前の野原でつぐみが鳴いた

小海音かなた

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Chapter.10

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 ごびょうまえー、さんーにぃー……カウントダウン後、手で合図が送られる。
「こんばんはー! FourQuartersでーす!」
「いつも元気な右嶋ウジマ永遠トワですっ」
「スポーツ万能、左々木ササキ翔吾ショウゴでーす」
「冷静沈着、後藤ごとう良水よしみです」
「えー……リーダーの前原紫輝でーす…」
「えっ、もうちょっとオレらみたいに自己紹介してよ」
「いや急に言われても」
「そこはなんとか出さないと。なに、特徴“リーダー”って」
「っていうか、打ち合わせしてたんならオレにも教えてよ!」
「えっ? してないよそんなの」
「ウソウソ、ぜってーウソ!」
「まぁまぁ、拗ねんなよリーダー」
「そうだよ、元気出してリーダー」
「次があるよ、リーダー」
「こんなときばっかりリーダー扱いすんのやめてよ」
「えー、そんなリーダーからお知らせがありまーす!」
 いえーい、と、紫輝以外の三人が紫輝に向かって拍手する。
「急! 急だな! えー……僕たちFourQuartersのニューアルバムが、来週発売になります!」
 メンバー三人にイジられ、戸惑いつつも告知を続ける。
「みなさん、ぜひ!」
「チェックしてみてください!」
 四人で言って、カメラに向かい手を振る。
「はーい、おっけーでーす! ありがとうございまーす!」
 フロアのスタッフが拍手を送る。フォクは口々に「ありがとうございます」と言いつつスタジオをあとにして楽屋へ戻った。
 いち早く私服に着替えた紫輝は、メンバーの着替えを待ちながらスマホをいじっている。
「なに、デレデレしちゃって。どうしたの」
 左々木に問われ、紫輝が視線をあげる。
「へっ? してた? デレデレ」
「してるしてる」
「そっかー、出ちゃってたかー」
 照れているような気まずいような顔をして、表情をほぐすように自分の頬に手を当て上下に撫でつけた。
 スマホの画面には、撮影中に着信した鹿乃江からのメッセが表示されている。

『昨日はごちそうさまでした。』
『素敵なお店を選んでくださって、ありがとうございます。』

 いつでも簡潔な鹿乃江の文章が、紫輝は好きだった。眺めるたびにニヤついてしまうのには、また別の感情が含まれているのだが。
「最近なんか多いよね、そういうの」
「えっ? そう?」
 左々木の指摘に答えつつ、紫輝は相変わらず頬を上下に撫でながらスマホを眺めている。
「なになにー? 青春しちゃってるのー?」
 隣に座って、右嶋が紫輝の肩に何度も体当たりをした。
「痛いいたい。なに、“青春しちゃってる”って」
「えー? だって相手オンナノコでしょ?」
 画面を覗き見ようとする右嶋からスマホを遠ざけて、
「オンナノコっていうか……」
 紫輝が口ごもる。
(多分年上なんだろうけど……)
 見た目から推測するに、二十代中盤から三十代手前くらいだろうと思っている。言動や行動はそれよりも大人びているし、少なからず自分より年上の人に“オンナノコ”という表現を使うのはどうかとためらわれて、歯切れが悪くなる。
「いや、いいでしょ別に」
 詳しく話すつもりもない紫輝は会話の糸口を切るが、右嶋はめげない。
「えー、気になるじゃーん。みんなそういうの言わないからさー」
「それはトワだってそうでしょ」
「ボクいまなんにもないもーん。だから人のを聞きたいの」
「オレだって話せるようなことなんもないよ」
 右嶋と紫輝のやりとりを横目に、後藤と左々木はスマホのゲームアプリで共闘して遊んでいる。
「おーい、そろそろ次の現場行くよー」
 楽屋の片隅でタブレット片手に業務中だった現場マネージャーの所沢トコロザワがフォクに呼びかけると、
「はーい」と各々が答えて、身支度を終えた。
「スマホ持った?」
「持った持った。っていうか持ってる」
 左々木の質問に紫輝が答えて右手を掲げる。
「バッグ持ってきてなかったっけ」
「あっ」後藤の指摘に紫輝が周囲を見渡し「あぶね。ありがと」鏡前のカウンターに置かれたボディバッグを取り上げた。
「もー最近ホントヒドイよねー」
「また取りに戻るとかやめてよね」
 右嶋と左々木が口々に言って、自分の荷物を持ち楽屋を出る。
「悪いことばっかじゃないんだけどね」
 言い訳のように言う紫輝は、鹿乃江と出会ったときのことを思い出し、またニヘッと笑う。スマホを片手に移動車へ向かいながら、鹿乃江に送るメッセを入力し始めた。

 一方その頃。
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