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ヤンデレワンダーランド
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席について、注文したコーヒーを一口飲んでから、天峯は口を開いた。
「私はね、人を心の底から愛するということは、とても美しいことだと思うんです。」
人の考えがわからないということがこれほどまでに恐ろしいことだとは思わなかった。ナイフを突き立てられている俺はこの女の気まぐれで運命が決まってしまう。
「究極の愛って何が必要だと思いますか?」
天峯の言葉に従って、何か飲み物を頼んでおくべきだった。唾を飲み込む度、喉の渇きが酷くなっていく。
「自分と相手さえいればいい?いいえ、もっと単純、相手を思う気持ちさえあればいいんですよ。その気持ちが捻じれようが狂っていようが強い気持ちであればいい。極端な例として、相手が死んでいても、自分が死んでいても愛する気持ちさえ残ればいい。嫉妬なんて素敵な感情だと思いますよ。自分と相手以外の存在なんて容認できない―――なんて美しいんでしょう」
聞いているだけで頭がおかしくなりそうだ。この悪魔の価値観はあまりにも世間一般からかけ離れている。
「そういったことを表わす便利な言葉がありますよね?」
「―――ヤンデレ」
俺の口から出た言葉は天峯が話した内容を一言で表すにはぴったりすぎるほどだった。
「大正解です。膨らみすぎた一方的な愛は、執着に変わり、怒りに変わり、悲しみに変わり、妄信に変わり、捻じれ歪み高ぶってゆく。そうして愛の終着点に達する。私はそんな美しき愛に狂った者たちを間近で見たいんです。だけど、いくら探せど見つからない」
絵画を見て芸術を感じるように、音楽を聴いて心揺さぶられるように、物語に感傷的になるように、愛を愛でる。
おぞましい絵に魅入られるように、気味の悪い曲に聞き入ってしまうように、悲劇を求めるように、天峯は狂った愛に惹きつけられたのだ。
「ところで、砂上君は梨は好きですか?」
「……まあ好きっちゃ好きだけど」
何気ない質問でも返答にためらってしまう。
「では、もしおいしい梨が食べたいと思ったらどうします?」
「おいしい梨を買いにいくだろうな」
「残念なことに、私が行ったスーパーには梨が売っていませんでした。それに……」
天峯の言葉は額面通りに聞こえなかった。何か、別の意味があるような気がしてならない。
「私は本当においしい梨が食べたいなら、自分の手でイチから作ります。水はけが良く、陽に良く当たる土地で、種を植えて、実が成るまで、手間暇かけて育てる。そうすれば、きっとおいしい梨が出来上がるはずですよ」
「まさか―――」
嫌な予感が全身を駆け巡る。
「ふふっ、そのまさかです。砂上君という苗床で養殖するんです。ヤンデレと成り得る素質を持った卵を集め、砂
上君に依存させる。私は愛に狂った者たちの理想郷を作るつもりなんですよ」
妖しげに笑う天峯を見て悟った。荒唐無稽な話だが、この悪魔は本気だ。本気で俺を犠牲にして、ヤンデレを育て上げるつもりだ。
「あなたにとっても悪い話ではないと思いますよ。砂上君は砂上君を心から愛する者たちに囲まれて、幸せな高校生活を送れるんです。どうです?あなたがここで頷いてくれれば、お互いに幸福になれるんです。だから、私に協力してくれませんか?」
悪魔の契約だ。俺が一度頷けば、俺の未来はない。高校の間、いや、運が悪ければ一生飼い殺しにされる。
悪魔は楽し気に語るが、何人ものヤンデレが一人に好意を集中させると、何が起こるかなんて想像するに難くない。今朝の悪夢が現実のものとなるのだ。
「いやだ!死にたくない!」
俺は鞄を抱えて走り出した。喫茶店を飛び出して駅の方向へ逃げる。高校生活なんてどうでもいい。俺の本性がばれて、学校中から軽蔑されようが、居場所がなくなろうが、悪魔と契約を交わすよりはずっとましだ。
改札を通り抜け、ホームへの階段を駆け上がり、息を切らして背後を確認した。どうやら追ってはきてないようだ―――と、ポケットに手を突っ込んで気づいた。
スマホがない……
天峯に盗られたのかと一瞬疑ったが、指紋認証を解除できるはずがないのだから、盗る意味がない。おおよそ走っているときに落としたのだろうが、戻ることは怖くて出来なかった。俺は明日の惨状を憂いながら、ただ電車を待つことにした。
*
きっと砂上鳴斗は今頃スマホがないことに気づき、焦っているのだろうと私はほくそ笑んで、鞄に忍ばせていた砂上君の指紋の跡を取り出す。そして、砂上君のスマホのロックを解除し、ツブヤークというSNSを開いた。ポチポチと文字を打って投稿する。
