。
充実した午前中だった。

   ◆   ◆   ◆

一方、王都の冒険者ギルド。
勇者ライオネルたちは、受付カウンターの前で声を荒げていた。

「おい! ふざけるな! なんでこの剣が、たったの金貨1枚なんだ!?」

ライオネルが叩きつけたのは、昨日下水道で拾った(というか、ドブネズミの巣にあった)錆びた短剣や、ネズミの毛皮などの戦利品だ。
しかし、彼が売り払おうとしているのは、自分の予備装備である『ミスリルの短剣』だった。

受付嬢が困った顔で対応する。

「いえ、勇者様……。こちらの短剣、拝見しましたが、刃こぼれが酷いですし、何より魔力伝導率が完全に死んでいます。ただの銀の棒としての価値しかありません」

「なっ……!?」

ライオネルは絶句した。
この短剣は、かつて魔王軍の将軍と戦った時にも使った名剣だ。
当時は切れ味鋭く、魔力を流せば刀身が光り輝いたはずだ。

「そ、そんなはずはない! アレンが手入れをしていた時は、いつも新品同様だったぞ!」

「アレン様……ああ、あの優秀な付与術師様ですね。彼が抜けたと聞いていますが」

受付嬢の目が、冷ややかなものに変わった。
ギルド職員の間では、アレンの貢献度は周知の事実だった。
彼が煩雑な書類手続きや素材の選別、装備のメンテナンスを一手に引き受けていたからこそ、勇者パーティは円滑に回っていたのだ。

「装備品というものは、日々の魔力充填とメンテナンスが不可欠です。それを怠れば、どんな名剣もただの鉄屑になりますよ」

正論だった。
アレンは毎晩、彼らが寝静まった後に、装備一つ一つに『修復』と『強化』の魔法をかけ直していたのだ。
それを知らずに「俺の武器は最強」と振り回していれば、ガタが来るのは当たり前だ。

「くそっ……! なら、この毛皮は!?」

「ドブネズミの毛皮ですね。……臭いが酷いので、洗浄料を差し引くと銅貨5枚です」

「ど、銅貨5枚……!?」

パン一つ買えない金額だ。
フィオナが横から口を挟む。

「ちょっと! 私たちはSランクパーティ『光の剣』よ!? 特別買取レートがあるはずでしょ!」

「特別レートは『高品質な素材』を持ち込んだ場合にのみ適用されます。ゴミを持ち込まれても困ります」

受付嬢の塩対応に、フィオナは顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。

「キィーッ! なによあの女! 私たちが落ちぶれたと思ってバカにして!」

ギルドを出た三人は、路地裏で肩を落とした。
手元にあるのは、わずかな小銭のみ。

「……腹減ったな」

ライオネルが腹をさする。
昨日からまともな物を食べていない。

「装備もボロボロだ。俺の鎧、肩の留め具が外れかけてる」

「私の杖も、魔石にヒビが入ってるわ……」

「私の聖衣も、汚れが落ちなくて……」

三人は互いの惨状を見やった。
かつての煌びやかな英雄の姿はどこにもない。
ただの薄汚れた、疲れた冒険者崩れだ。

「……新しい装備を買おう。この金で買えるものを」

彼らは武器屋に向かった。
しかし、所持金で買えるのは『革の鎧』と『鉄の剣(中古)』、そして『木の杖』だけだった。

「重い……」

革の鎧を着たライオネルが呻く。
本来なら革鎧は軽いはずだが、アレンの『重量軽減』魔法がかかったフルプレートよりも、遥かに重く感じられた。
動きにくい。守備力も不安だ。

「こんな装備で、どうやって戦えって言うんだ……」

絶望感が漂う中、街の大型掲示板の前で人だかりができているのが見えた。

「なんだ? 騒がしいな」

ライオネルたちが近づくと、そこには新しい手配書が貼られていた。
『緊急クエスト:北の辺境に未確認の超巨大魔力反応あり。調査求む。報酬:白金貨100枚』

「は、白金貨100枚!?」

三人は顔を見合わせた。
白金貨100枚あれば、遊んで暮らせる。
失った名声も装備も、すべて取り戻せる金額だ。

「これだ……!」

ライオネルの目に、久しぶりに光が宿った。
それは希望の光ではなく、欲に塗れた濁った光だったが。

「北の辺境……確か、アレンが行ったとか言ってた場所だな」

「あんな奴、どうでもいいわ。きっと魔力反応に巻き込まれて死んでるでしょうし」

フィオナが鼻で笑う。

「調査任務なら、戦闘は避けられるかもしれない。私たちの実力をギルドに見せつけるチャンスだ!」

「行きましょう! 神様はまだ私たちを見捨てていませんでした!」

マリアも手を組んで祈る。
彼らは知らなかった。
その「超巨大魔力反応」の正体が、彼らが追い出した「役立たず」が建てたマイホームであることを。
そして、そこへ向かうことが、彼らにとって決定的な破滅へのトリガーになることを。

