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Chapter.115
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ようやっと離れた唇から、
「…もう、離さないから」
攷斗が言葉をつむぐ。
「うん……お願いします」
嬉しそうに、恥ずかしそうに、ひぃながはにかむ。
「あー、安心したらおなか減っちゃった。作るの手伝って」
「うん」
改めて手を繋いで、キッチンへ移動する。
「本当に準備してただけでさ……」
調理器具が並んでいる。食材は冷蔵庫に入ったままのようだ。
「一緒に作れるの嬉しいし、大丈夫。なに作ろうとしてたの?」
傍らに置かれたタブレットを見てひぃなが言う。
「あ、メインのご飯はもう作ってあって」
と冷蔵庫を指した。
冷やして美味しいメインのご飯がパッと浮かばず首をひねると、
「あんまり冷やしすぎてもご飯固くなっちゃうと思うから」
攷斗が開けて、大皿を取り出した。
「わっ! すごい! 可愛い!」
そこには色とりどりの具材を使った手鞠寿司が乗っていた。さすがデザイナー作。色彩がとてもいい。
「あと、それ、ローストビーフなんだけど」
シンクの作業スペースに、アルミホイルの塊が置いてある。
「ソースをいまから作ります」
「えっ、全然“超準備中”じゃないじゃない」
「そう? 全部作ってあと食べるだけ、にしておきたかったんだけど」
「いいよ、手伝う」
「いいよ、ひなの誕生日なんだから、休んでてよ」
「でも結婚記念日でもあるんだから、一緒に作りたい」
少し拗ねるように口を尖らせたひぃなに、
「かわいいな~」
と攷斗が軽くキスをした。
「……突然は心臓に悪いです」
「可愛いこと言うからでしょ」
「そんなの知らないし」
「あ、じゃあさ、温野菜サラダ作ろうと思ってたんだ。それの野菜、焼いてくれる?」
「はーい」
すでに切られた野菜を、フライパンに入れて焼いていく。
すぐ横で、攷斗がローストビーフのソースを作り始めた。
さっきまでしおれていた心は、水を吸った植物のようにふっくらと柔らかく膨らんでいる。
「あ、あと、冷蔵庫にケーキあるよ」
「嬉しい、ありがとう」
ひぃなが買ってきたブーケを花瓶に生けてテーブルに置く。
攷斗が作った料理と、二人で一緒に作った料理とをテーブルに並べる。
中央に置かれた大皿には手鞠寿司、それぞれの前にローストビーフと温野菜サラダが乗った平皿。
大きめのお椀に入っているのは白菜のすまし汁だ。
「なんか和洋折衷になっちゃった」
「美味しそうだし問題ないよ。私の献立もそんな感じだし」
「そっか、そうだね」
ひぃなの生まれ年のワインで乾杯して、久しぶりに囲む二人の食卓を満喫した。
ケーキはホールではなく、大ぷりなプチケーキだ。白鳥の姿を模したものとキノコの家を模したものを、ひぃなが気に入っているティーソーサーに置いて、
「お待たせいたしました」
運んだ攷斗が執事のようにうやうやしくテーブルに置いた。
「うわぁ! なにこれ可愛い~!」
「好きそうだなーと思って」
味の説明をして「選んでいいよ」とひぃなに決定権を委ねるが、案の定迷ったので二人で半分こすることにした。
「ひなってさ、普段すごい即断即決なのに、食べ物がらみだと迷いがちだよね」
「食いしん坊なんだよね。できるだけいろんな種類の美味しいものを食べたいというか……。だから、手鞠寿司すごく嬉しかった」
「それは良かった。単純に寿司が食べたかったんだけど、握る技術はないからさ」
「手間かかったでしょ? 美味しかった。ありがとう」
「喜んでくれたんだったら良かった……って、ひなっていつもこんな気持ちなのかな?」
「うーん、正確にはわからないけど、おそらく同じ気持ちではあると思う」