明日から動き出す計画に思いを馳せながら、コーヒーを飲み干して、小さく呟いた。
「あなたは必ず私に協力することになるわ」
私の呟きを拾う者は喫茶店にはいなかった。
「私はね、人を心の底から愛するということは、とても美しいことだと思うんです。」
人の考えがわからないということがこれほどまでに恐ろしいことだとは思わなかった。ナイフを突き立てられている俺はこの女の気まぐれで運命が決まってしまう。
「究極の愛って何が必要だと思いますか?」
天峯の言葉に従って、何か飲み物を頼んでおくべきだった。唾を飲み込む度、喉の渇きが酷くなっていく。
「自分と相手さえいればいい?いいえ、もっと単純、相手を思う気持ちさえあればいいんですよ。その気持ちが捻じれようが狂っていようが強い気持ちであればいい。極端な例として、相手が死んでいても、自分が死んでいても愛する気持ちさえ残ればいい。嫉妬なんて素敵な感情だと思いますよ。自分と相手以外の存在なんて容認できない―――なんて美しいんでしょう」
聞いているだけで頭がおかしくなりそうだ。この悪魔の価値観はあまりにも世間一般からかけ離れている。
「そういったことを表わす便利な言葉がありますよね?」
「―――ヤンデレ」
俺の口から出た言葉は天峯が話した内容を一言で表すにはぴったりすぎるほどだった。
「大正解です。膨らみすぎた一方的な愛は、執着に変わり、怒りに変わり、悲しみに変わり、妄信に変わり、捻じれ歪み高ぶってゆく。そうして愛の終着点に達する。私はそんな美しき愛に狂った者たちを間近で見たいんです。だけど、いくら探せど見つからない」
絵画を見て芸術を感じるように、音楽を聴いて心揺さぶられるように、物語に感傷的になるように、愛を愛でる。
おぞましい絵に魅入られるように、気味の悪い曲に聞き入ってしまうように、悲劇を求めるように、天峯は狂った愛に惹きつけられたのだ。
「ところで、砂上君は梨は好きですか?」
「……まあ好きっちゃ好きだけど」
何気ない質問でも返答にためらってしまう。
「では、もしおいしい梨が食べたいと思ったらどうします?」
「おいしい梨を買いにいくだろうな」
「残念なことに、私が行ったスーパーには梨が売っていませんでした。それに……」
天峯の言葉は額面通りに聞こえなかった。何か、別の意味があるような気がしてならない。
「私は本当においしい梨が食べたいなら、自分の手でイチから作ります。水はけが良く、陽に良く当たる土地で、種を植えて、実が成るまで、手間暇かけて育てる。そうすれば、きっとおいしい梨が出来上がるはずですよ」
「まさか―――」
嫌な予感が全身を駆け巡る。
「ふふっ、そのまさかです。砂上君という苗床で養殖するんです。ヤンデレと成り得る素質を持った卵を集め、砂
上君に依存させる。私は愛に狂った者たちの理想郷を作るつもりなんですよ」
妖しげに笑う天峯を見て悟った。荒唐無稽な話だが、この悪魔は本気だ。本気で俺を犠牲にして、ヤンデレを育て上げるつもりだ。
「あなたにとっても悪い話ではないと思いますよ。砂上君は砂上君を心から愛する者たちに囲まれて、幸せな高校生活を送れるんです。どうです?あなたがここで頷いてくれれば、お互いに幸福になれるんです。だから、私に協力してくれませんか?」
悪魔の契約だ。俺が一度頷けば、俺の未来はない。高校の間、いや、運が悪ければ一生飼い殺しにされる。
悪魔は楽し気に語るが、何人ものヤンデレが一人に好意を集中させると、何が起こるかなんて想像するに難くない。今朝の悪夢が現実のものとなるのだ。
「いやだ!死にたくない!」
俺は鞄を抱えて走り出した。喫茶店を飛び出して駅の方向へ逃げる。高校生活なんてどうでもいい。俺の本性がばれて、学校中から軽蔑されようが、居場所がなくなろうが、悪魔と契約を交わすよりはずっとましだ。
改札を通り抜け、ホームへの階段を駆け上がり、息を切らして背後を確認した。どうやら追ってはきてないようだ―――と、ポケットに手を突っ込んで気づいた。
スマホがない……
天峯に盗られたのかと一瞬疑ったが、指紋認証を解除できるはずがないのだから、盗る意味がない。おおよそ走っているときに落としたのだろうが、戻ることは怖くて出来なかった。俺は明日の惨状を憂いながら、ただ電車を待つことにした。
*
きっと砂上鳴斗は今頃スマホがないことに気づき、焦っているのだろうと私はほくそ笑んで、鞄に忍ばせていた砂上君の指紋の跡を取り出す。そして、砂上君のスマホのロックを解除し、ツブヤークというSNSを開いた。ポチポチと文字を打って投稿する。
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