無能扱いで追放された俺、実は古代竜の加護持ちでした。目覚めたら全てが逆転していた件

eringi

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第2話 勇者パーティーからの追放

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あの日から三日が経った。  
森はまだ、俺が放った爆炎の跡を残して焦げていた。焦げた匂いが風に混ざって鼻を刺すたび、あの光景が脳裏に蘇る。  

“才能がない”と切り捨てられた俺が、一振りの魔力で大地を焼き尽くした。  
それは爽快というにはあまりにも現実離れしていて、むしろ恐怖に近かった。  

だが、その日を境に、俺の中で確かに何かが変わった。  
魔力の循環を感じ取れる。魔物の気配すら分かる。  
まるで世界が違って見える。  

村人たちは怯えた目で俺を見るようになった。  
無理もない。見た目はただの旅人なのに、一晩で森を吹き飛ばしたのだから。  

「リアムさん、その……」  
宿屋の女将が、朝食の皿を置きながらおどおどと俺に話しかけた。  
「よろしければ、そろそろ村を……出ていただけませんかね」  

「……ああ、わかってる」  

責めるような口調ではなかった。むしろ、恐れと申し訳なさが入り混じった声だった。  
誰にだって、未知の脅威は怖い。俺自身、その力の正体をまだ理解できていないのだから。  

宿を出ると、村の外れの井戸に腰を下ろした。  
澄んだ水面に映る自分の顔が、少し見知らぬものに見える。  
黒髪の中に、ほのかに赤が混じっていた。  
指で触れても染まらない。――多分、これも竜の力の影響だ。  

「……アークドラグ、いるか?」  

試しに声をかけてみた。返事はない。  
夢の中でははっきりと聞こえたあの声が、今は沈黙したままだ。  
やはり夢だったのか? いや、あの爆炎がすべてを物語っている。  

腰の荷物を背負い直し、村を後にすることにした。  
どうせ居場所など、どこにもない。ならば、歩くしかない。  

*  

森を抜け、次の町へ着いたのは夜だった。  
そこは中規模の商業都市テレシア。王都から五日ほど離れた場所にあり、冒険者ギルドも存在する。  
広場の掲示板には、魔物討伐や失踪者調査の依頼がずらりと貼られていた。  

ギルドの中に入ると、ざわめきが一瞬止んだ。  
場慣れした冒険者たちの中、旅装束で汚れた俺の姿はおそらく浮いていたのだろう。  

「いらっしゃい。登録かい?」  
受付嬢の女性が笑顔で声をかけてきた。年の頃は二十代前半、落ち着いた声だ。  

「はい。冒険者として活動したい」  

「では、こちらに名前と出身、それから得意な技能を」  

名前を書く手が一瞬止まる。  
出身は――王都、でいい。だが、技能欄には迷った。  

“古代魔法”と書くべきか? いや、証拠がない。  
下手に目立てば危険だ。  

結局、俺は「基礎魔法」とだけ記入した。  

受付嬢は紙を受け取り、軽く目を通す。  
「王都から……へえ、珍しいですね。こちらでは下位魔法師でも歓迎ですよ。危険な依頼は受けないでくださいね?」  

「わかりました」  

登録証を受け取り、俺はギルド内を見回した。大声で笑うパーティー、酒を飲む戦士たち、依頼の報酬を数える商人――  
かつて勇者パーティーにいた頃、俺もこんな喧噪が当たり前だと思っていた。  
だが実際は、それがいかに狭い世界だったかを今になって痛感する。  

壁に貼り出された依頼の中に、「魔境の森に出現した黒狼の群れ、討伐希望」という文字が目に入った。  
――あの森か。  

自分が吹き飛ばしたあの場所に、魔物が集まっているらしい。  
胸の奥に、奇妙なざらつきを感じた。  
まるで何かに呼ばれているような感覚。  

俺は依頼書を剥がし、受付嬢に差し出した。  

「これ、受けます」  

「え、初日にそれは……かなり危険ですよ? 新人の方は最初、採取系から慣れるのが普通です」  

「問題ありません。危険なら、引き返します」  

渋る彼女を説得し、サインをもらってギルドを後にした。  

*  

夜風が冷たい。  
満月の下、森へと続く道を歩く。  
不思議なことに、魔物の気配がはっきりと感じ取れるようになっていた。  
それは匂いのようでもあり、音のようでもある。  
わずかに周囲の空気が震えると、どこに何がいるかがわかる。  

細い獣道を進むと、黒い影が現れた。  
フォレストウルフ。以前村で見たものより一回り大きい。  

牙をむき出しにして飛びかかってくる。  
その動きが、妙に遅く感じた。  

「……!」  

指先を弾くと、黒い炎が生まれた。  
――炎? いや、さっきまで赤かったはず。  
今回は漆黒の炎だ。  

狼がそれを飲み込み、苦痛の叫び声を上げることもなく灰と消えた。  

黒い焔は音ひとつ立てず消える。それなのに空間の温度だけが下がっていく。  

完全に理論外の魔法だ。  
だが、確かに自分の力として制御できている。  

「どうなってるんだ……?」  

その時だ。再び、あの声が脳内で響いた。  

『それは“影炎”。我が魂の一部だ。人の身で使えば、容易く命すら焼くだろう』  

「アークドラグ!」  

『呼ぶな。今は眠りの時。汝が我が刻印を持つ限り、力は流れ続ける……』  

声は再び途切れた。  

森の静寂の中で、俺は震えていた。  
恐怖ではない。それはむしろ、歓びに近い感情だった。  

自分の中でうねるこの力――まるで生き物だ。  
無限に広がり、掴めば掴むほど未知が見える。  

そして、ふと気づいた。  
力の余波に引き寄せられたのだろう、森の奥から無数の光。狼たちの群れがこちらを囲んでいた。  

牙が月光を反射する。  

「よし、試してみるか」  

無謀だと分かっていながら、笑みがこぼれた。  
炎が再び右手に宿る。  

轟、と風が鳴った。  

その瞬間、夜が白昼のように輝いた。爆音とともに狼の群れは消滅し、大地が波打つ。  
衝撃波が俺を中心に広がり、遠くの木々をなぎ倒した。  

息を吐く。膝がわずかに震えた。  
あの力――危険すぎる。ほんの少しでも制御を誤れば、自分すら焼き尽くす。  

だが同時に、確信した。  
この世界で、この力を扱えるのは俺だけだ。  

その夜、森の空を焦がす紅と黒の閃光が、遠く王都へと届いたという。  

――そして、俺を追放した勇者パーティーの耳にも、それは届く。  

「森ごと吹き飛ばす魔法が出たらしい」  
勇者アルトが剣を研ぎながら眉をひそめた。  
「まさか、リアムが……?」  

「はは、まさか。あいつにそんな力あるわけないだろ」  
魔法使いのカレンが笑う。だが、その笑いの端はわずかに引きつっていた。  

リリアは、そっと胸元のお守りを握りしめていた。  
リアムが持っていたものと対になる、翡翠色の石。  
その石が、かすかに震えていた。  

(第2話 終)
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