「そっか。だったら嬉しい」
「うん」
二人で笑い合って、ディナーを終える。
「…もう、離さないから」
攷斗が言葉をつむぐ。
「うん……お願いします」
嬉しそうに、恥ずかしそうに、ひぃながはにかむ。
「あー、安心したらおなか減っちゃった。作るの手伝って」
「うん」
改めて手を繋いで、キッチンへ移動する。
「本当に準備してただけでさ……」
調理器具が並んでいる。食材は冷蔵庫に入ったままのようだ。
「一緒に作れるの嬉しいし、大丈夫。なに作ろうとしてたの?」
傍らに置かれたタブレットを見てひぃなが言う。
「あ、メインのご飯はもう作ってあって」
と冷蔵庫を指した。
冷やして美味しいメインのご飯がパッと浮かばず首をひねると、
「あんまり冷やしすぎてもご飯固くなっちゃうと思うから」
攷斗が開けて、大皿を取り出した。
「わっ! すごい! 可愛い!」
そこには色とりどりの具材を使った手鞠寿司が乗っていた。さすがデザイナー作。色彩がとてもいい。
「あと、それ、ローストビーフなんだけど」
シンクの作業スペースに、アルミホイルの塊が置いてある。
「ソースをいまから作ります」
「えっ、全然“超準備中”じゃないじゃない」
「そう? 全部作ってあと食べるだけ、にしておきたかったんだけど」
「いいよ、手伝う」
「いいよ、ひなの誕生日なんだから、休んでてよ」
「でも結婚記念日でもあるんだから、一緒に作りたい」
少し拗ねるように口を尖らせたひぃなに、
「かわいいな~」
と攷斗が軽くキスをした。
「……突然は心臓に悪いです」
「可愛いこと言うからでしょ」
「そんなの知らないし」
「あ、じゃあさ、温野菜サラダ作ろうと思ってたんだ。それの野菜、焼いてくれる?」
「はーい」
すでに切られた野菜を、フライパンに入れて焼いていく。
すぐ横で、攷斗がローストビーフのソースを作り始めた。
さっきまでしおれていた心は、水を吸った植物のようにふっくらと柔らかく膨らんでいる。
「あ、あと、冷蔵庫にケーキあるよ」
「嬉しい、ありがとう」
ひぃなが買ってきたブーケを花瓶に生けてテーブルに置く。
攷斗が作った料理と、二人で一緒に作った料理とをテーブルに並べる。
中央に置かれた大皿には手鞠寿司、それぞれの前にローストビーフと温野菜サラダが乗った平皿。
大きめのお椀に入っているのは白菜のすまし汁だ。
「なんか和洋折衷になっちゃった」
「美味しそうだし問題ないよ。私の献立もそんな感じだし」
「そっか、そうだね」
ひぃなの生まれ年のワインで乾杯して、久しぶりに囲む二人の食卓を満喫した。
ケーキはホールではなく、大ぷりなプチケーキだ。白鳥の姿を模したものとキノコの家を模したものを、ひぃなが気に入っているティーソーサーに置いて、
「お待たせいたしました」
運んだ攷斗が執事のようにうやうやしくテーブルに置いた。
「うわぁ! なにこれ可愛い~!」
「好きそうだなーと思って」
味の説明をして「選んでいいよ」とひぃなに決定権を委ねるが、案の定迷ったので二人で半分こすることにした。
「ひなってさ、普段すごい即断即決なのに、食べ物がらみだと迷いがちだよね」
「食いしん坊なんだよね。できるだけいろんな種類の美味しいものを食べたいというか……。だから、手鞠寿司すごく嬉しかった」
「それは良かった。単純に寿司が食べたかったんだけど、握る技術はないからさ」
「手間かかったでしょ? 美味しかった。ありがとう」
「喜んでくれたんだったら良かった……って、ひなっていつもこんな気持ちなのかな?」
「うーん、正確にはわからないけど、おそらく同じ気持ちではあると思う」
「そっか。だったら嬉しい」
「うん」
二人で笑い合って、ディナーを終える。
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