「出発だ! 北へ向かうぞ!」

勇者パーティは、なけなしの金をはたいて乗合馬車のチケットを買い、王都を後にした。

   ◆   ◆   ◆

夕暮れ時。
僕とシロは、家の前のテラスでくつろいでいた。
夕食の支度も終わり、あとはのんびりとお茶を飲むだけだ。

「平和だなあ」

しみじみと呟く。
空は茜色に染まり、一番星が輝き始めている。

「ワン!(気配あり!)」

シロが突然立ち上がり、森の入り口の方を睨んだ。
またか。
今度はなんだろう。
イノシシの次はシカかな?

僕はのんびりと立ち上がり、シロの視線の先へ向かった。
結界の境界線付近。
そこに、誰かが倒れていた。

「……人?」

近づいてみると、それは人間ではなかった。
透き通るような金色の髪、長い耳、そして神秘的な美貌。
ボロボロの緑色のドレスを身に纏った女性が、うつ伏せに倒れていた。

「エルフ……?」

物語の中でしか聞いたことのない種族だ。
どうしてこんな辺境に?
よく見ると、彼女の背中には矢が突き刺さっていた。
毒々しい紫色の液体が、傷口から滲んでいる。

「酷い……」

ただの遭難じゃない。誰かに追われていたんだ。
僕は迷わず彼女に駆け寄り、抱き起こした。
身体が氷のように冷たい。
息も絶え絶えだ。

「しっかりしろ! ……ダメだ、意識がない」

普通の回復魔法じゃ間に合わないかもしれない。
毒が全身に回っている。
僕は、即座に自分の魔力を彼女に注ぎ込んだ。

「『状態異常・全解除(オール・クリア)』! からの『超・再生(リジェネレーション)』!」

カッ!
僕の手のひらから眩い光が溢れ出し、彼女の身体を包み込んだ。
毒素が一瞬で蒸発し、背中の傷が動画の逆再生のように塞がっていく。
さらには、泥で汚れた肌や服までもが『浄化』の余波でピカピカになった。

「う……ん……」

彼女の長い睫毛が震え、ゆっくりと瞳が開かれた。
そこにあったのは、新緑のような鮮やかな碧色の瞳だった。

「こ、ここは……? 私は……死んだのですか……?」

「いいえ、生きてますよ。僕の家の前で倒れてたんです」

僕が微笑みかけると、彼女は呆然と僕を見つめ、そしてハッとしたように周囲を見渡した。
そして、僕の背後に控えるシロ(フェンリル)と、背後にそびえ立つ城(マイホーム)を見て、目を見開いた。

「神獣フェンリル……それに、古代の魔力で築かれた城塞……。貴方様は……まさか、この地に降り立った『神』であらせられますか?」

「はい?」

また大袈裟な勘違いをされてしまったようだ。
とりあえず否定しておかないと。

「違いますよ。僕はアレン。ただの……まあ、隠居した元冒険者です」

「アレン様……」

彼女は震える手で僕の袖を掴んだ。
その目には、すがるような色が浮かんでいた。

「お願いです……どうか、私をお救いください。私の国が……『魔王軍』に侵略されているのです!」

「魔王軍?」

穏やかなスローライフを送るはずが、なんだかきな臭い話になってきたぞ。
でも、目の前で怪我人が助けを求めているのを見捨てるわけにはいかない。
元・宮廷付与術師として、そして今は最強の(無自覚)村人として。

「とりあえず、詳しい話は中で聞きましょう。お茶とお菓子がありますから」

僕は彼女を軽々と抱き上げ(『筋力強化』のおかげで重さを感じない)、家の中へと歩き出した。
これが、僕のハーレム……もとい、賑やかな同居生活の二人目、亡国のエルフ王女との出会いだった。

続く
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